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第120回:安価で軽量なランニング用GPSウォッチ「Pianta GPS-22HRW」レビュー
今年はランニング用GPSウォッチの新製品が相次いでリリースされている。GARMINの「Forerunner 605」(日本ではフォアアスリート605)やNIKEの「Nike+ SportWatch GPS」などの有名メーカーの新製品がランナーの間で話題を呼んでいるが、その一方で注目されるのが8月に発売された「Pianta GPS-22HRW」だ。今回はこの製品について詳しくレポートしよう。
●軽量・コンパクトとコストパフォーマンスの良さが魅力
「Pianta」は、秋葉原でGPS専門ショップ「輝けGPS!」を運営している株式会社GISupplyが展開するGPS製品やGPS搭載ビデオカメラのブランドだ。
GPS-22HRWの特徴は他社製品に比べて小型・軽量である点と、価格の安さだ。サイズは46×71×16mmと他社のGPSウォッチに比べて小さめで、質量は54gと60gを切る軽さを実現している。もちろん一般的なランニングウォッチは30~40g台とさらに軽いが、GPS付きでこの軽さは画期的だ。
もうひとつの魅力が抜群のコストパフォーマンス。GISupplyの直販サイト「GPSDGPS」や直営店の「輝けGPS!」では1万5960円という値が付いている。GPSウォッチで2万円を切る製品というと、これまでは台湾GlobalSat社の製品などがあったが、GPS-22HRWはハートレートセンサー(心拍センサー)込みでさらに安い価格を実現した。
2万円~4万円台のものが多いGPSウォッチとしてはかなり思い切った価格設定だと言えるだろう。ランニング用のGPSウォッチはカーナビや登山用ハンディGPSなどと違って地図が表示されないということもあり、あまりお金をかける気にはなれないという人も多いはず。そういう人にとってこの安さはかなり魅力的だと思う。
時刻モードの画面 | Forerunner 405(左)とGPS-22HRW(右) |
右サイドには3ボタンを搭載 | 左サイドには2ボタン |
●簡易ナビゲーション機能や電子コンパスも搭載
本体とバンドの色はブラックで、ボタンと液晶画面の枠はオレンジ。GARMINの「Forerunner 405」などはタッチセンサーの採用によりボタン数を減らしているが、GPS-22HRWではすべての操作を左右に配置した5つのボタンにより行う。ボタンは左側がバックライトボタンとモードボタン、右側にスタート/ストップボタンとVIEWボタン、ラップ/リセットボタンとなっている。
本体の裏側にはUSBケーブルを接続するための電極が4つあり、クリップで挟んで接続する。液晶画面にはミネラルガラスレンズが採用されており、ボディは3気圧防水となっている。なお、バッテリーの充電はUSBケーブルを接続することにより行うが、ACアダプターはセットされていないので、PCを使わずに充電する場合はUSB出力の付いたACアダプターを別途用意する必要がある。
胸に巻いて使うハートレートセンサーはボタン電池(CR2032)で駆動し、裏面のバッテリーカバーを開けて入れ替える。GPS-22HRWとの通信は2.4GHz帯微弱電波によって行う。この通信は「ANT+」などには対応しておらず独自規格となっている。
GPSを使用した場合の稼動時間は約8.5時間。フルマラソンには十分だが、100kmのウルトラマラソンや、長時間のトレイルランなどの用途には足らない。なお、GPSを使用しない場合は、1回の充電で時計として約1年間動作する。
樹脂バンドはForerunner 405に比べるとかなり柔軟で普通のスポーツウォッチに近く、付け心地は良好。ハートレートセンサーはバッテリーを格納する中央部分が少し厚めなのが気になるが、左右の樹脂バンド部分が柔らかく装着しやすい。
本体には電子コンパスも内蔵しており、16方位と方位角(解像度1度)を表示可能だ。前述した通り地図の表示機能はないものの、登録した地点(ウェイポイント)までの進行方向を矢印で表示する簡易ナビゲーション機能は搭載している。
液晶画面は昼間の屋外でもかなり見やすく、夜間はバックライトボタンを押すとELバックライトが一時的に点灯する。ボタンを3秒間押し続けることでずっとライトを点灯させたままにすることも可能だ。筆者は夜間に走るときはバッテリーの消耗が激しくても構わないのでライトを点灯させたままにしておくのが好みなのだが、そういうランナーにとってはこの機能はうれしい。
電子コンパスモード | ナビゲーションモード |
本体裏にある充電/データ送受信用の電極 | クリップで挟むと充電/データ送受信が可能となる |
ハートレートセンサー | 胸の巻いて使うハートレートセンサー |
