|
情報共有基盤システム「NetCommons」の概要
|
国立情報学研究所(NII)の社会共有知研究センターは14日、鹿児島県熊毛郡屋久島町の公式サイトを構築したプロジェクトの事例を報告した。NIIが開発し、無償提供している情報共有基盤システム「NetCommons」を活用することで、低コスト・短期間で公開まで漕ぎ着けられたほか、町の職員が簡単に情報発信できる環境も実現した。
NetCommonsは主に公共機関を対象に開発されたシステム。プログラミング知識不要でWebページを構築でき、メールマガジン配信・管理なども行なえるCMS機能に加えて、eラーニング用モジュールなども搭載したグループウェア機能、スケジュール管理や個人向けのファイル管理が行なえるバーチャルデスクトップ機能という3つの機能を併せ持つのが特徴。LAMP環境(Linux、Apache、MySQL、PHP)があれば、多くのレンタルサーバーにインストールできるのもメリットという。
2005年からはオープンソースで提供しており、現在までに1,500を超える団体が導入。IT化が遅れていると言われる小中学校で約1,000校のほか、各地の商工会議所で多く導入実績がある。NIIが把握している限りでは、自治体では屋久島町が初と見られるとしている。
また、産学連携によるNetCommonsの研究・開発などを目的として2008年1月に設立された社会共有知研究センターが最初に手がけたプロジェクトにもあたるとしている。
● 費用は100万円弱、構築期間は1カ月未満
|
屋久島町ホームページ
|
屋久島町は、旧上屋久町と旧屋久町が2007年10月に合併して出来た自治体。これに伴い町の公式サイトも統合することになったが、新サイトを開設するにあたっては課題があったという。
まず、世界遺産に登録されたことで観光地として海外からの関心も高まっているほか、国内からはIターン・Uターン先としても関心が高まっていたが、旧2町のサイトは情報発信力が乏しかったために、「屋久島」で検索しても上位に出てくることはなかったという。
新サイトでは、コンテンツを充実させることで情報発信力を高め、観光産業にも活用することを狙った。そのためには、それまで専門の担当者がページ更新を行なっていたが、専門知識がなくても全職員が更新できるかたちを目指した。ただし、町の庁舎は6地域に分散していることもあり、各庁舎の職員が手元のPCから安全にページを編集できるようにするには、専用回線を構築するなどのコストがネックになった。
そんな中、屋久島へのIターン住民でたまたまWeb構築の知識があり、NetCommonsを知っていた人がいたことがきっかけとなり、NIIとのプロジェクトに繋がった。
NIIでは、コンサルティングやデザイン、初期設定、サイトの初期構築、コンテンツの流し込み、バックアップサーバーの設定を担当。一方、屋久島町側ではサーバーのレンタル、ドメイン名の取得、NetCommonsのインストール、コンテンツの収集を担当した。
かかった費用は100万円弱。内訳はレンタルサーバーとドメイン名で10万円余り、デザイン費が10万円、先述のIターン住民に委託したというコンテンツ収集が50万円。残りはバックアップサーバーのプログラムやコンテンツ流し込みのコストで、バックアップサーバーのハードウェア自体はNIIで不要になっていたものを無償で提供している。構築までの期間は、コンサルティングが2日間、実装のために作業が2週間で、いちばん時間がかかったのがコンテンツ収集だった。
● ワープロとデジカメを操作できる程度のスキルで編集可能
|
屋久島町の日高典孝副町長
|
NetCommonsを使った新サイトは2月に公開。それから3カ月間の実験で、ワープロとデジカメを操作できる程度のスキルがあれば、短時間で情報発信が行なえることが実証されたとしている。
同サイトでは現在、住民向けの情報として町の最新ニュースをほぼ毎日更新しているほか、防災無線情報や休日当番医のお知らせ、フェリーの運航情報などを複数の担当課が分担して更新している。さらに、防災無線情報については、住民の携帯電話を登録してもらい、携帯電話に配信するサービスも考えているという。
また、季節のアルバムとして観光関連のコンテンツも掲載。地元の観光業者が写真を提供したり、海外からの関心も高いということで、小中学校の英語指導教員の協力により英語サイトも開設した。
14日に都内で行なわれた記者説明会には、屋久島町の日高典孝副町長が出席し、同町のインターネット環境について説明した。離島のために光ファイバ接続サービスはまだ提供されておらず、NTTと鹿児島県、屋久島町が3分の1ずつを負担してADSLを整備しており、7割近くをカバーするまでになったが、加入する住民は3割に満たないとして、「IT化はまだ程遠い。これから一歩一方進めていく段階」とコメント。公式サイトの構築にもあまりコストをかけられない実情を紹介した。
新サイトについては、近日中に職員の7割が更新できるようにするため、電算課の担当者が指導していくという。また、NetCommonsですでに小学校2校のサイトも公開したほか、島内の小中学校のサイトも順次構築していく予定だ。日高副町長は、NetCommonsについて「コストが安く済む、拡張性があり、広がりを持ったサイトを作れる」と評価するとともに、「このサイトが多く利用されて、屋久島のことをもっと多く知ってもらいたい。NetCommonsがそのツールになれば」とコメントした。
● 最新版「NetCommons 2.0」リリースへ、SaaSサービスも
|
国立情報学研究所社会共有知研究センター長の新井紀子教授
|
記者説明会では、NII社会共有知研究センター長の新井紀子教授が、8月にリリース予定の新バージョン「NetCommons 2.0」アルファ版を使って、実際にサイトを構築するデモを披露。NetCommonsをインストールしただけの状態でログインし、30種類以上用意されているモジュールをプルダウンメニューから選択して追加していくことで、WYSIWYGでコンテンツのブロックやカテゴリー、スタイルなどを設定していく様子を実演した。
他のサイトで配信しているRSSを取り込むことも簡単に行なえるほか、写真の掲載や、ブロックごとにレイアウトをドラッグ&ドロップで調整できる点も紹介。屋久島町のサイトで掲載している情報についても、「すべてNetCommonをインストールしただけで手に入るモジュールを使ったもの」と説明し、構築・更新の容易さをアピールした。
なお、NetCommons 2.0では、Ajaxを全面的に取り入れたとしており、操作性とデザイン性が向上するという。また、今秋には産学連携事業として、ユニアデックスがNetCommons 2.0のSaaSサービスを開始する予定だ。同サービスでは、屋久島町が導入したようなソリューションを、サーバーやバックアップ機能、サポートなどを含めて一括提供する。年間費用も、屋久島町の導入コストと同程度で利用できるという。
|
|
NetCommonsをインストールしただけの状態
|
モジュール追加のプルダウンメニュー
|
|
|
各モジュールの編集画面
|
デモで作成したページ
|
関連情報
■URL
ニュースリリース(PDF)
http://www.nii.ac.jp/kouhou/NIIPress08_04-1.pdf
説明資料(PDF)
http://www.nii.ac.jp/kouhou/NIIPress08_04-2.pdf
「NetCommons」公式サイト
http://www.netcommons.org/
屋久島町ホームページ
http://www.yakushima-town.jp/
■関連記事
・ 国立情報学研究所とNTTが小学生向け情報教育の共同研究を開始(2006/02/24)
( 永沢 茂 )
2008/05/14 19:53
- ページの先頭へ-
|