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「ストリートビュー」はどこが問題か、MIAUシンポジウムで議論


シンポジウム会場
 地上から見た道路の風景を360度のパノラマ写真で見ることができるGoogleマップの「ストリートビュー」が話題だ。ストリートビューをめぐっては、便利なサービスと評価する声がある一方で、プライバシーや肖像権、防犯上の問題も懸念され、各国で議論が巻き起こっている。特に日本では、文化的・社会的な状況やプライバシーの感覚と合わないという問題提起もなされ、一部では「気持ち悪い」という声も上がっている。

 ストリートビューで懸念されている「プライバシー」とは何なのか、ストリートビューに負の影響があるとすればグーグルはどのような対策を取るべきか――。インターネット先進ユーザーの会(MIAU)が27日、「Google ストリートビュー“問題”を考える」と題したシンポジウムを開き、ストリートビューに関するパネルディスカッションを行った。

 シンポジウムに参加したのは、主婦連合会常任委員でITや著作権関連の分野を担当する河村真紀子氏、Winny事件の弁護団事務局長を務める弁護士の壇俊光氏、専修大学准教授で日本ペンクラブ・言論表現委員会の委員長の山田健太氏、OpenTechPress主筆でスラッシュドットジャパン編集者の八田真行氏。司会は多摩大学情報社会学研究所RAの中川譲氏が務めた。


ストリートビューの概要

ストリートビューの画面
 ストリートビューは、道路上で撮影した360度のパノラマ写真を地図上で見ることができる機能。Googleマップで「ストリートビュー」ボタンを押すと、対応地点では道路が青く縁取りされ、見たい地点を指定するとその場所の道路沿いの風景を見られる。

 写真はグーグルが実際に道路を車で走行して車載カメラで撮影したもの。現時点では、札幌、小樽、函館、仙台、東京、埼玉、千葉、横浜、鎌倉、京都、大阪、神戸の12都市に対応している。

 ストリートビューでは、幹線道路だけでなく住宅街の路地の画像も公開されており、利便性が高い反面、プライバシーの問題も懸念される。この点についてグーグルは記者説明会で、「公道から撮影したものであれば公開しても構わない」との見解を明らかにしている。

 また、通行人の顔は自動識別機能を使ってぼかしているという。不適切な画像については、ストリートビューのヘルプ画面に「不適切な画像を報告する」というリンクを用意し、ユーザーからの連絡を受けて対処している。


「公道から見える」ことがプライバシー権の放棄にはつながらない

ITジャーナリストの津田大介氏
 パネルディスカッションに先立ってストリートビューのサービス概要を説明したITジャーナリストの津田大介氏は、グーグルの対応について「『公道から見える』ことは、肖像権やプライバシー権を放棄したことにはならない」と指摘。無断撮影が民法上の「不法行為」にあたる可能性もあると話した。

 実際に日本に先駆けてストリートビューを開始した各国では議論が巻き起こっているという。米国では、プライバシーを侵害されたとしてペンシルベニア州の住人が訴訟を起こしたほか、カナダでは「プライバシー保護法」に抵触する恐れがあるとして、サービス開始後に公開を停止。一方フランスでは、画像自動認識技術で顔にぼかしを入れられるようになったことで、2008年5月にサービス開始が認められたという。

 津田氏は、ストリートビューにはまだ解決されていない問題点があるとして、次のように述べた。「商標や看板を無断撮影しているがパブリシティ権の問題もある。不適切な画像の削除依頼はネット上でしか受け付けていないが、ネットユーザー以外でサービス自体を知らない人が撮影されている場合は削除が難しい。また、高い位置から撮影しているので、人間の目では見られない庭の中までが筒抜けになることもある。さらに、撮影基準を明らかにしていないので、『撮影されていない場所はやばいのでは?』という勘ぐりが出てしまう」。


ストリートビューの肖像権・プライバシー権の問題について パブリシティ権、カメラの高さ、削除依頼などの問題点について

プライバシー問題では法的コンセンサスが取れていない

弁護士の壇俊光氏
 パネルディスカッションでは、弁護士の壇氏が、ストリートビューのプライバシー問題をめぐっては、法的観点でのコンセンサスがとれていないと指摘。裁判所では、住宅や人を撮影する際の「意図」が焦点になるだろうと話した。「ストリートビューは機械的に撮ったというのがポイント。何かに悪用する意図で撮影していれば裁判所はダメと言うだろうが、現時点では意図のない撮影へのコンセンスはない」「基本的には撮影によってもたらされる利益と不利益の比較考慮が、コンセンサスの基準になるだろう」。

 「よちよち歩きのストリートビューには、わかりやすいメリットが見えない。しかし、ファイル共有ソフトも著作権侵害ばかりが言われていたが、いまではコンテンツデリバリーにも使われていることからも、今の段階で全否定という議論はあまり好きじゃない。将来的に良くなるには、どこを変えていけばいいのかという議論をすべき。」(壇氏)

