清水理史の「イニシャルB」
ついにWindowsが動くようになったSynologyのNAS「Virtual Machine Manager」を試す
2017年6月12日 06:00
SynologyのNAS向けに「Virtual Machine Manage」と呼ばれる新しいベータ版アプリが提供された。従来もDockerや同社製OS「DSM」の仮想化に対応してきたが、今回のアプリによりWindowsなど、より幅広い仮想化に対応したことになる。実際に同機能を試してみた。
オンプレに残るWindows Serverを「刈り取り」へ
いくらNASがリーズナブルで高機能になったとは言え、そう簡単にオンプレのWindows Serverからの完全移行はできない――。
そう考えている中小企業の現場も少なくないことだろう。
単純なファイルサーバーとしてだけ使っているなら問題はないが、Active Directory(AD)によるID管理やグループポリシーによる管理、各種業務アプリケーションの実行など、さまざまな用途にサーバーを利用している場合は、なかなか移行は難しい。
もちろん、最近のNASはADサーバー機能の実装や各種アプリによる情報系・業務系機能の提供など、汎用的なサーバーとしての機能を備えつつある。
しかし、既存のWindows Serverとまったく同じ機能が実現できるか? 移行してもユーザーの使い勝手は変わらないか? と問われると、さすがにそうはいかない。移行にかかる時間やコストを考えると、いくらNASがリースナブルとは言え、そのリプレイスは簡単にはできないわけだ。
そんな現場の苦悩を見越して、NASベンダー各社はNASにハイパーバイザー型の仮想化機能の実装を進めてきた。QNAPが先駆者となり、現在はASUSTORのNASなどでも広く利用可能となっている機能だ。
これにより、NASのハードウェア上で、NASとしての機能に加え、仮想化されたWindows Serverを同居させることが可能になり、いわゆるサーバー統合の実現が可能になった。
SynologyのNASも、これまでDockerによる仮想化や、「Virtual DSM」と呼ばれるNAS OS(DSM)の仮想化の機能を提供してきたが、今回の「Virtual Machine Manager」によって、ようやくWindows Serverなどの汎用的なOSを稼働させることが可能になった。
企業向けネットワークのメイン環境はクラウドへと移行しつつあるが、まだ中小企業の現場や部門単位では、オンプレミスのWindows Server環境が残っている場合がある。このようなWindows Serverを「Virtual Machine Manager」によるWindows仮想化によって、刈り取ろうという思惑なのだろう。
対応機種は限られる
まずは、「Virtual Machine Manger」の動作環境をチェックしておこう。
今回、リリースされた「Virtual Machine Manger」は、まだベータ版という扱いになっており、利用するには「パッケージセンター」の設定でベータ版アプリの利用を許可しておく必要がある。
また、利用可能な機種にも制限がある。現状対応しているのは以下となっており、さらにDSM 6.1.1以上のOS、Btrfsでフォーマットされたボリューム、4GB以上のメモリが利用の条件となっている。
- 17-series:「FS3017」「FS2017」「RS4017xs+」「RS18017xs+」「RS3617xs+」「RS3617xs」「RS3617RPxs」「DS3617xs」「DS1817+」「DS1517+」
- 16-series:「RS18016xs+」「RS2416+」「RS2416RP+」「DS916+」
- 15-series:「RC18015xs+」「DS3615xs」「DS2415+」「DS1815+」「DS1515+」「RS815+」「RS815RP+」
- 14-series:「RS3614xs+」「RS3614xs」「RS3614RPxs」
- 13-series:「RS10613xs+」「RS3413xs+」
- 12-series:「DS3612xs」「RS3412xs」「RS3412RPxs」
- 11-series:「DS3611xs」「RS3411xs」「RS3411RPxs」
今回は、メモリを16GBに増設した5ベイNAS「DS1517+」を利用したが、基本的には家庭向けのモデルでは利用できず、企業向けのモデルで利用可能な機能となっている点には注意が必要だ。
ちなみに、ベースとなる仮想環境は公表されていないが、SSHでログインするとQEMU関連のディレクトリが見つかるので、おそらくQEMUがベースとなっていると考えられる。
なお、今回の「Virtual Machine Manager」は、独自OSのDSMを仮想環境で稼働させて障害対策に利用する従来の「Virtual DSM」の後継にあたるアプリに位置付けられており、Virtual Machine ManagerにはVirtual DSMの機能も統合されている。
Windows Server 2016をインストールする
実際の使い方は、さほど難しくない。
アプリのインストール後、アプリを起動したら、まずはネットワーク接続用の仮想スイッチを作成する。ウィザードに従って、仮想マシンを接続するネットワークを選択しておこう。
なお、今回利用したDS1517+には、1000Mbps×4、10GbE×2を搭載しており、このうち1000Mbpsを3ポート利用してLAGを構成している。仮想スイッチの利用には「Open vSwich」のインストールが必要だが、LAGを構成している場合、ウィザードでOpen vSwitchを自動構成できない。このため、「コントロールパネル」の「ネットワーク」から、手動でOpen vSwithを有効化しておく必要がある。
