インターネットイニシアティブ(IIJ)は3日、「NGNと次世代通信インフラの展望」と題した報道関係者向けのセミナーを開催し、NGNの動向やインターネットとの関係などを説明した。
NGN(Next Generation Network)とは、電話網をオールIP化した次世代ネットワークとしてキャリアが構築しようとしているもの。日本では、KDDIが2004年9月に固定電話網のIP化計画を発表。NTTも同年11月に発表した「NTTグループ中期経営戦略」の中で、オールIP化した次世代ネットワークを構築し、2010年までに過半数の3,000万ユーザーを移行する方針を示してた。さらにNTTは今年12月から、NGNのフィールドトライアルを実施する予定だ。
● インターネット接続の観点では「フレッツ網と何ら変わらない」
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NTTのNGNで開示された3つのインターフェイス
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NTTのNGN上で使用するプロトコルと想定されるサービス
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IIJネットワークサービス本部サービスオペレーション部長の島上純一氏は、NTTのNGNについて、インターネット接続サービスを提供しているISPの立場から説明した。
島上氏はまず、NTTが開示したNGNのインターフェイスは、1)他社の次世代ネットワークやインターネット、既存の電話網などとの網間インターフェイスである「NNI(Network - Network Interface)」、2)VODやIP放送のほか、各種アプリケーションサーバーとの接続インターフェイスである「SNI(Application Server - Network Interface)」、3)ユーザー端末との接続インターフェイスである「UNI(User - Network Interface)」の3種類があることを紹介した。
UNIで接続されたユーザーは、NGNを介して、SNIで接続されたIP放送サーバーからのマルチキャスト通信(片方向)や、VODサーバーからのインタラクティブ(ユニキャスト)通信(片方向)、アプリケーションサーバーや他のユーザー、NNIで接続された他のネットワークとテレビ電話などのインタラクティブ(ユニキャスト)通信(双方向)が行なえるという。また、NNIで接続されたISPとはPPPoEでトンネリングされ、インターネット接続が行なえる。
このうち、インタラクティブ通信とマルチキャスト通信については、トランスポート層以上の高位レイヤまで、使用するプロトコルが多く規定されているのが特徴。インターネットで規定されているのはだいたいネットワーク層のIPまでのため、島上氏は上位レイヤまで規定されているNGNに対して「特異」との印象を受けたという。なお、インタラクティブ通信、マルチキャスト通信ともQoSが提供されるのも特徴で、UNIとSNIとの間におけるSIPを用いたセッション管理とNGN網内でのQoSが、NTTのNGNの肝だとしている。
一方、PPPoEによってNNI経由でインターネットへ接続する場合はQoSは利用できず、ベストエフォートとなる。島上氏は、インターネット接続という観点で見る限り、NGNは単なるアクセス回線であり、現在のフレッツ網を利用した接続と何ら変わりがないと指摘。そうなると、輻輳時の公平な制御など、フレッツ網で発生している問題がそのまま問題となるのではいかと懸念する。
現在のフレッツ網については「品質がいいということからきていると思うが、企業がどんどん活用している。品質コンシャスな企業ユーザーと、価格コンシャスな個人ユーザーが同じインフラに乗っている時に、同じレベルのサービスが提供できないというのは我々にとって使いづらい」とも述べた。
● NTTのNGNは、インターネットとは独立した1つのネットワーク
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IIJネットワークサービス本部サービスオペレーション部長の島上純一氏
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このようなNTTのNGNに対して島上氏は「SNIで提供されるコンテンツへのアクセス網」という印象を非常に強く感じたという。「そのコンテンツとは、NTTが高位レイヤまで規定したインターフェイスのもとで提供されるコンテンツであり、提供先はNGNが提供されるエリアに限定される」。これを島上氏は「オープンな標準を使ったクローズド網」と表現した。
最後に、島上氏は「NTTのNGNは、インターネットを代替するものではないし、今のネットワークが抱える問題をすべて解消する魔法の箱でもない。一方で、我々インターネット側の人間からすれば、インターネットはIPまでしか規定せず、シンプルだったからこそ急速に巨大なネットワークになった。その自由さがあったからこそ、これだけのコンテンツがあり、アプリケーションが世界で生まれてきた。NGNも、1つのネットワークとしてそれだけの地位を占めるだろうが、NGN一色になるということはないと感じている」とコメントした。
IIJ取締役戦略企画部長の三膳孝通氏も、現在NGNと呼ばれているネットワークは、IPネットワークに電話などの機能を追加したものだとし、インターネットとは独立したネットワークとしてしばらく両者が併存すると述べる。このため、NGNは最終形ではなく、さらに新しいネットワークアーキテクチャとして「NwGN(New Generation Network:新世代ネットワーク)」の必要性を指摘する。
IIJの鈴木幸一代表取締役社長も、やはり「インターネットとNGNは違うものだ」とした上で、「最終的には、自由な競争と現在の発展途上のインターネットをリスタートするかたちではなく、いろいろなネットワークを各社が構築すればいい。NGNもその方向にプラスになればいい」とコメント。また、「IIJとしては、使えるものは使いましょう、淡々と見ていきましょうという姿勢。顧客にメリットがあれば使えばいい」とのスタンスを示した。
関連情報
■URL
インターネットイニシアティブ
http://www.iij.ad.jp/
NTT次世代ネットワークのフィールドトライアル
http://www.ntt.co.jp/trial/
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( 永沢 茂 )
2006/10/03 18:49
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