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Googleが独自ブラウザを開発した理由、開発責任者が語る


米Googleでエンジニアリングディレクターを務めるライナス・アップオン氏
 オープンソースブラウザ「Google Chrome」ベータ版の公開に伴いグーグル日本法人は3日、報道関係者向けに説明会を開催した。米Googleでエンジニアリングディレクターを務めるライナス・アップオン氏が、ビデオチャットを通じて報道陣からの質問に答えるかたちで、独自のブラウザ開発に乗り出した理由などを語った。

――Googleが独自のブラウザ開発に乗り出した理由は。

 Webアプリケーションが進化する今日、ユーザーエクスペリエンスをより快適にするためにGoogle Chromeをリリースした。また、オープンソースで公開したことで、デベロッパーの開発環境も良くなる。さらに、既存の全てのブラウザにも良い影響を与えることになるだろう。

――ユーザーエクスペリエンスを向上させるという意味では、従来通りFirefoxをサポートするという選択肢もあった。

 Mozillaが長年にわたり良い仕事をしてきたことには異議はない。しかし、どんなブラウザが理想であるかについては、我々のエンジニアの間で様々な意見があった。Googleの意見をMozillaに無理矢理押しつけることはしたくなかった。

 現在もMozillaとGoogleではたくさんの取り組みを共有している。特にセーフブラウジング分野では、Firefoxに対してGoogleは大きな貢献をした。Google Chromeはオープンソース化されているので、今後もオープンソースでのコミュニケーションが活発化するだろう。


ユーザーエクスペリエンスをシンプルにしたかった

――従来のブラウザが抱える問題点は。また、Google Chromeは何を解決したのか。

 ユーザーエクスペリエンスをシンプルにしたいというのが重要なポイントだ。具体的には、一般にアドレスバーと呼ばれている部分が「多機能ワンボックス」となり、URLだけでなくWeb検索、Web閲覧履歴、検索のキーワード候補などを表示する。タブ操作では、よく使うサイトをサムネイル表示する機能などを備えている。また、タブは1つ1つが独立して稼働する「マルチプロセスモデル」を採用しているので、あるタブで障害が起きても他のタブには影響がなく、ブラウザがクラッシュしない。

 マルチプロセスモデルは、セキュリティの大幅な改善にも寄与している。具体的には、改ざんされたサイトにアクセスしてマルウェアの攻撃を受けても、サンドボックスで処理されるためHDDには影響を与えない。オープンソースで公開されているので、多くの開発者がセキュリティの問題に協力してくれることも期待している。

――ブラウザのレンダリングエンジンで「WebKit」を採用した理由は。

 WebKitは「Safari」が採用しているレンダリングエンジンだが、サイトの描写速度が速いということを重視した。コードがシンプルであるため、改善や変更がしやすいことも特徴だ。また、Googleのエンジニアは、(携帯デバイス向けのオープンプラットフォーム)「Android」のプロジェクトでWebKitを利用していたので、使い慣れているというメリットもあった。

――独自のJavaScriptエンジン「V8」を開発した理由は。

 V8は、既存のJavaScriptエンジンと比べてスピードが何倍も速い。将来的には、これまで以上にリッチで複雑なWebアプリケーションが出てくることが予想されるが、これらの使用に耐えられるJavaScriptエンジンが必要だと考えていた。


「多機能ワンボックス」からの検索結果例 新しいタブを開くと、よく閲覧するページのサムネイル画像などが表示される

Google Chromeの開発成果はAndroidにも応用できる

――Androidを含めて、PC以外の端末にGoogle Chromeを展開する考えはあるのか。

 Google Chromeは、デスクトップブラウザ専用と考えているが、重要なことはレンダリングエンジンにWebKitを採用していることだ。これによってデベロッパーは、ブラウザごとに開発環境が異なるという悩みの種がなくなる。また、Google Chromeで開発するものは、SafariでもiPhoneでもAndroidでも使えると言うことになる。

――Google Chromeはどのくらい収益に貢献すると考えているか。

 Googleでは、すべてのビジネスはブラウザからスタートすると考えている。Googleにとってブラウザは重要な案件だ。しかし、ブラウザが直接的な収益源になるとは考えず、ユーザーにすばらしい体験を提供することを重視している。とはいえ、より速くて快適なWebを経験できれば、利用者が増えGoogleにも利益がもたらされるだろう。

――ブラウザシェアの目標値は。

 願望がないわけではないが、企業としての数字を発表する立場にはない。しかし、従来のGoogleのサービスと同様に、ベストプロダクトを出し続ければ何百万のユーザーを取り込めると考えている。

 「自動車よりもブラウザを使う時間が多い」という米本社のエンジニアは、「車は試乗してから買うが、ブラウザでは同じことがされていない」と嘆いていた。このように、ブラウザに選択肢があることはあまり知られていないだけでなく、「ブラウザって何?」という人もいる。Google Chromeを発表することで、ブラウザの認知度を高め、選択肢があることも知ってもらいたい。


WebがOSにもたらすインパクトについては考慮する価値がある

――MacやLinuxへの対応予定は。

 Googleでは、ブラウザを発表する際の指標として、社内の数千人のユーザーが実際に使ってみて、スピードや安定性の観点から満足な経験ができるかどうかを重視した。Windows版は満足度が高かったのでリリースした。MacやLinuxについても、リリース日時ありきではなく、満足度が高い製品に達したかどうかという観点からリリースする予定だ。

 ちなみに、この記者会見を行う前、(Google創業者のひとりである)セルゲイ・ブリンがわたしの元を訪れ、「自分はMacユーザーなので、いつMac版が出るのか」と話しかけてきた。このメッセージは、開発にも伝えたい。

――Google Chromeが、PCのOSに求められる機能を将来的に変える可能性はあるか。

 正直に言って、この質問をもらうまではこうしたことは考えていなかった。Google Chromeは、さまざまな制約がある既存のOSに対して、よりすばらしいユーザーエクスペリエンスを提供するという目的で開発したからだ。ただ、Webが将来的にOSにもたらすインパクトについては、考慮する価値があると思っている。


関連情報

URL
  「Google Chrome」ダウンロードページ
  http://www.google.com/chrome/

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Googleが独自開発ブラウザ「Google Chrome」ベータ版をリリース(2008/09/03)


( 増田 覚 )
2008/09/03 14:07

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