日本ビクターとビクターエンタテインメントは15日、圧縮されたデジタル音源の音質向上を図る技術「net K2」を発表した。PC向け音楽配信だけでなく、携帯電話向けの「着うた」などにも適用可能で、ビクターエンタテインメントでは10月1日から高音質楽曲データの提供を開始する。また、日本ビクターでは端末側に音質向上技術を搭載したデジタルオーディオプレーヤーも11月に発売する。
日本ビクターとビクターエンタテインメントでは、1987年からデジタル音源の音質向上を目指して独自技術「K2」の開発を進めてきた。近年、音楽CDに比べて圧縮率が高く、周波数帯域の狭い音楽配信が普及してきたことを受けて、圧縮されたデジタル音源向けの音質向上技術「net K2」を開発したという。
net K2の技術は、マスター音源をエンコードする際の「K2 Preエンジン」、伝送配信過程を高品質化する「K2インターフェイス」、端末側に搭載することで高音質で再生できる「K2 Postエンジン」の3つのステージで構成される。
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圧縮されたデジタル音源の音質向上を図る技術「net K2」
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同日発表されたポータブルオーディオプレーヤー「alneo XA-HD500」
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● 通常の約1,000倍の情報量をたたみ込んで合成
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net K2の技術は「K2 Preエンジン」「K2インターフェイス」「K2 Postエンジン」で構成
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マスター音源を圧縮する際には通常、人の耳では聞き取ることのできない最少可聴限カーブ以下の音や、一定の音量を超えた場合に聞き取れなくなる細かい音を取り除く。例えば、44.1KHzでサンプリングされた音楽CDでは周波数22.05KHz以上の高域はカットされてしまう。また、アナログのマスター音源からデジタルデータに変換した場合、さらに再生時にアナログ変換することで、-90dB/1KHz程度の微少信号や0dB/20KHz程度の高周波信号が正しく再現されない場合もあるという。
こうした圧縮過程によって、高域音楽信号の波形や音楽信号のエネルギー、微少信号の分解能が劣化する。日本ビクターでK2プロジェクトリーダーを務める桑岡俊治氏(AV&マルチメディアカンパニーAVシステムカテゴリー技術先行開発グループ主幹技師)によれば「マスター音源に比べると、高域の伸びが欠如したり、音の躍動感やパワー感が欠如した感じになる。音の質感も劣化し、平面的な感じになる」という。
「K2 Preエンジン」では、デジタルのマスター音源を利用し、bit数や周波数を拡張して通常の約1,000倍に達する量の情報を生成。拡張された情報を圧縮方式やデータレートに応じたパラメータでたたみ込み、通常では圧縮する際に欠落してしまう情報成分を、欠落しない基本情報成分に合成し、各種コーデックによる圧縮前の音源に変換する仕組みだ。また、AACやWMA、ATRAC3などの各コーデックに応じたパラメータを設定することで、それぞれに最適化した音源を生成できる。端末側の「K2 Postエンジン」では、配信された楽曲データを88.2/96KHz、24bitまで拡張し、デジタル化によって欠落した情報を蘇生するという。
なお、ビクターエンターテインメントでは、K2 Preエンジンによる処理技術を外部のメーカーなどにも供与する方針だ。ライセンス形式で提供する予定だが、価格は現在のところ未定となっている。
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通常では圧縮する際に欠落してしまう情報成分を、欠落しない基本情報成分に合成する
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端末側の「K2 Postエンジン」では楽曲データを拡張し、欠落した情報を蘇生するという
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● K2 Pre処理とPost処理を合わせればマスター音源以上の高音質に
日本ビクターが同日発表した1インチHDD内蔵のポータブルオーディオプレーヤー「alneo(アルネオ) XA-HD500」も、このK2 Postエンジンに対応した「CCコンバーター」を搭載。「K2 Postエンジン対応のプレーヤーでは、K2 Preエンジンによって処理された曲をマスター音源以上の高音質で聴ける。従来の曲でもマスター音源レベルの音質で聴くことができる」(桑岡氏)という。
なお、桑岡氏によれば「K2 Preエンジンで処理された曲は通常のプレーヤーでもマスター音源レベルの音質になる」とコメント。また、CCコンバーター搭載の携帯電話端末については「検討中だ」とした。
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alneo XA-HD500
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左からケンウッドの「HD20GA7」、「iPod nano」、右が「iPod mini」
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厚さはiPod miniに近い
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ブラックモデル
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操作パネル
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液晶画面。「CCコンバーター」のロゴも見える
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本体にもUSB端子を備えており、USB経由で充電もできる
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上部にはホールドボタン
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クレードルにはラインアウト端子も装備
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ビクターエンタテインメントの奥原氏
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記者発表会では、「着うた」(48kbps)、AAC形式(128kbps)、ATRAC3形式(132kbps)、WMA形式(128kbps)などの音楽ファイルでデモンストレーションも行なわれた。
ビクターエンタテインメントオーサリンググループ長の奥原秀明氏(ソフト技術部ビクタースタジオ)は「ディストーションの強い曲などでは、本来楽器の音として聞こえなければいけない音が、圧縮した後にはノイズのようにしか聞こえない場合がある。net K2はそうした圧縮音源をマスター音源に近づける技術だ」とコメント。また、「ジャズやクラシックなど音域の幅や奥行きを感じるジャンルは圧縮音源には向かない」と述べ、音楽配信に不向きなジャンルにこそnet K2を適用するべきだと強調した。
ビクターエンタテインメントでは、10月1日からnet K2を適用した高音質の楽曲データを「na@h」などの音楽配信サイトに提供する。対応楽曲はスタートする10月では150曲程度だが、今後ビクターエンタテインメントが提供する楽曲はnet K2対応になるという。携帯電話向けの着うたについては当初約200曲、「着うたフル」にも約150曲のnet K2対応楽曲を提供する。PC向け、携帯電話向けいずれも価格は従来と同じ価格になる。
関連情報
■URL
日本ビクター
http://www.jvc-victor.co.jp/
ビクターエンタテインメント
http://www.jvcmusic.co.jp/
na@h
http://naah.jvcmusic.co.jp/
「XA-HD500」のニュースリリース
http://www.jvc-victor.co.jp/press/2005/xa-hd500.html
関連記事:ビクター、Windows Media DRM10対応の携帯プレーヤー[Broadband Watch]
http://bb.watch.impress.co.jp/cda/news/11070.html
( 鷹木 創 )
2005/09/15 18:22
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