ELバックライトの点灯 |
●プロフィールごとに表示内容を細かく設定可能
搭載されているモードは、基本となる「時刻モード」と、現在のランニングデータやナビゲーション時のデータを表示・記録できる「ワークアウトモード」、ウェイポイントへの方向を矢印で示す「ナビゲーションモード」、「コンパスモード」の4種類。
ワークアウトモードの画面 |
ワークアウトモードでは速度や移動距離、経過時間、心拍数、ラップタイム、平均速度、最大速度、カロリー、標高などさまざまなデータを表示可能だ。1画面に表示できる情報は3項目で、1プロファイルにつき3画面まで登録できる。
各画面の表示内容は計測中にVIEWボタンを押すことで切り替えられ、3秒ごとに自動的に切り替わるように設定することも可能。プロファイルは「ランニング」「サイクリング」「ハイキング」など目的に応じて5パターンまで登録できる。
プロファイルごとの表示内容は時計本体だけでも設定可能だが、添付のPCソフト「GPS MASTER」(Windows 7/Vista/XP対応)を使えばプルダウンメニューから選択することにより簡単に設定できる。なお、上段・中段・下段と3種類の表示内容のうち、中段の表示項目だけ大文字で目立つように表示されるようになっており、ここに表示できる項目は上段・下段よりも選択肢が限られる。例えば標高やカロリーなどは上段と下段には表示可能だが、中段には表示できない仕様となっている。
筆者の場合、1kmあたり何分で走行しているのかをリアルタイムで示す「Pace Current」を大きく表示させるのが好みなのだが、残念ながらこれは中段に大きく表示させることができない。ただし、スピードを時速で表示する「Speed Current」は中段に表示可能だ。
また、自動的にラップやウェイポイントをマークする「スマートラップ」という機能もあり、一定距離到達ごとに自動的にラップタイムを計れる。
ナビゲーションモードでは、目的地となるウェイポイントを自由に選択できる「ウェイポイントモード」と、最後のウェイポイントを目的地とする「フォワードモード」、最初のウェイポイントが目的地となる「バックワードモード」の3種類がある。ウェイポイントの範囲も10~250mで設定することが可能だ。
ナビゲーション画面では方位ポインターで目的地の方向がわかるほか、時刻やワークアウト時間、目的地までの推定所要時間などが表示される。また、PC側でGPS MASTERを使ってパス(ルート)を作成し、GPS-22HRWに転送することも可能だ。ナビゲーションモードでパス上のウェイポイントに到着すると「Arrived」と表示して知らせてくれる。
ワークアウトやナビゲーション時の計測は、GPSが測位可能になったらスタート/ストップボタンを押せばワークアウトやログの記録が開始される。再度スタート/ストップボタンを押せば計測終了だ。
なお、GPS MASTERはワークアウトの結果や記録したログをGPS-22HRWから転送して、カレンダー形式で管理することが可能だ。ワークアウト中の速度や心拍数の変化がグラフで表示されるので、トレーニング結果の分析に役立つだろう。ワークアウトのリストから確認したいログを選んでダブルクリックするだけで、「Google Earth」上にログを表示させることもできる。
このほかコンパスモードでは、矢印の方向で北がどちらかを確認できる。地域ごとの磁気偏角も設定することも可能だ。また、メニュー画面からキャリブレーションを行うこともできる。なお、GPS-22HRWの内蔵コンパスは2軸コンパスなので、地面に対して水平にしないと正確に方向を表示しないので注意が必要だ。
ワークアウトやログの結果を管理できる「GPS MASTER」 |
ワークアウトモードの中段の表示内容設定 |
上段/下段のほうが設定できる選択肢が多い |
パスの作成画面 |
以前のログや他機種で取得したログをインポートして、それを元にパスを作成することも可能 |
●GPSのオン/オフは手動での切り替えが必要
ハートレートセンサーを使う場合は「Health(健康)」「Fat Burn(脂肪燃焼)」「Aerobics(有酸素運動)」の3種類のゾーン設定が用意されているほか、自由にゾーン設定できる「User」モードもある。例えば「Health」の場合はデフォルトで最大心拍数の65%が上限値、50%が下限値となっており、このゾーンから外れた場合にはビープ音が鳴って知らせるようになっている。
なお、「Health」「Fat Burn」「Aerobics」「User」それぞれのレベルで上限値と下限値を自由に設定することが可能だ。ちなみにハートレートゾーンの算出に使用される最大心拍数は、GPS-22HRWに登録したユーザーの年齢により算出した値を基準にしている。
