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NIIの本位田真一教授
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国立情報学研究所(NII)は9日、コンテンツに提供者の要求を埋め込むことで、コンテンツが“自ら考える”ようにエージェント化する「スマーティブ技術」を開発し、実証実験により同技術の有効性を確認したと発表した。
スマーティブ技術は、コンテンツに提供者の要望や方針などのポリシーを埋め込んでエージェント化した「スマーティブ」と、利用者の趣味や嗜好などのポリシーを挿入した「ユーザーエージェント」をネットワーク上で結びつけるというもの。NIIの本位田真一教授によれば、「コンテンツ提供者と利用者双方が望ましいコンテンツ流通が実現する」という。
ポリシー遵守プログラムが埋め込まれたスマーティブには、ポリシーを守るために自らコンテンツを制御する「自律機能」、ユーザー側のポリシーとコンテンツ提供側のポリシーをすり合わせる「交渉機能」、コンテンツ同士が連携する「協調機能」が備わる。一方、ユーザーエージェントにはコンテンツの利用方針や希望などを登録する。
音楽コンテンツを例に挙げると、「20~30代女性向けに配信したい」というコンテンツ提供側のポリシーに対して、「ブランドに興味がある」という利用者側のポリシーをすり合わせる。これにより、音楽コンテンツが挿入されたブランド広告が、ブランドに興味がある20~30代女性のもとに届けられるようになる。そのほか、提供者の「広告を入れるならばコンテンツを利用できる」などのポリシーや、利用者側の「興味のある分野の広告を許諾する」という設定など、互いのニーズをすり合わせた配信を行なえる。
コンテンツ提供者側はこれまで、利用者の属性を絞ってコンテンツを提供したり、状況に応じてコンテンツの内容を動的に変更することが難しかった。また利用者側でも、コンテンツ提供者側の要望とすり合わせることが難しく、理想のコンテンツが入手できないなどの問題があった。
なおスマーティブ技術は、NIIが日本テレコムや東芝情報システムなど民間企業5社と、慶應義塾大学や大分大学など学校法人3校と共同で、総務省の戦略的情報通信研究開発推進精度(SCOPE)として受託した研究プロジェクトの一環として開発されている。
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スマーティブ技術の概要
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コンテンツ流通における課題
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NIIではスマーティブ技術を応用した英会話学習コンテンツを試作し、2005年11月に玉川学園中学部、2006年1月に慶應義塾中等部において実証実験を実施した。その結果、生徒の習熟度に合わせて教材を編集する「自律機能」、学習の進行に合わせて先生のアドバイスを挿入する「協調機能」、指導方針と生徒の希望を考慮して対話相手を組み合わせる「交渉機能」などの有効性が確認されたとしている。
実験で利用した対話型学習システムでは、習熟度に合わせて出題や対話相手の回答を変更するという教材(コンテンツ)提供者のポリシー、学習の進行に合わせてアドバイスを挿入したり、習熟度レベルを考慮して会話相手を決定するなどの先生側のポリシー、同性・異性を会話相手に希望するなどの生徒側のポリシーをコンテンツに埋め込んだ。実験は2回行なわれ、1回目ではコンテンツにポリシーを挿入せず、2回目にポリシーを埋め込むかたちで実施された。
実験によれば、1回目の実験では約7割の生徒が「とても易しい内容だった」と答えたが、ポリシーを反映したことで習熟度に応じて出題のレベルが調整されるようになった2回目では、「とても易しい内容だった」と答えた生徒は半減した。また、対話相手の組み合わせについて「希望通り」と答えた割合では、1回目の40%に対して2回目では53%に増加しており、希望通りの対話が可能になったという。そのほか、生徒の評価では79%が「相手を意識して学習した」、89%が「役に立ちそう」、92%が「面白い」と答えており、学習意欲を高める結果につながったとしている。
NIIでは今後、スマーティブ技術のオープンソース化を行ない、教育分野のほかにも音楽や映像、広告などのコンテンツを対象に同技術の普及を図る。
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スマーティブを用いた対話型学習システムの概要
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生徒の希望や習熟度を反映してコンテンツが提供される
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関連情報
■URL
国立情報学研究所
http://www.nii.ac.jp/index-j.html
スマーティブプロジェクト
http://www.smartive.jp/
( 増田 覚 )
2006/02/09 18:07
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