第136回:次世代無線LAN技術「MIMO」の実力は?
最大108Mbpsを謳うバッファローの無線LANルータ「WZR-G108」



 バッファローから、次世代無線LAN技術の本命と言われている「MIMO」を採用した無線LANルータ「WZR-G108」が登場した。理論上の最大転送速度が、従来のIEEE 802.11a/gを凌ぐ108Mbpsという高速な製品だ。試用機をお借りすることができたので、早速、その実力を検証してみよう。


無線LAN高速化の需要

 無線LANの次なるステップへの進化が始まりそうだ。従来のIEEE 802.11a/gの理論上の最大速度は54Mbpsだが、今回、バッファローから発表された無線LANルータ「WZR-G108」では、これを大きく上回る最大108Mbpsでの通信がサポートされている。同様の製品は、プラネックスなどからも発売されているが、いずれも次世代のIEEE 802.11nでの採用が見込まれている「MIMO(Multi Input Multi Output)」が採用されているのが大きな特徴だ。


MIMO技術を採用したバッファローのWZR-G108。本体には3本のアンテナが装着されており、このうちの2本で同時にデータを伝送し、最大108Mbpsの通信を実現するIEEE 802.11g準拠の無線LANカード(WLI-CB-G54S)との比較。カード側にも複数本のアンテナが内蔵されているため、WLI-CB-G108(MIMO用)の方がアンテナ部分が若干大きい

 MIMOに関しては、次回以降、改めて詳しく解説したいと思うが、簡単に説明すると、複数本のアンテナ(WZR-G108の場合は2本)を利用し、それぞれで同時に通信を行なうことで「54Mbps×アンテナ本数」の速度を実現する技術だ。海外向けの製品では2チャネルを同時に利用(2倍の周波数を利用)することで、108Mbpsを実現する製品も存在するが、MIMOの場合、利用する周波数は従来のIEEE 802.11a/gと同じ1チャンネル分の20MHzとなっており、周波数を有効利用しつつ、高速化できるのが特徴と言える。

 とは言え、そもそも108Mbpsもの速度が必要なのか? という疑問を持つ人も少なくないことだろう。現状のIEEE 802.11a/gであっても、20~30Mbpsの実効速度を実現することが可能なため、ホームページの閲覧、メールの送受信といった使い方であれば、遅いと感じることはほとんどない。

 しかしながら、20~30Mbpsの実効速度が得られるのは、電波状況の良い場合の話であり、利用環境によっては十分な速度が得られないケースも少なくない。また、今後、さらにリッチなコンテンツを扱うようになることを考えると、20~30Mbpsという速度では足りない場合も考えられる。

 たとえば、以前本コラムで、ネットワーク経由でテレビ番組をNASに録画できる東芝の液晶テレビ「face 37LZ150」を取り上げたことがあったが、デジタル放送の録画・再生に関しては、無線LANでは帯域が不足し、満足に映像を再生できなかった。今後、デジタル放送のように20Mbpsを越えるようなビットレートの映像を無線環境で扱うことを考えると(実際にPCやネットワークで扱えるようになるにはまだ問題も多いが……)、現状のIEEE 802.11a/gでは、もはや速度が足りない場合もあるというわけだ。

 次世代のIEEE 802.11nでは、100Mbpsを越える実効速度が目指されているということだが、このような速度が実際に必要になるのも、そう遠くはない話かもしれない。





従来の無線LANと同様の感覚で利用できる

 早速、WZR-G108について検証していこう。まず、利用方法だが、MIMOだからといって何か特別な設定が必要になるわけではない。アンテナが3本装着されている以外は、普通の無線LAN機器と外観は大差ない上、設定方法なども従来の無線LANとまったく同じだ。


使い方は従来の無線LAN機器と何ら変わりはない。設定画面やユーティリティなども従来と同じだ

 具体的には、アクセスポイントの設定画面で、SS-IDや暗号化などのセキュリティ機能(WEP/WPA対応)を設定し、クライアントから付属のユーティリティ(従来製品と同じクライアントマネージャ 2)、もしくはWindows XPのワイヤレスネットワークを利用して、アクセスポイントに接続するだけだ。バッファロー製品ならではのAOSSもサポートされており、本体背面のボタンによる自動設定を行なうこともできる。接続後の通信速度が108Mbpsと表示される以外は、通常のIEEE 802.11a/g製品を使っているのと見分けがつかないほどだ。


本体背面に用意されたボタンでAOSSによる自動設定も可能

 もちろん、従来の無線LANとの互換性も確保されている。WZR-G108は、IEEE 802.11gをベースにした製品のため、従来のIEEE 802.11b/gとの接続も可能だ。試しに、手元にあるバッファロー製の「WLI-CB-G54S」、およびNECアクセステクニカ製の「WL54AG」でテストしてみたところ、当然のことながら速度は54Mbpsになるものの、問題なくWZR-G108に接続することができた。既存の製品とも接続できないわけではないというのは、ひとつの安心材料と言えるだろう。





