Chrome OSにみるGoogleのねらいとは?

Google社のクラウド戦略とChrome OSの使命(3)


 本連載は、3月25日に発売されたインプレス・ジャパン発行の書籍「Google Chrome OS -最新技術と戦略を完全ガイド-」から、序章「Chrome OSにみるGoogleの狙いとは?」を著作者の許可を得て公開するものです。序章には小池良次氏の「Google社のクラウド戦略とChrome OSの使命」、中島聡氏の「なぜGoogleはChrome OSを無料で提供するのか」の特別寄稿2本が収録されており、INTERNET Watchでは、その特別寄稿2本の全文を6回に分けて日刊更新で掲載します。

 

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Chrome OSとAndroid OSの戦略的棲み分け

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 パソコンにせよ、携帯電話にせよ、OS(基本ソフト)の役割は様々なハードウェアを制御しながら、アプリケーションに統一した動作環境を与えることにあります。つまり、アプリケーションをハードウェアの束縛から解放します。その点から言うと、Android OSはこの伝統的なOSの役割を守っています。 

 Android OSはMobile Linuxをベースにしており、オープンソースであるためライセンス費用が不要<>というメリットがあります。そのため、最近ではネットブックやテレビ端末などにも利用されています。

 様々なモバイル端末に展開できるのは、Android OSが様々なハードウェアに対応する汎用OSであるためです。オープンソースとはいえ、Google社はAndroid OSを搭載するハードウェアの設計開発段階から端末メーカーと緊密な関係を築いています。また、Android Marketを展開するなど独自のMPAモデルも展開しています。

 Google社が展開するMPAモデルは、Apple社よりはオープンなものです。Android MarketはApple Storeのような厳格な審査などを行わず、YouTubeなどの投稿サイト並に自由にアプリケーションをアップロードできます。また、Android Marketを経由しない独自販売も認めています。こうしたオープンなMPAモデルからは「収益性を多少犠牲にしても、よりオープンな環境を維持しよう」という同社のポリシーがうかがえます。

 一方、モバイル・スクリーン市場の覇権争いでは、Apple社が“iPad”で、Microsoft社がタブレット・パソコンで、現状のいささか閉鎖的なMPAモデルをそのまま持ち込もうとしています。これに対抗して、Google社もAndroid OSとAndroid Marketを同市場に投入しています。

 しかし、Google社のクラウド戦略にとって、これは必ずしも好ましい戦略ではありません。なぜなら、デスクトップやノートパソコンで築いてきたブラウザーを基盤とするSaaSモデルをモバイル・スクリーン市場では捨てることになるからです。

 そこで重視されるのが、Chrome OSです。同製品はブラウザー・アプリケーションを動かすことに重点を置いたWeb OSと呼ばれるものです。Web OSは、基本的にすべてのアプリケーションがブラウザー上で稼働することを前提としており、ハードウェアのサポートは最小限にとどめます。

 実際、Chrome OSではカメラ、キーボード、マウス、USB、Wi-Fiなどハード面のサポートは最小限になると予想されています。その代わりに、携帯電話並の短い起動時間と長時間駆動をChrome OSでは実現しています。もし、3Gデータや電話機能などを搭載しようとすると、メーカー自身がChrome OSのLinux部分をベースに独自に作り込む必要があります。そうした場合、当初の瞬時起動や長時間使用というメリットを失う可能性もあります。

 このようにChrome OSとAndroid OSは戦略面で明確な棲み分けがあるのです。

 全体戦略としてGoogle社はモバイル・スクリーン市場において既存のMPAモデルの拡大を阻止するため、Chrome OSの普及を望みたいところでしょう。同市場が既存のMPAモデルに牛耳られることになれば、Googleが収益を生み出せるのはAndroid OS系端末だけとなり、クラウド事業や検索事業との相乗効果も限定的なものになるので、Chrome OSに期待をかけるのは当然の成り行きです。

Google社の戦略(出展:小池良次作成)

 

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 モバイル・スクリーン市場における端末戦争は、これから数年が本番です。同分野でパッケージ・ソフトと同じ戦略を取るApple社やMicrosoft社が成功するかどうかは予断をゆるしません。また、それを阻止しようとGoogle社が投入するChrome OSも、どこまで成功するかは不明です。もちろん、同市場ではARM社やQualcomm社、Intel社やAMD社など大手チップメーカーが積極的な戦略を展開しているほか、Adobe社やVMware社などアプリ・ベンダーも続々と参入しています。各プレーヤー間で複雑な競合関係が生み出されるため、モバイル・スクリーン市場の覇者はそう簡単には決まらないでしょう。

 Google社としては、クラウド戦略をモバイル・スクリーン市場に広げるため、ぜひともChrome OSを成功させる必要があるのです。一方で、Chrome OSがどの程度成功するかは不明ですから、Android OS部隊は、端末メーカーが希望すればネットブックであれ、スマートブックであれ、テレビであれ、開発に積極的に協力して、モバイル・スクリーン市場での影響力を拡大する必要があるのです。そうすることでGoogle社の挟み撃ち戦略の成果もでてきます。

 このように、誰が成功するのか、何が成功するのか混沌としているがために、Google社をはじめとした各プレーヤーの動きが、外から見ると複雑で分かりにくいものになっているのが現状と言えます。


:Android OS自体はライセンス費用が不要ですが、Googleアプリケーションを利用する場合、Google社と別途ライセンス契約が必要となります。

(小池良次氏の寄稿おわり――明日からは中島聡氏の寄稿を掲載します)


筆者:小池 良次(こいけ・りょうじ)
 米国のインターネット、通信業界を専門とするジャーナリスト/リサーチャー。「小池良次の米国事情(日本経済新聞社ウェブ)」「映像新聞」「ウイズダム」などで連載を持つほか、インターネット白書、ケータイ白書、などに特別レポート多数。各種技術動向調査レポートも執筆。サンフランシスコ郊外在住。早稲田大学非常勤講師、早大IT戦略研究所客員研究員、国際大学グローコム・フェロー。
 主著:「電子小売店経営戦略」、「第二世代B2B」、「クラウド」(いずれもインプレス社刊)

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2010/4/6 06:00