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準天頂衛星「みちびき」って何をするもの? “日本版GPS”、近く3号機を打ち上げ予定

準天頂衛星(提供:内閣府宇宙開発戦略推進事務局)

 近く3号機を打ち上げ予定の準天頂衛星(Quasi-Zenith Satellite System:QZSS)「みちびき」。“日本版GPS”とも呼ばれるこの測位衛星は、2010年に打ち上げられた1号機に続いて、2017年中に3機の打ち上げが予定されており、2018年度からは4機体制の運用が開始される予定だ。GPSを補完する役割を担うとともに、GPSを上回る高精度測位やメッセージ機能なども備えているこの「みちびき」について今回は詳しく紹介したい。

「みちびき」はGPSとの互換性を持った衛星測位システム

 みちびきの初号機が打ち上げられたのは2010年9月11日で、以降、現在に至るまでさまざまな企業や研究機関によって技術実証・利用実証が行われている。こうした中、政府は追加3機の開発を決定し、今年の6月1日には2号機が打ち上げられ、今回が3号機、そして秋には4号機の打ち上げも予定されている。これにより、2018年度からは4機体制の運用が開始される予定だ。さらに、2015年1月に策定された「宇宙基本計画」では、2023年度をめどに7機体制での運用が開始されることも決定している。

 みちびきは、衛星からの電波を使って位置情報を割り出すことができる“全球測位航法衛星システム(Global Navigation Satellite System:GNSS)”の一種である。衛星測位といえばGPS(Global Positioning System)を思い浮かべる方が多いと思うが、これは米国が運営しているGNSSであり、ほかにもロシアの「GLONASS」や欧州の「Galileo」、中国の「北斗」、インドの「IRNSS」など、各国でさまざまなGNSSの開発が進められている。

 衛星測位の仕組みは、衛星から地上の不特定多数に向けて電波送信された信号を受信機が受け取り、時刻情報をもとにわずかな時間差を計算することで受信機と衛星との距離を割り出し、それをもとに現在地の座標を算出する。このとき、1機の衛星との距離を求めただけでは現在地を特定することはできない。最低でも4機以上の衛星との距離を計算した上で現在地が推定される。

 みちびきはGPSと互換性を持つGNSSであり、GPS衛星の1つとして扱うことが可能で、日本を中心としたアジア・オセアニア地域においてGPS衛星を補完する役割を持っている。前述したように各国がさまざまなGNSSを展開しているが、GPS衛星と高い互換性を持ち、一体のシステムとして利用できるのはみちびきだけだ。

GPSとの互換性を持つ(提供:内閣府宇宙開発戦略推進事務局)

4機体制によって「みちびき」が24時間利用可能に

 位置を特定するために最低限必要なのは4機だが、安定した位置情報を得るためには8機以上の衛星が見えることが必要とされている。しかし、GPS衛星はどの地点からも6機程度しか見ることができない。

 みちびきの初号機、2号機、4号機の軌道は、赤道上空を周回する静止軌道に対して数十度傾斜させた「準天頂軌道」を採用している。これは日本のほぼ真上に滞在する時間を長くとるための措置で、地球を止めた状態で見ると8の字を描くように動いて見える。なお、今回打ち上げられる3号機だけは、赤道に沿って地球を周回する静止軌道を採用している。

赤道から数十度傾斜させた「準天頂軌道」を説明するための模型。左下の端末に、地球から見た8の字の軌跡が描かれている。

 みちびきはこれまで1機しか稼働していなかったため、日本の上空には1日に8時間程度しか滞空できなかったが、これが4機体制(準天頂軌道3機、静止軌道1機)になることで、準天頂軌道の3機が8時間ごとに順番に高仰角の位置に現れて、日本の空では少なくとも1機以上の衛星が常に仰角70度以上の天頂付近に位置することになる。

 みちびきによる高仰角からの電波送信により、山やビルなどに衛星電波が反射する“マルチパス”による誤差が改善されることが期待されている。また、衛星測位で測位精度を向上させるためには、衛星が特定方向に偏った状態で信号を受信するのではなく、広い範囲にまんべんなく配置されているほうが測位精度が良くなるため、従来のGPSにみちびきが加わることにより、測位精度がより向上することも期待されている。

