山谷剛史のマンスリー・チャイナネット事件簿

中国ネット企業発の激安スマートフォンが注目を浴びる~2012年5月


 本連載では、中国のネット関連ニュース(+α)からいくつかピックアップして、中国を拠点とする筆者が“中国に行ったことのない方にもわかりやすく”をモットーに、中国のインターネットにまつわる政府が絡む堅いニュースから三面ニュースまで、それに中国インターネットのトレンドなどをレポートしていきます。

中国ネット企業発激安スマートフォンが注目を浴びる

 コストパフォーマンスに優れたスマートフォンが注目されている。きっかけはキングソフト(金山軟件)の雷軍氏が立ち上げた小米科技がリリースした「小米手机」なるスマートフォンだ。小米手机は高性能なCPUが載っている割には非常に安い価格で、かつ有力なOEMメーカーに生産を依頼しているということで、昨年8月の発売時よりネットで知る人ぞ知るスマートフォンとして注目されている。また、もうひとつの特徴としてMIUIというAndroidをカスタマイズしたOSが載っている。家電量販店でも普通に売られる人気商品となり、現在は月産60万台で年内には販売台数500万台を突破すると5月に報道された。

小米手机。1.5GHzデュアルコアCPUを搭載しながら1999元(約25000円)と安いのが魅力小米手机。1.5GHzデュアルコアCPUを搭載しながら安いのが魅力

 オンラインショッピングのアリババ(阿里巴巴)も、Androidと互換性のある独自OS「阿里云OS(アリババクラウドOS)」を開発。提携する携帯電話メーカーの天語などから阿里雲OS搭載のスマートフォンがリリースされ、こちらも販売台数が100万台を突破したと5月報道された。

 後を追うように、老舗ポータルサイトの「網易(NetEase)」や、検索の「百度(Baidu)」、チャットの「騰訊(Tencent)」も安価なスマートフォンをリリースするというニュースが多くあった。自社スマートフォンを利用させ、自社サイトに誘導させるのだろうか、メーカーではなくサイト運営企業がスマートフォンをリリースしようという動きがとにかく目立った5月であった。

 昨年はスマートフォンが一気に普及した年となったが、今年はネット企業のスマートフォンが発売されそれが人気を集めることで、一般的なスマートフォンの使われ方がもう少し変わっていくかもしれない。


スマートフォンを磁気カードリーダーにできる個人向け製品が登場

 スマートフォン人気から、中国独自開発を謳うスマートフォン用の磁気カードリーダーが登場した。 磁気カードのクレジットカード「銀聯」機能付きキャッシュカードをきって、支払いができる「拉〓拉(Lakala。〓は上と下の合わせ字)( http://www.lakala.com/ )」のスマートフォン版だ。

 小さなカードリーダー上でカードを切り、銀行口座の残高照会や返済や振込や支払などができる。上記の小米手机が5月23日に発売されたのを皮切りに、iPhone版やAndroid版などがリリースされる予定だ。

 なお、固定電話向け端末はすでに販売されており、コンビニや銀行などで導入されているほか、個人向けにも販売されている。

Lakalaのモバイル向け磁気カードリーダー


中国政府「2015年までにネット利用者8億人」

 中国政府工業和信息化部(工信部と略される)は、「互聯網工業“十二五”発展規劃(インターネット産業の第十二次五カ年計画)」を発表した。

 2015年までに、「インターネット利用者を8億人(利用率で換算すると約6割)」「都市部の家庭で20Mpbs以上の高速インターネットの利用」「インターネット企業による230万人の雇用」「オンラインショッピング市場規模を18兆元に(225兆円)」といった目標が盛り込まれている。

 現状はどうなのか。インターネット利用者は3月末の時点で5億2700万人(利用率は39%)、ブロードバンド回線利用戸数は1億5930万戸となっている。中国全土の都市部では、さらに高速なブロードバンド回線への乗り換えキャンペーンや、スマートフォン+3Gへの変更キャンペーンが積極的にキャリアなどから打ち出されているほか、上海など一部の都市では4GやFTTHがテスト運用されている。

 これまで中高年の利用率が特に少ないことが中国のインターネットの特徴だったが、省市別の普及率では北京で70.3%、上海で66.2%、広東省で60.4%、福建省で57.0%と沿岸部の一部地域ではこの世代格差は解消されつつある。今後中高年の間でスマートフォンへの乗り換えが進めば、3年後までに3億人増は難しいにしろ、利用者の増加率は目に見えて上がるだろう。

 オンラインショッピング市場は、この連載で何度か取り上げているが、見ず知らずの個人同士の取引でトラブルが多発していることから、C2C(個人対個人取引)の淘宝網(TAOBAO)から、B2C(企業対個人取引)の「天猫(旧淘宝商城)」「京東商城」「当当網」「凡客誠品」「Amazon中国(卓越亜馬遜)」などへ利用はシフトしている。「簡単に起業できるから」と多くの大学生が卒業後に淘宝網内でショップを開いているものの、消費者側には運営に信頼のおけるショップから買いたいというニーズがあるため、「オンラインショッピング市場規模を18兆元に(225兆円)」という目標が達成できるかはやや不透明だ。

 また雇用面でいえば、すでにAndroidプラットフォームの開発者の給料が下がっているという報道もある。「インターネット企業による230万人の雇用」という目標は少々ハードルが高いのではないだろうか。


