清水理史の「イニシャルB」

「やさしいNAS」を目指すASUSTORの新OS「ADM 3.0」、
最新2ベイNAS「AS6302T」でテスト

初心者向けの設定・管理機能も追加

 ASUSTORのNAS向けOS「ADM」に最新バージョンの3.0が登場した。現在、ベータ版が公開中で、それほど遠くないうちに正式版もリリースされるものと思われる。

 このADM 3.0では、メジャーバージョンアップとして、UIが現代的に改良されたほか、初期設定や外部アクセスの仕組みなども改善。特に初心者向け機能については、使いやすさ・わかりやすさの点で大きく改良されている。

 今回は、2ベイの新モデルである「AS6302T」でこのADM 3.0を試してみた。

「メインの作業環境」としての利便性を追求した「ADM 3.0」アイコンやショートカットの管理機能が充実

 もはや「管理画面」という呼び方はふさわしくないのだろう。

 かつては、ストレージの構成やネットワーク設定、ユーザーの追加など、NASの「管理」のために用意されていたウェブベースのGUI画面だが、最近ではPCのデスクトップやスマートフォンのホーム画面を模したデザインが採用され、ユーザーごとに配置するアプリを変えたり、GUI画面上でファイル操作や、写真の整理ができるようになっている。

 NASを利用するには、PCのエクスプローラー、スマートフォンのアプリなど、さまざまな方法がある。ウェブベースのGUI画面を、これらと同様に日常的な「作業」のために使うことが珍しくなくなりつつあるわけだ。

 そんな中、台湾のNASベンダーASUSTORから登場したのが、同社のNAS向けに提供されているOSの最新バージョン「ADM 3.0」というわけだ。

ASUSTORのNAS向けOS新バージョン「ADM 3.0」。本稿執筆時点(2017年5月)ではベータ版だが、機能はほぼ網羅されており、細かなバグ修正を経てリリースされる予定

 マザーボードやスマートフォンなど、マニア向けの製品を手がけるASUSグループのNASだけあり、パワフルな上、ハードディスクを取り外して保管できるMyArchiveなどのユニークな機能を備えている点が特徴だが、今回のADM 3.0でソフトウェアやサービス面でさらなる進化を遂げている。主な変更点は以下の通りだ。


    ・解像度に合わせて最適に自動構成されるデスクトップレイアウト
    ・デスクトップのアイコンをまとめるグループ化機能
    ・よく使うフォルダーショートカットのデスクトップ作成機能
    ・リアルタイムモニタリングのためのデスクトップウィジェット
    ・アラートなどを見やすく表示するシステム案内機能
    ・使い方に迷わないオンラインヘルプアシスタント
    ・更新可能なアプリやADMのバージョンアップをバッジで通知
    ・Photo GalleryやSoundsGoodなどのメインアプリのショートカットの追加
    ・アプリのアイコンなどのADM 3.0デザインへの統一
    ・カスタマイズ可能なテーマの搭載
    ・二重ルーター環境にも対応するEZ-Connectによる簡単アクセス設定
    ・初期化時によく使うアプリの自動インストール機能

 従来の2.7からのメジャーバージョンアップということで、前述したGUI関連の変更が多いが、個人的には初期化時の自動アプリインストールやEZ-Connectによる簡単外部アクセス設定など、初心者にやさしいアップデートが含まれている点を高く評価したいところだ。

ハードウェアも進化Apollo Lake世代のCeleronを搭載

 ADM 3.0の詳細に迫っていく前に、ADM 3.0と合わせて利用したい同社製NASの最新モデルの詳細もチェックしておこう。

 ADM 3.0対応のNASとして新たに登場した新製品は、Apollo Lake世代のCeleronを搭載した高性能NASだ。本稿で紹介する2ベイの「AS6302T」はデュアルコアのCeleron J3355(2.0GHz)を搭載する。加えて、4ベイの「AS6404T」はクアッドコアのCeleron J3455(1.5GHz)もラインアップされている。いずれも強力なハードウェアスペックを活かしたマルチメディア性能の高さが大きな特徴となる。

