第203回:IEEE 802.11nドラフト準拠で実効80Mbpsを実現
バッファローの無線LANルータ「WZR-G144N/P」



 バッファローから、IEEE 802.11nのドラフト版に対応した無線LANルータ「WZR-G144N/P(WLI-CB-G144N付属のセットモデル)」が発売された。「AirStation NFINITI」というIEEE 802.11nを意識したシリーズ名を付けられた製品の位置づけを考えつつ、その実力を検証してみよう。





IEEE 802.11nドラフト対応の注意点

 はじめに断っておきたいのだが、今回バッファローから発売された「WZR-G144N/P」を含め、現時点でIEEE 802.11nドラフト準拠を謳う製品、もしくはMIMO技術を利用した無線LAN製品は、すべて特殊な製品であることを理解しておくべきだろう。

 いずれの製品も、セットで利用することが想定されているアクセスポイントとクライアントの組み合わせ(もしくは同一チップ採用製品同士)では従来のIEEE 802.11a/b/gを凌ぐ高いパフォーマンスが期待できるが、他社製品との組み合わせでその速度が担保されるものではない。

 特に、今回のバッファロー「WZR-G144N/P」は、あくまでも現時点で1.0として提出されたIEEE 802.11nドラフトをベースに開発された製品だ。同じ製品の組み合わせで使い続けるのであれば大きな問題はないだろうが、改版されたドラフトや正式化されたIEEE 802.11nに対応した製品が登場した時、どこまで対応できるかは不明な部分が多い。

 もちろん、まったくつながらないという意味ではなく、他社製品やドラフトのバージョンが異なる製品であっても接続は可能だろう。また、同一チップベンダーの製品であれば、ドラフトが改版されたとしても、以前のドラフト版との下位互換性を確保してくることが期待できるため、現状の製品と将来登場する製品との相互運用でも、現状と同等のパフォーマンスを確保できる場合も考えられる。しかし、これらはあくまでも予想であり、確証はできない。

 IEEE 802.11gが登場したときも、ドラフト版として正式な規格承認の前に製品が登場していたが、今回のIEEE 802.11nの場合はさらに早い段階で製品が登場しているために状況が少し異なる。IEEE 802.11gの時はファームウェアのアップデートによって正式版の規格へ対応可能だったが、アップデート対応が不明なドラフト11nでは、あくまでも現時点で切実に速度が必要な場合、もしくは正式なIEEE 802.11n登場までのつなぎと割り切って考えられる場合にのみ利用すべき製品と言えるだろう。





うまく配置された3本のアンテナ

「NFINITI」ブランドの無線LANルータ「WZR-G144N」

 まずは製品の外観から見ていこう。これまでMIMO系の製品はアンテナの配置の問題から横型の製品がほとんどだったが、本製品は珍しく縦型のデザインを採用している。

 個人的には縦型の製品の場合、アンテナをどう配置するのかが気になっていたのだが、WZR-G144N/Pでは両サイドと後方にうまくアンテナが配置されており、デザイン的になかなかうまくまとめられている。従来のAirstationシリーズと同じデザインながら、若干、本体サイズが大型化されているが、見た目は現状のMIMO系製品の中ではもっともスタイリッシュではないだろうか。

 基本的な性能だが、前述したようにIEEE 802.11nのドラフト版に準拠しており、3本のアンテナのうち送信に2本(2ストリーム構成)、受信に3本利用することで、理論上144Mbpsの最大速度を実現することが可能となっている。もちろん、IEEE 802.11b/gにも対応しており、2.4GHz系の無線LANとの互換性もきちんと確保されている。

 なお、採用されているチップは未公表となっているが、高速化技術として「フレームバースト」が採用されていることからBroadcomと推測される。

 このほか、バッファロー製品ならではの特徴とも言える「AOSS」にも対応し、ブリッジモードへの切り替えが可能なスイッチも底面に備えている。使いやすさという点では、すでに定評がある同社製の製品を継承しているため、初心者から上級者まで、機能的な面での不満はまず感じることはないだろう。


「WZR-G144N」外観特徴的な3本のアンテナ

背面セットモデル「WZR-G144N/P」に同梱する無線LANカード「WLI-CB-G144N」

WZR-G144N/Pの設定画面。従来のAirstationシリーズと同様の使いやすさを備えている。もちろん、AOSSやインターネット接続環境を自動的に判断して設定する機能なども搭載している




