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第99回:式根島は“ジオキャッシング”の聖地!? GPSで宝探しゲームイベント


 伊豆七島の式根島で、ジオキャッシング(GPSを使った宝探しゲーム)とゴミ拾い活動を組み合わせた「CITO(Cache In Trash Out)」というイベントが11月13日に開催された。本イベントは地元の商工会が主催し、昨年の秋にも2度開催。インターネットとGPSを使って宝探しをするジオキャッシングの楽しさを、島の人たちと交流しながら遊べるイベントとして話題となった。3回目となる今回は「南の島の冒険旅行」と題したARG(Alternate Reality Game:代替現実ゲーム)も併催することとなり、従来よりさらに充実した内容となった。このイベントについて詳しくレポートをお届けしよう。

イベント公式サイト 南の島の冒険旅行

ジオキャッシングをしながら子どもたちと清掃活動

 ジオキャッシングとは、街中やフィールドにキャッシュ(宝物)を設置し、インターネットでその座標を公開して、プレイヤーがGPSを使って宝探しをするという世界規模の遊びのこと。単体のGPSが必要なことや公式サイトが英語であることなどから、日本では今ひとつ浸透してはいないが、近年はiPhoneやAndroidのジオキャッシング用アプリをきっかけに興味を持つ人も少しずつ増えてきた。

大型客船が到着した式根島の野伏港

 今回、式根島で開催された「CITO」とは「キャッシュ・イン・トラッシュ・アウト」の略で、これはGPSを使った宝探しをしながら清掃活動も同時に行うというジオキャッシング独特のイベントだ。海外ではポピュラーだが日本で開催された例はまだ少なく、式根島のほかには富士山などで行われたことがある。今回のCITOは新島商工会(式根島は新島村に所属している)の主催で行われたものであり、ジオキャッシングの公式サイトでも告知され、島内・島外に広く参加が呼びかけられた。

 式根島CITOの特徴は、ジオキャッシャー(ジオキャッシングの愛好家)だけでなく、島の子どもたちが多く参加する点にある。今年は式根島小学校の創立100周年ということもあり、それを記念する意味も兼ねて開催された。運営スタッフである新島商工会の下井勝博さんによると、島中を巡ってゴミ拾いをする同イベントにかける子どもたちの意欲はすばらしく、数週間前から島民を挙げて歓迎ムードが高まっていたという。東京・竹芝桟橋を出た大型客船は、13日の朝に式根島の野伏港に到着し、港では下井さんを含めたスタッフ一同が島外からの参加者を出迎えていた。

 下井さんもまた自らジオキャッシングを趣味としているだけあって、今回のイベントに対する思いは強い。「自治体や商工会、観光協会などにとって、低コスト・短期間でイベントを開催できるジオキャッシングはとても魅力的なコンテンツです。イベントを開催してそれでおしまいというわけでなく、終了後も引き続いて楽しめる点もいい。現在、式根島には約20のキャッシュが設置されていますが、これを30まで増やしたいと思っています。最近は新島にもキャッシュが増えてきたし、いずれは式根島と新島を“ジオキャッシングの聖地”と呼ばれるような島にしたいですね」と語る。

 ジオキャッシングのキャッシュは何もない場所にただ置けばいいというわけではなく、観光名所などに絡めて設置するほうが地域振興に役立つし、探す側も楽しい。また、ガイドブックや地図などに載っていないマイナーな見どころをアピールするツールとしても効果的だ。島内のキャッシュは下井さんが置いたものもあれば、CITOで訪れた島外の人の手によるキャッシュもある。下井さんはときどき島内のキャッシュを見て回り、メンテナンスも行っているという。これほどジオキャッシングに理解があり、それを気兼ねなく楽しめる島は、全国を見渡しても例は少ないだろう。


新島商工会の下井勝博さん キャッシュの位置があらかじめ登録されたハンディGPS

宝物として用意された特製のコイン。イベント終了後、このコインを入れた新たなキャッシュを仕掛けて帰ったジオキャッシャーもいた 式根島の地図。蛍光ペンの印が入った地点がキャッシュの隠し場所

