民間団体のデジタル・コンテンツ利用促進協議会は12日、デジタルコンテンツのインターネット上での利用・流通の促進を目的とした政策提言の試案に関するシンポジウムを開催した。
試案は、1)デジタルコンテンツの利用に関する権利の集中化、2)権利情報の明確化、3)原権利者への適正な還元がなされる仕組み、4)デジタルコンテンツの特性に対応したフェアユース規定の導入――の4点を示したもの。1月に公表された。
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政策提言試案の概要
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政策提言試案のイメージ図
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● 超党派の議員がデジタルコンテンツの利用促進に賛同
シンポジウムでは臨時総会が開かれ、民主党の近藤洋介氏(衆議院議員)と公明党の西田実仁氏(参議院議員)がデジタル・コンテンツ利用協議会の副会長に選任された。すでに副会長に就任している自民党の世耕弘成氏(参議院議員)とともに挨拶を述べた。
自民党の世耕議員は、iTunes、YouTube、Googleなどの人気サービスがいずれも米国発であると指摘。その理由としてコンテンツが流通するプラットフォームがないことを挙げ、同協議会の政策提言が「コンテンツ利用促進の起爆剤になれば」と期待を示した。
コンテンツが流通するプラットフォームの整備については、公明党の西田議員も「眠っている日本のソフトパワーが目を覚ます」、民主党の近藤議員も「日本だけが取り残されてはいけない」と語るなど、超党派で賛同する意見が見られた。
また、国会図書館館長の長尾真氏(京都大学名誉教授)は、国会図書館がアーカイブ化を進めるサイトの多くは「複数の権利者がぶら下がっている」と指摘。権利処理の簡素化によりアーカイブ化の効率が上がるとともに、日本の創造性向上にもつながるとした。
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自民党の世耕弘成氏(参議院議員)
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公明党の西田実仁氏(参議院議員)
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民主党の近藤洋介氏(衆議院議員)
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国会図書館館長の長尾真氏(京都大学名誉教授)
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角川グループホールディングス代表取締役社長の角川歴彦氏
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開会の挨拶に続いて、角川グループホールディングス代表取締役社長の角川歴彦氏が講演。ユーザーがYoutubeに違法投稿した角川グループのアニメ作品に「公認バッジ」を与えて掲載を認め、動画の画面内に広告を表示する取り組みなどを紹介した。
「角川は『ハルヒ』や『らき☆すた』など有力なアニメ作品を抱えている。それらのMAD動画(注:既存の動画や音楽などを組み合わせて制作した動画のこと)も『公認バッジ』の対象としたとたんに大きな反響を得た。最近3カ月の合計再生回数は5000万回に上る。(YouTubeは)広告モデルの主要な媒体として育ったと思っている。」(角川社長)
ネット動画配信のメリットとして角川氏は、1)潜在的市場の開拓、2)ロングテール・ビジネスの活性化、3)在庫の減少(原価低減)、4)環境への配慮――の4点を指摘。今後はネット配信を通じてライトユーザーなどの新規顧客層を増やし、パッケージ収入に代わる収益を確保したいと述べた。
また、デジタルコンテンツの流通に関しては、「インターネットの闇の世界で氾濫する海賊版を駆逐する」ことが課題とした上で、今後改訂が予想される著作権法については、「インターネットの無法な世界」に実効性のある有用な法として機能させることが重要と語った。
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YouTubeにおける「公認バッジ」の付与基準と広告掲載例
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YouTubeで角川が公開を認定したコンテンツの1日の動画再生回数の推移
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インターネット動画配信で期待されるという新市場
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コンテンツの流通形態の推移
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● 著作権法改正でうまくいくことはないが“足かせ”を外す意味はある
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協議会の会長を務める東京大学名誉教授で弁護士の中山信弘氏
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続けて行われたパネルディスカッションでは、協議会の会長を務める東京大学名誉教授で弁護士の中山信弘氏、副会長でスクウェア・エニックス代表取締役社長の和田洋一氏、慶応義塾大学デジタルメディア・コンテンツ統合研究機構准教授の金正勲氏、日本音楽著作権協会(JASRAC)常務理事の菅原瑞夫氏が参加した。
