趣味のインターネット地図ウォッチ

第153回

「伊豆大島ハッカソン&OSMマッピングパーティー」参加レポート

離島で初開催! 開発者やマッパーが集結

 エンジニアが集まり集中的にコーディングを行う“ハッカソン”。そして誰でも利用可能なフリーな地図データを作るプロジェクト「オープンストリートマップ(OSM)」の地図作成イベント“マッピングパーティー”。この2つを組み合わせたイベントが伊豆大島を舞台に1月19日・20日に開催された。ハッカソンもマッピングパーティーも伊豆大島で開催されるのは初で、2つの同時開催も初めてのこと。開発者やマッパー(OSM愛好家)が集結してさまざまな活動を繰り広げた2日間の模様をレポートしよう。

伊豆大島

事前のマッピングにより建物の約7割が入力完了

 イベントの会場となったのは大島の元町港船客待合所。吹き抜けのエントランスホールの2階に上がるとテーブルと椅子が並んでおり、奥の窓からは伊豆半島や利島、新島などが見渡せる。会場へ着く前は会議室や教室のような場所をイメージしていたのだが、あまりにも開放感あふれる場所で驚いてしまった。真っ青な空と日差しに照らされて光る海が実に美しい。

会場となった元町港船客待合所
開放感のあるイベント会場

 会場に集まったのは約30人で、約半数が島外から訪れたエンジニアやマッパー。さらに島内のネイチャーガイド、観光協会など幅広い顔ぶれが集まった。総司会を務めたのは運営事務局(国土交通省国土政策局国土情報課、大島観光協会、三菱総合研究所、ジオリパブリックジャパン)の関治之氏(ジオリパブリックジャパン)。関氏は位置情報メディアのフリーカンファレンス「ジオメディアサミット」をはじめさまざまなカンファレンスやハッカソンの運営に携わってきた人物で、OSMFJ(オープンストリートマップファウンデーション・ジャパン)のメンバーでもある。

 「最初はハッカソンをやろうという話から始まったのですが、東京からエンジニアを呼んで開発だけをやるのも少しもったいないなと。そんな中、OSMFJのメンバーから『島でマッピングをやってみたい』という声を聞き、ハッカソンとマッピングパーティーを一緒にやることにしました」と関氏。結果的には前例を見ない離島での同時開催となった。ちなみにイベントの参加費は無料だが、大島までの交通費や宿泊費は各参加者が個別に支払う形となっている。

総司会を務めたイベント事務局の関治之氏

 イベントが始まったのは初日の午前11時ごろで、まずは気象庁の加治屋秋実氏により伊豆大島に関するレクチャーが行われた。火山の島である大島は度重なる噴火により高低差の激しい複雑な地形となっている。加治屋氏はその特徴を解説し、噴火が起きた場合を想定した避難経路マップや、台風や巨大地震による津波に備えたハザードマップなども紹介した。

加治屋秋実氏
東修作氏

 レクチャー後、OSMFJの事務局長である東修作氏がOSMの概要について簡単に説明した。OSMはMicrosoftの「Bing」の衛星写真をトレースして地図データを作成する許諾を得ており、今回のイベントに臨むにあたって事前に数人のマッパーの手により大島のトレースが行われていた。東氏が「この2カ月で伊豆大島の建物を1件ずつ描いていって、現在はほぼ7割の建物が地図上に載っています」と事前にマッピングされた道路や建物を紹介すると、島内の参加者から歓声が上がった。

 「OSMで地図を描く時は位置情報が大事で、それを取得するためにGPSロガーなどややこしい話が出てくるのですが、今回は建物の位置がある程度描かれていて、道路との位置関係で場所が特定できるので、印刷したOSMの地図を持って、施設や店の名前、電話番号など欲しい情報をメモしながら歩きます。そしてそれを会場に帰ってきてからパソコンで入力したいと思います」と東氏。島内からの参加者の中には「機械やパソコンが苦手」という人もいたが、東氏は「この方法なら紙と鉛筆だけで気軽にできるので、ぜひご参加ください」と呼びかけた。また、事前マッピングを行ったマッパーからは「建物は衛星写真をトレースしたものなので、たまに間違っているものもあります。その場合はぜひ指摘してください」という声も上がった。

