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向谷実の“トレインシミュレータ”、富士通が鉄道事業者向けにSaaS提供


「鉄道運転シミュレータシステム」概要図

実物大のモックアップ車両を使用するシステムもラインナップ

音楽館代表取締役社長の向谷実氏。1995年に発売したMac用ゲームソフト「トレインシミュレータ」を手に
 富士通は8日、鉄道事業者向けに「鉄道運転シミュレータシステム」の提供を開始したと発表した。株式会社音楽館の技術協力により、実在する路線のフルハイビジョン走行映像による「可変速再生技術」を用いた乗務員訓練システムをSaaSで提供する。販売価格は3,000万円からで個別見積もりとなる。

 音楽館は、ミュージシャンの向谷実氏が代表取締役社長を務める会社。もともとは、1985年に音楽関連事業を行なう会社として設立されたが、1995年にMac用のゲームソフト「トレインシミュレータ」を発売して以来、実写で鉄道運転シミュレーションを再現することに取り組んできた。今回、ゲームソフトで培ってきた技術を、逆に業務用システムに活用したかたちになる。

 可変速再生技術とは、映像の再生フレーム数を変化させずに、映像再生スピードを変化させる技術。ノッチ操作やブレーキ操作など、運転訓練者の加減速操作と正確に連動して、60fpsの高画質を保ちながら可変速再生を行なうことで、低速でもコマ落ちのない滑らかな走行映像を再生。従来のCGによるシミュレータではできなかったリアルな映像を実現するという。

 映像には線路の位置情報や勾配、曲線などのパラメータが埋め込まれており、車両性能だけでなく、走行抵抗などの車両挙動に影響を与える要因を演算処理して正確にシミュレートする。なお、フレーム数は、走行映像を撮影するカメラの性能によって、理論上は最大100fpsも可能だという。

 富士通が提供するシステムは、規模に応じて4種類。1)実物大のモックアップ車両を用い、200インチ程度のスクリーンを4面設置、運転操作だけでなく、ホームの乗降映像も再生しながら、車掌の運行訓練も行なえる「Aシステム」、2)実物大の運転台と40インチ程度のモニターにより、各運転区ごとの路線映像による運転シミュレーションを提供する「Bシステム」、3)鉄道事業者のCAI(Computer Aided Instruction)教室内で使用する、PCと簡易ハンドル型運転台を用いた「Cシステム」、4)高性能ノートPCで利用できる、個別運転士向けの「Cシステム」――がある。

 富士通では、まずは鉄道事業者向けの訓練システムとして提供するが、博物館や娯楽施設での体験用シミュレータとしての提供も検討する。今後3年間で、100システム/50億円の販売を目指す。


「鉄道運転シミュレータシステム」の特長 「鉄道運転シミュレータシステム」のラインナップ

「Aシステム」の概要 「Bシステム」の概要

「Dシステム」の概要 SaaSによるシステム連携イメージ

全路線・全駅をシミュレートできることが「安全運転」に貢献

記者発表会でデモを行なった東急東横線のシミュレータの走行画面

運転区間の選択画面

運転車両の選択画面
 この実写映像を用いた鉄道運転シミュレータシステムは、5月7日まで都内の百貨店で開催されていたイベント「東急東横線開通80周年記念 鉄道フェスティバル」でも公開され、8日に行なわれた記者発表会では、それを向谷氏が実物大のコントローラで操作しながらデモを行なった。

 このシミュレータは、東急東横線の4種類の運行映像を体験できるもので、4種類で計100GBの映像データを持っているという。このように映像データが大容量になるため、富士通がSaaS方式でサービスを提供する際は、映像データ自体は鉄道事業者側に置いておき、ダイヤの変更などのプログラム部分のアップデートを富士通のデータセンターと接続して行なう方式をとるという。

 向谷氏によると、前述のイベントでは多くの来場者がこのリアルなシミュレータを体験し、個人向け提供を求める声も多く寄せられたという。向谷氏は「個人向けに関しては、PS3用でかなりクオリティの高いソフトをすでに発売している。業務用はだいぶ作りが異なっており、アクシデントや運転保安のシステムもあるため、一般には提供できない」として、あくまでも業務用とゲームソフトを住み分けていく方針を示した。

 鉄道運転シミュレータシステムでは、事故の発生や、踏切での自動車の立ち往生、地震による緊急停止命令、停電トラブルなどのアクシデントやシナリオを設定することも可能。霧などの天候も再現できるほか、映像の中の信号機や標識の部分についてはCGを埋め込むことで全信号パターンの再現が可能だという。

 向谷氏はまた、現在、鉄道事業者で使われているシミュレータのほとんどがCGを使ったシステムだと指摘。CG制作のコストにより、実在する路線を全線組み込んだシミュレータが提供されていないのが実情であり、バーチャルな4~5駅を収録することで基本的な操作を学ぶにとどまっているという。

 これに対して、富士通が提供する鉄道運転シミュレータシステムでは、実写映像を用いながら滑らかな再生を実現できるため、全線を収録し、任意の区間を訓練できるメリットがあると指摘。運転士の教育や安全運転を維持する上で重要なことだとし、CGのシミュレータで済ませるのではなく、「こういった技術をあることを、もっと多くの鉄道会社に知ってほしい」と訴えた。


デモで使用した運転台型コントローラ 運転台型コントローラのボタン

関連情報

URL
  ニュースリリース
  http://pr.fujitsu.com/jp/news/2008/05/8.html


( 永沢 茂 )
2008/05/08 13:38

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