ADM 3.0に対応した新型NAS「AS6302T」。2ベイタイプながらパワフルなCPUを搭載し、4K動画のトランスコードなども可能
正面
側面
背面

 具体的には、HDMI 2.0による4K映像と、S/P DIFによる音声の再生が可能な上、H.264(AVC)、MPEG-4 part2、MPEG-2、VC-1に加え、H.265(HEVC)、VP9のハードウェアトランスコードに対応する。これにより、4K対応のビデオカメラで撮影した動画を安全に保管しつつ、スマートフォンなどからも手軽に再生できるようになっている。

HDMI出力対応で動画などをテレビで再生可能
4K(H.265 HEVC)のハードウェアトランスコードにも対応。3840×2160ドット、29.97FPS、5分間のH.265 HEVC動画を1分53秒で360pにトランスコードできた
AS6302TAS6404T
市場予想価格5万2800円10万8800円
CPUCeleron J3355(デュアルコア、2.0GHz)Celeron J3455(クアッドコア、1.5GHz)
メモリDDR3L 2GBDDR3L 8GB
HDDベイ24
USB3.0×5(うちType C×1)
LAN1000Mbps×2
映像出力HDMI 2.0×1
音声出力S/P DIF×1
消費電力13.8W24W

 他社製品と比較した場合、ライバルとなりそうなのはQNAPの「TS-253B」あたりだが、家庭での利用を想定すれば、スペックも価格も過剰で、10GbE対応やM.2 SSDといったTS-253Bほどの拡張性も必要なく、CPUもデュアルコアで十分なので、価格的に半額程度(TS-253Bの想定価格は11万8000円)で、HDMI出力を備え、4Kトランスコードにも対応するAS6302Tのお買い得感は高い。

 価格面からは、Synologyの「DS716+II」(実売5万3000円前後)あたりも競合と言えるが、こちらはHDMI出力に対応しないので、リビングなどでテレビにつないで利用する用途にはAS6302Tが適している。コストパフォーマンスの高さという点でも、AS6302Tはかなり優秀と言えそうだ。

 2ベイのNASは、2万円前後の低価格なモデルが人気となっているが、多目的に使えることを考えると、個人的には、これくらいのスペックの製品を入手しておくことをお勧めしたいところだ。

 なお、筐体やデザインについては、従来モデルとほぼ共通だ。無骨なイメージがあるデザインだが、各所の建付けもしっかりとしており、動作音も静かだ。

ADM 3.0の改善点をチェックUIまわりを大きく改善、初心者向け機能も追加

 それでは、注目のADM 3.0の改善点をチェックしていこう。

 まずは、UI関連だが、全体的な印象は従来の2.7から大きく変わらないものの、細かな点が使いやすくなった。

リアルタイム表示ができる「ウィジェット」がデスクトップに追加、容量不足対策に?

 注目はウィジェットだろう。画面右上に「ツール」アイコンが追加され、ここをクリックすると、ウィジェットを貼り付けるためのスペースが表示されるようになった。

 「ストレージマネージャ」「アクティビティーモニター」「オンラインユーザー」「重要なログ」の4つあるウィジェットから、必要なものを追加すると、このスペースに常に表示して、それぞれの状況をリアルタイムで把握できる。

 複数ユーザーで、大きなデータの保存やバックアップ先などとしてNASを使っていると、気付かないうちに容量が足りなくなってしまうことがあるが、常日頃からウィジェットでチェックしておけば容量不足も事前に把握することが可能だ。

画面右側にウィジェットを追加可能。ストレージやCPU、メモリの状態をリアルタイムに把握できる

 なお、AS6302Tは、4つのHDDベイを利用できるUSB 3.0接続のエキスパンダー「AS6004U」に対応しているため、ストレージ容量の拡張にも対応できるようになっている。2ベイのAS6302Tでは対応できないRAID 6でストレージを保護したり、AS6302TをRAID 1で運用しつつAS6004Uをバックアップ先として利用することもできる。

