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カンファレンスでは通信事業者などが参加したパネルディスカッションが行なわれた
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総務省は1日、電気通信事業分野の競争評価についての意見交換を行なうカンファレンスを、電気通信事業者協会およびテレコムサービス協会との共催で実施した。カンファレンスでは、固定電話市場の現状認識や、競争評価を行なう上でのポイントなどについて議論が行なわれた。
今回のカンファレンスは、総務省が10月4日に公表した「電気通信事業分野の競争状況の評価に関する基本方針(案)」および「電気通信事業分野の競争状況の評価に関する平成17年度実施細目(案)」に対して寄せられたパブリックコメントを受けて、2005年度の競争評価に関する議論の場として設けられた。
総務省では2003年度から電気通信市場における競争状況の分析・評価を実施しており、2003年度には「インターネット接続」と「企業内ネットワーク」領域、2004年度には「インターネット接続」と「移動体通信」領域を中心とした分析・評価を行なってきた。2005年度の競争評価では、IP電話を含む固定電話についての競争状況の評価を実施する。
カンファレンスでは、総務省総合通信基盤局の今川拓郎氏が今回の基本方針案と実施細目案に寄せられたパブリックコメントを紹介し、総務省としての見解を説明した。寄せられたコメントは案の趣旨に賛同するといった内容が多く、コメントに対する総務省からの見解も事業者との間で認識を再確認するものがほとんどとなった。
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競争評価の対象領域
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競争評価のスケジュール
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● 固定電話市場はNTT東西が圧倒的なシェア、事業者は他サービスへの影響を懸念
続いて行なわれたパネルディスカッションには、NTT東日本、KDDI、日本テレコム、NTTコミュニケーションズ、ニフティ、ケイ・オプティコムといった通信事業者が出席し、固定電話市場の現状についての確認や、競争上の問題点、IP電話の普及などを踏まえた固定電話の将来予測などに関する議論が行なわれた。
総務省の鈴木茂樹氏は、固定電話サービスの現状を紹介した。固定電話の契約数は1997年をピークにして減少傾向にあり、通信回数や通信時間も減少。一方で、移動体通信の契約数は現在も増加を続けており、IP電話も2005年3月時点で利用番号数が約830万に達するなど毎年着実に伸張しているとした。
NTT東日本の尾崎秀彦氏は、固定電話市場が急激に縮小する中で、NTT東西は不採算地域においても加入電話や公衆電話を維持するなどユニバーサルサービスの確保を行なっており、マイラインやドライカッパーの提供などネットワークのオープン化を進めてきたと主張。固定電話は独占から競争へと移行したが、ブロードバンドは最初から競争状態であり、自由競争が基本となった現在、NTTだけに規制が課せられる非対称規制は見直しが必要であると訴えた。
一方、KDDIの古賀靖広氏は、NTTグループの市場支配力の根源は、固定電話での94.7%という圧倒的なシェアによるところが大きいと主張した。マイラインのシェアをデータとして示し、市内・県内市外・県外・国際のいずれの領域でもNTTグループが6割以上のシェアを占めているという現状を紹介。多くの通信事業者では、固定電話と携帯電話を融合させたFMC(Fixed Mobile Convergence)や、映像・音声・データを一括で提供するトリプルプレイサービスの提供を検討しているが、こうしたサービスにNTTグループの固定電話での市場支配力が影響を及ぼす可能性があるとした。
日本テレコムの「おとくライン」やKDDIの「メタルプラス」などの直収電話サービスについては、KDDIの古賀氏は「やっと1歩を踏み出した段階であり、事業の上ではクリアすべきハードルがまだまだ残っている」と語ったのに対し、NTT東日本の尾崎氏は「直集電話の開始から半年で約100万の加入があったということで、すごい数字だと思っている」という認識を示した。
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電話サービスの契約数の推移
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通信回数・通信時間の推移
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NTT東日本はネットワークのオープン化とユニバーサルサービスの確保に努めてきたと主張
