清水理史の「イニシャルB」
「使うのは私だけ」な人にもオススメな無線ルーター、手軽でコンパクト、しかも安価な NECプラットフォームズ「Aterm WF1200CR」
2017年6月19日 06:00
NECプラットフォームズから普及価格帯の無線LANルーター「Aterm WF1200CR」が発売された。スマートフォンの接続に最適な最大867Mbpsの無線LAN環境を、安く、手軽に実現できるシンプルかつスタイリッシュな製品だ。その実力を検証してみた。
低価格製品を積極的に選ぶ時代に
スマートフォンと、たまにPCがインターネットにつながればそれでOK――。
セキュリティ機能やファイル共有、ゲーマー向けチューンなど、最近の無線LANルーターの高機能化、多機能化は目を見張るばかりだが、そんな流れとは逆に「シンプルさ」を追求した製品にも注目が集まりつつある。
NECプラットフォームズから新たに登場した「Aterm WF1200CR」などに代表されるコンパクトで、低価格、シンプル、そしてスタイリッシュな無線LANルーター製品群だ。
必要な機能のみに絞り込んだ低価格な無線LANルーターは、従来から各社ともにラインアップしていたが、これまでは、価格以外に積極的に選ぶ理由が見当たらなかった。
この流れに一石を投じたのがバッファローの「WCR-1166DS」だ。スペックや価格はミドルレンジからローエンドといったところだが、個性的でコンパクトなデザインを採用することで、「これでいいか……」という後ろ向きの選択ではなく、「コレがイイ」という積極的に選べる魅力を製品に付加してきた。
今回、NECプラットフォームズからも「Aterm WF1200CR」という同様のコンセプトの製品が登場したことで、今後、この流れは無線LANルーターのもう1つのトレンドとして加速していくことになりそうだ。
NECプラットフォームズ Aterm WF1200CR | バッファロー WCR-1166DS | |
実売価格 | 4617円 | 3544円 |
2.4GHz速度 | 300Mbps | ← |
5GHz速度 | 867Mbps | ← |
WAN | 100Mbps×1 | ← |
LAN | 100Mbps×1 | ← |
2.4GHzアンテナ | 送信2×受信2 | ← |
5GHzアンテナ | 送信2×受信2 | ← |
ビームフォーミング | 〇 | ← |
モード | ルーター/ブリッジ | ROUTER/AP |
ボタン設定 | WPS/らくらく無線スタート | WPS/AOSS |
QRコード設定 | 〇 | ← |
スマートフォン設定 | Atermスマートリモコン | StationRadar |
消費電力 | 9.2W | 7.1W |
本体サイズ(W×D×H) | 41×108.5×110mm | 50×109×110mm |
「極技」で小さいのに高感度を実現
それでは実際に製品を見ていこう。
本体は手のひらサイズのコンパクトな設計で、従来のAtermシリーズとは異なる個性的なデザインが採用されている。
側面から前面を経て反対側までをカバーする白いパネルは、どこか小さなハードカバーの本を思わせるようなデザインだが、よく見ると真四角ではなく、エッジが斜めにカットされており、なかなか凝った形状となっている。
カラーリングにも清潔感があり、どの部屋にもなじみそうなホワイトを採用。通信機器らしい無骨さを一切感じさせない。最近のAtermシリーズは黒がイメージカラーとなっていたが、明らかに異なる方向性のデザインだ。
サイズは幅41×奥行108.5×高さ110mmと、まさに手のひらに収まるサイズで、従来のAtermシリーズとの比較で半分程度。アンテナももちろん内蔵されており、外観は非常にスッキリとしている。
最近の無線LANルーターは、再びアンテナ内蔵がトレンドになりつつあるが、NECプラットフォームズの製品には「極技」と名付けられた独自のアンテナ技術を持っており、世界最小クラスのサイズでありながら、ノイズに強い高感度のアンテナが搭載されている。
このサイズを実現できたのも「極技」の恩恵だが、アンテナ内蔵でも高感度の無線LAN環境を実現できることこそが、ただ小さく、スタイリッシュなだけではない本製品ならではの特徴と言えるだろう。
戸建てでも問題なく利用可能
機能的には、前述した通り非常にシンプルだ。
まずは、ハードウェア面だが、無線LANは5GHz帯がIEEE 802.11ac準拠の最大867Mbps(2ストリームMIMO)、2.4GHz帯がIEEE 802.11n準拠の最大300Mbpsとなっている。
