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第118回:お手ごろGPSサイクルコンピューター「Xplova G3」を使ってみました


Xplova G3

 自転車向けの機能が充実したソニーのPND「nav-u NV-U37」やナビタイムジャパンのiPhoneアプリ「自転車NAVITIME」など、GPS機器を自転車で使う動きが高まっているが、サイクリストの間で特に人気が高いのがGPS搭載のサイクルコンピューターだ。これらは自転車での使用を前提に設計された専用機器だけに、スポーツサイクリングにおいて使いやすい機能が多数搭載されている。

 この手の製品ではGARMINの最新モデル「Edge800」(日本版は「Edge800J」)の人気が高いが、日本では実売価格で6~7万円と金額的に手を出しづらい。一方、最近はもう少しお手頃な製品として、Brytonの「Rider50」や、今回紹介する台湾Xplovaの「Xplova G3」などが登場してきた。これらの機器は地図データにOpenStreetMap(OSM)というフリーの地図を利用しているのが特徴で、コストパフォーマンスの高さが魅力だ。

 今回は、国内で発売されたばかりのこのXplova G3についてレビューをお届けしよう。

地図データにOpenStreetMapを使用

 OSMは地理情報データを誰でも自由に利用できるように、フリーの地図を作成することを目的としたプロジェクトで、Wikipediaの地図版のようなものだ。ユーザーが自発的に作成・編集に参加することにより成り立っている地図なので、内容の充実度は国や地域によって異なるが、日本では都市部を中心にかなり整備されてきているし、最新地図への更新データや海外の地図も無料で入手できる。

 Xplova G3はPC上でルートを作成して転送しておけば、カーナビのように目的地までのナビゲーションも行える。ただしEdge800とは異なり、Xplova G3単体ではルート検索を行うことはできない。PC上で高度チャートを考慮しながらルートを作成し、ラップタイムや心拍数などの情報を分析・表示するといった使い方を想定した製品であり、そのコンセプトは“自転車用ナビ”を目指したものではなく、ルートトレーニングを追求した機器と考えたほうがいいだろう。

OpenStreetMapの地図を採用ナビゲーション画面

 最大の魅力はなんといっても、速度/ケイデンス(クランク回転数)センサーおよび心拍センサーがセットで3万5910円(センサー無しモデルは2万9589円)という価格の安さだ。また、速度/ケイデンスセンサーは2つのセンサーが一体型となったコンボセンサーで、この手のセンサーとしてはかなり小型である点も注目される。国内販売元の株式会社GISupplyによると、さまざまなフレームに取り付けやすいとサイクルショップに好評だという。

ナビゲーション中にコースから外れると警告を表示速度/ケイデンスセンサー

クランクに付けるマグネット(左)とスポークに付けるマグネット(右)センサーをフレームに装着した状態

 ちなみにこの機器ではユーザーが画面キャプチャーを行うことはできないので、今回のレビューに掲載したキャプチャー画像はマニュアルに掲載されているものを流用している。

防水ボディながらもバッテリー交換が可能

 ハードウェア面の特徴はバッテリーが交換可能である点が挙げられる。Rider50やEdge800がバッテリー交換不可であるのに対して、Xplova G3なら予備バッテリーを持っていけば途中で電源が確保できないような場合でもロングツーリングを楽しめるし、バッテリーが劣化した場合も安価に新品に交換できる。予備バッテリーは2499円。また、バッテリーがユーザーの手で交換可能でありながら防水設計(IPX7)となっている点もうれしい。

サイドとフロントパネルにボタンが搭載された本体背面のカバーを開けてバッテリーを交換可能

 心拍センサーおよび速度/ケイデンスセンサーは「ANT+」という規格に対応したもので、速度/ケイデンスセンサーは一体型でかなり小型だ。フレームにセンサーを付けた上で、ホイールのスポークとクランクにそれぞれマグネットセンサーを取り付けて使用する。

 GPSチップは定評ある「SirfStar III」を採用。ディスプレイは2.2インチ。内蔵されているセンサーは気圧高度計、温度計、3軸デジタルコンパス。サイズは99×57×25mm、質量は117gだ。

 データ記録容量は2GBで、ログデータの出力ファイル形式はTRK(独自形式)およびGPX。充電は背面上部に搭載するコネクターにUSBケーブルを接続し、PCまたはACアダプターからの給電により充電する。

