山谷剛史のマンスリー・チャイナネット事件簿

中国から「.co.jp」サイトへアクセス遮断に、多くの中国人からも恨み節
~2012年6月


 本連載では、中国のネット関連ニュース(+α)からいくつかピックアップして、中国を拠点とする筆者が“中国に行ったことのない方にもわかりやすく”をモットーに、中国のインターネットにまつわる政府が絡む堅いニュースから三面ニュースまで、それに中国インターネットのトレンドなどをレポートしていきます。

中国から「.co.jp」サイトへアクセス遮断に、多くの中国人からも恨み節

Yahooが繋がらないという微博でのつぶやき

 6月15日から17日にかけて中国から日本の「.co.jp」ドメインのサイトにアクセスできなくなった。このような状態であったものの、IPアドレスを直入力すると見られないサイトが見られること、日本のサイトでも「.com」ドメインのサイトやアリババのサイト、中国の各金融機関が取得した、中国国内のサーバーで運用されているサイトにはアクセスできた。今回のアクセス遮断に関しては、IPを直に入力すればアクセスできたため、中国がふだん行っているtwitterやFacebookやYouTubeなどへのアクセス遮断とは異なり、「遮断をする意図はなくDNSサーバーなどになんらかの問題があった」という可能性が指摘されている。

 2年前にも、中国全土からYahoo!Japanに繋がらなくなったことが1度あり、そのときも中国在住の数十万人の日本人駐在員や留学生をはじめ、日本人とのやりくりにYahoo!メールを利用する中国人などの間で混乱があった。今回はほぼ全ての.co.jpサイトにアクセスできないとあって、Yahoo!Japan利用者に加え、日本のアニメやアイドルのファン、楽天やAmazonなどで日本の商品の価格チェックをする人々の間で、どのサイトが繋がらないという情報と、中国のネットインフラに対する恨み節が飛び交った。尖閣諸島絡みなど直前の日本の行動に対する中国からの報復措置だという声も噂された。

 この件に関し、ISPからの情報リリースやニュースサイトからのニュースはなく、真相は霧の中だ。


iPad商標訴訟~Appleは中国企業に6000万ドルを支払い、商標権獲得

iPad商標問題に関する特設サイト

 6月2日、中国企業がiPadの商標権を持っているとしてAppleに破格の賠償金を求め、各地で販売停止するよう働きかけていた件で、裁判所である広東省高級人民法院は和解したと発表。Appleは台湾の唯冠国際の中国子会社「深セン唯冠」に6000万ドルの和解金を支払い、中国におけるiPadの商標権を獲得した。

 今回の問題、中国側が商標をあらかじめ確保していて一儲けしようとしている話ではない。そもそも唯冠国際がiPadの商標を取ったのは2000年ごろの話で、唯冠国際はiPadなる名称の製品をAppleがリリースする遙か前に販売していた(現在は発売していない)。その後Appleが唯冠本社から深セン唯冠を除いてダミー会社とおぼしき企業を介して商標権を獲得、AppleがiPadを発売し、唯冠が一連の流れを知った後でAppleに提訴したという背景がある。

 ネットの反応を見ると、唯冠のほうが筋が通っていると思っている人は多いようだが、とはいえ「中国は模倣品しか作れない、権利侵害ばかりする」など、このニュースの経緯を見てもなお、中国(人)に失望するコメントが多く見られた。


B2Cのオンラインショッピングサイトの勢いに陰り

 「個人対個人(C2C)」から、「個人対個人(C2C)プラス企業対個人(B2C)」が主役になりつつある中国オンラインショッピング市場。個人対個人では淘宝網(TAOBAO)が圧倒的シェアだが、企業対個人では大きな小売企業が次々と参入しているため、多数のサイトによる混戦模様となっている。

 トップの淘宝網からわかれた「天猫(Tmall)」では、昨年の取引総額は920億元だったが、今年は2000億元を超すと強気の予想をしている。とはいえ、オンラインショッピングをまだ利用していない人は多く、スマートフォンの普及も急速に進んでいるので、強気の予想も実現の可能性は十分にある。

 家電量販店大手の蘇寧電器や国美電器が本格的に参入する「百花繚乱」な状況であり、また一方で中国の消費者にとって無名のサイトが続々と立ち上がる「有象無象」な状況でもある。6月に調査会社iResearchが発表したところでは、2011年の取引総額の多い順から10サイトを挙げると「天猫(920億元)」「京東商城(309億元)」「Amazon中国(60億元)」「蘇寧易購(59億元)」「QQ商城(53億元)」「当当網(35.5億元)」「凡客誠品(35億元)」「一号店(27.2億元)」「易迅網(23.7億元)」「庫巴網(21.0億元)」となっている。

 残念ながら、撤退した楽天による「楽酷天」やYahoo!ショッピングと提携した「淘日本」は、中国の消費者にとって無名なサイトであり撤退したが、それらだけではなく、実は上海のネットスーパーなど、いくつものサイトが撤退している。多くの小売企業のB2C参入と、一方でB2Cサイトが撤退したのを踏まえ、今年下半期はかつてクーポンサイトや動画共有サイトがそうであったように、淘汰に向かうのではないかと今年の上半期を振り返る記事がいくつも登場した。筆者自身もこうしたニュースの分析は、ありうるシナリオだと思う。

