テレワークグッズ・ミニレビュー

第88回

HHKB Studioのポインティングスティックもタッチパッドも慣れない筆者が、それでもHHKB Studioを選ぶワケ

筆者の使うHHKB Studio、一部キートップとポインティングデバイスのトップはカスタマイズしてある

 原稿執筆に携わる人間にとって、キーボードは一番大切な仕事道具だ。

 極論すると、執筆速度を2割増しにできると、収入も2割増しにできる(かもしれない)。それならば、キーボードに数万円投じるのもまったく無駄ではない……と、言い訳しながら、毎度、新しいキーボードを購入する。その結果、仕事部屋にはアップル純正はもとより、REALFORCE、HHKB、Logicoolなどを始め、自作分割キーボードまでが置いてあり、気分に応じて取っ換え引っ換え、使っている。

筆者が日常的に使っているキーボードの一部

27年の伝統の上に、新たに登場した革新

 そこにPFUから登場したのが、「HHKB Studio」だ。

HHKB Studio 日本語配列。価格4万4000円

 HHKBといえば、1996年の発売から27年間キー配列を変えず作り続けられている、キーボードの決定版的存在だ。最近はノートPCに慣れて、キーストロークの少ない薄いキーが良いという人もいるが、ストロークの大きい、テンキーレスのコンパクトサイズキーボードを選択するなら、まず筆頭に上がってくる存在だろう。

 しかし、考えてみれば、HHKBは1996年(もしくはそれより少し前)に開発されたキーボードである。GUIは登場していたとはいえ、まだまだ当時のエンジニアはコマンドライン中心で作業していた時代。対して、現代では、GUIは大幅に進化し、ポインティングデバイスだけでなくジェスチャー操作など、入力の方式もより多様化した。そんな時代に対応した「新世代のHHKBを」ということで開発されたのが、HHKB Studioというワケだ。

キー配列自体はHHKB(左)と同じだが、タッチパッドなどの関係でひとまわり大きい。そして、安定性のために重く作られている

 そこで、ThinkPadなどで愛用者の多いポインティングスティック(トラックポイント)と、手前左右と両サイドにタッチパッドが設けられた。

 また、「HHKBと違う進化を」ということなのか、キースイッチではHHKBの特徴のひとつであった「静電容量無接点方式」をやめ、一般的なCherry軸のMXキーを採用している。しかも、ホットスワップ可能(※編集部注:メカニカルキーボードにおけるホットスワップは、キースイッチを自分で交換可能なことを指す)となっており、市販のキースイッチを購入して差し替えてカスタマイズすることもできるようになっている。

 また、MXキーとはいえ、Kailh社に専用で作らせた「非常にHHKBに近いタッチのMXキー」を採用している。具体的にはリニアで静かで、非常にフィーリングがいい。逆に自作キーボード界隈では、自分のキーボードのために「このキースイッチだけ欲しい」という声も上がるほどだ。

「変わらないHHKB」と、「カスタマイズ性重視」のHHKB Studio

 オリジナルHHKBから受け継いでいるのが、「キー配列」「シリンドリカルステップスカルプチャー(横から見た時に、弧を描くように、各段のキーの上面の高さと角度が変えてある)」の2点。

キーの上面の高さと角度が、段によって違う「シリンドリカルステップスカルプチャー」

 ハードウェア的に大きく変化したのが、「静電容量無接点方式→メカニカルキースイッチ」「ポインティングスティック、タッチパッドの装備」という点だ。

左右の手前とサイドがタッチパッドになっている
ホームポジションに手を置いたまま操作できるポインティングスティック

 設計思想として、HHKBは変化を拒み、ユーザーの方が合わせるというスタンスだったが、HHKB Studioは、幅広いカスタマイズ性が魅力だ。

 たとえば、すべてのキースイッチはホットスワップで差し替え可能だし、キートップも変更可能(ただし、シリンドリカルステップスカルプチャーに合うキーは現状少ない)。

専用工具を使って、キートップを外して、キースイッチを抜き取って交換できる
キースイッチはハンダ付けせずに、差し込むだけで交換できる

すべてのキーをカスタマイズできるのが、HHKB Studioの最大の特徴

 さらに「キーマップ設定ツール」によって、すべてのキーとタッチパッドにキー操作を割り当てることができる。さらに、4つのプロファイル、4つのレイヤーで合計16のキーマップを持つことができる。

すべてのキーと、タッチパッド、そしてマウスボタン部分が機能割り当て可能になっている

 たとえば、プロファイル1には原稿書き作業、2には画像編集作業というように割り当てておき、さらにプロファイル1の中でもFn 1~4と組み合わせて押すことで、入力するキーを変えることができるということだ。