胸に巻いて使う心拍センサーACアダプター

 操作は本体サイドおよびフロントのボタンにより行う。ボタンは左サイドに電源ボタンとモード/バイク選択ボタン、右サイドズームインボタン・ズームアウトボタンおよびメニューボタン、フロントの左右にログ記録開始/記録終了(RECORD)ボタンおよびLAP/リセットボタン、フロントの中央に決定ボタンを兼ねた5方向操作スティックと、計7つものボタンと1本の操作スティックを備えている。

 これだけボタンが多いとさすがに最初は戸惑うが、慣れると各操作をダイレクトに行えるのでなかなか快適だ。LAP/リセットボタンとログ記録開始/記録終了ボタンがフロントパネルのディスプレイの下に目立つように配置してあるので、GPS非搭載のサイクルコンピューターからの乗り換え時にも戸惑うことが少ないと思う。

 また、サイドにズームインボタン・ズームアウトボタンが配置してあるのは、GARMINのハンディナビ「eTrex」シリーズに似た感じで、地図を表示中に縮尺をダイレクトに切り替えられるので使い勝手がいい。ただし、地図の縮尺切り替えやスクロールの表示速度は少しもっさりとした感じで、けっして速くはない。この点は残念だ。

右サイド左サイド

フロントパネルのボタンハンドルバーマウントに本体を装着

自動ラップやアラート機能も搭載

 画面の輝度はオフ/中間/最高の3段階で、最高にするとかなり明るく、屋外でも十分に見やすいと感じた。

 画面モードは、モードボタンを押すことにより切り替えられる。モードは速度や移動距離、経過時間などを確認できる「サイクルコンピューター」、地図画面およびナビゲーションを表示する「地図」、速度や高度などの推移を折れ線グラフなどで確認できる「チャート」、時間・距離・カロリーなどの目標値を設定してトレーニングを行う「トレーニング」の4種類。さらに「サイクルコンピューター」モードで表示内容を変えたりと、各モードにはいくつかのページが用意されており、コントロールスティックの上下操作により切り替えられる。

サイクルコンピューターモード

チャートモードトレーニングモード

 GPSログを含むデータの記録を開始するには、フロントのRECORDボタンを押すとスタートとなる。記録中にLAPボタンを押せば、ボタンを押すまでのデータをラップデータとして記録。LAPボタンの長押しにより、現在記録中のデータをクリアすることもできる。

 このほか、設定した距離ごとに自動的にラップを刻む自動ラップ機能や、設定した速度未満になるとログの記録を中止する自動ポーズ、事前に設定した時間や速度・心拍数・ケイデンスなどの値を超えた場合に警告を発するアラート機能なども搭載する。ユーザーの年齢や体重、心拍ゾーンなどを事前にユーザープロファイルとして保存したり、自転車の重量やホイールサイズ、総走行距離などをバイクプロファイルとして保存することも可能だ。

 なお、電源モードについては電源オン/オフに加えて「スタンバイ」というモードがあり、この状態ではディスプレイ表示が消えて記録中のログが一時停止される。次回起動時は電源を短押しすると画面表示を維持したままリスタートできる。また、すべての機能がロックされるロックモードもある。

LAPボタンを押すとラップを刻めるアラートの設定画面

心拍数の設定画面電源モード

多機能な管理ツール「X-Tracks」を用意

 Xplova G3を管理するツールとしては「X-Tracks」というソフトウェアが用意されている。対応OSはWindows 7/Vista/XPで、利用にあたってはMicrosoft .NET Frameworkが必要だ。

 同ソフトには、日々の行動を記録した「アクティビティ」をカレンダー形式で表示する「カレンダー」モードと、アクティビティの内容を確認できる「アクティビティ詳細」、ナビゲーションのルートを作成するための「トラックマネージャー」、OSMの地図を更新するための「マップマネージャー」、自転車の装備品を登録して耐用距離や年数などを管理できる「装備品」などのモードを搭載する。

カレンダーモード

アクティビティモード

トラックマネージャー

マップマネージャー

 ルート作成はXplova G3本体のOSMの地図とは異なり、Google Maps上で行う。「トラックマネージャー」に切り替えて「トラック作成」ボタンをクリックすると「Smart-Route」というルート編集用のウィンドウが開く。ルートを道路沿いに作成する方法と直線ルートを作成する方法の2種類があり、カーナビのようなナビゲーションを行うには道路沿いにルートを作成する必要がある。道路沿いのルート作成ボタンをクリックして始点の位置を地図上でクリックし、経由点を次々とクリックしていけば、道路に沿って自動的にルートが作成される。最後の目的地地点でダブルクリックすればルート完成だ。

