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インターネット先進ユーザーの会(MIAU)理事の中川譲氏
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薬事法の改正を受けて厚生労働省が2009年6月1日に施行する予定の省令案に関しては、インターネットによる一般医薬品の販売が大幅に規制されるということで、見直しを求める声が上がっている。消費者の利便性が損なわれるなどの問題点が指摘されているが、そうした主張を積極的に行っているのは、消費者というよりは販売者側の企業や団体だった。
そんな中、無限責任中間法人インターネット先進ユーザーの会(MIAU)と、慶應義塾大学SFC研究所のネットビジネスイノベーション研究コンソーシアムが11日、楽天やヤフー、日本オンラインドラック協会などとの共同記者会見に出席。インターネットユーザーの立場や、インターネットによる情報共有といった観点から今回の規制強化の問題点を指摘した。
MIAU理事の中川譲氏は、「そもそもWebやメールは情報共有のためのツールだったのではないか」とした上で、国内ですでに9000万人近くに普及しているインターネットを情報提供・収集に活用するのは当たり前と指摘。「医薬品についての情報提供もインターネットで積極的に行っていくのが、これからの情報化社会で目指すべき方向」とした。
また、MIAUの会員で、先天的に聴力障害のある人がおり、店舗で対面で話したり、説明を聞くことができないが、インターネットであれば対面よりも意思疎通がしやすいという例を紹介し、その人の言葉として「ネット販売を締め出すことは、一種の“逆デジタルデバイド”にもなりえる」と訴えた。
中川氏によると、この会員はインターネットやコンピュータを活用することで学習機会を得て、IT企業に就職することができたという。「インターネットに助けられて障害を克服し、生活してきた人を苦しめる政策というのは、我々の望むべきものではない」とした。
● 國領二郎氏ら、SFCの教授陣も懸念を表明
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ネットビジネスイノベーション研究コンソーシアム事務局の松澤佳郎氏
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ネットビジネスイノベーション研究コンソーシアム事務局の松澤佳郎氏は、まず、省令案そのものの実効性に疑問を投げかけた。
松澤氏によると、省令案では医薬品の適切な使用を目的として、専門家による情報提供、対面による情報提供、書面による情報提供を求めているという。しかし、「省令によって健康被害が減るのか、現実に実行可能なのか、ネット販売では不可能なことなのか」といった検証がなされないまま省令案が施行されようとしているとして、議論が不十分であると指摘した。
さらに、薬局・薬店によるネット販売はすでに数百万人が利用していながら、現状で問題が発生しているわけではないと指摘。一方で、2007年時点で薬局のない市町村が全国に186あることや、薬局があっても数十キロ四方に1店舗、しかも扱っている医薬品の種類が限られているような地域もあることを説明。そのような地域でもブロードバンドの普及は進んでいることから、ネット販売が禁止されることによる社会的損失の方が、省令により健康被害を防ぐという利益よりも大きいと指摘した。
会見で配布された「薬のネット販売規制について」と題した声明文では、「インターネットが消費者に対する説明力において劣っており、ネットだからただちに危険であるという見方は、偏見に基づく全く見当外れなものと言わざるを得ず、ネット販売を規制することは、消費者から情報へのアクセスを奪って、逆に危険な状態を作り出すことを理解すべき」と警告している。
なお、この声明文は、同コンソーシアムの代表を務める國領二郎氏(慶應義塾大学総合政策学部教授)と同メンバーの金正勲氏(慶應義塾大学デジタルメディア・コンテンツ統合研究機構准教授)が個人の立場で作成したものだという。これを有識者らに回覧したとしており、9日現在、28人が賛同者として名を連ねている。その中には、江崎浩氏(東京大学大学院情報理工学系研究科教授)、中村伊知哉氏(慶應義塾大学メディアデザイン研究科教授)、中村修氏(慶應義塾大学環境情報学部教授)、古川享氏(慶應義塾大学メディアデザイン研究科教授)らも含まれる。
● ネット全般の情報提供を考え直すきっかけに
共同会見には、ヤフーCCO兼法務本部長の別所直哉氏も出席。同社はショッピングモールの「Yahoo!ショッピング」を運営し、楽天と同様、医薬品のネット販売を手がける薬局・薬店をテナントに抱えている。販売者側の立場にあると言えるが、今回はそれとは別に、「Yahoo!ヘルスケア」などを運営し、インターネットで情報を発信している立場からコメントした。
別所氏は「情報提供ページの画面遷移や文章などの具体的な方法にまで踏み込まないと、ネットでの適切な情報提供について議論することはできない」とし、「ともすると医薬品のネット販売継続という部分に注目されるが、今回の議論がインターネット全般の情報提供を考え直すいいきっかけになる」と指摘した。
また、「メーカーや医師と利用者の間で医薬品に関する情報格差があるのはいいことではない。医療や医薬品に関するきちんとした知識をもっと多くの人が持つ必要がある。そのための貴重な手段を、今の時点でふさいでしまうのは問題」と訴えた。
なお、ヤフーは同日、医薬品販売に関する同社の方針を示した文書「一般用医薬品が適切に販売されるために本当に必要なこと」を、政府の規制改革会議に提出したと発表した。「医薬品の流通に係るすべての者が、それぞれの販売方法の特長に応じた最善な情報提供のあり方を議論し、国民にとって何が有益なのかを考えることが重要だ」としている。
関連情報
■URL
インターネッユーザー先進ユーザーの会
http://miau.jp/
ヤフーのニュースリリース
http://pr.yahoo.co.jp/release/2008/1211a.html
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( 永沢 茂 )
2008/12/11 20:36
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