実効40Mbpsでコンスタントに通信可能

 肝心の速度だが、速いことは確かだが、大幅に高速化されるというわけではないようだ。以下の表とグラフのように、筆者宅にて実際に速度を計測(FTP)してみたところ、最大速度は40Mbpsとなった。

Gigabit EthernetEthernetWZR-RS-G54HPWZR-G108
1000BASE-T100BASE-TXIEEE 802.11gMIMOIEEE 802.11g
20MB ZIPファイル(Mbps)GET159.25Mbps71.55Mbps29.36Mbps40.14Mbps28.45Mbps
PUT113.88Mbps62.7Mbps21.36Mbps21.70Mbps21.04Mbps
※サーバーにはバッファロー「Linkstation HD-HG250LAN」のFTPサーバー機能を使用
※クライアントにはAthlon 64 3000+、RAM1GB、HDD160GB(SATA)のPC(Windows XP PRO)を使用
FTP転送テスト

FTP転送テストのグラフ

 IEEE 802.11g準拠のWZR-RS-G54HP(フレームバーストEXなどを有効にした状態)の最大速度が29Mbpsであることを考えると、ほぼ3割増しといったところだろう。参考として、100BASE-TXと1000BASE-Tの速度も計測してみたが、やはり有線には到底かなわない。無線LANとしては確かに高速ではあるが、有線並みの速度と言うには、まだほど遠い印象だ。

 とは言え、実効で40Mbpsというのは、ひとつの壁を越えたと言っても過言ではない。たとえば、デジタル放送のビットレートは地上デジタルで17Mbps、BSデジタルで24Mbpsだ。実効30Mbpsの無線LANでは転送速度がぎりぎりのレベルだが、MIMOの40Mbpsであれば余裕ができる。実際にテストしたわけではないので、MIMOであればデジタル放送の映像伝送も可能と言い切ることはできないのだが、おそらく問題なく再生可能だろうと予想できる。従来の無線LANで不可能だったことが、1つでも可能になれば、それだけでも存在意義はあると言えるだろう。

 むしろ注目すべきなのは長距離伝送時の速度低下がほとんど見られない点だ。以下の表とグラフは、筆者宅(木造住宅)の1階にWZR-G108を設置し、1階、2階、3階の各フロアで速度を計測したものだ。

WZR-G108(MIMO)WZR-RS-G54HP(11g)
20MB ZIPファイル GET(Mbps)1F42.07Mbps29.52Mbps
2F41.72Mbps28.29Mbps
3F30.41Mbps7.98Mbps
※サーバーにはバッファロー「Linkstation HD-HG250LAN」のFTPサーバー機能を使用
※クライアントにはCeleron 1.6GHz、RAM512MB、HDD40GBのPC(Windows XP HE)を使用
※コマンドプロンプトのFTPを使用して計測
※1FにWZR-G108を設置し、各フロアで計測
長距離伝送テスト

長距離伝送テストのグラフ

 圧巻は、3階(床2つ、壁1つで遮蔽された環境)での計測結果だろう。比較対象として利用したWZR-RS-G54HPもAirStation Boosterと呼ばれる技術によって長距離伝送で有利な製品となっているが、3階では実効速度が8Mbps前後とガクンと落ちてしまっている。もちろん、WZR-G108でも速度の低下は見られるが、それでも実効30Mbpsを実現できている。

 テスト中、ユーティリティを利用してフォールバックの状況も観察してみたが、WZR-RS-G54HPは48Mbps~11Mbpsの間で頻繁に速度が切り替わった。一方、WZR-G108はほぼ108Mbpsをキープし、まれに96Mbpsにフォールバックする程度で、非常に安定した通信が実現できていた。もちろん、上記のテスト結果はあくまでも筆者宅に限られる話だが、この通信安定性は特筆に値する。

 どちらかというと、その最大速度に注目が集まりがちなMIMOだが、複数本のアンテナを利用することでマルチパス環境でも安定した通信ができるという特徴も備えている。この効果がうまく発揮された結果だと言えるだろう。





実行速度の高さに加え、通信環境の安定も手に入れられる

 このように、WZR-G108は、従来の無線LANに比べて、高い実効速度と安定した通信環境を手に入れることができる製品だと言える。

 もちろん、現状のMIMO技術がそのまま標準化されるかどうかはわからないため、誰にでもおすすめできる製品ではないことは確かだが、特に遮蔽物がある環境での通信安定性は極めて高いというメリットは大きい。場合によっては、電波環境の改善のために外付けアンテナを併用するよりは、確実に電波環境の改善の効果が期待できるだろう。

 価格も無線LANカードとのセットモデル(WZR-G108P)で希望小売価格が36,800円と、極端に高いわけではなく、従来のIEEE 802.11b/gとの互換性も確保されていることを考えても、現状の無線LAN環境を改善する一時的な投資として考えても悪くはないところだ。IEEE 802.11a/gでは不可能なリッチなコンテンツの伝送に利用したい、長距離伝送や遮蔽物のある環境で高速かつ安定した通信をしたいなど、現状の無線LANの性能に不満を覚えている場合は、十分に購入を検討すべき製品と言えるだろう。


関連情報

2005/2/22 11:05


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。