テレワークグッズ・ミニレビュー

第146回

キーボード沼にハマって1年で4台目。音、深さ、ネイルという私のわがままを全て解決してくれた「HHKB Professional Classic Type-S」

 「キーボード沼」にハマって、1年近く。はじめこそ「ストローク? 軸? 何それ?」と思っていた私も、ついに4台目で沼を抜け出せそうです。

 そもそも、数万円もするキーボードなんて「軽く国内旅行できるじゃないか」とすら思っていました。 でも、ある悩みがきっかけで5000円ほどのキーボードに手を出した結果、納得がいかず次々買い替えることになったのです。

 そして、キーボード探しの旅に出ること4台目。自分にとってのベストだと思えるキーボードが見つかりました。それが、10月下旬に発売された「HHKB Professional Classic Type-S」というものです。

ネイル民のためのメカニカルキーボードをずっと探していた

 その“最適な”キーボードの話に移る前に、私のキーボード事情を少しお話しさせてください。

 そもそもメカニカルキーボードを使い始めたのが1年ほど前。使っていたMacBook Air(M3)のキーボードとネイルにまつわる悩みがあったことがきっかけでした。

 ネイルは私にとって仕事の必須アイテム。デスクワークでキーボードを打つ指がキラキラっと光るとすごくテンションが上がるというか、仕事という「戦い」に臨むにあたって、大きな力を与えてくれると思っています。

 特に紫外線を当てると硬化する「ジェルネイル」というものをしていると、ネイルを変えるタイミングは約1カ月に1度。とすると、変える直前は3〜4mmほど爪が長くなってしまうので、仕事に少しだけ問題が生じます。それは、いつもの指の角度でキーボードを打つと、先に爪が触れてしまい、カチャカチャ音が鳴ってしまうことです。

 仕方がないので指をまっすぐに伸ばして、指の腹でキーボードを打つようにしていましたが、これがなかなか慣れないのです。さらに、薄型PCキーボードはそれなりの力を使わないとキーが反応してくれません。このため入力の際に力を入れようとすると、さらに打ちにくく、疲れてしまいます。

 仕事のテンションをキープするためにもネイルを諦める選択はしたくないし、どうすればいいのか……。悩んだ挙句、薄型PCキーボードよりも軽い打ち心地らしいメカニカルキーボードなら打ちにくさが改善するのかもしれない。そう思い、メカニカルキーボードデビューを果たしました。

キーボードは「みんな違って、みんないい」

 デビューして間もなく、ネイル問題についてはすんなり解決しました。

 私の仮説通り、ノートPCのキーボードに比べて「軽い打ち心地」のおかげで爪とキーボードの喧嘩は起こらなくなりました。しかし……、次第に「このキーボード、ちょっと反応が良すぎてタイプミスが増えた」「これはさすがにストロークが深すぎ!」「打鍵音が大きすぎる! もうちょっと主張を抑えてほしい」など、細かな気になるポイントがいくつも出てきました。

 その一方、いくつかのキーボードを試すうちに、キーボードは1つとして同じものがないことにも気付きます。キーボードにあまりこだわりのない人からすると、「ん? 何が違うのさ」とお思いかもしれませんが、具体的にどう違うのかというと、誰にでも分かりやすいところでは、「テンキー」の有り無しがありますよね。さらに細かく見ると、文字が書かれている「キーキャップ」という部品1つとっても触り心地が違ったり、キーキャップ下に潜んでいる「軸」という部品によって打ち心地や音がまるで違ったりするのです。

 私のキーボードに対する“わがまま“の全てに応えてくれるキーボードを見つけるのは難しいと思いましたが、いつかベストな1台に出会えることを夢見て旅するような気分で、気になるキーボードを試し、各々のキーボードの良さも発見するのが楽しくなってきました。キーボードは、人間と一緒で「みんな違って、みんないい!」。一部界隈では、私のような状態に陥った人のことを「キーボード沼の住民」と呼ぶみたいです(私はまだまだ、くるぶしぐらいまで浸かった程度かと思います)。

 そんな中、これからご紹介する「HHKB Professional Classic Type-S」を試す機会がありました。冒頭にお伝えしましたが、思ったよりもずっと早くベストな1台に出会えてしまったと感じるほど、とっても良かったのです。