 AS6004Uは、ASUSTORの独自技術である「MyArchive」にも対応しているため、特定ベイのHDDにデータをバックアップした後、カートリッジごと取り外してデータをオフラインで保管することもできる。ストレージの悩みをソフトウェアとハードウェアの両面から解決できるようになったと言えるだろう。

エキスパンダーの「AS6004U(右)」に対応したことで容量拡張も可能となった
USB 3.0経由でAS6302Tと接続する

NASアプリの増加に対応、アイコンのグループ化が可能に

 UIの変更点としては、デスクトップ上のアイコンがグループ化可能になった点も便利だ。

 画面がアプリのアイコンで溢れかえり、使いたいアプリを探すのに苦労することは、スマートフォンで誰もが経験済みだろう。最近のNASもアプリが豊富に用意されるため、同じように画面がアイコンで埋め尽くされてしまうことがある。

 しかし、ADM 3.0では、アイコンをドラッグして重ね合わせることで、簡単にグループ化できるようになっている。ユーザーの追加などを行うための管理系のグループ、写真や動画を参照するためのマルチメディア系のグループ、ファイルを整理するためのファイル操作系のグループなど、目的ごとにグループ分けしておけば、NASでの作業効率もアップすることだろう。

アイコンを重ねることでグループ化可能。グループを開くとアイコンを表示できる

フォルダーやアプリのショートカットが作成可能に

 また、「ファイルエクスプローラ」から特定のフォルダーをドラッグしてデスクトップに配置すれば、そのフォルダーへのショートカットも作成できるようになった。よく使うフォルダーを配置しておくと便利だ。

フォルダーのショートカットも配置できる

 アプリ関連の改善では、iOSのようにアップデートのあるアプリにバッヂが表示されるようになった点などもあるが、何といってもアプリショートカットが利用可能になったことが大きい。「設定」の「一般」にある「ページへのサインインスタイル」で「Appショートカット」を有効にすると、サインイン画面にアプリを起動するためのショートカットボタンが配置されるようになる。

 これにより、従来は「サインイン画面」→「サインイン」→「デスクトップ画面」→「アプリ起動」という複数の操作が必要だったところが、サインイン画面から直接「Photo Gallery」や「LooksGood」などのアプリを起動可能になった。アプリで写真や動画を管理するのが非常に楽になった印象だ。

アプリショートカットを配置することで、サインイン画面から直接アプリを起動できる

 このほか、テーマの設定でデスクトップやサインイン画面の色をカスタマイズできるようになったり、デスクトップから各種アラートやオンラインヘルプを素早く確認できるようになったりという改善も加えられている。最近のトレンドを押さえた「かゆいところに手が届く」改善と言えるだろう。

デスクトップやサインイン画面のデザインをカスタマイズ可能に。メンテナンス予定のメッセージなども表示できる

初心者に扱いやすくなった初期設定目的別に「アプリのセット」をまとめてインストール

 個人的に、今回のADM 3.0で最も関心したのは、初心者でも扱いやすくなった初期設定とネットワーク設定だ。

 初期設定に関しては、スマートフォンのアプリで設定できるなど、もともと工夫がなされていたが、今回のADMで初期設定時にアプリを自動インストールすることが可能になった。

「家庭用」「ビジネス用」を選ぶとアプリを自動インストール

 これまでのASUSTORのNASは、アプリは自分で選んでインストールするのが基本となっていた。自作ユーザー向けというか、同社のアプリに慣れていないユーザーは、どのアプリで何ができるのかを確認し、要不要を判断してインストールするという作業が必要だった。

 しかし、ADM 3.0では、初期設定のウィザードで「家庭用/個人用アプリケーション」「ビジネスアプリケーション」のいずれかを選択することで、それぞれに適したアプリが自動的にインストールされるようになった。

 例えば、家庭用/個人用を選択すると、以下のアプリがインストールされる。


    ・ASUSTOR Portal:HDMI出力用
    ・KODI:HDMI出力時のメディア再生用
    ・Photo Gallery:写真管理・表示用
    ・SoundGood:音楽管理・再生用
    ・UPnP Media Server V2:DLNAサーバー
    ・iTunes Server:iTunesサーバー
    ・LooksGood:動画管理・再生用
    ・Remote Center:リモコン操作用
    ・UPnP Media Server:DLNAサーバー
初期設定時に用途を選択することでアプリを自動インストール。家庭用/個人用の場合、右の画面のようなアプリがインストールされる