 さらに、初期のGPSは軍事用を除くと1周波のみだけだったが、電離層での誤差を解消するため、最新のGPS衛星では複数の周波数を組み合わせて測位することが可能となっており、みちびきも4機すべてが複数周波数に対応している。

マルチパスによる誤差を改善(提供:内閣府宇宙開発戦略推進事務局)

 なお、みちびきを含む測位衛星の配置については、「みちびき(準天頂衛星システム)公式サイト」で公開されている「GNSS View」というソフトウェア(iOS/Androidアプリおよびウェブ版)を使って確認できる。同ソフトは、公開されている測位衛星の軌道情報をもとに、任意の場所における衛星の天球上の配置を画面上に再現することが可能だ。

 現在運用中のみちびき初号機だけでなく、下部の「QZSS」のメニューにある「4satellites(FY2018)」にチェックを入れると、今後、運用が開始される2~4号機の衛星配置を体験することも可能だ。ちなみに測位衛星に付けられている固有のナンバー(PRN)は、みちびき初号機が「193」、2号機が「194」、3号機が「199」、4号機が「195」である。

「GNSS View」の画面。ピンク色の4つの点が「みちびき」を表している。

対応受信機との組み合わせで“センチメーター級”の高精度測位が可能に

 このように、みちびきはGPSを補完する役割を持っているが、そのほかに、GPSの測位精度を大幅に向上させる機能も搭載している。スマートフォンやカーナビなどに搭載される一般的なGPS受信機の場合、誤差はおよそ10mと言われているが、みちびきの高精度測位では、対応受信機を使うことによって、誤差1m以下で測位できる“サブメーター級測位”や、誤差が数cmとなる“センチメーター級測位”が実現できる。

 サブメーター級測位は、一般に利用されている測位信号の「L1C/A」と同じ形式の「L1S」という補強信号を使って、電離層による誤差を軽減する技術だ。電離層による誤差は、2周波の受信機を利用することで解消できるが、現状ではまだ2周波受信機が高価であり、普及させることが難しい。L1S信号はL1C/A信号と同じ形式なので、既存の受信機を改良することで受信が可能となり、低コストで高精度測位を実現できる。

電離層による誤差を軽減するサブメーター級測位(提供:内閣府宇宙開発戦略推進事務局)

 一方、センチメーター級測位は、測量などに利用されている国土地理院の電子基準点のデータを利用して補正情報を計算し、それをもとにみちびきから補強情報を送信される。この補強信号には、L1C/AやL1Sとは異なるL6という信号が使われ、利用するには専用の受信機が必要だ。サブメーター級測位対応の受信機に比べてサイズが大きくなるので、測量機器や建設機械、農機などへの搭載が想定されている。

電子基準点のデータを利用して補強信号を送信するセンチメーター級測位(提供:内閣府宇宙開発戦略推進事務局)

災害発生の情報を広く届ける「災危通報」など独自機能も搭載

 このほか、みちびきには災害・危機管理通報サービス「災危通報」の機能も搭載されている。地震や津波などの災害情報や避難勧告、テロ発生などの情報について、みちびきからメッセージを届けるサービスで、これはサブメーター級測位に使用されるL1S信号を受信できる端末で利用できる。

 災危通報は、モバイル端末だけでなく、街灯や信号機、自動販売機などに受信機を設置して、災害時に屋外に設置されたスピーカーから避難勧告などの情報をアナウンスするといった用途も考えられており、携帯端末を所持していない人や、バッテリー切れなどで使えない状況でも情報を伝えることができる。学校や病院など、携帯電話のスイッチをオフにすることが求められる環境においても有効な伝達手段となる。

 災危通報で送信される情報は現在のところ、気象庁が発表している地震情報や津波情報、海上警報を予定している。また、東南アジアやオセアニア地域でも受信することが可能なので、海外において、日本で収集した情報を配信することも検討されている。