4台目で最適解となった「HHKB Professional Classic Type-S」

 HHKBブランドの最新モデルである「HHKB Professional Classic Type-S」は、既発売のエントリーモデル「HHKB Professional Classic」にさらに「Type-S」機能という、静音性などが加わったキーボード。

 「HHKB」は、キーボード初心者の私でも一度は聞いたことがある、界隈では有名なブランドだったのですが、価格帯はけっこうお高め。いくら自称・キーボード沼の住民とはいえ、いつも数千円のキーボードを使ってきた身には、1台に3万円払うにはそれなりの勇気が必要というか、自分にはまだ手を出す資格がない上級者向けアイテムというイメージがありました。ところが、試してみると「メカニカルキーボード初心者こそ、HHKBを選んだらいいのでは?」と思わざるをえないほど、大満足な使い心地でした。

手前から「墨」「雪」「白」の3カラーをラインアップしています。そして、日本語配列とUS配列から選べます

絶妙なストロークと押下圧でネイルをしても打ち心地がいい!

 まず、ちょっと細かいところですがストロークと押下圧の良さを伝えさせてください。

 冒頭、ネイルのお話を少ししたのですが、ネイルをする人にとって、キーボードのストロークと押下圧問題というのはちょっと複雑なのです。

 薄型ノートPCのキーボードはストロークが1mm程度とかなり浅めですが、押下圧は60~70g程度と打つときに力が必要です。一方、メカニカルキーボードはストロークが3〜4mmほどと深いですが、押下圧は30〜45g程度とノートPCの場合と比べて軽い力で打つことができます。

 指の腹で打つ際、かなり長い爪を持ち、かつ指に力を入れられる人だと、ストロークが浅い方が打ちやすいと感じる人もいるようです。しかし、指先から3mm程度の中途半端な長さの爪を持ち、かつ指の腹で打つのが苦手な私からすると、ストロークはある程度深くとも軽い力でキーを打ちたいのです。

 そう思って、押下圧が低いメカニカルキーボードを使ってみると、軽いタッチで打ち込めるのですが、ストロークが思ったよりも深いものだった場合、今度は連続でタイピングをする際に指のひっかかりがどうも気になってしまうのです。私が持っていたキーボードたちはいずれも、4mmと深めのストローク。爪の長さによる打ちにくさは解決したのですが、指が引っかかるようになったのです。

 対して、HHKB Type-Sのストロークは3.8mm。HHKBを試す前は「果たして、0.2mmくらいで変わるのだろうか……?」と思ったのですが、この0.2mmの違いは侮れません。ストロークの深さによってタイプミスが圧倒的に減るのを実感しました。

 また、押下圧は45gと軽めのキータッチ。打っていて「これこれ! ネイルにも優しいのに、深すぎず浅すぎずなストロークの深さがいい! すごくいい!」と感じました。指の引っかかりが気にならない、スムーズな打鍵がやっと、叶いました。

「静電容量無接点方式」は音敏感にとってありがたすぎる!

 そして、今回の製品も含めて、HHKBのほとんどのキーボードで採用されているのが「静電容量無接点方式」というもので、これが、打鍵音に敏感な私にとってはかなりありがたい機構でした。

 静電容量無接点方式とは、電荷の容量値変化によってスイッチングするもの。何を言っているのだ? と初心者の私はつい思ってしまいましたが、要はこの機構によって底打ち感のない打ち心地が実現でき、耐久性にも優れているみたいです。

 実は私がメカニカルキーボードを使う中でなかなか解決できない問題だったのが、「底打ちによる金属の反響音」だったのです。タイピングをすると、メカニカルキーボードのスイッチ内部にあるバネが基板と触れるため「キーンキーン」と高音がします。これはメカニカルキーボードの構造上、普通は避けられないもの。ただ、連続してキーを叩いていると耳障りで気になってくる。私が家で作業をするとき、特に集中したい原稿執筆時は音楽などを流すこともないので、余計に気になっていました。この反響音によって、頭痛に見舞われることさえ……。

 ところが静電容量無接点方式だと、あの「キーン」という金属反響音の原因となる「金属の接点」がない機構なので、こうした反響音がありません。1つキーを打つごとに感動するほどでした。私が使っていたノートPCのキーボードよりも音が小さく感じます。HHKBを使ってから、静電容量無接点方式のおかげで、不快だった音問題から解放されたのです。

