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マンガ家の里中満智子氏
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明和電機の土佐信道氏
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マンガやアニメ、ゲームなどを収集展示する拠点施設として、2009年度補正予算案に事業費117億円が盛り込まれた「国立メディア芸術総合センター(仮称)」について、マンガ家の里中満智子氏らが4日、「メディア芸術の歴史を築くために必要。やがては、予算の何倍もの経済効果をもたらす」などとその意義を説明した。
里中氏は「日本のマンガルネッサンスと言われている1950~60年代のマンガの破損状況がひどい」と指摘。十年ほど前から知り合いに原画の保管を呼びかけてきたというが、作者が亡くなると遺族が捨ててしまうケースもあるという。里中氏は「100年後には資料が残らず、当時のマンガを検証できなくなる」として、原画をアーカイブ化する意義を訴えた。
アートユニット「明和電機」の土佐信道氏は、「日本には多くの人間が作ってきた『面白い塊』があるが、それを放っておくのはもったいない」とコメント。自ら手がけるメディアアートについては、「技術に付随して進化する反面、技術が古くなるとすばらしい表現が消えてしまう部分もある」として、作品をアーカイブ化する施設の必要性を訴えた。
東京都現代美術館の学芸員を務める森山朋絵氏は、「オーストリアにはメディア芸術を常時展示する複合的な文化施設があり、経済的な効果ももたらしている」と海外の事例を紹介。日本ではマンガやアニメなど各分野ごとの作品を展示する施設は存在する反面、「各分野を統合するヘッドクォーターはない」として、複合施設の建設に期待を寄せた。
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東京大学大学院教授の浜野保樹氏(右)と東京都現代美術館学芸員の森山朋絵氏
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報告書に記載されている完成予想図
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国立メディア芸術総合センターに関する文化庁の検討会で主査を務めた、東京大学大学院教授の浜野保樹氏も「施設は必要」と語る。一部で「箱物行政」と批判されていることについては、「運営が厳しいと言われているが、個人的には民間に委託したり寄付を募るなどのアイデアがある。100年後には大きな国の財産になるはず」と反論した。
「箱物行政」の指摘に対しては、里中氏も「原画の保存には箱が必要」と反論。マンガを常時展示することについては、「現在流通しているすべてのマンガを展示する必要性は感じていない」としたほか、展示する場合には著作権者や出版社に経済効果がもたらされるようにしたり、Web上で「マンガ資料館」を提供することも視野に入れているという。
また、施設建設に税金を投じるよりも、アニメ産業の厳しい労働環境の改善を優先すべきという意見について里中氏は、「マンガ家でも経済的に恵まれている人はわずかだが、厳しいのはどの産業も同じ。マンガとアニメだけを優遇するのもおかしい。そうしたことは社会保障制度で解決すべきで、(施設建設とは)分けて考えるべき」と話した。
「海外で日本のアニメやマンガの売り上げが落ちている背景には、天文学的数字に上る違法コピーがある。ネット上では発売直後のマンガが翻訳されて出回っている。海賊版撲滅には各国との連携が不可欠だが、その意味でも『この作品は日本で作られている』というピーアールが必要。海賊版を食い止めるためにも施設を作るべきだ。」(里中氏)
国立メディア芸術総合センターに関する報告書では、完成予想図や建設場所などが記されているが、浜野氏によれば「決定事項ではない」という。施設のサービス内容に関しても今後検討される。浜野氏は「何も決まっていない状況。国民の批判は甘んじて受けるが、文化として大事であるということを理解してもらいたい」と語った。
なお、今回の会見には、アニメ「機動戦士ガンダム」の監督として知られる富野由悠季氏も参加する予定だったが、欠席した。
関連情報
■URL
国立メディア芸術総合センターの概要(PDF)
http://www.bunka.go.jp/oshirase_other/2009/pdf/gaiyou_H210428.pdf
国立メディア芸術総合センターに関する報告書(PDF)
http://www.bunka.go.jp/bunkashingikai/kondankaitou/madiageijutsu/pdf/houkokusho_H210428.pdf
( 増田 覚 )
2009/06/04 20:44
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