 さらに、ひとつのキーに複数のキー操作を割り当てることもできる。

 たとえばMacの場合なら、あるひとつのキーに「⌘+shift+4」を割り当てて選択画面のスクリーンショットを撮ったり、Photoshopの「⌘+option+J」で、選択範囲をカットして新規レイヤー……といった操作をワンタッチでできる。

 最初は、単にoptionと⌘を入れ替えたりするのに使っていたのだが、使い慣れてくると、実は、この「すべてのキーをカスタマイズできる」というのは、従来のキーボードにない「HHKB Studioの最大の特徴」だということに気が付いた。

 たとえば、日本語キーボードを買ってUSキーボードの配置をアサインする……というようなことだって可能なのだ。日本語キーの方がUSキーより9個が多いから、USキーとして使いながら、その9個のキーに自由に機能をアサインするというようなこともできる。もちろん、特定のプロファイルにPhotoshop用の機能を割り当てまくって、左手デバイスのように使うということも可能だ。

キースイッチをすべて交換して4234円

 というわけで、筆者は非常に楽しんで、HHKB Studioを使っている。

筆者はキースイッチを別途購入して、すべてのキーを交換した

 まず、キースイッチはすべてKailhのBox V2 SwitchのClickyに差し替えた。カチカチとウルサイが入力している実感のあるキースイッチだ。ちなみに遊舎工房では単価90円で売っている。個別で70個(日本語キーボードで必要なのは69個)買うと6300円なのだが、筆者は35個セット(2117円)2箱を買って4234円支払った。

左がKailh社製のHHKB Studio標準キースイッチ。右が筆者が購入して差し替えたKailhのBox V2 SwitchのClicky

 HHKB Studio標準のキースイッチも、HHKBぽくって非常に良くできているのだが、カスタマイズできるということ自体が楽しい。また、キートップもいくつか交換して色を換え、ポインティングスティックのトップも赤いものに換えた。こうしたカスタマイズ自体がHHKB Studioの楽しみのひとつだと思う。

 また、使い慣れると気が付くのだが、HHKB Studioは安定感と剛性感がすごい。これは、アルミ削り出しのボディを持つHHKB HGを目標にしたそうなのだが、シャシー自体に剛性があることで安定感、剛性感のあるタイピングが可能になっている。これも、目立たないけれどもHHKB Studioの魅力のひとつである。

 ただし、おかげで840g(英語配列)と、日常的に持ち運ぶには少々ツライ重さになった。内部に鉄板が入ってるのだそうだが、残念ながら構造的に取り外すことはできない仕組みになっている。

 ポインティングスティックは使いこなすと便利だと聞くが、今のところマウスを手放せずにいる。タッチパッドに関してはファームウェアのアップデートで改善されるかもしれないが、現状では少々動作のスムーズさに欠ける感じがして、使っていない。ボリュームの変更などは可能なのだが、拡大縮小に使うにはスムーズさに欠ける……という感じだ。つまり割り当てる機能によっては解像度が足りないように感じるという印象。

ポインティングスティックを便利という人もいるが、筆者はいまだに慣れられずにいる

 そして、これまたちょっと本来のHHKB Studioの使い方とか違うが、Magic Trackpadと多ボタンマウスを組み合わせて使っている。せっかくのポインティングスティックとタッチパッドには申し訳ないが、自分の最大効率を考えるとジェスチャーの使えるMagic Trackpadとの組み合わせは便利なのだ。

カスタマイズしたHHKB Studioと、Magic Trackpad、Logicool MX Master 3Sを一緒に使っている

キーボードとしての基本機能が優れていて、カスタマイズ性が高い

 トータルでいうと、一部機能は使っていないが、カスタマイズでキータッチを自分の好みに変え、キーアサインを変えることで、自分の好みどおりに機能を変えられるキーボードとして非常に便利に使っている。ウリであるポインティングスティックとタッチパッドが活用できていないが、それでもこの機能性の高さは十分にメリットがあると思う。

 筆者の目線からのHHKB Studioの最大の魅力は、一般にHHKB Studioの重要な機能として言われる部分と少し違うかもしれないが、

  • キースイッチを好みのものに差し替えられる
  • すべてのキーのアサインを自由に変えられる
  • 本体が重く、キータッチの安定感が高い

 という3点になる。

 お値段は、4万4000円と安くはないが、前述のように、原稿執筆の効率を向上させてくれれば、筆者にとっては高い買い物ではないのである。

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