効率のいい宝探しには子どもと大人の連携が必要

 CITOが始まったのは13時。式根島の中心部に位置する「新島村役場式根島支所」の隣にある「式根島開発総合センター」のロビーでの集合だった。この施設にはインターネット体験コーナーが設けられており、無線LANも利用可能だ。センターの1階ロビーに集まった今回の参加者は、大人と子ども合わせて約30名。これを4組に分けて、チームごとに活動することになった。

 今回設置されたキャッシュはイベントのために特別に設置された“イベントキャッシュ”と呼ばれるもので、インターネットで位置情報を公開してはいない。昨年開催された第2回イベントでは、ゼンリンによる支援を受けて、ナビゲーションソフト「みんなの地図」が入ったPSP(プレイステーション・ポータブル)が貸し出された。今年は各チームに1台、新島商工会が用意した米Garmin社製のハンディGPS(eTrex Venture HC日本語版)が貸与されて、GPSにはあらかじめキャッシュの座標が登録されており、子どもでも簡単に宝探しを始められるようになっている。

 ただし、ハンディGPSに内蔵されている地図は簡易的なもので、その詳しい場所はわからない。それを補足する意味で、各チームには宝の置き場所を示したクイズの紙が配られた。この紙は宝の隠し場所のヒントをイラストと暗号クイズで表現したもので、島民ならすぐに答がわかる内容だが、島外の人に解くのは難しい。つまり宝探しを効率よく行うためにはGPSを使うだけではダメで、子どもたちを中心とした島民の人との連携が必要となるわけだ。

キャッシュの隠し場所を示した紙 CITOのスタート地点となった式根島開発総合センター

最初の隠し場所について考える子どもたち GPSを受け取っていよいよ出発

 宝探しと並んで忘れてはならない目的が、清掃活動だ。参加者にはそれぞれ軍手とビニール袋が配られ、宝探しをしながら目に付いたゴミを拾っていくというのが今回のルール。各チームの順位は宝探しを達成するまでの時間ではなく、ゴミを拾った量で決まる。イベント中は、ゴミ拾いをしているおかげで、道行く人から「ありがとうね」「ごくろうさま」と声をかけられたことが何度かあった。筆者もふだん都内でジオキャッシングをやっているときは、ひたすら黙々とキャッシュを探しているだけだが、こんな風に大勢でワイワイと宝探しをやり、しかも清掃活動で感謝されるという体験はなかなか貴重である。

 ジオキャッシャーもそういう点には大いに魅力を感じているようで、今回の参加者の中には、昨年の第1回イベントに参加したリピーターがいた。彼はすでに600以上ものキャッシュをハント(発見)しているという猛者で、今回はイベントへの参加以外にも、島内に仕掛けられた新たなキャッシュを探したり、自らキャッシュを仕掛けたりするといったほかの目的も兼ねて島を訪れたという。筆者のような駆け出しのジオキャッシャーからベテランまで、幅広い層が楽しめるイベントだといえるだろう。

大量のゴミに苦しめられたものの終了後には達成感

 イベントが開始されると、子どもたちが元気よく歩き出した。道ばたの紙クズやペットボトルを拾いながら最初の隠し場所に向かう。筆者の所属するチームの最初のキャッシュは、新島村の名物であるモヤイ像の裏に隠されているらしい。現地に着くと、子どもがすばやくモヤイ像の裏手に回ってキャッシュを見つけ出した。樹脂製の密閉容器の中に、今回のイベント用に特注で作られた立派なコインと、次のキャッシュの隠し場所が書かれた紙が入っている。

最初の隠し場所となったモヤイ像

 次は島の東側にある高森灯台。ここは観光スポットとしても知られていて、海を一望できる展望台でもある。息を切らせながら階段を登っていくと、一足早く上に着いた子どもたちの歓声が聞こえてきた。急いで駆け上がると、子どもたちがキャッシュのようなものを発見してなにやら怪訝な顔をしている。実は彼らが最初に見つけたのは、後述するARGイベントで使われているメッセージカードで、たまたま隠し場所が近かったために子どもたちが目ざとく見つけてしまったのだ。そのアイテムはCITOのキャッシュとは違うことを説明し、元に戻しておいた。ほかの場所を探すと、すぐに正しいキャッシュを発見。これで2つ目のキャッシュの発見に成功し、残るはあと1つだけとなった。

