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「医薬品のネット販売規制、憲法違反の可能性も」業界団体側が説明会


 医薬品のネット販売規制などを定めた改正薬事法の厚生労働省令について、再検討を行うための検討会の第1回会合が24日に開催されたことを受け、規制に反対している日本オンラインドラッグ協会(JODA)が、検討会の報告と論点の説明を行った。

 厚生労働省では、改正薬事法が6月1日に完全施行されることに伴って、「薬事法施行規則等の一部を改正する省令」を2月6日に公布した。この省令では、2008年2月から開催した「医薬品の販売等に係る体制及び環境整備に関する検討会」がまとめた報告書に基づき、医薬品販売時における情報提供は専門家が対面で行うことが原則だとして、ネット販売を含む通信販売においては、最も低いリスクに分類される「第3類」の医薬品の販売のみを認めるとしている。

 一方、この省令案が2008年9月に厚生労働省から示されると、ネット販売事業者や伝統薬の製造販売業者などからの反対が相次いだ。パブリックコメントにも反対の意見が寄せられたが、ネット販売などに対する規制などはほぼ原案のまま省令として公布された。しかし、反対意見の多さなどから、舛添要一厚生労働大臣の指示により、改めて議論を行うための検討会が設置され、24日に第1回会合が行われた。


「対面販売に固執せず、コミュニケーションのあり方について議論を」

JODAの事務局長を務める樋口宣人氏
 JODAの事務局長を務める樋口宣人氏は、「従来は省令公布後にこのような検討会が開催されることはなく、極めて異例の事態」と説明。午前中に開催された検討会については、「冒頭に行われた舛添要一厚生労働大臣の挨拶からは、『広く国民が平等に医薬品を入手できる機会を提供することが、厚生労働省の役目である』というメッセージが受け取れたが、その後は極めて散発的な議論となってしまった」と不満を述べた。

 また、「全部で19人の委員がいるが、そのうち15人は省令を定めた検討会とほぼ同じメンバーで、残り4人が新たに加わった、ネット販売規制に反対の立場をとる委員です。これまでの委員からは、なぜ検討会をいまさら再開するのか、ネット販売については議論を尽くしたではないかといった意見が聞かれた」として、検討会のメンバー構成についても疑問を呈した。

 省令に対しては「再改正の必要性を強く感じている」として、改正法施行の6月1日以前に早急な対処が必要と主張。特に、パブリックコメントでは通信販売に対して2353件の意見があり、そのうち2303件は通販の存続を求める意見だったと説明。厚生労働省は寄せられたパブリックコメントの概要しか公表していないが、開示請求を行って閲覧したところ、「多くの患者さんの切なる声がつづられていた」として、こうした声を検討会の場に持ち込んで議論しなければいけないという思いで検討会に臨んだと語った。

 また、省令で定めている「対面の原則」については、「対面販売は安全に医薬品を販売するための方策の1つではあるが、それだけが唯一絶対の策と決めつけて、他の方策を排除する省令には明らかに論理の飛躍がある」と主張。「対面であれば安全、ネット越しでは不可能といった物理的な要件でなく、必要とされるコミュニケーションのあり方を示すべきだ」と述べた。

 医薬品のネット販売における安全策については、業者に届け出制を導入することや、医薬品の注意事項の表示義務付け、販売個数の制限などを定めた業界ルールの案を検討会に提出しているが、「今回は時間的制約があるにせよ、『こうした提案をいまさら取り上げること自体がおかしい』といった意見も挙がった。検討会の趣旨を理解いただいていないのかと、強い憤りすら感じた」と怒りをあらわにした。

 また、これまでの検討会の議論については、「議論の中で出ていたのはネットを用いた違法な販売の話や並行輸入の話だけで、ネットに対する誤解と偏見に満ちたものであったと理解している」とコメント。「パブリックコメントの反対意見を受けて、大臣が疑問を呈しても、なお『なぜまた検討会が必要なのだ』といった反応が委員からある」として、極めて遺憾だと語った。


