俺たちのIoT

第20回

料理もネットに接続!? “料理IoT”は人々に導入メリットを示せるか?

フライパンをIoT化した「Pantelligent」

 生活のあらゆる場面で普及が進むIoTは、衣食住の1つとして重要な存在である料理の分野にも広がっています。しかし、料理におけるIoTは魅力に対して課題も数多く存在します。今回は“料理IoT”の製品を踏まえながら、料理にとってのIoTの可能性を考えていきたいと思います。

フライパンや鍋をIoT化~“作る”ための料理IoT

 料理IoTの中で最も多いジャンルが、“料理を作る手助けをする”ための機器です。「クックパッド」に代表されるレシピサイトが絶大な人気を誇ることからも分かる通り、日々料理をする人にとっては毎日の料理を考えたり、調理のコツを教えてくれたりと料理を助けてくれる存在はとてもありがたいものです。

 料理の道具として定番の1つでもあるあるフライパンをIoT化したのが 「Pantelligent」です。温度センサーとBLEを搭載しており、フライパンの温度をスマートフォンで確認できるだけでなく、作りたいレシピを選ぶとフライパンの温度状態を踏まえた上でレシピの手順を説明してくれるため、焼き加減が難しい料理も簡単に作ることができます。

 「Crock-Pot」という鍋ブランドの1つである「Crock-Pot WeMo enabled Slow Cooker」も、スマートフォン連携機能を備えています。こちらはWi-Fi機能を備えた鍋で、Panteliigentと同様に鍋の温度を感知して調節したり、タイマーを掛けてスマートフォンへ通知する、といった機能が利用できます。

 肉や魚などの素材を低温で長時間加熱する“低温調理”の機具として人気を集めているAnovaも、IoT対応した製品を発売しています。「Anova Precision Cooker - WIFI 2nd Gen」はその名の通りWi-Fiを搭載しており、スマートフォンから温度の調節を行なうことができます。

Wi-Fi機能を備えた鍋「Crock-Pot WeMo enabled Slow Cooker」
スマートフォンから温度調節を行える「Anova Precision Cooker - WIFI 2nd Gen」

 上記の製品は温度管理が中心ですが、「Drop」は、料理器具ではなく計測器をIoT化した製品です。野菜や果物などの素材を計量器の上に置き、アプリからその素材を指定することで、どんな料理が作れるかを判断したり、素材に合ったレシピを教えてくれます。レシピで指定された重量を確認しながら料理を作ることができるので、野菜や肉など見ただけで重さを把握することが難しい素材も簡単に調理できます。

 「June」は、庫内にカメラを備えており、中で調理している素材を自動で判別できるオーブンです。画像に加えて重さや温度も判別できるため、素材に対して最適な調理が可能なほか、カメラを使ってオーブン内の進行状況をドアを開けることなく確認することができます。

“はかり”をIoT化した「Drop」
調理している素材を自動で判別できるオーブン「June」

フォークをIoT化して食べる速さを計測~“健康”のための料理IoT

 料理IoTでは“作る”ための製品が多いものの、料理の本分でもある“健康”を意識したIoTもいくつか登場しています。

 「HAPIfork」は、食べる速度や頻度を計測、管理してくれるフォークです。食事をするペースをフォークが計測し、速すぎる場合はフォークが震えることで最適なペース配分を教えてくれます。本体はBluetoothとUSBポートを搭載しており、PCやスマートフォンと連携してデータを管理することもできます。

 クラウドファンディングサイトの「Makuake」を通じてクラウドファンディングを実施した「HACARUS キッチンスケール」は、素材の栄養素を把握できる製品です。食材を乗せてスマートフォンから食材を選ぶと、乗せた食材の分量に合わせた栄養素がスマートフォンに表示され、料理の栄養価を把握することができます(なお、本製品はMakuakeの更新情報が2016年8月に掲載された出荷延期の情報で止まっています)。

食べる速度や頻度を計測、管理してくれるフォーク「HAPIfork」

料理IoTのネックは、コストと水分?

 他の分野におけるIoTと同様、料理の分野でもIoTの導入が進みつつあるものの、その普及は簡単ではないようです。今回紹介した製品は記事執筆時点で購入できるものを中心にピックアップしていますが、ここでは取り上げていない製品の中には、発表時は料理IoTとして話題になったものの、現在は製品やプロジェクトが存在しないものがいくつか存在しました。

 IoTに限らずキッチン周りは、新ジャンルの製品が展開しにくいエリアでもあります。その理由はいくつかありますが、大きなものとしてはコスト的な課題があります。自宅で料理する場合は、特別なごちそうだったり、おいしさや健康面を追求するといった理由でも無い限り、基本的にはお金をかけるよりもコストを抑える方向にあります。

 そのため、電気的機構を備えてコストが高くなりがちなIoT機器は、よほどのメリットが感じられない限り、なかなか導入に至ることが難しいというのが実情です。食材の値段を毎日チェックして食費を抑えている立場からすると、数万円もするような機器の導入に二の足を踏むのはある意味当然のことでしょう。

 キッチン周りは電気機器にとって難しい場所という理由もあります。お風呂場ほどではないものの水しぶきが飛びやすいキッチン周りで電気機器を使うためには最低限の防水機構を備える必要があります。また、まな板や食材などを並べる場所の確保が必要なキッチンでは、余計な面積を使う機材が増えることも好まれません。

 冷蔵庫や電子レンジなどの電気機器を使うためにコンセントはキッチン周りにあるものの、水が飛ぶという理由からキッチンそのものにコンセントが用意されていることはあまりなく、そのため電気機器を使うにはバッテリーを使うか、ケーブルを取りまわしてキッチンに置かなければなりません。

料理IoTは、食洗機のように導入メリットを示せるか?

 課題も多い料理IoTですが、決して可能性が無いわけではありません。というのも、ウェブサービスにおいて料理というジャンルは人気コンテンツの1つだからです。冒頭で触れたクックパッドなどのレシピサイトはもちろんのこと、「C CHANNEL」のように調理の過程を最初から最後まで紹介するレシピ動画も人気を集めています。

 レシピサイトやレシピ動画は「料理のレパートリーを増やしたい」「料理の作り方を増やしたい」というニーズを満たしたコンテンツです。こうしたコンテンツが人気を集めるということは、サイトや動画といった見るだけのサポートではなく、実際に使う料理器具が料理の作り方をサポートしてくれる料理IoTは、今後の可能性が十分にある分野と言えます。

 また、コストの課題も、導入することがメリットにつながる、ということが認知されればクリアすることができます。例えば食洗機も、今までは「手で洗えばいい」と思われていたところから、「手で洗うより圧倒的に楽になる」という認知が進み、家庭での普及も進んでいます。コストの厳しい分野ではあるものの、導入のメリットをしっかり示すことができれば大きな可能性がありそうです。

甲斐 祐樹

Impress Watch記者からフリーランスを経て現在はハードウェアスタートアップの株式会社Cerevoに勤務。広報・マーケティングを担当する傍ら、フリーランスライターとしても活動中。個人ブログは「カイ士伝」