フィールドペーパー

マッピングチームは3班に分かれて島内を散策

 レクチャーの終了後、いよいよハッカソンとマッピングのチームに分かれて活動が開始された。

 マッピングチームは、島の東部にある元町周辺、南西にある波浮港周辺、島の中央にある三原山の火口付近をマッピングする3班のチームに分かれた。プリントした地図を見ながら、漁業組合などの公共施設や観光スポット、商店、電波設備などのPOI(Point of Interest:興味のある場所や便利な場所)情報をメモしていく。ハンディGPSやスマートフォンを持っている人は同時にログの記録も行った。

 衛星写真では雲に隠れて見えない部分や、細かい生活道路など、衛星写真だけでは得られない情報も多いので、このような個所のマッピングにはGPSのログやウェイポイント(ランドマークのポイント)の取得が有効だ。中には「PushPin」というiPhoneアプリを利用して、現地で直接、施設情報を登録していたマッパーもいた。

進むルートを打ち合わせ
まだ描かれていない道をチェック
看板や道標もチェック
祠へと続く細い道を記録
海岸沿いを進む

 火口付近に向かったチームは、このエリア特有の強風に苦労しながらも山頂へと登り、ログを収集。三原山の火口付近には噴火の際に溶岩流を避けるためのシェルターやサイレンが随所に配置されているので、このシェルターの位置を確認したり、収容人数を推定したりしながら記録していく。中には山頂へと続く舗装路の幅を巻尺で測る人もいた。仕上げに山頂口の駐車場周辺の施設情報も収集し、マッピングを終えたのは日没後だった。

 筆者は最初に元町港チームに同行し、その後、火口チームへと合流しながらマッピングを行った。この日は雲の少ない晴天で、真冬にしては穏やかで暖かい日となった。そんな中、地元の人たちに大島の歴史や地形に関する詳しい話を聞きながらマッピングを行えるというのは実に楽しい。マッパーが集まって特定地域を集中的にマッピングするというイベントは今までにもあったが、今回の場合は地元の人が数多く参加している点で明らかにいつもと違う。マッピングの対象となる施設や観光スポットについて、その歴史や背景を詳しく解説してもらいながら歩くのはなんともぜいたくで貴重な体験に思えた。

三原山
火口付近を散策
シェルターの位置を記録
シェルターの大きさをチェック
道路幅を巻き尺で測定
登山口から三原山を眺める
辺りが暗くなるまでマッピングは続いた

大島から見える島・山・街の名がわかるARアプリ

 一方、ハッカソンでは開発するアプリについて参加者が議論を繰り広げた。今回のハッカソンでは伊豆大島の観光・防災・教育などのための便利なアプリまたはウェブサービスを作ることが目的で、事前のFacebookグループでは「現在地の標高がわかるアプリ」「島外から大島の観光スポットまでを1回で検索できるようにする」「伊豆大島ジオデータ・ミュージアムのマップをKMLやShapeファイルで出力できるサービス」など、さまざまなアイデアが提案されていた。

 これらのアイデアをもとに話し合った結果、大島をテーマとしたARアプリを開発することに決まった。目指したのはスマートフォンのカメラをかざすと、そこに映し出された山や島、街の名称がわかるアプリで、プロジェクト名は「AR大島」。これを実現するためのデータがまだ用意されていないので、エンジニア以外の参加者がデータ入力チームとなり、データを現場で作成することになった。

ハッカソンチーム

 このデータ作成において活用したのが、伊豆大島の観光協会が提供する「伊豆大島ジオパーク・データミュージアム」である。これはLocalWikiを使って島のさまざまなデータをウェブサイトで公開しているもので、今回のARアプリを実現するためのデータは、このジオパーク・データミュージアムの既存データに追加する形で行った。データ入力チームは6名で、島・山・街と3班に分かれて入力。これらのデータを入力する際も、地元の人に大島からの眺望について聞きながら入力項目を決めていった。

 ちなみにジオパーク・データミュージアムのデータの中には、高校生が記者となり、記事と位置情報を投稿する形でデータを入力しているものもあるが、この投稿を行っている記者たちもハッカソンの会場を訪れて、今回のハッカソン&マッピングパーティーの運営スタッフにインタビューを実施して交流を深めた。

ジオパーク・データミュージアム

雲で隠れている場所を小型無人飛行機で空撮

 夕方、マッピングチームが会場に到着後、各チームがその日の活動を報告。マッピングの成果や苦労話などが発表されるたびに歓声がわき上がった。その後、会場で夕食を終えてから21時に初日は解散。しかし島外から訪れた参加者は宿泊先のホテルでも深夜まで開発やマッピングに取り組んだ。

