記事検索
バックナンバー

趣味のインターネット地図ウォッチ

第145回:残念な点を整理しつつ、iPhone 5の測位精度など真面目にチェック


 いよいよ発売された「iPhone 5」。ファンにとっては待ち遠しかったリリースだが、一方で最新OS「iOS 6」に搭載されている標準地図「マップ」については不評も多く聞かれている。今回はこの「マップ」が抱える問題点を整理するとともに、iPhone 5の測位精度についてレポートをお送りしよう。

iPhone 5

施設名の間違いや表記の不統一、漢字の読み間違いも

 iPhone 5は前モデルのiPhone 4Sに比べると、ディスプレイサイズの変更やLTEのサポート、Lightningコネクターの導入などさまざまな進化や改良が施されている。しかしこのようなハードウェアの話題よりも大きく取り上げられているのが、iOS 6に標準搭載される「マップ」の完成度の低さだ。

 すでに巷で言われている通り、Google マップの地図データを使った従来のマップアプリに比べて、その内容はかなり劣ると言わざるをえない。施設名の情報量が乏しいだけでなく、名称が間違っていたりズレていたりすることが少なからずあり、その不正確さについては数多くの指摘がなされている。施設のズレは測地系の変換ミスが原因だとも言われているが、羽田空港の位置に「大王製紙」と記載されているケースなど、それだけでは説明の付かない重大なミスもある。

 また、日本国内なのに日本語表記の中に英語表記がところどころ混じっていたり、時にはハングル文字になっていたりするケースもあり、統一されていないのも気になる。

 さらに、ナビ機能の音声案内では漢字を読み違えているケースもあった。「都心環状線」を「みやこごころかんじょうせん」、「都道府県道」を「とみちふけんみち」と読んだ時は思わず笑ってしまったが、このような点はできるだけ早く改善してほしいものである。

羽田空港の位置に「大王製紙」と記載 英語表記が混じっているケース。東京湾内なのに「北太平洋」の表記にも違和感がある

なぜかハングル文字が ナビでは「都道府県道」を「とみちふけんみち」と読み上げ

小縮尺で情報を省きすぎているのも問題

 一方で、このような単純なミスのほかに、基本的な地図の見せ方において残念な点もある。例えば情報が道路地図に偏っていて、鉄道路線が確認しにくいこと。iOS 5.x以前のマップと横に並べて地図を比べるとよくわかるが、従来のマップは小縮尺の状態でも主要な鉄道路線が確認できるのに対して、iOS 6のマップはかなり拡大しないと鉄道路線が現れない。これはとても不便だ。

小縮尺にすると鉄道路線が見えない 以前のマップならばこの縮尺でも鉄道路線を確認できる

ようやく駅が見えたが、まだ路線が見えない 以前のマップでは白黒の線で表現されており、JRの線路であることもわかる

 また、駅舎の形も小縮尺では表示されず、ある程度拡大しないと見えてこないし、アイコンすら表示されないこともある。東京駅のような巨大な駅ですらこんな状態なのでとても困る。

東京駅(iOS 6のマップ) 東京駅(以前のマップ)

 高速道路の出入口についても、やはり小縮尺では表示されない。鉄道なら駅のアイコンがあるのでまだわかるのだが、高速道路の出入り口にはアイコンが付かないので、小縮尺表示ではどこから降りればいいのかがさっぱりわからない。

首都高のIC名やJCT名の記載がなし 以前のマップではICの位置がわかりやすい

 市街地の地図では、コンビニエンスストアやファーストフード店の情報も含まれていないわけではないが、Google マップはチェーンごとにわかりやすいアイコンを使っており、小縮尺にしても表示される。それに対してiOS 6のマップは小縮尺にすると消えてしまうことが多く、大手チェーン店よりも独立系の飲食店の方が目立つこともある。拡大すれば情報がある個所でも、小縮尺で情報を省きすぎているためにとても使いづらいのだ。

 一方、住所表記については、小縮尺の状態では町名が入っているのに、縮尺を大きくすると消えてしまう。Google マップでは縮尺を大きくしてもそのようなことは起こらない。住所の町名(丁目)や街区符号(番)が記載されていないのも不満だし、都市部において建物名がほとんど入っていないのも、Google マップに慣れてしまった人にとってはとても困る。

コンビニエンスストアのチェーン名はタップしないとわからない 以前のマップではチェーン店のアイコンが表示される

地下鉄の出入口や交差点名、山岳部の地図などの情報量が不足

 情報量の不足を感じる部分はほかにもある。都市部の地下鉄の路線については、Google マップは点線で表示されるのに対して、iOS 6のマップでは路線の位置すらわからないし、地下の構内の形も描かれていない。出口番号も記載されていないので、どの出口から出たらいいのかも確認できない。

