第152回:コンテンツをDVDにダウンロードする新しい映像配信スタイル
「ひかり de DVD」についてパワードコムに聞く



 パワードコム、東芝、東京電力の3社によって、「ひかり de DVD」と呼ばれる映像配信のトライアルサービスが提供されている。ブロードバンド環境を利用して、映像をDVDレコーダにダウンロードして視聴するという新しいスタイルのコンテンツ配信だ。その現状と今後の展開について、株式会社パワードコム マーケティング・商品統括本部 戦略プロジェクト推進部長の大槻氏に話をうかがった。





「ひかり de DVD」とは

 「ひかり de DVD」は、パワードコム、東芝、東京電力の3社によって提供されている映像配信サービスだ。東京電力のTEPCOひかりを足回りとして利用し、パワードコムが提供するネットワークから映像を配信、東芝製のDVDレコーダで視聴するというスタイルになっている。

 家庭用のテレビで利用可能な映像配信サービスは、すでに「4th MEDIA」や「BBケーブル」などがあるが、これらの既存のサービスが映像をストリーミングで配信しているのに対して、「ひかり de DVD」は映像をDVD-RAMにダウンロードしてから、もしくはダウンロードしながら再生できるのが最大の違いだ。これにより、映像を手元に残せるという「所有感」をユーザーに与えられるほか、一定期間のみの視聴に加えて、半永久的に映像を見ることができるセル(売り切り)モデルも実現している。

 個人的には、ストリーミングに広告モデルを採用したUSENの「GyaO」と並んで、映像配信サービスの分野に革命をもたらす画期的なサービスの1つだと考えている。





関西、中部、九州でトライアルを新たに開始

パワードコム マーケティング・商品統括本部 戦略プロジェクト推進部長の大槻健一郎氏

 このような「ひかり de DVD」は、昨年末からトライアルサービスが開始され、現在もトライアルサービスが行なわれている最中だ(今年9月末まで)。そこで気になるのは、やはり本サービスの開始がいつになるかだ。9月末でトライアルサービスが終了するということは、10月から本サービスが開始されるのだろうか?

 この点について、株式会社パワードコム マーケティング・商品統括本部 戦略プロジェクト推進部長の大槻氏に話をうかがったところ、「秋からの開始を目指しているが、あくまでも未定」という回答が得られた。

 大槻氏によると、「今後のトライアルサービスでは、エリアを拡大する予定」だという。現状のトライアルサービスは東京電力のTEPCOひかりを利用する関係上、東京エリアのみとなっているが、これが関西、中部、九州へと拡大される予定だ。「ケイ・オプティコム、コミュファ、BBIQなどの各事業者さんと話を詰めている最中で、今後は主に長距離での映像伝送をテストする予定(大槻氏)」。

 このようにエリアを拡大した場合、たとえば九州から東京のコンテンツサーバーにアクセスすることになるが、本サービス開始後、ユーザーが増えてきた場合のことを考えると、あまり効率の良いネットワークとは言えない。このため、大槻氏は「いわゆるCDN(コンテンツデリバリーネットワーク)も視野に、将来的には分散型のネットワークも検討中」としている。

 本サービスの開始には、当然ながらコンテンツの充実も大きな課題だが、それに加えて全国レベルでの展開を見据えた仕組み作りもカギを握りそうだ。





トライアルの追加募集はわずか、対応機もしばらくは現状のまま

ひかり de DVD対応DVDレコーダ「RD-X4TP」

 TEPCOひかりの加入者数の伸びや関西地区でのケイ・オプティコムのシェアなどを考えると、トライアルに参加したいと考えているユーザーも少なくなさそうだが、残念ながら実際に体験できるのは本サービス開始後となりそうだ。

 トライアルサービスの参加者は、現状400ユーザー程度だが、トライアル期間中に参加者枠はあまり広げない方針という。「拡大するエリアごとに各10ユーザー程度増やす予定で、既存の東京のサービスに関しては増やす予定はない(大槻氏)」。

