Internet Watch logo
記事検索
最新ニュース

“ネットただ乗り論”など巡るコスト負担の在り方、各事業者の意見は?

総務省、パブリックコメントの結果を公表

 総務省は15日、IP化の進展に対応した競争ルールの在り方に関して募集していた意見の結果を公表した。いわゆる“ネットただ乗り論”などとして議論されている、通信網増強のコスト負担の在り方や、ユニバーサルサービスの在り方などについて、通信事業者やコンテンツプロバイダーらが意見を提出している。

 総務省では2005年10月から「IP化の進展に対応した競争ルールの在り方に関する懇談会」を開催し、接続・料金政策などについて検討を行なっている。今回、検討すべき主要論点として整理した項目のうち、1)垂直統合型ビジネスモデルに対応した競争ルールの在り方、2)PSTNに係る接続料の今後における具体的算定の在り方、3)ネットワークの中立性の確保の在り方、4)端末レイヤーにおける競争促進の在り方、5)紛争処理機能強化の在り方、6)ユニバーサルサービス制度の在り方──の6項目について、4月4日から5月10日まで意見が募集された。


P2P通信やリッチコンテンツの加速で発生する問題は?

 「ネットワークの中立性の確保の在り方」という項目では、P2P通信の利用やリッチコンテンツの流通が加速する中で、現在発生している問題あるいは今後発生すると予想される問題、また、通信事業者にとって避けられなくなっている通信網増強のコストにの在り方などについて意見を求めた。

 この点について、「現時点で市場における具体的な問題が顕在化している事例はないものと考える。今後のトラフィック拡大に対応した通信網増強は、基本的に通信機器や通信技術等の進歩により対応可能と考える」(ソフトバンクBB、日本テレコムなど5社連名)、「現状では、弊社のネットワークにおいて市場参加者に対し差別的な取り扱いをしなければネットワークの維持が困難になるような事態は発生しておらず、また近い将来に発生する予見も現状ではない」(イー・アクセス)という意見があった一方で、コスト負担の在り方を再検討すべき時期に来ているとの意見もあった。

 例えば、NTTコミュニケーションズでは「エンドユーザーおよびコンテンツプロバイダー等が負担している現在のインターネット接続料は、リッチコンテンツの流通やP2P通信等、ブロードバンドサービスの普及を勘案したコスト回収モデルになっていないことから、ブロードバンドサービスが普及した時代のコスト負担の在り方を検討すべき時期にある」と指摘。また、日本インターネットプロバイダー協会(JAIPA)でも「トラフィック増加がISPの設備増強に対するコスト低減努力を上回るスピードで増加している状況」「ネットワークの構築・維持の費用負担の在り方を事業者間で再検討する時期に来ている」などとしている。


通信網増強コストの利用者負担は適当か?

 それでは、誰が通信網増強のコストを負担するのかということになるが、JAIPAでは「現状、コンテンツプロバイダーはISPの基盤の上で事業を成立させており、無料動画配信等の急増するトラフィックに比例した収入を上げられるのはコンテンツプロバイダー」だとして、「レイヤーを跨る事業者間で、コストを負担する仕組みの導入は必要」と指摘している。なお、「情報の受信者(利用者)と発信者(コンテンツプロバイダー)のいずれか一方のみにコスト負担を求めることは困難」だとして、「そのサービスの性質により、受益者負担の原則に基づきコストを応分にシェアするのが望ましい」と述べている。

 NTT(持株会社)では、コストを利用者負担とするかコンテンツプロバイダー負担とするかはサービス内容やビジネスモデルによってさまざまなケースが生ずるとした上で、利用者負担とするケースについて「現在の料金体系は、利用形態や利用頻度にかかわらず、一律の定額制料金が中心となっているが、今後は、利用形態の多様化等を踏まえ、料金メニューの多様化や、関係する事業者間でコストを適正に分担する仕組みを検討していく必要がある」という。NTT東西も概ね同じコメントだ。

 また、利用者負担を肯定する意見としては、「受益者負担の考え方に立脚し、合理的範囲で利用者負担はやむをえない」(アッカ・ネットワークス)、「P2Pソフトによるファイル交換や映像配信サービスの普及等に伴い、利用者ごとの利用帯域に格差が生じ、1回線あたりの平均利用帯域を押し上げ、当初の想定を上回る通信網増強を行なう必要が生じている。ある一定以上のトラフィックを超えた利用者には従量制料金にて提供するなどの考え方が適切と考える」(九州通信ネットワーク)などがあった。