地下鉄の路線や交差点名が表記されず 以前のマップでは地下鉄の構内の形や出口番号も記載される

 道路についても、Google マップは主要な交差点名と信号マークが記載されているのに対して、iOS 6のマップには交差点名も入っていないし信号の有無もわからない。首都高では、駒形ICのようにIC名が記載されていない場所もある。

首都高の駒形ICの名称が記載されていない

 山岳地の情報が極めて貧弱なのも残念だ。Google マップは主要な山のピークがアイコンで表示されており、ロープウェイやケーブルカーの路線も記載されている。拡大すれば等高線も見えるし、尾根も点線で示される。山小屋の位置が記載されている場合もある。iOS 6のマップではこれら情報が、北アルプスのようなメジャーな山域でさえ全く表示されない。

北アルプスの地図。下の方にある湖は黒部湖 以前のマップでは山名やロープウェイ、ケーブルカーなどが記載

既存の位置情報系アプリの地図もiOS 6のマップに置き換わる

 文句ばかりになってしまったので、使いやすくなった点も挙げてみよう。まず、以前のマップと違って地図上にタップ可能なアイコンが並んでいる点。アイコンをタップするだけで場所情報の画面をすぐに呼び出せる。これまではルート検索の出発地や目的地を設定する場合、画面を一度長押ししてピンをドロップし、そのピンをタップするという手順を取る必要があったが、iOS 6のマップではダイレクトに場所情報の画面を呼び出せるので、ルート検索の設定を簡単に行える。

 飲食店のアイコンが増えたのも個人的にはうれしい。ほかの施設と同じようにアイコンをタップすれば場所情報の画面になり、ここには電話番号も表示される。

アイコンをタップすると店情報の画面が表示

 また、地図データがベクトルデータになり、iPhone向け地図アプリ「MapFan for iPhone」と同じように、2本の指で地図を回転させることも可能になった。紙の地図を見る時に回す癖がある人には便利だろう。従来通り北を上にして固定させるには、右上のコンパスの絵をタップすればいい。

2本の指で地図を好きな角度に回転させることが可能

 カーナビ機能については、交差点や車線の絵などは表示されず、文字だけのシンプルな表示だ。前述した通り音声案内で漢字の読み方が誤っている個所があるし、ガイド音声も無機質で味気ない。有料のカーナビアプリに比べると完成度は今ひとつだ。

 ただ、左下の「3D」をタップするとバードビューのような絵になるのは、なかなか見やすい。必要がある場合は車線の指示など細かい点まで案内してくれるし、ロック画面の状態でも地図を見られるのは便利だ。

ナビの案内はシンプルでわかりやすい 車線の指示を行う時もある

ナビ中はロック画面にも地図を表示

 しかし、このような細かい良さも、地図データの貧弱さの前にはかすんでしまう。以前は渋滞情報が表示されたが、iOS 6のマップでは日本は未対応になってしまった。Android向けに提供されているGoogle マップでは屋内地図や屋内測位のサービスなど次世代を見据えたサービスが開始されており、iPhone向けのGoogle マップにもいずれ搭載されるのでは、と期待していたのだが、その実現も遠のいた。

 今のところGoogleはiPhone向けの地図アプリをリリースしていないが、仮にGoogle製の地図アプリが登場したとしても、iOS 5.x以前に向けて開発された多くの既存の位置情報系アプリの地図が、自動的にiOS 6のマップに置き換わってしまうことには変わりはない。iTunes App Storeにおいてこれらのアプリの評価コメントを見ると、今回の件でユーザーはかなりの不満を感じていることがわかる。Appleはこれらの不満にぜひ耳を傾けてほしいと思う。

昔の地図が見られる「東京時層地図」の現代地図もiOS 6のマップに置き換わってしまう

ほかの地図サイトや地図アプリの使い心地

 さて、iOS 6のマップにこのような問題があることを踏まえると、常用するのはなかなか辛い。当面の間は別の地図コンテンツを使うことを検討せざるをえないが、具体的にはどのような代替手段が考えられるだろうか。ここで有用だと思われる地図サイトやアプリを見ていきたい。

 まずはウェブブラウザーのSafariで使える地図サイトを考えてみよう。第一の候補となるのは従来利用していたGoogle マップだ。これは地図上で現在地を示す機能などを搭載しており、ルート検索も可能。航空写真や地形レイヤーも用意されているし、交通状況や路線図を重ね合わせることもできる。ただしストリートビューは見られないし、以前のマップアプリのように地図画面を長押ししてピンをドロップさせることはできない。

 Google マップ以外にも地図サイトはいくつかある。例えば「Yahoo!ロコ」の地図でも現在地を確認することが可能で、ルート検索も可能。Google マップに比べてレイヤーも豊富で、航空写真や地形図だけでなくOSM(オープンストリートマップ)、雨雲レーダー、鉄道路線、放射線情報なども用意されているほか、東京駅の八重洲地下街など大きな地下街の地図も用意されてる。夜間でも見やすい「ミッドナイト」やモノトーン表示など、デザインの種類も豊富だ。また、2点間の距離を測るツールなども用意されている。