仮想スイッチを作成したら、続いてOSインストール用のイメージを準備する。「システムイメージ」からウィザードを使って、インストール用のISOやVHDなどの仮想ディスクイメージを登録する。
一般的な仮想環境の場合、ファイルさえ参照できればISOなどのイメージを利用できるが、Virtual Machine Managerの場合、あらかじめ登録しておかなければならないのがポイントだ。
ここまで準備できたら、いよいよ仮想マシンを作成する。Virtual Machine Managerの「仮想マシン」で「作成」をクリックするとウィザードが起動するので、必要な情報を入力しながら設定していけばいい。
「ISOからインストール」を選択後、仮想マシン名、割り当てるCPU数、メモリ容量、インストール用イメージ(登録したISO)、ネットワーク(作成したスイッチ)、仮想ディスクの容量などを設定。その後、仮想マシンを利用可能にしたいユーザーに許可を与えておく。
作成した仮想マシンの電源をオンにすると、インストール作業が開始されるが、そのままでは画面を確認できないので、「接続」ボタンをクリックして仮想マシンの画面を表示する。
新しく開いたウェブブラウザーのタブを表示すると、そこに見慣れたPCの起動画面やISOから起動したインストーラーの画面が表示される。
本来ならヘッドレスモードでインストールしたいところだが、今回はテストのため「デスクトップエクスペリエンス(GUI)」ありを選択した。
と、ここまでは順調だったが、インストール先の選択でディスクが表示されない。ドライバーを認識できないため、ディスクを検出できないのだ。
ベータサイトの記述をよく読むと、Windows系OSのインストールには、別途、配布されている「Guest Tool」が必要とのことだったので、Virtual Machine Managerのベータ版の英語ページから「Guest Tool for Virtual Machine Manager」をダウンロードする。
仮想マシンの設定で「追加のISO」としてGuest ToolのISOを登録して、もう一度、インストールしてみた。
Windows Server 2016のセットアップ画面で「ドライバーの読み込み」を選択し、Guest ToolのISOからWindows Server 2016用のディレクトリを選択してドライバーを読み込んだところ、今回は無事にディスクを認識。これで、問題なくWindows Server 2016のインストールが完了した。
若干「重め」だが十分実用的
インストール後、ログイン画面が表示されたら、ウェブブラウザーの表示画面の左端にあるメニューを利用して、「Ctrl」や「Alt」キーの入力をエミュレートしつつログインすることで、問題なくWindows Server 2016が起動した。
ただし、そのままではストレージと同様にネットワークを認識しないので、起動後、もう一度、Guest ToolのISOを利用してドライバー類をインストールする必要がある。
準備が整った状態で確認したところ、NAS全体のシステムリソースはCPU使用率が50~60%ほどとなっていた。
インストール直後など負荷が高い状態でも、システム全体の半分程度のCPU使用率なので、複数の仮装環境を同時稼働させなければ、十分実用的と言えそうだ。
Windows Server 2016も、ウェブブラウザーの画面表示では描画が遅いが、リモートデスクトップを有効すれば、クライアントからさほどストレスなく管理することができる。さすがに物理マシンのようなキビキビ感はないが、仮想マシンとして十分実用的なレベルと言えそうだ。
スナップショットやエクスポートも可能
もちろん、仮想マシンとして動作させるだけでなく、スナップショットなど運用後に活用できる機能も搭載されている。
システム設定前などにスナップショットを取得して、いつでも以前の状態に戻せるようにすることができる上、保護ポリシーによって「1-hour」「1-day」「1-week」のいずれかで自動的にスナップショットを取得することも可能となっている。
また、仮想マシンは簡単にNASの共有フォルダーにエクスポート可能となっており、バックアップとして保管したり、NAS本体の交換時などにエクスポートしたイメージをほかの環境でインポートすることで復元することが簡単にできる。
ADサーバーなどを移行しても、その後の運用に困ることはないだろう。
ちなみに、今回はISOから仮想マシンをインストールしたが、VMDK、VDI、VHD、VHDX、IMGなどのインストール済み仮想ディスクから環境をインポートすることも可能だ。
試しにubuntuのサイトで配布されているイメージをインポートしてみたが、特に苦労することなく、そのまま稼働させることができた。ただし、すべてのイメージを読み込めるわけではないようで、試しにWindows 10のHyper-Vで使っていたWindows 10 ProのVHDXをインポートしたところ、起動ディスクが見つからないと表示され、起動に失敗した。
互換性がどれほどあるのかは、今後、さらに検証が必要と言えそうだ。
NAS活用の幅が広がった
以上、SynologyのNAS向けに新たに提供が開始された「Virtual Machine Manager」を実際に試してみたが、仮想環境として十分実用的ではないかと思える。
今回テストしたDS1517+の搭載CPUはAtom C2538(クアッドコア、2.4GHz)のため、複数インスタンスを同時に稼働させるのは厳しそうだが、小規模なオフィスや部門単位のサーバーの統合には十分と言えそうだ。
ただ、Linux系のOSを稼働させるならDockerの方が手軽な上に軽快なので、用途によって仮想化技術をうまく使い分ける必要がある。Virtual Machine Managerは、あくまでもDSMの多重化やWindows系のOSの仮想化に使う機能と考えるといいだろう。