 ちなみにキーを押下するとき「モスっ」という比較的低めの音が聞こえます。繰り返しにはなりますが、HHKB Professional Classic Type-Sに搭載されている「Type-S」という機能は、底打ちの金属音がないというHHKBがさらに「静音化」したモデル。どこが静音になったのかというとさまざまあるのですが、個人的に大きいポイントとしては、押下後、キーが戻る際の音ができるだけ小さくなるように設計されていること。私が持っているメカニカルキーボードは、キーを押したときと戻る時の2回音がしていたのですが、こちらは押したときの「モスっ」の1回のみ。少なくとも私が試してきたキーボードの中では一番静かだと感じました。

 そして、キーボードを打っているときには、うっすらと積もった新雪の上を歩いているかのような軽やかさを感じます。そして、キーキャップの下に空気が入っているみたいに押下後「ふわっ」と跳ね返ってくれる感じがします。キーボードを触っていて「ふわっ」とした感覚があったのはこれが初めてでした。

「墨」「白」「雪」の3色のバリエーションがある中で、私が使っているのは「雪」。まるでお豆腐のようなフォルムでかわいい。よしよししたくなります。打ち心地もメカニカルキーボードとはまた違った軽やかさ!

手が小さい民にはうれしかった配列。サイズも小さくてマウス操作も広々

 そして、予想外に良かったのが、「69キー」であったこと。69キーというのは日本語配列からさらにファンクションキーを省き、「Caps Lock」キーがある位置に「Control」キーがあり、「半角/全角」キーがある位置に「Esc」キーがあるという、HHKB(の日本語配列)独自の配列です。

 ファンクションキーを使う際は左最下にある「Fn」キーと数字キーを同時に押します。また、「半角/全角」の切り替えは、Windowsなら「HHKB」マークのキーで、macOSならスペースキーの両隣のキーで切り替えできます。初めての方ならちょっと戸惑うかと思いますが、たぶん2週間もすれば慣れるかな、と思います。ちなみに私の場合、日本語配列のMacBookを使っていたので、半角/全角の切り替えや「Caps Lock」キーがないことに対しては当たり前の環境で、かつファンクションキーを普段多用するわけではなかったため、すんなりと使えました。

 ちょっと独特な69キーですが、そのおかげで本体サイズも、294×110×40mm(幅×奥行×高さ)と、スリムなボックスティッシュの横幅が少し広くなった程度のコンパクトさ。テンキーレスよりもさらにコンパクトなので、デスクの幅を取らず、マウスを広々と動かすこともできます。

私がHHKBと平行して愛用しているテンキーレスキーボードと並べてみました。こちらはテンキーレスタイプですが、比較するとHHKBがいかにコンパクトなのかが分かります。マウスを動かせる範囲も増えてマウス操作がしやすくなりました

ちなみに有線仕様、デスク据え置き派にもおすすめ

憧れの「尊師スタイル」。尊師スタイルというのは、ノートPCのキーボードの上にキーボードを載せて操作するスタイル。HHKBのユーザーだった著名プログラマーのリチャード・ストールマン(愛称は尊師)がこのスタイルを取り入れたことから名付けられたとか

 ちなみに「HHKB Professional Classic Type-S」はPCとの接続は有線のみに対応しています。これも私にとってうれしい仕様でした。

 現在、自分のデスク環境はノートPCをデスクトップ的な感じに運用しており、モニター台、マウス、そしてキーボードを配置しています。各機器はドッキングステーションで有線接続し、よく動かすマウスのみワイヤレス。そして、外出先で作業するときは、基本的にノートPC1台のみ。こうしたスタイルから、キーボードを持ち歩くことはなく、自宅で据え置きで使っています。

 「HHKB Professional Classic Type-S」は有線仕様で、Bluetooth接続には対応していません。その分バッテリーを搭載していないので重量は軽め、そして安価。キーボードはデスク据え置き派の自分にとっては、無線接続したい欲はそこまでなく、むしろバッテリー残量を気にしなくていい有線仕様は都合が良かったのです。

 こうして1年ほど紆余曲折のあった私のキーボード探しの旅ですが、「HHKB Professional Classic Type-S」との出会いで終止符を打つことになりました。

 HHKBは、PFUダイレクトのほか、Amazon、楽天市場などでの取り扱いとなっており、シェアラウンジなどで試し打ちができます。ちょっと遠いな……と思ったら、有料レンタルの「ゲオあれこれレンタル」でも試すことができます。有料とはなりますが自宅でゆっくり試すことができるので、じっくり検討したい方にはおすすめです。

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