山谷剛史のマンスリー・チャイナネット事件簿
Googleの中国撤退可能性について、中国メディアは原因にダンマリ ほか
2010年1月
本連載では、中国のネット関連ニュース(+α)からいくつかピックアップして、中国在住の筆者が“中国に行ったことのない方にもわかりやすく”をモットーに、中国のインターネットにまつわる政府が絡む堅いニュースから三面ニュースまで、それに中国インターネットのトレンドなどをレポートしていきます。
●Googleの中国撤退可能性について、中国メディアは原因にダンマリ
撤退の可能性を示唆するGoogleの発表後、Google中国の北京にあるオフィスには利用者が献花に訪れた |
Google中国が公式ブログで「検閲をこれ以上受け入れられない」と中国撤退の可能性を示唆したことは、中国国内をはじめ、日本など中国国外でも大きな話題となった。
Google公式ブログのエントリから数日経つと、中国メディアではGoogle撤退についてその原因など、正面から触れる記事は見かけなくなった。またGoogleの発表直後はGoogle中国の北京オフィス前での市民の献花も話題となったが、これに関するニュースメディア発の新記事も中国ではほとんど見られなくなった。
そうした中、わずかにGoogle撤退の理由を伺わせる記事は、中国政府外交部の1月19日の定例会見や、1月24日の新華社による工業和信息化(工業及び情報化)部への取材による記事で、いずれも「中国はハッカー攻撃の最大の被害国」「いかなるハッカー攻撃も法律で禁止している」という点を強調する回答を伝える内容だ。
ただし、撤退の理由などを除くGoogleに関する話題、たとえばワールドワイドなGoogleの動向や株価影響、Googleに広告を出す中国企業やGoogle中国撤退にともなう失業問題などの記事、当連載の2009年10月の記事から報道しているGoogleブックスについての中国作家協会との交渉が一方的に取り消されたなどといった記事は引き続き掲載されている。
●2009年末時点の中国のインターネット利用者、約3億8400万人とCNNIC
中国ネットワークインフォメーションセンター(CNNIC)は、中国における2009年月末時点でのインターネットの利用状況をまとめた「第25次中国互換網発展状況統計報告」を発表。2009年末時点のインターネット利用者全体では約3億8400万人、ブロードバンド利用者は3億4598万人、携帯電話によるインターネット利用者は2億2244万人となった。詳細は、記事「4億人に迫る中国のインターネット利用者、携帯利用が急増~CNNIC調査(http://internet.watch.impress.co.jp/docs/news/20100118_343059.html)」を参照していただきたい。
●百度、イランサイバーアーミーの攻撃で米国を訴える
1月12日午前7時ごろから、百度(Baidu)へのアクセスができなくなった。百度(中国)が利用できなくなる事態は初めて。イランサイバーアーミーが、米国のDNSに書き込まれた百度サイトの情報を書き換えたことが原因だ。イラン政府は「イランサイバーアーミーは政府の立場を代表していない」とコメントしている。
前項ののCNNICの記事の通り、中国では2009年末時点で3億8400万人がインターネットを利用しており、その73.3%が検索サイトを利用し、そのうちの9割以上が百度を利用している。つまり単純計算で2億5330万人が百度を利用しているため、当日数千万人或いは1億人を超す百度利用者がこの異常を体験した可能性がある。
中国のインターネット利用者は愛国心の非常に強い若者が多いため、過去の反日活動や反仏活動のように、反イラン活動が起こるのか見てみると、さっそく中国のハッカーが報復として同日14時までに、政府教育機構サイトを含むイランのサイト10サイトを攻撃したことがニュースとして報じられていた。
ただし、ネット掲示板に書き込まれ、見ることのできた多くの意見は反イランではなく、ネットを一元管理する米国に問題ありという論調であり、イランサイトへのサイバー攻撃のニュースに「問題は米国にあり、イランへのサイバー攻撃は控えるべき」という書き込みが目立った。
その後1月20日に百度は、百度のドメインを管理するレジストラ(ドメイン登録事業者)、米Register.comに対して、数時間同サイトが停止したことによる損害賠償を求めて訴えを起こしたと発表。損害賠償額は明示していないが、中国メディアでは、600万元(8000万円強)から1000万元(約1億3500万円)の損失になると推計している。米Register.comはこの訴えに対し、「根拠がない訴えだ」と反論している。
●オンラインでの書籍値引き販売に制限がつき、ネット世論は反発
15%以上値引きした書籍を販売するAmazon中国 |
1月8日、本の販売に関するルール「図書公平交易規則」の改訂版が発表された。「オンラインショッピングサイトや会員制書店での発売から1年以内の書籍は15%の割引を限度とする」というもので、ネット上に大きな波紋を投げかけた。