 翌日の早朝はOSMファウンデーション・ジャパン(OSMFJ)の副理事長であるマップコンシェルジュの古橋大地氏がUAV(小型無人飛行機)による空撮を実施するのを参加者一同で見物した。Bingの衛星写真では雲で隠れている場所を選んでUAVを飛ばし、トレースの元となる空撮写真を撮影した。

UAVフライトの準備
空高く舞い上がったUAV
空撮写真 (c) MAPconcierge/GeoBeeAir, CC BY-SA

 その後、マッピングおよびハッカソンが再び開始。マッピングチームは前日に収集した情報をもとにOSMのデータの入力・編集作業を行う班もあれば、早々にデータ入力を終えて街に繰り出す班もあった。編集作業といっても各マッパーがそれぞれPCに向かって黙々と行うわけではなく、初日のマッピングに参加したネイチャーガイドに詳細を聞きながら情報を入力していく賑やかな共同作業となった。航空写真を見ただけではよくわからないデータなどについても地元の人にアドバイスを求めながら地図を作っていく。

地元の人にアドバイスを聞きながら編集作業
再び街に出た班もいた

 ハッカソンチームは、開発の中心人物となったジオリパブリックの松澤太郎氏の深夜に及ぶ作業により、ARで山や島、町名などが表示されるアプリが朝の段階である程度完成していたが、さらに細かく完成度を高めるとともに、新たに標高データも追加し、標高に合わせてデータが表示されるように改良した。

アプリの動作をチェック

2日間にわたるハッカソンとマッピングの成果が発表

 午前中の活動の終了後、締めくくりとして各チームの活動報告が行われた。

 ハッカソンチームは、成果となったiPhone向けARアプリを松澤氏が紹介し、データ入力の経緯などについて解説した。

 入力作業に取り組んだ参加者からは、「2日間ひたすらデータを入力していたのですが、このようなARアプリ開発にかかわること自体が初めてだったので、とても刺激的で楽しかったです。1人で作るよりも大勢で作る楽しみを知って感動しました。せっかくなので今回作ったものを今後に生かしていって、より大島の発展につなげられればいいなと思いました」(伊豆大島ダイビングサービス・ネイチャーガイド オレンジフィッシュの粕谷浩之氏)、「私は機械オンチでただ傍にいただけなんですが、島の人間なのである程度は情報提供でご協力できました。これがどのような形で発表されるのか楽しみです」(伊豆大島観光案内人の中林利郎氏)といった感想が聞かれた。

 また、大島観光協会・会長の白井岩仁氏は、「アプリについては観光客から質問されることが多いテーマを選びました。最初は本当に2日間でできるのかと疑問でしたが、本当にできたので驚きました。観光客が現実に利用・応用できるものということで、とてもいいものができたと思います。ほかにもいろいろとアイデアはあったのですが、短時間にできるものということで絞り込んだのが良かったのではないかと思います」と語った。

松澤太郎氏
アプリ画面

 マッピングチームの成果発表は波浮港チームからスタート。チームを代表して古橋氏が全体で百数十ポイントのデータを入力したことを報告したほか、醸造所・酒屋や塩の精製所の建物の形なども記録したことについて報告。また、衛星写真と実際の道路が異なっている個所もあり、新旧の道路を比べながらのマッピングとなったことにも触れた。

波浮港チーム

 元町周辺チームは「町のキオクをキロクしよう」と題して、OSMFJの瀬戸寿一氏が、地元の人に街の思い出や歴史を語ってもらいながらマッピングの成果を報告した。大島について歌を詠んだ歌人の歌碑や、衛星写真からは見えない細かい道の記述、遺跡、昔ながらの道など記録の成果を発表すると同時に、事前に描かれた地図が正しいかどうかについて路上で議論が始まったエピソードなども紹介。さらに、OSMで登録したデータと他のサイトとの連携についても紹介した。

 元町周辺チームのメンバーでもある東氏は、「事前に衛星写真で見ていたので、来たくて来たくて仕方がなくて楽しみでした。その結果、実際に町を見ていろいろとわかったのと、あと地元の人にお話を聞けたのもよかった。やはり実際に歩くと『ここは風が強いから竹林があるんだな』といったことが肌でわかるので、そこが面白かったです」と語った。