中国政府が「スマートフォンやタブレットにGoogleのロゴやアプリ導入を禁止」との噂

 5月初めに深センの企業のページに載せられた、「中国政府工業和信息化部は、5月3日よりスマートフォンやタブレットにGoogleの文字やアプリ導入を禁ずる」というページのキャプチャ画像が多くの人々の間で伝播していった。実際、中国で販売されるAndroid搭載スマートフォンやタブレットにはGoogleマップやGmailなどが出荷時に搭載されていない製品が多いため、キャプチャ画像の文言の一部で「Google」ではなく「googl」となっているなど誤植もあるものの、このキャプチャを信じて不安になるインターネットユーザーも多かった。

 この噂に対して工信部は、すぐにその情報は事実ではないと否定。情報の出元となった深センの企業も偽情報だったとして謝罪した。

ネットを駆け巡ったAndroidでGoogleアプリ禁止のページ


淘宝網と観光地のコラボレーションサイトが人気

 中国ナンバーワンのオンラインショッピングサイト「淘宝網(TAOBAO)」の旅行予約サイト「淘宝旅行」で、世界遺産の観光地である雲南省「麗江(Lijiang)」の特設サイト(lj.taobao.com)を開設した。

 淘宝旅行が発行する9元(約120円)の「麗江カード」購入で、中国各地からのツアーや麗江発のツアーの予約や、中国各地から麗江への航空券、麗江のホテルやバーの利用が安くなる情報が載っている。淘宝網ほどの著名ブランドのサービスが、1地域を重点的に紹介し、かつさまざまな旅行サービスを安く提供するという試みは初めて。その背景には淘宝網と麗江市政府の提携がある。

 オンラインショッピングが好きで、かつ旅行が好きな人に訴えたこのキャンペーンの結果は、1週間で3万5000枚の麗江カード販売という結果を残した。つまり、3万5000人の麗江観光や現地での飲食という需要を掘り起こしたことになる。

淘宝旅行と観光地麗江のコラボレーション


「.中国」ドメイン登録可能に

 5月末に「.中国」ドメインの登録が一般でもできるようになった。「万網」や「新網」などのドメイン名登録サービスには、普段の20倍の登録申し込みがあるという。万網では、「.中国」ドメインが年320元で取得できるほか、キャンペーンとして「(登録者の姓名).中国」が年12元で取得可能となっている。

万網の12元ドメイン取得キャンペーン


新浪微博が政府関係者に「適度な萌えを」

 老舗ポータルサイトの「新浪(Sina)」とチャットソフト「QQ」の「騰訊(Tencent)」はミニブログこと微博で今もシェア争いをしている。新浪微博の登録ユーザー数は3億、騰訊微博の登録ユーザー数は4億を超えているという。もっとも新浪微博と騰訊微博に同時につぶやけるソフトが多くの人に利用されており、複数のミニブログを利用している人が多くいるようだ。

 これら中国有数のポータルサイト同士が囲い込みをしている中で、5月には元祖ミニブログサイト「做〓網(〓は口へんに舎)」がひっそりとサービスを終了した。

 そんな中、新浪が同社の微博の利用実態について調査結果を発表した。調査によると、6割のアクティブユーザーがスマートフォンなどのモバイル機器を利用している。具体的には、「iPhone(28%)」「Android(27%)」「WAP(25%)」「Symbian(9%)」「iPad(7%)」「Java(4%)」の順となった。利用者は1日平均60分間微博を利用しているという。

 新浪微博についてもうひとつ。利用者の利用ルールを定めた「微博社区公約」と政府関係者が利用するためのマニュアル「政務微博運営規範手冊」を発表した。

 利用ルールに関しては、「他人の名誉を尊重し、侮辱や誹謗中傷をつぶやいてはならない」「転載の場合、転載だとわかるようにつぶやき、改ざんリツイート禁止」といったことが主に書かれている。

 一方で、政府関係者向けのマニュアル「政務微博運営規範手冊」には、「専門スタッフを配置し、すばやく対処」「『適度な萌え』で接し、ただしネット用語だけで会話することはせず、ユーモアを交えよ」「間違いは素直に認め、しっかり謝り、政府の窓口としていい印象を与えること」「ネットユーザーと口げんかしたり、コメント機能をなくすようなことはしないこと、公私混同のつぶやきは控えること」などが記されている。


地図サービス「百度地図」にフロア案内機能を追加

 検索サイトの百度が提供する地図サービス「百度地図」にフロア案内機能が追加された。ショッピングセンター、デパート、学校、病院、映画館など比較的大きな建物や観光地について、建物をクリックするとフロア案内図が紹介されるというもの。現在6000カ所が作られているが、中国全土に大都市は点在しているので、まだまだ充実しているとは言い難い。過去に斜め視点の面白い3D地図サイトができたものの、その地図情報は更新されないままになっていることもある。フロア内でテナントが変われば地図データも変更しないといけないなど、更新が厄介ではあることは容易に想像できるが、物件数を増やして欲しいところだ。

 今後モバイル版にもリリースされる予定で、LBS(位置情報システム)との提携も期待されている。

百度地図のフロア案内


日本のクレジットカード情報を盗んでいた少年に懲役2年

 日本の6000件のクレジットカード情報を盗みだし、2万2000元(27万5000円)超の現金を引き出したとして、ハッカーの少年に懲役2年、罰金2万元(約25万円)を上海市長寧区の裁判所は命じた。

 少年は2~3年前に、人気のチャットソフト「QQ」のハッカーグループで「師父」と仰ぐ人からクラック技術を学び、昨年4月に「師父」とともに日本の複数のオンラインショッピングサイトに攻撃し、6000件超のクレジットカードを盗み出し、引き出した2万2000元を「師父」に与えたという。



関連情報

2012/6/18 06:00


山谷 剛史
海外専門のITライター。カバー範囲は中国・北欧・インド・東南アジア。さらなるエリア拡大を目指して日々精進中。現在中国滞在中。著書に「新しい中国人」。