無線LANルーターの速度は、ハイエンド製品で最大1733Mbps~2166Mbps(4ストリームMIMO)にも達するが、スマートフォンやPCなど、そこにつながる機器側の無線LANの速度は、ほとんどの場合、2ストリームMIMO対応の867Mbpsとなっている。
そう考えると、現状はAterm WF1200CRの867Mbpsで十分で、実用性としては申し分のない能力を備えていると言える。
また、ビームフォーミングにも対応しており、本体に搭載された2本のアンテナからの出力を調整し、スマートフォンやPCなどのクライアントに、ビームのように電波を集中させる機能も搭載されている。
長距離での通信に有利な機能だが、近中距離でも無線LANのスループットを向上させやすいため、低価格モデルとは思えないほどの性能を実現可能となっている。
以下は、木造3階建ての筆者宅にて1階にAterm WF1200CRを設置し、各フロアでiPerfによる速度を計測した結果だ。
場所 | Aterm WF1200CR |
1階 | 95.0 |
2階 | 92.8 |
3階 | 62.8 |
3階端 | 17.5 |
本製品はLANポートが100Mbps対応となっているため、今回のテストのように有線LANで接続された機器やインターネット接続の通信は、上限が100Mbps止まりとなってしまうが、3階でも62.8Mbpsが実現できている。
基本的には、ワンルームで自分だけが使うようなシーンや、ファミリーでも生活の中心がリビングなど限られた部屋だけといったシーンでの利用が想定されるが、上記の結果を見る限り、ファミリー向けの戸建てやマンションなどでの利用でも支障はなさそうだ。
11acをシンプルに
機能的には、非常にシンプルで、付加的な機能はほとんど搭載されず、「無線でつなぐ」ことに特化した製品となっている。以下は、同社製のほかのモデル(867Mbps対応の普及価格帯製品)と機能を比較した表だ。
Aterm WF1200CR | Aterm WF1200HP2 | Aterm WG1200HS2 | |
実売価格 | 4617円 | 4199円 | 7629円 |
2.4GHz速度 | 300Mbps | ← | ← |
5GHz速度 | 867Mbps | ← | ← |
WAN | 100Mbps×1 | ← | 1000Mbps×1 |
LAN | 100Mbps×1 | 100Mbps×3 | 1000Mbps×3 |
2.4GHzアンテナ | 送信2×受信2 | ← | ← |
5GHzアンテナ | 送信2×受信2 | ← | ← |
ビームフォーミング | 〇 | × | 〇 |
MU-MIMO | × | ← | 〇 |
モード | ルーター/ブリッジ | ルーター/ブリッジ/中継/コンバーター | ← |
見えて安心ネット | × | ← | 〇 |
こども安心ネットタイマー | × | 〇 | ← |
スマートフォン設定 | Atermスマートリモコン | ← | ← |
バンドステアリング | × | ← | ← |
オートチャネルセレクト | 〇(起動時のみ) | ← | ← |
Wi-Fi設定引越し | × | ← | 〇 |
消費電力 | 9.2W | 8W | 7.5W |
サイズ(W×D×H) | 41×108.5×110mm | 33×97×146mm | 33×97×146mm |
ほかの製品は、「見えて安心ネット」「こども安心ネットタイマー」など、無線LANの見える化や子どもの利用制限などが可能な機能を搭載しているが、Aterm WF1200CRにはこれらの機能に対応しない。
見えて安心ネットは、不正アクセスの防止にもつながるため、あった方が便利ではあるが、「こども安心ネットタイマー」は一人暮らしのユーザーには必要ない。こういった機能を削ってシンプルすることで、余計な機能を設定する必要がなく、価格的にも有利な上、初心者にもやさしい設計になっている。
無線関連の機能では、複数端末の同時データ伝送が可能なMU-MIMOに対応しないが、これも利用者が1人だったり、接続する機器が少なく同時に接続する機会があまりなければ支障はない。