 このほか、「地元の人が『この道が一番好き』とか『生活に使ってた道でした』といった情報を観光客に教えると、何気ない道であっても楽しんでもらえます。こういった情報をOSMで表現していければ、島の財産を多くの人に発信できると思います」(グローバルネイチャークラブの西谷香奈氏)、「歩くだけではなく、本日初めて地図の入力作業もさせてもらいました。とても面白かったので今後も続けていきたいと思っています」(大島観光協会の岡田雅司氏)、「地図を見て歩くだけでなく、作るという視点で見るといろんな発見があるんだなと感じました」(三菱総合研究所の森崎千雅氏)といった感想も聞かれた。

元町周辺チーム

 火口チームはOSMFJの飯田哲氏が代表として発表。GoogleマップとOSMのマップを比較しながら、噴火口付近のマッピングの成果を発表した。「衛星写真は雲がかかっていて、どこが道だかどこが砂漠だか全然分からなかったのですが、今回地元の人から色々とお話を聞いて、無い道は消して、ある道だけを描けたことが大きな成果だったと思います。」と飯田氏。伊豆大島ジオパーク・データミュージアムのシステムを利用して、火口付近で事実と異なる情報がある場合などは指摘してほしいと島内の人へ呼びかけた。また、シェルターの位置なども入力してあるので、防災の足がかりにも利用してもらいたいとコメントした。

 ほかにも、「私はマッパーとしては初心者ですが、なんとかマッピングできるようになったのが成果のひとつでした。あと、大島に来たのも初めてなのですが、実際に歩かないとわからない距離感みたいなものが経験できたのもよかったです。こういう感覚は観光に来る人にとっても面白い体験になると思います。」(農業環境技術研究所の岩崎亘典氏)、「いつもマッピングするときは1人で歩いて、取ってきたデータを元に1人で入力するというスタイルでやってきたのですが、今回はほかの人が入れたデータや地元の人を聞きながらマッピングするという体験ができて良かったです。」(林優氏)、「はじめてこういうイベントに参加させていただいたのですが、みなさんスピード感がすごいなと。みなさんで集まって地図やアプリなどひとつのことを作り上げるというのは、今まであまり体験したことがなかったので驚きました。」(グローバルネイチャークラブの柳場潔氏)といったコメントも聞かれた。

火口チーム

 さらに、飛び入り参加として東京大学・海洋アライアンスの和田良太氏と木戸浦悠介氏が発表。離島振興をテーマに大島の高校生とともに防災の研究を行っている両氏が、高校生が集めた帰宅経路のGPSログをOSMのデータと組み合わせてGISソフトで表現した成果を発表した。

和田良太氏と木戸浦悠介氏による発表

地元の人と交流しながらの地図作り

 最後に成果発表の締めくくりとして関氏がコメント。「始まる前まではどうなるか全く予想ができなかったのですが、終わってみれば、OSMの地図も充実したし、アプリもいいものができたので感激しました。地元の人と交流しながら地図を作るというのは、マッパーとしても得るものが多かったと思います。これをきっかけにジオパーク・データミュージアムに情報を書き込んだり、OSMに入力したりと、日々の生活の中に少しでも地図作りを意識してもらえると、今日開催した甲斐があります」と語った。

 イベントの成果は実際にOSMで伊豆大島を見れば一目瞭然だ。伊豆大島に限って言えば、現時点ではOSMの地図よりもランドマーク情報が充実している地図はインターネット上には見当たらない。このようにまとまった成果をわかりやすく示せるのは離島ならではの良さといえる。街や山のあちこちに記載されたこれらの情報はマッパーと地元の人との共同作業によって生み出された貴重な成果であり、今後はこの成果をもとにデータのさらなる充実や情報更新を図っていくことが課題となる。

 一方、ハッカソンの成果であるARアプリは今後、ARの情報をOSMの地図上で確認できる機能の追加などを予定している。アプリの一般公開はもちろんのこと、このアプリや伊豆大島ジオパーク・データミュージアムを元にしたさまざまな展開を期待したい。

OSMで見る大島全体図
元町周辺
火口付近

片岡 義明

地図に関することならインターネットの地図サイトから紙メディア、カーナビ、ハンディGPS、地球儀まで、どんなジャンルにも首を突っ込む無類の地図好きライター。地図とコンパスとGPSを片手に街や山を徘徊する日々を送る一方で、地図関連の最新情報の収集にも余念がない。書籍「パソ鉄の旅−デジタル地図に残す自分だけの鉄道記−」がインプレスジャパンから発売中。