「Smart-Route」

 完成したルートは再生ボタンを押すとルートに沿ってシミュレーションが行われる。この際、Google Earthによる3D地図も表示されて楽しい。このルートをX-Tracksを通じてXplova G3へ転送すればXplova G3上でナビゲーションを行える。

Google Earthの映像とともに作成したルートや軌跡ログをシミュレーションできる

 なお、ルート上には「スマートサイン」という施設アイコンを加えられる。アイコンは水場やトイレ、医療機関、インフォメーションセンター、地形情報、道路情報などさまざまな種類が用意されており、Xplova G3でナビゲーション時にスマートサインが近づくと距離や属性情報を表示させることができる。

地図上にスマートサインのアイコンを置ける

 ナビゲーションの使い心地は、道路の曲がり角で警告音とともにわかりやすく指示してくれるので、ルートさえインポートしてあれば初めて通る道でも迷わず走行できる。地図のスクロールや拡大・縮小は速くはないが、走行中は地図を凝視しているわけではないので、ナビゲーションで使う限りはそれほど不満はない。

GPSの精度は実用上は十分

 それでは実際に走行したログを見てみよう。比較に使用したのは単体GPSロガー「HOLUX M-241」。地図上の赤線がXplova G3、青線がM-241で、右上の田原町駅を起点として左回りに走行した。

Xplova G3のほうが全体的に軌跡は滑らか

 全体的に見ると実際の軌跡はM-241に近く、Xplova G3は進行方向の右側にずれる傾向が見られた。それでも道路から極端に大きく外れることは少なく、実用上は問題ないと思う。

実際には道路の左端を走っているが右にずれて表示されている

 首都高の高架やビルが建ち並ぶ上野駅周辺は誤差が大きくなるエリアだが、ここでもログはそれほど荒れていない。最も大きく誤差が出たのは都営大江戸線の新御徒町駅の上あたりで、ここでは道を外れて建物に入り込んでしまっている。ただし、その後はすぐに修正されて道路に戻っている。

上野駅周辺

 最後の曲がり角となる右下の交差点では、逆にM-241が内側に入り込んでしまっており、それに対してXplova G3は安定した軌跡を見せた。総合的にはM-241には及ばないものの、性能的には十分だと思う。

最後の曲がり角ではM-241よりも軌跡が安定した

トレーニング結果やルートを共有できるサイト「tour.Xplova」

 このほかXplova G3の特徴として、専用ポータルサイト「tour.Xplova」(http://tour.xplova.com/)が用意されている点が挙げられる。このサイトはX-Tracksを通じてユーザーが投稿したトレーニングやルートを共有できるサイトで、サイクリング仲間と情報共有するためのコミュニケーションスペースとして使える。

ポータルサイト「tour.Xplova」

投稿ルート一覧

ルート詳細

 作成したルートの共有も可能で、ほかのユーザーが作成したルートをXplova G3にダウンロードして流用できる。また、Xplova G3はGPXファイルに対応しているので、ルート投稿サイト「ルートラボ」(http://latlonglab.yahoo.co.jp/route/)からもルートをインポートしてXplova G3で使える。

「ルートラボ」からルートをインポート可能

 なお、前述したようにX-Tracksでのルート作成はGoogle Maps APIを利用しているので、河川敷のサイクリングロードなどに沿って自動的にルートを引くことはできない。この場合、手動で直線を引いていかなければならず面倒だが、tour.Xplovaやルートラボのルートを再利用すれば、自分でルートを作成する手間を省くことができる。

 ルートトレーニングのためのさまざまな機能が詰まったXplova G3は、コストパフォーマンスの高さが魅力で、機器単体でルート検索を行う必要を感じない人には適していると思う。安価にGPS搭載サイクルコンピューターを欲しいと考えている人にはかなりおすすめだ。

コンパス画面GPS衛星画面




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2011/9/1 06:00


片岡 義明
 地図に関することならインターネットの地図サイトから紙メディア、カーナビ、ハンディGPS、地球儀まで、どんなジャンルにも首を突っ込む無類の地図好きライター。地図とコンパスとGPSを片手に街や山を徘徊する日々を送る一方で、地図関連の最新情報の収集にも余念がない。書籍「パソ鉄の旅-デジタル地図に残す自分だけの鉄道記-」がインプレスジャパンから発売中。