「災危通報」サービスの概要(提供:内閣府宇宙開発戦略推進事務局)
「災危通報」の実証実験

 さらに、災害時において、避難所の情報をみちびき経由で管制局に送信し、収集するサービスも検討されている。衛星安否確認サービス「Q-ANPI」と呼ばれるこのサービスは、災害時において、避難所の位置や状況を衛星経由で通知することで、救難活動に必要な情報を伝達する。行方不明者を検索できるサービスも検討されている。

 Q-ANPIが利用するS帯のアンテナは、静止軌道に配置される衛星、つまり、今回打ち上げられるみちびきの3号機に搭載されている。3号機は静止軌道にあるため、準天頂軌道の初号機・2号機・4号機に比べると仰角は高くない(東京付近で約48度)ものの、3号機単体で常に日本の空から見える位置にあるため、災害時にも24時間対応できる。

「Q-ANPI」の概要(提供:内閣府宇宙開発戦略推進事務局)

 このほか、航空機などに対して誤差補正情報や不具合情報を提供するSBAS信号の配信サービス、新たな測位技術が開発された場合に検証を行える測位技術実証サービス、測位信号への妨害電波などを回避するために政府が認めた特定利用者だけが使用できる信号を配信する「公共専用サービス」なども提供される予定だ。

サブメーター/センチメーター級測位対応製品のリリースに期待

 みちびきに対応したスマートフォンやカーナビゲーション、GPSウォッチなどはすでに数多く普及しているが、その多くはGPS補完機能に対応しているだけであり、サブメーター級測位やセンチメーター級測位、災危通報サービス、Q-ANPIなどに対応した機器はほとんど販売されていない。

「みちびき」のGPS補完機能に対応したGPSウォッチ。GARMINの「Fenix5X」(2017年6月8日付関連記事『腕時計単体でオフライン地図表示&登山道でのナビもOK、GARMINの“全部入り”GPSウォッチ「fenix 5X」を試してみた』参照))

 株式会社フォルテが販売する3G GPSトラッカー「FB202」がサブメーター級測位に対応しているほか、三菱電機株式会社のGPS受信機「AQLOC」がセンチメーター級測位に対応しているが、まだまだ少ないのが現状だ。

株式会社フォルテの「FB202」
三菱電機株式会社の「AQLOC」

 ちなみに既存のみちびき補完機能に対応した受信機についても、4機体制のスタート以降、そのままでは恩恵を受けることはできない。ファームウェアのアップデートなどによって対応できる可能性もあるが、この点については各メーカーの対応次第となる。

 なお、みちびきの初号機が運用開始されたころから現在に至るまで、さまざまな企業や研究機関が、公的機関から貸与された実証実験用の対応受信機を使って、みちびきの補完機能や高精度測位などの実証実験を行っている。今後も、4機体制のスタートを間近に控えて、さまざまな実証実験が行われるほか、対応機器も増えていくことが予想される。スマートフォンやタブレットなどのスマートデバイスについても、みちびきの4機体制に対応した製品の増加に期待したい。

実証実験用のサブメーター級測位対応受信機「QZ1 LE」(左)と「QZ1」(右)
2015年3月に箱根で実施されたバスロケシステムの実証実験(2015年3月12日付関連記事『QZSS初号機「みちびき」でサブメートル級の高精度測位、箱根町で周遊バスのGPS補完実験』参照)

【追記 2017年8月18日 17:35】
 記事初出時の時点で打ち上げ予定日は8月12日でしたが、ロケット推進系統の確認などで延期されました。8月18日現在、最新の打ち上げ予定日時は8月19日と発表されています。これに伴い、記事タイトルや本文の一部を変更しました。

片岡 義明

フリーランスライター。ITの中でも特に地図や位置情報に関することを中心テーマとして取り組んでおり、インターネットの地図サイトから測位システム、ナビゲーションデバイス、法人向け地図ソリューション、紙地図、オープンデータなど幅広い地図・位置情報関連トピックを追っている。測量士。インプレスR&Dから書籍「こんなにスゴイ!地図作りの現場」、共著書「位置情報ビッグデータ」「アイデアソンとハッカソンで未来をつくろう」が発売。