気になる実効スループットを計測

 続いては最も気になるであろうパフォーマンスだ。前述したようにWZR-G144N/Pの最大速度は144Mbpsだが、もちろんこれは理論上の速度(変調速度)であり、メーカーが公表している実効速度はこれを下回る80Mbps前後となっている。そこで、実際に筆者宅(木造3階建て)にて計測した値が以下のグラフだ。

表1:FTPテスト
1F46.44Mbps
2F34.72Mbps
3F24.03Mbps
※サーバーにはAMD Sempron 2800+、RAM512MB、HDD160GB、FedoraCore3(ProFTPd)を使用
※クライアントにはPentiumM 1.73GHz、RAM1GB、HDD100GB、Windows XP SP2を使用
※クライアントのコマンドプロンプトからFTPコマンドを使用し、20MBのZIPファイルを転送
※値はGETの速度で単位はMbps。3回計測した平均を掲載している
※付属のユーティリティでMTUとRWINを推奨値に変更

表1のグラフ

 グラフを見てわかる通り、筆者宅での計測では1Fで最大46Mbpsと公表値の80Mbpsには届かなかった。もちろん、一般的なIEEE 802.11gの速度が20Mbps前後だということを考えると、2倍以上の速度を確保できているため相当に速いのだが、それでも期待していたほどの値ではなかった。

 この原因はいくつか考えられる。1つは、単純に筆者宅のテスト環境の問題で、HDDへの書き込みがボトルネックになっている可能性やサーバーとクライアントの両方のTCP/IP関連のパラメータのチューニングにも値が左右されている可能性がある。また、チャネルは干渉しないように設定してはいるが、筆者宅の周辺では常時2台程度のアクセスポイントが発見されるため、完全に干渉を避けられていないかもしれない。

 ただし、今回のテストではGETの値を計測しているが、試しにクライアントのTCP/IPの値をチューニング(AFD値を変更)してPUTの速度も計測してみたところ、1Fで70Mbps前後の速度を計測することができた。同社のホームページで公表されている80MbpsというFTPの計測結果はGETの値だが、筆者宅でPUTでこれに近い値を計測できたことを考えると、その方法が一般的かどうかは別にして、環境やチューニング次第では80Mbpsの速度が実現できる可能性はありそうだ。

 要するに、WZR-G144N/Pは、メーカーが公表するように実効80Mbpsを実現できるだけの性能を備えているものの、その実力を発揮できるかどうかは実際の利用環境に大きく左右されるということになる。

 ただし、個人的には、ピーク時のパフォーマンスはあまり重要だとは考えていない。無線LANは離れた場所で利用したいから導入することが多い。そう考えると、やはりMIMO系製品の最大のメリットは、長距離でも安定した通信ができる点にこそあるだろう。

 実際、今回のWZR-G144N/Pも3Fで20Mbps以上の実効速度を実現できている。これは確実に既存のIEEE 802.11gでは実現できない速度であり、この点こそがWZR-G144N/Pを購入するメリットの1つと言える。

 なお、前述したようにWZR-G144N/Pの最大速度は144Mbpsのはずだが、筆者宅の環境ではどうやっても130Mbps以上ではリンクしなかった。これもおそらく環境が影響しているものと考えられる。


同梱のクライアント向けユーティリティ「クライアントマネージャ3」。最大速度は144Mbpsのはずだが、筆者宅で確認できた最高速度は130Mbpsだった




購入判断は非常に難しい

 このように、WZR-G144N/Pは既存のIEEE 802.11gに比べて確実に高い速度を実現できる無線LAN製品だと言える。バッファロー製品ならではの使いやすさも兼ね備えており、現状のMIMO系製品の中ではおすすめできる製品と言ってもいいだろう。

 ただし、IEEE 802.11nドラフトに準拠したことのメリットは、現時点ではさほど感じられない。筆者宅で利用した限りでは、他のMIMO製品と比べてパフォーマンス的に明確なアドバンテージがあるとも言えなかった。個人的にはIEEE 802.11nドラフト準拠という点は置いておき、既存のMIMO製品と横並びの評価を与えたいところだ。あくまでも現状の規格では速度的に不満があるユーザー向けであり、このあたりをよく考慮して購入の判断をすべきだろう。


関連情報

2006/7/11 10:58


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。