「省令での規制は憲法違反にあたる可能性が高い」

 また、法律ではなく省令でこうした規制を行おうとしている行為は違憲の可能性が高いとして、楽天が検討会に提出した説明資料を紹介。JODAもこの意見に同意するとして、協会の弁護士が説明を行った。

 協会弁護士の阿部泰隆氏は、「改正薬事法には通信販売については何の規定もない。法律は、細かい部分については省令に委任することが認められているが、あまりにも漠然とした委任は白紙委任として認めらない。省令は、憲法に定められた国民の権利を大幅に制限するもので、委任の範囲を超えて違憲の可能性が高い」と指摘。「ネット販売を規制したいならば、それを法律の条文として書くべき。立法の手続きを経ずに、省令でこれを行おうとするのは悪辣な手口だ」と批判した。

 同じく協会弁護士の関葉子氏は、「憲法で、国会が唯一の立法機関と定められているのは、国民から選出された議員だからこそ、国民を制限する法律を決めることができるという考え方。薬の販売に際して、副作用などの情報の提供範囲を省令に委ねることは理解できる。しかし、ネット販売を禁止するといった大きな話まで委任しているとはとても解釈しがたい」と主張する。

 関氏は省令と憲法の関係について、職業選択の自由を定めた憲法第22条1項からは営業の自由があると解釈されており、これを剥奪するような規制はこれまでの判例でも厳しい判断がなされていると説明。また、ネット販売を必要としている人がいるにも関わらず、一律にネット販売を規制してしまうことは、そうした人たちを危険にさらすことになり、憲法第25条に定められた生存権の保障をおびやかすものだと指摘した。


「公開リンチにあったようなもの」と後藤氏、省令の再改正を訴え続ける

JODA理事長でケンコーコム代表取締役社長の後藤玄利氏
 検討会に委員として参加した、JODA理事長でケンコーコム代表取締役社長の後藤玄利氏は、「正直、結論ありきの検討会という印象で、議論がまったく噛み合わなかった」とコメント。

 「ネットに否定的な委員の方が多く、座長もインターネットには否定的。19人のメンバーの中で、インターネットで事業を営んでいるのは私と三木谷氏だけ。ネットに理解があると言えるのも、慶應義塾大学の國領二郎先生ぐらい。そうした状況の中で、各委員には発言の順番を公平に割り当てるといった議事運営が行われ、こちらの主張はなかなか伝えられない。言い方は悪いが、公開リンチにあっていたようなものだ」と、検討会の議事運営に対して不満を示した。

 後藤氏は、パブリックコメントを閲覧して、通販の継続を求める多数の意見を目にしたとして、「実は、公開リンチにあっていたのは、我々ではなくパブリックコメントを寄せた方々だ」と主張。「舛添大臣にもパブリックコメントの内容をお読みいただければ、そのような方々の声に耳を傾けていただけると信じている。今回の検討会のテーマは、安全性を確保した上で、すべての国民に必要な医薬品を入手できるようにすること。厳しい場ではあると思うが、今後とも主張しつづけていきたい」と訴えた。

 検討会の今後については、「まだ説明はないが、はっきりしていることは、6月1日に(改正法が)施行されるということ。省令を再改正するとなると、3月中にはある程度決めないと間に合わない。時間がないという意見も検討会では出たが、ネット販売における安全対策も今回提出しており、6月の改正までには間に合う。大臣が言われたように、すべての国民に対して平等なアクセスの機会を作るということについて、検討会は結論を出す義務がある」と語った。

 また、医薬品のネット販売に対して規制が必要ないと主張しているのではないと説明。省令といった形ではなく、薬事法自体に通信販売の形態を定義し、その安全を確保していくような法の整備が必要だとした。ただし、薬事法の改正には時間がかかるため、まずは今回の検討会で省令の再改正を求めていくとした。


関連情報

URL
  日本オンラインドラッグ協会
  http://www.online-drug.jp/
  厚生労働省:第1回医薬品新販売制度の円滑施行に関する検討会の開催について
  http://www.mhlw.go.jp/shingi/2009/02/s0224-1.html

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( 三柳英樹 )
2009/02/24 22:01

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