 実はここまではハンディGPSをほとんど使わずに、紙に描かれたヒントだけを見てキャッシュを発見できた。「これじゃGPS必要ないね」と子どもに尋ねてみると、高学年の女の子が「そんなことないですよ」と言ってGPSの画面を熱心に見始めた。2つ目のキャッシュの中に入っていた紙とGPSを照らし合わせて、次の目的地が海辺に湧く「足付温泉」の近くであると判断し、さらにゴミを拾いながら島の東部から南部へと移動する。もうこの頃になるとゴミ袋が満杯になり、ゴミを拾うことよりも運ぶことのほうが主な仕事になりつつあった。

 そしてようやく足付温泉に到着。キャッシュの隠し場所は温泉からさらに海岸沿いを奥に入ったところのようだ。広い岩場に出ると、ペットボトルや発泡スチロールなどのゴミが大量に落ちていた。持ち帰りきれないほどのゴミを目の前に子どもたちが張り切り、ゴミ拾いに熱心な子どもとキャッシュ探しに専念する子どもとに分かれる。

 広い海岸だけに、キャッシュはなかなか見つからない。そんな中、高学年の男の子がGPSをじっと見ていた。どうやら地図を縮小した状態で見ているようだ。これでは詳しい位置関係はわかりにくいだろうと思い、「ちょっと拡大させてみよう」と話しかけて拡大のボタンを押した。画面が拡大されて、隠し場所の方向がわかりやすくなった。その後、すぐに最後のキャッシュを発見できた。

 「紙の暗号は子どもたちにしか解けないけど、GPSの扱い方は島外から訪れたジオキャッシャーのほうが詳しい。つまり両者が力を合わせなければ宝を探すことができないんです」という下井さんの言葉をふと思い出した。島外から参加したジオキャッシャーにとっては、子どもたちとコミュニケーションするまたとない機会。普通の旅行では味わえない、現地の人とのふれあいが楽しめる点がこのイベントの大きな魅力なのだ。

 これでキャッシュはすべて発見できたので、あとはゴールである開発総合センターに戻るだけだ。大量のゴミを運ぶのに四苦八苦しながら、坂道を登っていく。ようやく開発総合センターに到着すると、すでに2組のチームが戻っていた。2チームともそれぞれかなりの量のゴミを集めてきたようだ。残る1チームの帰りを待つ間に、ほかのチームの大人たちと話した。前述したリピーターのジオキャッシャーは、CITOで通ったルートの途中にまだ見つけていないキャッシュがあったことに気付いて、「あ、あそこにキャッシュがあったのに!」と頭を抱えていた。参加者みんながそれぞれ思い思いに自由な楽しみ方をしているようだ。


ゴミ拾いしながら海沿いを行く ほかのチームとの遭遇

GPSを見ながらキャッシュを探す 集められた大量のゴミ

 ゴミの量は、全チームを合わせると小型トラックの荷台がいっぱいになるほどの量となった。拾ったゴミの量と質を評価して順位を付けるのは、参加者の大人全員。優勝は筆者が所属したチームとなった。表彰式で賞品を受け取る子どもが満面の笑みを浮かべている。坂道を上り下りしながら大量のゴミを運ぶのには苦労したが、子どもたちの笑顔を見ていたら心地よい達成感に包まれた。

ジオキャッシングの要素を取り入れたARGイベント

 CITOと同時にARG(Alternate Reality Game:代替現実ゲーム)イベントのほうも盛り上がっていた。ARGとはプレイヤーが現実の場所やウェブサイトなどに散りばめられた謎を解き、仲間とコミュニケーションしながら進行する物語に参加していく体験型ゲームのことで、「リアル脱出ゲーム」などが有名。最近話題のAR(Augmented Reality:拡張現実)と混同しやすいキーワードだが、それとは直接関係のない別の概念だ。今回のARGイベントは新島商工会が主催したもので、Twitterやウェブサイトを通じて多くのARGフリークに呼び掛けられた。

 10月後半からインターネット上に特設サイトが公開されて、課題やクイズなど計10個のミッションが提示された。ここに応募した300人の中で、ミッションをクリアした人の中から抽選で10名が選ばれて、式根島の無料ツアーに招待された。参加者数は、選ばれた10名に同伴者の2名を加えた計12名。年齢層は20〜30歳代の男女で、ジオキャッシャーに比べると若い世代が多い。