このほか、時計機能としてはタイマーやアラームなどの基本機能が搭載されており、時刻表示はデュアルタイムとなっている。
注意が必要なのは、GPSを使用する際はワークアウトモードかナビゲーションモードにした状態でVIEWボタンを長押しして、GPSをオン状態にする必要があること。オンにすると衛星の捕捉を開始して、測位可能な状態になると「GPS Fixed」とメッセージが出る。
走行が終わったらGPSをオフにする。こうしておかないとバッテリーの消耗が激しくなるので注意が必要だ。できれば計測終了後に一定時間が経過したらGPSが自動的にオフになる機能も搭載してほしかったと思う。
計測が終わったら、GPS Masterを起動してデータを転送すれば、記録したデータが表示される。リストから日時を選んでクリックすれば、Google Earth上でログを見ることも可能だ。なお、軌跡ログの取得間隔は初期設定は4秒間隔になっており、1秒~10分間隔で設定できる。
ハートレートセンサーのゾーン設定は3種類 | 各ゾーンで上限値と下限値をカスタマイズできる |
ワークアウト画面で心拍数をリアルタイムに表示 | 衛星を捕捉するとメッセージを表示 |
使用後はGPSをオフにする必要がある |
●皇居外周では良好なログを記録、悪条件下は少し苦手
それでは軌跡ログを見てみよう。今回はランナーの間でも使用者の多いGARMINのForerunner 405(英語版)と比較してみた。左右の腕にそれぞれGPS-22HRWとForerunner 405を付けて、皇居外周コースと高尾山の登山コースでログを記録した。各コースともに赤線がGPS-22HRW、青線がForerunner 405となっている。
皇居は地図上で目印のある竹橋付近からスタートして左回りに走行した。前半から中盤にかけては両機ともほとんど差は見られず、ほぼ正確な位置を示した。後半の大手門の辺りでなぜかForerunner 405の軌跡が大きく右に外れる誤差が見られたが、GPS-22HRWのほうは正確な軌跡を記録した。
なお、1周してスタート地点に戻って走行距離を比べてみると、GPS-22HRWは4.98kmで、Forerunner 405は5.04kmだった。Forerunner 405は誤差の分だけ少し長めになったようだ。皇居外周の距離は桜田門を通った場合に5km弱とされているので、GPS-22HRWはかなり正確な距離が出た。
皇居外周(全体) |
皇居外周(半蔵門~桜田門) |
皇居外周(竹橋付近) |
次に高尾山のログを見てみよう。コースは登りが6号路のびわ滝コース(地図上の下部の軌跡)で右から左方向に、下りが1号路の表参道(上部の軌跡)で左から右方向に進んでいる。両コースともに木々が多く、特に山麓付近のリフト降り場の下あたりは誤差が大きく出ている。皇居ではGPS-22HRWのほうが正確だったが、山の中ではForerunner 405のほうが誤差が少なめで、GPS-22HRWのほうが地図上の道路からの外れ方が激しい。ただ衛星電波を捕捉しやすい頂上付近ではあまり差は見られなかった。
悪条件下ではForerunner 405のほうが勝る印象だが、皇居外周のような上空が開けた場所であれば、ほとんどストレスは感じないだろう。
高尾山(全体) |
高尾山(山麓付近) |
高尾山(山頂付近) |
●細かい不満はあるがコストパフォーマンスの高さはかなり魅力
GPS-22HRWは1万5960円という低価格ながらも、ランニング用のGPSウォッチに必要とされる機能と性能を十分に備えた製品だ。GARMINに搭載されている「バーチャルパートナー」(仮想的な競走相手を設定してタイム差を示す機能)などの凝った機能は用意されていないが、シンプルで安価なGPSウォッチを求めている人には最適だと思う。
ただし、ひとつ機能面で不満を感じたのが、走行停止とともに自動的に計測を中止するオートストップ機能がないこと。信号待ちで止まったときに自動的にタイム計測を中止できるので、信号の多い都市部を走る場合はこの機能があるほうが便利なのだが、この点は少し残念だ。
さらに前述したような「Pace Current」を中段に表示できない点や、GPSのオン/オフを手動で行う必要がある点など、細かい不満点もいくつかあるが、なんといってもこの製品のコストパフォーマンスの高さは魅力的だ。できればハートレートセンサーを省いたさらに安いパッケージが用意されるとうれしい。
GPSとしての基本性能は十分なので、ランニング用GPSウォッチを初めて購入する人はもちろん、GARMINなどのバッテリーが消耗して買い換えを考えている人にも、手軽に購入できる製品としてぜひおすすめだ。
関連情報
2011/9/29 06:00
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