中国では書籍も値引きはよくあり、中国全土のチェーン店「新華書店」では割引価格は提示されないが、オンラインショッピングでは、たとえば「卓越亜馬遜(Amazon中国)」でも、書籍は当たり前のように値引きを行っている。賢く安く買おうとする若い中国人消費者は、オンラインショッピングや会員制書店の利用に積極的で、そうした若い消費者の一般書店離れを起こさないために作られたルールであり、若い消費者ばかりが利用するインターネット上では、掲示板やブログ上などで反対の大合唱となっている。
1月末現在、卓越亜馬遜をはじめとしたオンライン書店では、まだ発売して間もない書籍を15%以上値引きして販売している。
●アダルトグッズを扱うオンラインショッピングサイトが利用不可に
ネット上のポルノ情報については、中国政府が積極的に粛清をアピールしている。1月は中国公安部が、2009年に9000超のポルノサイトを閉鎖し、5000人以上のポルノサイトに関わった容疑者を逮捕したと発表した。
同じく2000年1月、中国国内で圧倒的シェアのC2C(個人対個人取引)オンラインショッピングサイトの「淘宝網(TAOBAO)」に対しても、同サイトで販売されているアダルトグッズのカテゴリ内で低俗なポルノ情報が掲載されているという通報があり、アダルトグッズのカテゴリ以下は「整頓中」と称し、見られなくなっている。
突然のカテゴリー閉鎖にアダルトグッズ専門店は大打撃を受けた。ある中国メディアは、事件後淘宝網サイト内でナンバー1のアダルトグッズショップを運営するオーナーに取材。オーナーは「2年以上店をやっていて、商品は全てアダルトグッズだ。1日の売上は約2万元(約27万円)だが、そのために数十人のスタッフを雇っている。今回の件について、我々の気持ちは理解することはできまい」とコメントしている。
中国では都市部農村部問わず、繁華街から住宅地に至るまで「成人用品」の看板が目印のアダルトショップが点在している。
●百度、オンラインショッピングと動画の拡充でシェア拡大へ
中国インターネット市場において、トップシェアの百度にとって唯一のライバルであるGoogleが撤退の可能性を示唆する一方で、百度はさらなるシェア獲得を目指すべく、創立10周年を機にオンラインショッピングと動画という2大人気サービスを強化する。
1月27日、百度のC2Bオンラインショッピングサイト強化のため、楽天と手を組み合弁会社を立ち上げた。百度には、淘宝網に対抗したC2CメインでB2C(企業対個人取引)もおまけ程度に行うオンラインショッピングサイト「百度有〓(〓は口へんに阿)」と、ニッセンと提携した百度有〓とは別のサイト「百度日本之窓」があるが、楽天との提携サイトがどういう形になるかは不明。
動画に関しては1月6日に、正規版高解像度動画配信サービスを提供すべく、動画サイト専門の企業を別に立ち上げた。
中国の調査会社「易観国際(Analysys International)」は19日、2009年第4四半期における中国のサーチエンジン市場調査結果を発表。シェアは百度中国が58.4%、Google中国が35.6%となった。
百度日本之窓 | 百度有〓(〓は口へんに阿) |
●個人情報を盗んだ罪、中国初の裁判で懲役1年6カ月・罰金27000円
中国のインターネット利用者の間では、じょじょに個人情報に関する意識が高まっている。具体的には、そうした風潮から、データを守るべくポータブルハードディスクを購入する人が増えている。
そうした中で、中国初となる、個人情報を盗んだ罪による裁判の判決が下された。詐欺団7人が、果敢にも広東省政府役人を騙すべく、探偵に政府役人らの個人情報を取得するよう依頼。探偵は政府役人の情報を詐欺団に販売したとして、懲役1年6カ月、罰金2000元(27000円)が課せられた。
詐欺団は、政府役人のリストを手に入れると、ソフトを利用して自身の携帯電話番号を政府役人の知人の番号に変えた上で、おれおれ詐欺を行い、83万元を振り込ませた。被告人となった7人には、それぞれ懲役3年から11年、罰金4万元(約54万円)から15万元(約200万円)が課せられた。
ところで1月には結婚情報サービスについての基本原則を記した「婚介服務国家標準」が執行されたが、これにもサービス提供者は利用者の個人情報の安全を保障しなければならないということが明記されている。同標準には、他にも、サービス提供者は虚偽の情報を利用者に提供しない、無期限のサービス提供を禁止する、利用者は実名登記が必要などが記載されている。
●人気の格安航空券価格比較サイト、鉄道の切符も取り扱いを開始
格安航空券について各旅行サイトの格安航空券価格を表示することで、新興のサイトながら人気となった格安航空券比較サイト「去〓儿(〓は口へんに那。英語表記はqunar.com。中国語で“どこに行く?”の意味)」。この去〓儿が、老舗の旅行予約サイトのe龍(eLong)や携程旅行網(ctrip)に先駆けて、鉄道切符の価格情報サービスを開始した。
現在のところ、格安鉄道切符はほぼ存在しないため、航空券のような格安鉄道切符があるわけではなく、座席、寝台各席の料金表示にとどまっているが、急速に得意客を掴む中、前向きに新サービスを紹介するブログや掲示板の投稿が多く見られた。
Qunar.com格安航空券比較サービス | Qunar.com鉄道切符検索サービス |
関連情報
2010/2/8 13:13
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