 これだけインストールされれば、すぐに家庭用のNASとして利用することができる。特に、従来はHDMI出力でメディアを利用するために、「ASUSTOR Portal」や「KODI」などをインストールする手間が必要だったが、これにより初期設定後、HDMIでディスプレイを接続するだけで、すぐに家庭用テレビなどに画面を表示可能になった。HDMI接続で使うための敷居がかなり下がったと言えるだろう。

外部からのアクセスを簡単設定する「EZ-Connect」、2重NAT環境にも対応

 続いて、ネットワークの設定で注目できるのは、外部アクセスを簡単に設定できる「EZ-Connect」の進化だ。

 従来のADM 2.7でも、UPnPを利用したルーターの自動設定などに対応していたが、ADM 3.0では、この仕組みがさらに進化している。例えば、ルーターが2台存在する2重NAT環境でも外部からのアクセスを可能にする「インターネットパススルー機能」が搭載された。

 実際、「NURO 光」では標準でレンタルされる無線LANルーター機能搭載のONUホームゲートウェイ「ZXHN F660T」の配下に、NECプラットフォームズの「Aterm WG2200HP」を接続した2重NATの環境でテストしてみたが、EZ-Connectでセットアップするだけで、ルーター側で何の設定をしなくても、外出先からのアクセスが可能だった。

 なお、PCの場合は、「AEC(ASUSTOR EZ Connect)」ツールを利用することで簡単にアクセスできる上、NASの共有フォルダーをドライブとしてマウントして利用することも可能。

外部からのアクセスを簡単に設定できる「EZ-Connect」。新たに2重NATの環境でも設定できるインターネットパススルー機能を搭載
2重NAT構成のネットワークをインターネットパススルーで構成後、外部ネットワークからアクセスしたときの様子。ベータ版のアプリではWindows 10 Creators Updateでドライブをマウントできなかったため、Windows 7を使用

 インターネットパススルーの場合、残念ながら、リモートアクセスのすべての機能が使えるわけではなく、「LooksGood」など一部のアプリを利用することができないが、環境を選ばずリモートアクセス環境が構築できるようになったのは大きな進歩と言える。

 すでに提供が開始されているスマートフォン向けのアプリ(AiMaster、AiFoto、AiData、AiMusic、AiDownload)なども、インターネットパススルー対応となっている上、Windows向けの専用アプリ「AEC(ASUSTOR EZ Connect)」も無償で提供され、PCからNASの画面にアクセスしたり、共有フォルダーをドライブとしてPCにマウントし、リモートから利用できるようになっている。

 ASUSTORやASUSの製品は、どちらかというと上級者向けというイメージが強かったが、今回のADM 3.0で難しいイメージがかなり払拭されたと言えそうだ。

インターネットパススルーでは黄色い「!」が記載された機能を利用できない点に注意

初心者でも使いこなせるハイパワーNAS

 以上、最新のADM 3.0および新モデルとなるAS6302Tをチェックしてみたが、3.0という大きな区切りに達したことで、だいぶNASとして洗練された印象だ。

 ASUSTORは、NASベンダーとしては後発と言えるが、今回のADM 3.0でNAS業界の全体的なトレンドを積極的に取り入れることで、ソフトウェアやサービス面でも引けを取らない実力を手に入れたことになる。もともとハードウェアの完成度とコストパフォーマンスでは定評があっただけに、他のNASベンダーにとって脅威となりそうだ。

 実売価格で5万円台となるため、2ベイとしては若干高価だが、4Kハードウェアトランスコードなど、パフォーマンス面での文句はないため、高性能なNASを求めている場合は購入を検討する価値はあるだろう。

 なお、最後に簡単ながらベンチマークテストの結果を掲載しておく。購入時の参考にしてもらえらえれば幸いだ。

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(協力:ASUSTOR)

清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できる Windows 10 活用編」ほか多数の著書がある。