 ストリートビューでは、ユーザーからの申告をもとに不適切な画像を処理する、いわゆる「オプトアウト」の方式を採用しているが、壇氏は「ラブホテルに入ろうとしているところなど、どうしてもそこにいることが知られたくない人もいる」と指摘。ストリートビューではこのような点を配慮して削除する努力も必要としたが、「そうしておけば損害賠償を負わないのかという問題とは別」と話した。


メディア産業としてのプライバシーの配慮を

専修大学准教授の山田健太氏
 専修大学准教授の山田氏は、ストリートビューを提供するグーグルは「ある種のメディア産業」であり、一般企業とは別の社会的倫理が求められているとして、プライバシーへの配慮を求めた。

 「手間をかければ不適切な画像は全部消せるはずなのに、安上がりにしようとするから問題が起こる。グーグルはずるいというか、さぼっている。傘下のYouTubeを考えてみても、苦情の窓口は日本ではなく米国に置き、米国の緩やかな著作権法の考えを日本で展開する。一方、日本のYahoo!やモバゲーは多く人員を抱えて苦情や有害情報をチェックしている。日本で表現あるいは情報をなりわいとする企業として、グーグルの姿勢は本当にそれで良いのか。」(山田氏)


「ストリートビューが気持ち悪い」は「写真で魂が抜ける」と同じ

OpenTechPress主筆の八田真行氏
 OpenTechPress主筆の八田氏は、「ストリートビューに問題は見あたらない」と語る。「気持ち悪いという話があるが、それは明治時代に『写真を撮られると魂が抜ける』と言っていたのと同じ。明確なデメリットがわからない状態で、気持ち悪いと言っても仕方ない」。

 「犯罪を誘発するという議論もあるが、ベンツ窃盗団はベンツのありそうな場所はわかっていて、網走には行かずに田園調布に行く。ストーカーにつながるとも言われるが、それも犯人が住所を手に入れれば、ストリートビューとは無関係に実行するだろう。わたしはイノベーションを高く評価しているからだが、悪いことがなければ試して良いというのは、なじみやすい考え方だ。」(八田氏)

 ストリートビューに一定の評価を示す八田氏だが、プライバシーへの配慮については山田氏と同様、もう少し工夫すべき点があったと指摘する。「塀の(内側が見られる)問題は大きい。米国の住宅は家の前に前庭があるので塀がなくても(公道からは)中が見えないが、日本のストリートビューでは塀の中が見えてしまう。もう少し低い位置でカメラを撮影すべきだが、グーグル日本支社は適当にやってしまったようで残念だ。米国と日本の住宅には違う部分があることを配慮したサービス設計をしていれば、同じグレーでも黒ではなく白に近いようにできたのではないか」。


ストリートビューで「あの子の家はどこ、こんな車に乗っている」が判明

主婦連合会常任委員の河村真紀子氏
 主婦連合会の河村氏は、営利企業(グーグル)が全国の細かい住宅地にまで入り込んで撮影することは、個人の自由を侵害していると非難した。「ストリートビューはあまねく網羅的に撮影して、住所から一発で検索できる。その圧倒的な数、広さ、詳細さの尺度は、許される範囲を超えていると思う。フランスではシャンゼリゼ通りなど主要道路のみが対象と聞いているが、(プライバシー意識の高い)フランスで住宅地に入り込むのはありえない。日本は見くびられているのではないか」。

 「わたしには小学生の子供がいるが、個人情報保護法の影響で、クラスの住所録はお母さんたちが自発的にこっそり作っている。そういうのは馬鹿げたことだと思っていたが、ストリートビューが登場したことで、住所で検索すれば家の写真もわかってしまう。すごく卑近だが、『あの子の家はどこ、こんな車に乗っている』というのが人を傷つける。そのようにして世の中が住みにくくなるのは、わかりやすいデメリットではないか。」(河村氏)

 さらに河村氏は、ストリートビューの撮影方法についても憤りを隠さない。ストリートビューの写真は、「プリウス」の屋根に360度カメラを取り付けて撮影していると言われているが、「わからないように撮るのは大変卑怯なやり方」と非難。「ストリートビューと大書きにして撮影するべき」「インターネットをまったく使わない人のところにまで行って撮影するのはいかがなものか」などと訴えた。


ストリートビューを使った犯罪が起きればサービス継続は難しい

 会場からの質疑応答では、ストリートビューで綿密に街がわかってしまうことで、テロや犯罪につながる可能性があるとともに、実際に犯人がストリートビューを使っていたという事件が起こった場合には、法律で規制される恐れがあるのではないかという指摘が挙がった。

 これに対して八田氏は、「下見をせずにストリートビューを頼りにするテロリストは失敗する」と述べたが、実際にストリートビューを使った犯罪が一般メディアに取り上げられた場合にはサービス継続が難しくなるとコメントした。


関連情報

URL
  Google ストリートビュー“問題”を考える
  http://miau.jp/1219397839.phtml

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「ストリートビュー」のプライバシー問題、グーグルが方針説明(2008/08/05)


( 増田 覚 )
2008/08/28 16:48

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