 今回のシナリオは、島を訪れた参加者が「帰りの船のチケットが盗まれたので、その行方を捜す」というストーリー。地図を見ながら島内に仕掛けられた暗号や指令書を入手しながら謎を解いていくという進行になっていた。謎を解いたからといって賞品や賞金が手に入るわけではなく、ゲームを進めていく中で島の名所を観たり、島民とのふれあいを楽しんだりできるというコンセプトだ。

 このディレクターを務めたのは、元ゲームライターの「がすけつ」氏というこの世界では知る人ぞ知る人物。かつて2chで「VIPPERのあんたがたに挑戦します。」というARGを仕掛けたことで知られており、別名「あめちゃん」とも呼ばれている。

 式根島は携帯電話の電波状況が比較的良いので、ゲーム進行中もTwitterなどにアクセス可能だ。ゲーム自体もTwitCastingでライブ中継され、「がすけつ」氏も中継を見ながら、宿を拠点にしてTwitterでヒントとなるようなコメントを投稿しながら、ゲームの進行状況をチェックしていた。また、2日目には自ら参加者に同行して謎解きが進んでいくのを見守っていた。

 イベントの途中で、プレイヤーは島の人からハンディGPSを受け取り、そこからはジオキャッシングのように座標を確認しながらアイテムを探すことになった。実は「がすけつ」氏は昨年の式根島CITOイベントにも参加しており、その経験を生かして今回、島の観光名所や絶景スポットなどにアイテムを隠したという。参加者は“南組”と“北組”の2チームに分かれて行動し、片方のチームは予定通り1日で謎解きが終了したが、もう一方のチームは1日では終了することができず、2日目にずれ込んだ。

 2日目は島の西側にある神引山を取り巻く遊歩道を歩きながら、荒涼とした景色が広がる「唐人津城」や、新東京百景の1つ「神引山展望台」などに隠されたアイテムをGPSで探した。早朝から謎解きを再開して、すべてのミッションを終えて“犯人”を探し当てたのは帰りの船が出る1時間ほど前。慌ただしいスケジュールにはなったものの、参加者の顔はみな満足そうだった。

 ARGにジオキャッシングを組み合わせるというのは面白いアイデアで、GPSによるアイテム探しが物語の流れの中でいいアクセントになり、ゲームに奥行きを与えていたように思う。下井さんはジオキャッシングだけでなく、このARGについても式根島のコンテンツとして活用することを検討しており、将来的には今回のARGのミッションをベースとした常設のゲームが設置される日が来るかもしれない。


最初に渡された指令書 さまざまな謎を解いていく

クイズをヒントにアイテムを探す参加者 途中でGPSが手に入る

島の名所や絶景スポットを巡りながらゲームを進めていく 展望台の上で最後の謎解きに挑戦

 イベント中、CITOとARGの集団が道をすれ違ったときが何度かある。式根島の子どもたちは誰にでも気兼ねなく「こんにちは」と挨拶する習慣を持っており、このときも元気な挨拶の声が飛び交っていた。また、イベントが開催された13日の夜には、CITOとARGのそれぞれの参加者とスタッフが一堂に会して懇親会が開かれ、深夜までまで続く宴会となった。そこではARGの参加者がオキャッシングに興味を持ち、「やってみたい」と言い出す場面もあった。このようなことが2つのイベントが同時に行われたことの相乗効果なのかもしれない。

 地図やGPS、Twitterやライブ中継など、さまざまな試みが詰まった式根島のCITOおよびARGイベント。今や式根島は、地図フリークにとっては見逃せない島になったようだ。


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2010/11/25 06:00


片岡 義明
 地図に関することならインターネットの地図サイトから紙メディア、カーナビ、ハンディGPS、地球儀まで、どんなジャンルにも首を突っ込む無類の地図好きライター。地図とコンパスとGPSを片手に街や山を徘徊する日々を送る一方で、地図関連の最新情報の収集にも余念がない。書籍「パソ鉄の旅−デジタル地図に残す自分だけの鉄道記−」がインプレスジャパンから発売中。