2.4GHzと5GHzを1つのSSIDで設定し、クライアントに応じて最適な方に自動接続する「バンドステアリング」はあればベターだが、最近のPCやスマートフォンは5GHz帯が標準で使えるため、わざわざ2.4GHz帯を選ぶ必要もない。通信距離が遠かったり、遮へい物が多い環境では、5GHzではなく2.4GHzを選んだ方がいい場合もあるが、本製品の利用が想定されるワンルームなどの環境では、それも必須とは言えないだろう。
このほか、周囲の無線LAN状況を自動的に調査して、空いている2.4GHzのチャネルを自動的に選択するオートチャネルセレクトに関しては、起動時のサーチにのみ対応する。同じく、本製品を使う一人暮らしや少人数なファミリーでは、周波数帯の動的な変更が必要なほど2.4GHz帯に依存するとも考えにくいので、これも問題ないだろう。
「Wi-Fi設定引越し」機能が省略されている点は、個人的には残念だが、本製品の場合、無線LANルーターの買い替えというより、入学や就職で初めて一人暮らしをするようなユーザー層が多いと想定されるため、手持ちの端末をすべて接続し直すといっても、さほど手間は掛からないと言えるだろう。
このように、Aterm WF1200CRは、比較的、利用シーンが想定されており、それに合わせて機能がシンプルに絞り込まれている。
スペックだけを比べてしまうと見劣りしがちだが、「無線でつなぐ」というシンプルな目的を達成するために必要な機能はしっかりと備えられているので、実際の利用で不満を感じることはほとんどないだろう。
使いやすさは文句なし
シンプルであるのは、機能だけに限らない。設置やセットアップもシンプルで、無線LANの設置が初めての人でも迷わずに使えるように工夫されている。
設定は、PCを使わずスマートフォンのみで可能となっており、iOSやAndroid端末に「らくらくQRスタート」アプリをインストールしておけば、同梱のQRコードをカメラで読み取るだけで無線LANでの接続が完了する。
本体側の設定も「Atermスマートリモコン」というアプリを利用することで、スマートフォンから簡単に変更可能だ。“IPアドレス”など、無線LANルーターの設定に必要だった知識がまったくなくても問題なくセットアップできる。
感心したのは、ブリッジモードへの変更が推奨される点だ。国内では、多くのインターネット接続環境で、回線事業者やプロバイダーからルーター付きの通信機器がレンタルされるが、意識せずに無線LANルーターを接続すると、ルーターの機能(NAT)が2重に設定されてしまい、ゲーム機での対戦などがうまくできない原因などになる。
Aterm WF1200CRは、こういった状況が考慮されており、2重ルーターの構成で利用している場合には、「Aterm スマートリモコン」アプリから設定画面を開いたときに「ブリッジモードへの変更を推奨します」とのメッセージが表示されるようになっている。
具体的な変更方法を一言添えてくれれば完璧だったが、本体背面のスイッチを切り替えるだけなので、誰でも簡単に設定を切り替えることができるだろう。
無線LANルーターによっては、ブリッジモード(APモード)に切り替えると、本体に搭載されている一部の付加機能(子どもの接続制限機能など)が使えなくなることがあるが、本製品はもともとこういった付加機能のないシンプルな設計なので、メッセージを確認した場合は躊躇なく切り替えることをお勧めする。
なお、前述したように本機は対象外だが、NECプラットフォームズの製品はブリッジモードに切り替えても「こども安心ネットタイマー」などの付加機能が使えるため、もともとブリッジモードでの利用に適している製品であることも付け加えておく。
これを求める人は多いはず
以上、NECプラットフォームズのコンパクト無線LANルーター「Aterm WF1200CR」を実際に使ってみたが、スタイリッシュなデザインが好印象な上、使いやすさも兼ね備えた製品と言えそうだ。
特に使いやすさに関しては、単に機能が少ないから設定が楽という理由ではなく、初期セットアップや設定向けにアプリや設定画面がきちんと作り込まれており、シンプルであることを活かすための目に見えない工夫が非常にしっかりとしている印象だ。
想定される利用シーンは、ワンルームの一人暮らしと言えるが、少人数のファミリーでも十分に使える実力は備えている。子ども向けの機能や高度な無線機能など、多くの機能を望まないなら、積極的に本製品を選ぶメリットがありそうだ。
【記事訂正 2017年6月20日 11:40】
記事初出時、「Aterm WF1200CR」「Aterm WF1200HP2」「Aterm WG1200HS2」の機能比較表の一部に誤りがありました。お詫びして訂正いたします。