デジタルコンテンツの利用流通に関する現状について中山氏は、ひとつの著作物に多くの権利が重畳的に付着していることが流通の阻害要因となっていると指摘。事態を解決する手段とされる「契約」のモデルも十分に機能していないため、このままでは日本のコンテンツビジネスの存続が危うくなるだけでなく、権利者に還元する利益もなくなると警鐘を鳴らした。
政策提言を行った理由については、文化庁の著作権分科会で主査を務めた自らの経験を元に「日本の役所では抜本的な改革が難しい」と判断、そのため議員立法で法改正実現を目指していると説明した。「著作権法の改正でネットビジネスがうまくいくということはないが、“足かせ”を外すという点では意味がある」。
● “映像版JASRAC”で一括権利処理を行うべき
コンテンツ事業者である和田氏は、デジタルコンテンツのネット流通が、チャネルを増やすだけでなく、業界の構造自体を変えると説明。ネット流通では、従来の商慣習で通じていた「誰と誰が会話をするか」という権利処理の“常識”が通じなくなることから、会話の場を設けても時間がかかりすぎるとして、制度から変えるべきだと話した。
また、デジタルコンテンツのフォーマットに関しては、「要素や部品を変える」ことで、新たなコンテンツ作成につながる可能性を秘めていると指摘。これを実現する法制度については慎重な議論が必要としたが、「今までの著作権のあり方を根底から揺るがすデジタル化に真正面から向き合うべきだ」として、政策提言の実現を訴えた。
世界のデジタルコンテンツ流通政策に詳しい金氏は、利害を重視する従来の行政法と比べ、協議会の政策提言には明確な政策目的を持つ具体案であると評価。その反面、政策提言では権利処理の集約先が複数になっていると指摘し、権利処理の費用が増えたり、一部の権利者の拒否によりコンテンツ流通が妨げられるなどの問題点を挙げた。解決策としては、“映像版JASRAC”のような組織で一括して権利処理を行うべきとした。
さらに金氏は、放送局がネット流通に乗り出さないのは「わりにあわないから」と指摘。「放送局にとってネット配信はチャンスだけではなく、収益源への脅威でもある。最も重要なことは、放送局がネット配信をしなくても生きていけることだ」。金氏は、JASRACがライセンス事業を開始したときのように、“映像版JASRAC”にも数年間は事業の排他性を持たせて、収益を得られる“利権”を与えることが参入の動機付けになるとした。
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協議会の副会長を務めるスクウェア・エニックス代表取締役社長の和田洋一氏
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慶応義塾大学デジタルメディア・コンテンツ統合研究機構准教授の金正勲氏
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● 政策提言には“強制収容”の感はするが「モアベター」な議論を
菅原氏は、協議会の政策提言は“強制収容”の感が否めないとして、「そこまでの必要性、合理性、緊急性があるのか」と疑問を投げかけた。現状については、デジタルコンテンツ流通が収益に結びつくかどうかが不明瞭であることから、コンテンツホルダーが参入に二の足を踏んでいると分析した。その一方、デジタルコンテンツ流通の活発化には賛同を示し、「現状をモアベターにするために議論を深めたい」と話した。
政策提言で「対象コンテンツの権利情報を明確化すべき」としている点について菅原氏は、JASRACでは1950年から著作物のデータ化を進めてきたことを紹介。一方、映像コンテンツの相互利用可能なデータベースについては、「お金と手間と時間がかかる」「いっさい儲けを生まない」ことから進んでいないとした。「そういう意味では、国が支援すればよいのではないか」。
モデレーターを務めた、弁護士で一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授の岩倉正和氏は最後に、「緊急に法整備をすべきか、もしくは“モアベター”にすべきかという違いはあるが、コンテンツに関してネット上の利用促進をする一つの工夫として、利用権の集中化がある」と総括。現状を踏まえれば、早急な法整備を考えた上で、対象とするコンテンツや権利を集約するための要件などを検討することが課題になるとした。
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日本音楽著作権協会(JASRAC)常務理事の菅原瑞夫氏
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協議会の事務局長を務める、弁護士で一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授の岩倉正和氏
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関連情報
■URL
デジタル・コンテンツ利用促進協議会
http://www.dcupc.org/
■関連記事
・ デジタル・コンテンツ利用促進協議会、政策提言の試案を策定(2009/01/09)
( 増田 覚 )
2009/03/13 12:39
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