テレワークグッズ・ミニレビュー

第55回

1日中使い続けるキーボードだからトコトンこだわりたい! 分割式で打鍵感も極めた自作キーボードに挑戦!!

究極の打鍵感を目指して、左右分割式のキーボードを自作した

 日々、原稿を書き続ける編集者・フリーライターにとって、キーボードはもっとも大切な仕事道具の1つだ。たとえば、入力効率が10%向上すれば、収入が10%増えるという考え方もできる。また、1日の大部分を占める原稿執筆が快適になれば、それだけ仕事全体が快適になるということでもある。

 つまり、キーボードへの投資は、生産性の向上、QOLの向上において、非常に重要な意味を持つということになる。

 ……などという物欲正当化のタテマエはさておき、長年、さまざまなキーボードを使用してきたが、最近、「分割式キーボード」が気になってきた。

 普通のキーボードだと手を寄せて使うことになるが、分割式キーボードなら肩からまっすぐ前に左右の腕を出して打鍵することができる。人の姿勢としては、この方が正しいような気がする。些細な問題ではあるが、筆者は1日12時間以上デスクに向かって原稿を書いていることが多いので、改善できる点は改善しておきたいのだ。

分割式キーボードなら、腕を肩からまっすぐ伸ばして打鍵できる

 調べてみると、既製品でも分割式キーボードは数多く販売されているが、打鍵感が気に入るかどうかはまた別の問題だ。そこで、自分の求める打鍵感のキースイッチを購入して、キーボードを自作することにした。

テレワークが定着した昨今、INTERNET Watchの編集部員や外部スタッフも、それぞれのテレワーク環境を改善すべく工夫を凝らしている。この連載では、そんなスタッフが実際に使ってオススメできると思ったテレワークグッズのレビューをリレー形式で紹介。今回は、フリーライターの村上氏が究極の打鍵感を求めて製作した自作キーボードについて紹介する。

選ぶのは「基板」と「キースイッチ」と「キートップ」

 さて、キーボードを自作すると言ったものの、自作の方法が分からない。

 そこで、おそらく世界でただ一軒と思われる自作キーボード専門店、秋葉原の「遊舎工房」に行ってみた。

 店内は、世界各国から自作キーボードを求めて集まった人でごった返していた。世界中で何億人の人がキーボードを使っているのか知らないが、至高のキータッチを求めて、自作キーボードを作ることにした人は、必然的にこの店に集まることになる。見ず知らずの人たちではあるが、この店に辿り着いたという時点で、不思議な連帯感を感じる。

秋葉原の自作キーボード専門店、「遊舎工房」で部材を購入した

 連帯感は感じるが、同時に、お店の中にいる人、誰も彼もがエキスパートに見える。私のような自作キーボード初心者が、店内にいていいのか……? と不安になる。そこを、長年の取材で培ったツラの皮の厚さで、お店の方に声をかけて詳しい話を聞いた。

筆者の作った自作キーボード。基板の上下にアクリル板をネジ留めすることで構成されている

 自作キーボードを作るために必要なのは3点。1点目は、基板。これはマニアの方が設計したものが多く、小さいチップが載っていてファームウェアも書き込まれており、PCに接続するだけで一般的なキーボードとして認識されるものもあれば、自分でファームウェアを書き込んだり、キーマップを設定したりしないといけないものもあるそうだ。

 一般的にはMicro USBコネクタで接続するものが多いが、最近はUSB Type-C接続のものも増えているとのこと。また、Bluetoothモジュールを組み合わせて無線化することもできるが、難易度は高いとのこと。

さまざまな自作キーボード用基板が販売されている

 2点目はキースイッチ。もともと、ドイツのCherry社の作ったCherry MXというキースイッチがあったのだが、そのパテントが切れて、互換性のあるキースイッチが数多く発売されているのだという。リニア、タクタイル、クリッキーの3種類に大別されるが、店頭には60種類を超えるキースイッチが展示されており、その中から自分の好みを選ぶことができる。