ウェブ版「Google マップ」 「Yahoo!ロコ」ウェブ版

 「マピオン」の地図サイトは上記の2サイトと比べると機能は少なめだが、最寄りの鉄道駅やバス停、トイレなどを調べられる機能が搭載されている。使う用途に合わせてサイトを使い分けるのも手かもしれない。

 「MapFan」のスマートフォン版サイトも、地図上で現在地を表示可能。地図上で投稿写真を見られる「ピクチズ」や駐車場・ガソリンスタンド検索などの機能も備えている。

「マピオン」ウェブ版 「MapFan」ウェブ版

 「Yahoo!ロコ」「マピオン」「MapFan」はいずれもネイティブアプリとして、「地図 Yahoo!ロコ」「地図マピオン」「MapFan for iPhone」が用意されているので、ウェブブラウザーでの使用でスクロールの遅さなどが気になったら、アプリをインストールしてみるといいだろう。「地図 Yahoo!ロコ」と「地図マピオン」はオンラインで地図データを取得するタイプで無料でダウンロード可能。特に「地図 Yahoo!ロコ」は音声入力によるルート検索も可能でおすすめだ。「MapFan for iPhone」は有料だが、iPhoneのローカルに地図データを置けるのでオフラインでも利用できる。

「地図 Yahoo!ロコ」アプリ 「MapFan for iPhone」アプリ

 さらに、iOS 6マップになってストリートビューが見られなくて困っている人は、ストリートビューの閲覧アプリを入れるのもおすすめだ。筆者がよく使っているのは「ストリートビューワ」というアプリで、これは全画面でストリートビューを見られるほか、上部に地図画面、下部にストリートビュー画面が表示されるモードもある。ただしiOS 6上で動かすと、上部の地図画面はiOS 6のマップになってしまうので注意しよう。

 なお、iTunes App Storeで「ストリートビューワ」のページを見ると、iOS 6/iPhone 5対応版(Ver1.8)を現在申請中で、10月3日ごろにリリース予定とのこと。新バージョンではGoogle マップとiOS 6のマップを切り替え表示が可能になるとのことで期待される。

「ストリートビューワ」アプリ Google マップが利用可能になる予定

前モデルのiPhone 4SとGPSのログを比較

 さて、最後にiPhone 5の測位性能を試してみたい。iPhone 5は前モデルのiPhone 4Sと同様、Assisted GPSおよびGLONASSに対応している。測位精度がどれくらい向上したのか気になるところだが、実際に両機種でログを比較してみた。

 ログの計測は東京都内の市街地で行った。iPhone 5とiPhone 4Sに加えて、GARMINのハンディGPS「eTrex 20J」を自転車に取り付けて走行した。iPhoneでのログの記録には「GPS-Trk」を使用。ログの記録間隔は5秒おきにした。なお、iPhone 5とiPhone 4Sは両機ともに3G通信とWi-Fiをオンにした状態で計測している。

 スタート地点は長方形の右上の角(東京メトロ銀座線・田原町駅付近)で、そこから上野駅、御徒町駅へと左回りに走行し、1周して同じ場所に帰ってきた。ログの赤線がiPhone 5、青線がiPhone 4S、黄色の線がeTrex 20Jとなっている。

ログの全体図

 左上の角はJR上野駅が建つ角で、首都高の高架があるのでGPSの誤差は激しくなる。iPhone 4Sは内側に大きく入り込んでしまっているのに対して、iPhone 5はカーブの外側に少し膨れているが、iPhone 5の方が実際に通った位置との誤差は少ない。最も実際の走行経路に近かったのはeTrex20Jだった。

上野駅付近

 御徒町駅付近の角からゴール付近にかけては3製品ともに大きな誤差は見当たらないが、全体的にiPhone 4SよりもiPhone 5の方が左右のブレが少なく、安定した軌跡を見せた。eTrex20Jほどではないが、iPhone 4Sに比べると確実に精度の向上が感じられる。

御徒町駅付近

ゴール付近

 このようなハードウェアの進化も見られるだけに、iOS 6のマップの劣化は本当に残念だ。ユーザーからの数々の批判に果たしてAppleはどう応えていくのだろうか。今後の対応が注目される。


関連情報



2012/9/27 06:00


片岡 義明
 地図に関することならインターネットの地図サイトから紙メディア、カーナビ、ハンディGPS、地球儀まで、どんなジャンルにも首を突っ込む無類の地図好きライター。地図とコンパスとGPSを片手に街や山を徘徊する日々を送る一方で、地図関連の最新情報の収集にも余念がない。書籍「パソ鉄の旅−デジタル地図に残す自分だけの鉄道記−」がインプレスジャパンから発売中。