 また、対応するDVDレコーダに関しても、パワードコムが実際に機器を供給する側ではないため、明確な回答は得られなかったのだが、少なくともトライアルサービス中は現行の専用モデル「RD-X4TP」を利用する予定のようだ。先日、パワードコムが主催した「POWEREDCOM FORUM 2005」にて、2004年秋以降の東芝DVDレコーダ一部製品で「ひかり de DVD」に対応可能との発表があったが、これはあくまでも商用サービス開始後の予定という。

 なお、東芝は単純な機器の供給だけでなく、ダウンロードしたコンテンツを保護するCPRMの技術的な部分や鍵配信サーバーの運用など、「ひかり de DVD」の根幹とも言える技術を供給している。一般ユーザーからしてみれば、東芝以外のDVDレコーダは対応できないのか? と疑問に思う点ではあるが、あくまでも個人的な予想としては「ひかり de DVD」として他社がサービスに参入するのは難しそうだ。

 現在、ひかり de DVDはDVD-RAMにのみ対応しているが、DVD-RやDVD-RWといったメディアにも対応する予定だという。大槻氏は「基本的には東芝さんの対応になるが、メディアが広がることで対応機種も広がり、他社製メーカーでも使えるということを示す意味でも価値がある」と語ってくれた。「DVD-RAMの場合、セルモデルでは1枚あたりの単価が高い。セルモデルはぜひともDVD-Rで対応したい(大槻氏)」ただし、DVD-RWなどではダウンロードしながらの再生が難しいなど、技術的な課題もあるという。





コンテンツの拡充を目指す

 前述したように、「ひかり de DVD」は既存のストリーミング型サービスと異なり、セルモデルを実現できるという大きなメリットがある。しかし、いくら技術的に優れていたとしても、最終的に映像配信サービスの優劣を決めるのは、やはりコンテンツだろう。コンテンツの拡充という点においては、どのような展望なのだろうか?

 大槻氏によると、確かにサービス(しかもトライアル)が始まったばかりということもあり、まだ「ひかり de DVD」に対するコンテンツ事業者の認識率はあまり高くないそうだ。また、コンテンツホルダー側はダウンロードという「ひかり de DVD」の仕組みに著作権上の懸念を示すことも少なくないという。しかし、現状のトライアルサービスの実績によって、今後、多くのコンテンツホルダーを獲得できるとしている。

 先日の「POWEREDCOM FORUM 2005」でも紹介されたが、3月時点で集計された「ひかり de DVD」のトライアル結果では、単純な件数では圧倒的に「レンタル>購入」となるものの、売り上げ高ベースでは海外のコンテンツホルダーの作品を中心に1,000円以下のセルビデオが高い売り上げを記録していた(ベスト30に10本ランクイン)。

 つまり、コンテンツホルダー側から見れば、レンタルよりも単価の高いセルビデオを販売する新たなルートを「ひかり de DVD」によって開拓できるということになる。「ハリウッドメジャーを中心にセルビデオの販売で実績を作り、仕組みとしての認知度を高めていけば、多くのコンテンツを集められるだろう」と大槻氏は語る。コンテンツの保護に関しても、CPRMでコンテンツホルダーを説得することは十分に可能だろう。

 もちろん、コンテンツに関しては、本サービスが開始されてみないことには判断しにくいが、このようなコンテンツホルダー側を説得できる武器があれば、最終的にコンテンツを豊富に揃えることも不可能ではなさそうだ。





本サービス開始が期待される

 このように、「ひかり de DVD」はまだトライアルで検証しなければならない点も多く、コンテンツに関しても決して十分ではない面もある。しかし、単純な映像配信サービスとしてだけでなく、セルビデオの流通経路を変える可能性を持ったその仕組みは非常に興味深い。

 足回りとして使われる回線が限られるのが最大の欠点ではあるが、本サービスが開始され、家電量販店の店頭に「ひかり de DVD対応」と書かれたDVDレコーダがズラリと並んだとしたら、「もしかすると……」と期待させるだけの魅力は十分にある。

 もちろん、現状のストリーミング型の映像配信サービスにもメリットはあるだろうが、個人的にはストリーミングは広告モデルを使った無料配信サービスへ、課金サービスは「ひかり de DVD」のようなダウンロード型のセルモデルへと発展していく方が面白いのではないかと感じた。


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2005/6/21 11:02


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。