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「20XX年、DRMの普及で補償金は廃止」文化庁がビジョン提示


「私的録音録画小委員会」の2007年第15回会合
 デジタル著作権保護(DRM)技術の発達と普及に伴い、私的複製を認める著作権法第30条の適用範囲を縮小し、補償金制度も廃止する――。18日に開催された「私的録音録画小委員会」の2007年第15回会合で、私的録音録画と補償の必要性に関する将来像を示す資料が配付された。

 文化庁が提出したこの資料は、ユーザーの私的複製を管理できる著作権保護技術が普及した段階で、娯楽目的の私的複製への対価を契約ベースで徴収することにより、補償金制度を廃止するというもの。権利者が対価を徴収する方法としては、私的録音ではレコード会社やレンタル事業者、配信事業者を通じて利用者から徴収。私的録画では有料・無料放送事業者などを通じて利用者から徴収する。DRMが普及する段階については「20XX年」としており、具体的なスケジュールは明記していない。

 これが実現すれば補償金制度が廃止され、著作権保護技術と契約ベースで対応できる私的複製は、著作権法第30条の適用範囲から除外されることになる。一方、30条の適用範囲となる私的複製は、権利者からの許諾が必要となる。なお、購入したパッケージのプレイスシフト視聴や無料放送のタイムシフト視聴については、無許諾・無償とすることも検討するという。


「補償金は過渡的な制度」との合意を踏まえ、“そもそも論”からの脱却図る

 今回の資料を文化庁が提出した背景には、小委員会での議論に進展が見られなかったことがある。例えば、補償の必要性に関する議論では、私的複製によって経済的不利益を受けているとする権利者側が補償金制度の拡大を主張。これに対して、メーカー側からは「著作権保護技術が利用されている場合には補償は不要」、消費者側は「補償の必要性ありきで議論が進んでいる」などと反対意見が寄せられ、“そもそも論”の綱引きが続いていた。

 文化庁著作権課の川瀬真氏は、「今回の提案は関係者で合意できるギリギリの将来像。理想像ではないが、大局観に立って議論を進めてもらいたい」と胸の内を明かす。また、今回の提案については、「一定のコンセンサスが得られたことから、補償金制度は過渡的な制度となる」と語り、今後は、「過渡的な制度」という合意を踏まえて、補償の必要性や制度の具体的なあり方を検討してもらいたいとした。

 文化庁が提出した資料について、家電メーカーの業界団体である電子情報技術産業協会(JEITA)の亀井正博氏は、「イノベーションを生み出すという意味では、補償金ではなく、技術的保護手段の世界に移行していくことが望ましい」とし、合理的な判断であるとして理解を示した。また、イプシ・マーケティング研究所の野原佐和子氏も、「これまでの小委員会では現時点での関係者だけが集まり、直近の課題にしか目を向けていなかったが、今回の資料は今後の方向性が示されていて大変有意義」と評価。ただし、目標スケジュールが「20XX年」とされている点については「これでは最長で2099年までとなる」と指摘し、時間のめどや具体的な進め方も議論していくべきだと話した。


DRMと契約ベースでコントロールできる世界は来るのか?

 一方、IT・音楽ジャーナリストの津田大介氏は「DRMと契約ベースでコントロールできる世界は本当に来るのだろうか」と疑問を呈す。津田氏は、地上デジタル放送のDRMを解除してハイビジョン録画できる機器「フリーオ」が市場に出回っていたり、著作権保護技術を施したコピーコントロールCDやレーベルゲートCDが市場から撤退したことを指摘。「DRM技術が破られて権利者やメーカーが対応を迫られるいたちごっこの状態が続いている。すべてのコンテンツがオンライン前提にはなるとも思えない」。解決方法としては、「DRM契約ベースで解決するか、今までのように補償金のどちらか。DRM契約ベースで補償金拡大という選択はありえない」とした上で、現状の補償金制度を改善するか現状維持という選択肢もあり得るのではないかと語った。

 これに対して実演家著作隣接権センターの椎名和夫氏は、「長い議論から先へ進むには、こういう整理しか無理なのでは」と語る。目標スケジュールを20XX年としたことについては、「DRMや契約が今後どのようになるかわからないが、補償金制度とDRMの択一という意味で、どちらが世の中にとってリーズナブルで賢い選択なのか、絶えず選択しうる余地を残せばよい」とした。さらに、補償金制度が廃止されることは、私的複製を認める著作権法第30条もなくなることであることを踏まえてもらいたいと呼びかけた。

 椎名氏の発言に対しては、主婦連合会の河村真紀子氏が「なぜ、補償金制度が廃止されると、30条までなくなることになるのか」と反論。「私が描く将来像は、DRMと契約によって、コピーの回数制限や課金方法を選ぶことができ、クリエイターがDRM不要とする著作物は補償金なしで複製できる世界。消費者として百歩譲って、自由な複製ができるならば補償金を支払うという選択肢もあるが、(権利者側は)地上デジタル放送のコピーワンスでも補償金が必要と言うように、1度でも複製ができれば補償金を押しつける。補償金がある上に、私的複製の範囲が狭められるのは納得できない」。

 河村氏の意見を受けて川瀬氏は、「消費者が受け入れるDRMでなければ、市場に流通しない。補償金制度のような丼勘定の制度が問題と言われるので、そこは契約ベースでやればいい」とコメント。ただし、今回配布した資料については「理想像を描くことではない」と強調。将来的には、著作権保護技術の発達状況や国民の意識に応じて他の選択肢を視野に入れ、消費者の利便性を損なうことがないように議論を進めていきたいとした。


関連情報

URL
  私的録音録画小委員会(第15回)の開催について
  http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/bunka/kaisai/07120705.htm

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( 増田 覚 )
2007/12/20 20:45

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