 逆に、利用者負担に否定的な意見としては、「利用者へのサービス性の維持・向上またIP化が発展途上であること等を考慮すると、現時点において利用者に対して設備増強コストの負担を求めることは得策ではない」(NEC)、「利用者に負担を求めるのは適当ではない」(テレコムサービス協会政策委員会)などがあった。


利用者負担・コンテンツプロバイダー負担は「二重払い」とUSEN

 無料動画配信サイト「GyaO」を運営し、いわば、ネットただ乗り論において矢面に立たされている立場のUSENでは、「コンテンツプロバイダーは契約により定められた回線使用料を、接続している通信事業者に支払っている。一方で、ユーザー側に接続サービスを提供している通信事業者における、通信料の増大に応じた通信網増強は、各事業者が経営判断として行なうべきものであり、そのコストを直接、契約をしていないコンテンツプロバイダーに転嫁することは適当ではない」との意見だ。

 また、「国家戦略として推進してきたブロードバンドの普及においては、インフラだけが整備されてもコンテンツ流通の拡大が伴わなければ意味がないと考える。情報通信のさらなるIP化進展のためには、コンテンツプロバイダーがそのサービス拡大のために多額の投資を行なっているように、通信事業者もそのコンテンツ流通に対応すべく投資を行なうことが当然の義務であると認識している」と述べた上で、「利用者やコンテンツプロバイダーが、コンテンツ配信のためにさらにコストを負担することは通信事業者に対しての二重払いとなり、常識的には考えがたい」「通信事業者が通信網増強に対してのコスト負担をどこから捻出するかは各社の事業判断であり、第三者が指摘することではない」として、通信網増強のコストを一律に負担させるような仕組みの導入について反対意見を唱えている。

 一方、ケイ・オプティコムでは「コンテンツプロバイダー等がコストを負担する仕組みの導入が適当と考える」と述べている。

 このほか、「いわゆる、ネットワークのただ乗り論は事業者間のコスト分配の問題であり、利用者利益の確保をターゲットとする競争ルールとは別個に考えるべき問題ではないか」(経済団体連合会)、「トラフィックの集中等による通信設備への障害等を防止するため、少なくとも違法な利用については通信利用を制限する等の技術開発や、通信の秘密との関係等のルールについての整理が必要」(富士通)といった意見もあった。


「ユニバーサル回線会社」を設立すべきとの意見も

 「ユニバーサルサービス制度の在り方」については、「ユニバーサルサービスの範囲については、音声に限定された現状から見直す必然性はないと考える。従って、当面は音声のIP化に伴う見直しのみに限定し、その他のサービスについては当面は市場メカニズムに委ねるべきである」(イー・アクセス)、「ブロードバンドサービスはまだ成熟分野ではなく、従ってユニバーサルサービスの範囲に含むべきではない」(アッカ・ネットワークス)といった意見が寄せられ、NTTおよびNTT東西も当面は固定電話のみとの意見を示している。

 その中でソフトバンクBBらは、ブロードバンドのユニバーサルサービス化も見据えた意見を提出。「ブロードバンドのユニバーサルサービス化にあたっては、光加入者アクセス回線をユニバーサルサービスの対象とし、ユニバーサルアクセスを確保することが適当」「ユニバーサルアクセスの確保にあたっては、NTTグループの完全資本分離およびNTT東西の上下構造分離を実施するとともに、『ユニバーサル回線会社』を設立し、公正競争環境確保とあわせて実現すべき」との意見を寄せている。

 このほか今回の意見募集では、マイクロソフトや米Google、ルクセンブルクのSkype Technologiesなども、「垂直統合型ビジネスモデルに対応した競争ルールの在り方」などについて意見を提出している。総務省では、寄せられた意見を踏まえて、今後の議論を進めていく予定だ。


関連情報

URL
  ニュースリリース
  http://www.soumu.go.jp/s-news/2006/060515_2.html

関連記事
総務省の懇談会、NTT再編についてKDDIやソフトバンクらが熱弁を振るう(2006/02/01)


( 永沢 茂 )
2006/05/16 19:10

- ページの先頭へ-

INTERNET Watch ホームページ
Copyright (c) 2006 Impress Watch Corporation, an Impress Group company. All rights reserved.