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KDDIは固定電話でのNTT東西の圧倒的なシェアが他サービスにも影響を与えていると主張
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● IP電話はFTTHサービスと密接な関係になると予測
パネルディスカッションの後半は、固定電話とIP電話の将来についての議論が行なわれた。NTTコミュニケーションズ(NTT Com)の木野雅志氏は、IP電話は現在は安い電話サービスとして利用者に捉えられているが、単に安いというだけでは電話サービス全体の低廉化に飲み込まれて存在意義を失うとして、IPサービスとのパッケージ化、高機能付加サービスなどの開発が必要となるとした。
日本テレコムの弓削哲也氏は、固定電話のトラフィックの減少は携帯電話やIP電話への移行だけでは説明できるものではなく、メールなど別の通信手段に移行した部分の影響もあると指摘。また、固定電話市場の分析・評価にあたっては、競争が始まったばかりで歴史的経緯による独占性が非常に高い市場であるという特殊性を考慮して、NTTグループが設備や顧客情報といった独占的リソースを持っていることが他のサービスに与える影響などを分析する必要があるとした。
ケイ・オプティコムの土森紀之氏は、今後は固定電話からIP電話への移行が急速に進むと予想。通常の固定電話と同じ「0AB~J」番号を利用するためには、品質条件などで実質的にFTTHの利用が必須となっていることから、固定電話からIP電話への転換はそのままFTTHサービスの販売に直結すると主張。NTT東西が固定電話事業の市場支配力を活用してIP電話事業を展開することにより、結果的にFTTH事業でも勝利者となる可能性が高く、NTT東西においては固定電話事業とIP電話・FTTH事業との間で経営資源の分離が必要であると主張した。
ニフティの加藤雄一氏は、@niftyで提供しているIP電話サービスの加入・利用状況を紹介。050番号、0AB~J番号のIP電話とも、申し込みは増えているものの利用は期待したほどは進んでいないとして、現状ではIP電話は低料金の電話としての利用にとどまっていると指摘。IP電話の利用拡大に向けては固定電話の真似ではダメで、FMCの推進や電話番号のパーソナル化などIP電話ならではのメリットを打ち出していかなければならないとした。
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NTT ComによるVoIPサービスの今後の方向性
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日本テレコムによる固定電話・IP電話の将来についての予測
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ケイ・オプティコムはNTT東西の固定電話事業とIP電話・FTTH事業との経営資源の分離を主張
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ニフティはIP電話の状況を示し、加入は増えているが利用は伸びていないと指摘
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パネルディスカッションの司会を務めた京都大学の依田高典助教授は、「0AB~J番号のIP電話は従来の固定電話を代替すると考えられるが、現状ではIP電話を単体で申し込む人は少なく、インターネット接続サービスとしてのFTTHとセットで申し込む人が多いと考えられる。競争評価の観点からは、固定電話とIP電話の関係をどのようにとらえるべきか」と質問を投げ掛けた。これに対してケイ・オプティコムの土森氏は、「我々のサービスではインターネットと電話はセットであり、競争関係としては『固定電話+ADSL』対『IP電話+FTTH』になるのではないかと考えている」とした。
競争評価については、固定電話サービスという領域での競争についての評価に加えて、インターネット接続サービスや携帯電話サービスなど他の市場の動向や影響も考慮すべきだという意見が多く挙がった。また、アリエル・ネットワークの徳力基彦氏は、「競争政策という視点からは、利用者をある程度グループ分けして見ていくことも必要なのではないか。主に利用している通信サービスが携帯電話か固定電話か、あるいはインターネット接続か。それぞれのユーザー層によって、サービスの選択などに違いが見られるのではないか」と述べた。
関連情報
■URL
競争評価に関する詳細情報(総務省)
http://www.soumu.go.jp/joho_tsusin/kyousouhyouka.html
■関連記事
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( 三柳英樹 )
2005/11/02 16:14
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