60種類を超えるCherry MX互換キースイッチから選択することができる

 そして最後にキートップ。これは自分の好みのものを選べばいいのだが、スペースバーやシフトキー、リターンキーなど、変則的な長さのキーをどうやって選ぶかという問題があり、筆者はお店の方に選んでもらった。Cherry MXキースイッチを使っていれば、互換性はあるはずなので、さまざまな色のキートップを選ぶことができる。

左右分割型の基板に、クリッキーなスイッチを搭載

 筆者が選んだ基板はChoco 60(1万6500円)。普段使い慣れた某高級キーボードと同じ配列で、分割できるというのが選んだ理由だ。もっとマニアックな配列のものもあったが、店頭で触ってみると、自分が慣れることができるかどうか不安になったのだ。

筆者の購入した基板とキースイッチ

 キースイッチはKailh Box V2 Switch / White / Clickyを選んだ。ちなみに単価69円。62個必要だから、4278円。

 キートップは、お洒落な色のPBT FANS TWISTのBase(1万3200円)と、Spacebar(2970円)。これは、もっとリーズナブルなものを探せば、安く仕上げることもできると思う。

 あと、TRRSケーブルが330円。締めて3万7278円。思ったよりも高いと思った人もいるかもしれないが、仕事柄、これで自分の理想のキーボードを作れるなら安いものなのだ。

黙々とハンダ付けをするのが実に楽しい

 問題はここから。「自作キーボード」というからには、自分で作らねばならない。

 Choco 60は比較的簡単で、キット状態だと基板を左右分割して、キースイッチをハンダ付け、キートップの押さえと、裏側のカバーになるアクリル板をネジ留めすれば完成だ。

 ハンダ付けの作業は、部品が細かいわけではないので、難易度は高くないが、不慣れな人、自信がない人は、事前に何か電子工作キットを買って練習した方がいいと思う。基本は、端子と基板をハンダゴテで温めて、3~4秒経ったところで糸ハンダを接触させて、溶かして付ける。ハンダがスムーズに回っている必要があるし、十分な量が盛り付けられる必要もある。また、あまり長時間熱し過ぎると、電子部品に悪影響が出ることもある(今回はキースイッチだけなので、それほどシビアではないが)。

62個のキースイッチをハンダ付けする

 筆者もハンダ付けは久し振りだったので、最初のうちは手間取った。とはいえ、キーを62個、端子が2つずつあるので合計124回のハンダ付けが終わる頃にはそれなりに手慣れていたから、いいハンダ付けの練習にもなるかもしれない。

 完成して、キーボードを使ってみると、いくつか動かないキーがある(笑)。

 しかし、困ることはない。なにしろ自分で作ったのだから。動かないキーはハンダが足りないのかもしれない。追加でハンダを盛ると動作するようになった。

筆者が選んだのはKailh Box V2 Switch / White / Clicky。キーを押した時と離した時、2回カチカチ音が鳴って打鍵感がとてもいい。半面、オフィスなどで使うと少々うるさいかも

 ハンダ付けがしっかりできていないと、打鍵の力で不安定になるキーがあるらしく、これまたハンダをやり直すことで修復できる。こうして、何度かハンダ付けをやり直すことで完全になっていく……という過程も、自作キーボードならではだといえるだろう。道具を使い込む喜びがあり、メンテナンスというコミュニケーションが存在するというのは実に楽しい。

趣味は、「自作キーボード」と答えてみたい

 ここ1カ月ぐらい、完成したChoco 60を使っている。メカニカルスイッチの分割式キーボードなので、普段使っているHHKBや、LogicoolのMX Mechanicalとはまた違った打鍵感で非常に楽しい。

筆者の仕事環境。LGの4Kと5Kのディスプレイをアームで浮かせて、Macもバード電子のMacスタンドに乗せている。マウスはLogicoolのMX Master 3

 特に、左右分割は快適だ。ちなみに、いきなり慣れることはできず、最初は左右のキーボードをくっつけて使い始め、徐々に離していった。慣れるとやはり、左右のキーボードは離れていた方が、姿勢として快適であることに気付く。

 キーボードにはちょっとこだわりたいという人は、ぜひ一度、自分好みの基板とキースイッチ、キートップを見つけて、自作してみてはどうだろう。唯一無二の、自分だけのキーボードがあるというのは実に楽しい。

 さて、次はどんなキーボードを作ろうか?