取引総額別B2Cサイトランキング前年比成長率別B2Cサイトランキング


中国版ポイントサイトの勢いにも陰り

返利網

 前述したように淘宝網サイトで出店すれば利用客が検索してやってくるのとは異なり、企業が新たにオンラインショッピングサイトを立ち上げてもそう簡単に消費者はやってこない。そこで、今年前半は「返利網」という類のサイトがいくつも立ち上がった。

 返利網はアフィリエイトないしはポイントサイトのようなもので、返利網を通して購入するとキャッシュバックされるというもの。「返利網」という名称はサイトのジャンルを示すと同時にサイト名でもあり、「返利網」と名乗るサイトは多数ある。これらのサイトはB2Cサイトからの広告収入で成り立っているが、どれだけ多くのB2Cサイトに対応しているか、どれだけキャッシュバック率が高いか、価格比較機能の有無はあるかなどで競争している。

 もっとも、返利網は中国全土で普及しているとは言い難く、普及に地域差はある。「沿岸部では普及している」「内陸部では普及している」といった話ではなく、内陸の一都市限定で口コミによってすごく普及しているところがあるという感じだ。

 広告収入を主とする本来の返利網とは別に、50%~100%キャッシュバックなど、高いキャッシュバック率をアピールする返利網を名乗るネズミ講サイトが地域的に登場しては、その地域で根付いてしまったことが原因だ。

 4月から返利網を名乗るネズミ講サイトが多数登場したようで、現在返利網は2000サイトあり、利用者は3000万人以上いると言われるが、そのうち100%キャッシュバックを謳うサイトは1000サイトはあると言われている。ネズミ講型サイトを警察が摘発し出したほか、6月6日にはB2Cサイト2位で家電に強い京東商城が「あらゆる返利網との提携を中止する」と発表するなど、数カ月前までの勢いに陰りが見られる。


老舗ポータルサイト「新浪」はモバイルでHTCと提携へ

 先月の当連載記事で、著名ポータルサイトらがOEMメーカーに依頼してスマートフォンを販売しようという動きが活発化していることを紹介した。一方で、老舗の人気ポータルサイト「新浪(Sina)」は、スマートフォンメーカーの台湾HTCと6月20日に提携を発表した。

 提携内容は、ひとつのアカウントで両社のモバイルペイメント、位置情報システム、SNS・微博(ミニブログ)を含む連絡先が利用できるというもの。新浪では、各サービスが簡単に利用できるスマートフォンの登場も示唆している。


中堅サイト「客引きのためポルノは使わざるを得ない」

 大手ポータルサイト「新浪」「捜狐」「網易」「QQ」を除けば、ポータルサイトやSNSサイト大手でもサイト利用者を呼び込むのは難しく、数字の結果を出すことを求められるベンチャーキャピタルなどの投資先に応えなければならないという事情がある中で、大手ポータルサイトに次ぐサイトですら政府が禁止するポルノコンテンツや賭博コンテンツに手を出している。

 中国新聞出版総署は、「ポルノコンテンツが含まれるサイト」62サイトを発表、警告した。そこには上述した大手ポータルサイトに次ぐ中堅ポータルサイトやSNS最大手「開心網」も含まれていた。

 メディア「毎日経済新聞」はこれについての記事を掲載。問題となったサイトに問い合わせたところ、「一般の美女や女性アイドル・女性芸能人」「共産党員と女性」の写真のある記事はよくクリックされるため、サイト運営のために使ってしまうという意見が多く出た。またそのために、ポルノ画像ともそうでない画像ともとれる画像を掲載しがちになるとのこと。


中国版4G「TD-LTE」商用サービス開始は年内を目標

 中国主導による3G「TD-SCDMA」をベースにした4G「TD-LTE」のリリース予定の話が出てきた。TD-SCDMAと同じくTD-LTEでも採用キャリアは中国移動(China Mobile)となるが、そのChina Mobileと端末メーカーのZTEは「現在北京でテストをしており、年内には端末をリリースする」とコメントした。

 ただ、年内に華々しくTD-LTEがスタートし、端末が多数リリースされるというわけではないようだ。来年上半期でも10製品程度のリリース予定となっており、100製品以上リリースされるのは2014年以降の予定だ。基地局に関しても2013年には20万超、2014年には世界に50万の基地局を建てるとしている。

 中国移動のTD-SCDMAは2G(GSM)のときの圧倒的な顧客数や田舎の集落までサポートするサポート体制で、W-CDMA方式を採用する中国聯通(China Unicom)やCDMA 2000方式を採用する中国電信(China Telecom)よりも利用者は多い。ただし、利用者の評判は良いとは言えない。中国メディアは4G報道とともに、「高価なフィーチャーフォンやスマートフォンは導入したけれど、速度が遅い」「GSMのときに中国移動を利用していたから利用したものの使えない」「iPhoneが満足に利用できない(GSMでしか利用できない)」といったTD-SCDMAが受け入れられていない現状を揃って書いている。TD-LTEでは利用者が速度面や端末ラインアップで他方式と張り合えるようになり、利用者を満足させることができるか。



関連情報

2012/7/13 06:00


山谷 剛史
海外専門のITライター。カバー範囲は中国・北欧・インド・東南アジア。さらなるエリア拡大を目指して日々精進中。現在中国滞在中。著書に「新しい中国人」。