第402回:つなぐだけで使える簡単ワイヤレスキット
バッファロー「WLAE-AG300N/V2」


 バッファローから発売された「WLAE-AG300N/V2」は、IEEE802.11n/a/b/gに対応した無線LAN製品だ。家電などの接続向けの製品だが、つなぐだけでつかえる手軽さや設置の容易さ、さらに中継器としても使える点などが注目の製品だ。その実力を検証してみよう。

家電向けに手軽さを重視

 ネットワーク対応のテレビやレコーダーを無線LANで接続したい……。バッファローの「WLAE-AG300N/V2」は、このような用途に適した無線LAN機器だ。

 「スターターパック」と名付けられたパッケージには、外見がまったく同じボックスタイプのユニットが2台セットで収められており、このうちの片方をインターネット接続用のルーターに、もう片方をテレビなどの機器にLANケーブルで接続することにより、無線LANでの接続が可能となっている。

 同様の製品は、他社からも販売されているが、本製品で特長的なのは、一般的な親機と子機の区別がない点だ。実は、厳密な意味で言えば親機・子機という役割はあるのだが、通常の無線LANのようなアクセスポイントとクライアントという構成で動作するわけではなく、いわゆるアクセスポイント間通信機能を利用して2台の機器がペアになっている。

バッファローのワイヤレスユニット「WLAE-AG300N/V2」。テレビなどの家電製品のワイヤレス化を目的とした無線LAN機器で、接続設定済みの2台がセットになったモデル。対応する無線LAN規格はIEEE802.11n/a/b/g

 このため、パッケージに収められている2台のうちの任意の1台を取り出し、ルーターに接続して電源を入れれば、それが親機となり、同様にテレビやPCに接続して電源を入れれば、それが子機となる。電源を入れたときに、親機・子機の判断が自動的に行われ、つなぐだけで利用できるようになっている。

 家電製品での利用を考えると、無線LANどころか有線LANの利用経験すらないユーザー層も想定する必要があるが、本製品であれば接続の段階で親機・子機の区別すら必要ないため、本当の意味で誰でも手軽に利用することが可能だ。

 無線LANの利用経験があると、かえって親機と子機を区別したくなったり、何か設定が必要なのではないかと思ってしまうのだが、そんな不安は不要なほど簡単に使える製品というわけだ。

正面側面背面

パフォーマンスはソコソコ

 というわけで、実際に使ってみたのだが、前述したように設定が一切必要ないため、本当にすぐに利用することができる。

 1台目にルーターのケーブルを接続し、本体の「POWER」ボタンを押すと、しばらくすると本体の「ワイヤレス」ランプが緑に点灯し、「ステータス」ランプが緑に点滅する。この状態で、2台目をPCなどに接続し、同様に「POWER」ボタンを押せば、同様にランプが緑に点灯して接続が完了する。後はPCなどでブラウザを起動すれば、普通にインターネットに接続されるというわけだ。

底面にLANポート2つと電源ケーブル用コネクタが用意されている。1台目をルーターに接続本体上部の「POWER」ボタンを押すと電源がオンになる。ルーター側に接続した方が親機として動作する

 ちなみに、前述したように親機、子機の判断は自動的に行われるようになっているため、いったん設定した後、親機と子機の端末を入れ替えて電源を入れ直しても、きちんとルーター側が親機、PC側が子機と役割が入れ替わるようになっている。このため、同梱されている端末は、本当にどちらをどこにつないでもかまわない。

 接続後、どの周波数帯を利用しているかは本体の「ワイヤレス」ランプの色で確認できる。本製品はIEEE802.11n/a/b/g対応となっており、5GHz帯の場合は緑、2.4GHz帯の場合はオレンジで点灯する。設定画面を見ても、標準では5GHz帯が優先的に利用されるように設定されているため、通常は緑のランプで点灯するはずだ。

 なお、AOSS設定が有効の場合、無線チャネルはグレーアウトしているため手動で周波数帯やチャネルは選べない。2.4GHzや5GHz帯を手動で選択したり、利用するチャネルを選びたいときはAOSSを解除しておくといいだろう。

5GHz帯使用時はワイヤレスランプが緑に、2.4GHz帯使用時は橙に点灯する標準では5GHz帯を優先する設定になっている。なお、AOSSが有効になっているとチャネルは選択できない

 実際の速度に関しては、本体サイズが小型でアンテナの配置位置が限られることと、LAN側が100BASE-TX対応となっていることから、さほど高速ではない。

 木造3階建ての筆者宅の1階に親機を設置し、1階、2階、3階の各フロアで速度を計測したのが以下の画面だ。クライアントにはThinkPad X200(Core 2 Duo P8600/RAM4GB/OCZ Vertex 120GB/Intel 82567LM/Windows 7 Ultimate)、回線には上下1Gbpsのauひかりを利用している。

 1階では下りで34Mbps、上りで86Mbpsとなった。環境の問題からか、上りに比べると下りが遅い傾向が見られたが、Readltek製のNIC搭載機、さらにMac OS Xでも同じ傾向が見られたので、無線側の特性という可能性も考えられる。

 一方、2階では下り30Mbps、上り26Mbpsとなり、3階では下り4Mbps、上り3Mbpsとなった。1階では明らかに有線LANの100Mbpsがボトルネックになっている印象だが、電波特性の関係か、2階・3階でもさほど速度はふるわなかった。

1階での計測結果2階での計測結果3階での計測結果

 インターネット接続などであれば問題ないが、テレビの映像配信サービスを利用したり、レコーダーで録画したハイビジョン映像をDLNA経由で再生するなどという場合、あまり距離が離れていると速度が足りない可能性もある。場合によっては後述する中継機能を利用することを考えた方が良さそうだ。

 ちなみに、バッファローの無線LAN機器は、40MHz幅を利用する倍速モードが標準で無効になっているケースが多いが、本製品は「20/40MHz自動選択」と標準で300Mbps通信が有効になっていた。しかしながら、実際の通信状況を見ていると、かならずしも40MHzが選択されるとは限らないようだ。

 テストしてみたところ、WLAE-AG300N同士が5GHz帯で接続される場合は40MHzが有効になるようだが、同じ5GHzでもPCなどの他の機器が無線LANで接続されている場合や、2.4GHz帯の11gで接続された場合は20MHz幅が選択された。おそらく混雑状況や互換性を考慮しての選択だろう。どうしても40MHz幅を利用したい場合はやはり手動で固定するしかなさそうだ。

 また、実際に利用する場合は設置方向などにも注意した方が良さそうだ。筆者宅でのテストでは、設置する方向によって、速度の結果がかなり左右された。内部のアンテナの配置状況がわからないので何とも言えないのだが、テストした限りでは、前面側を親機のある方向に向けた方がパフォーマンスが安定するように思えた。

 本製品は付属のアダプタで壁のコンセントに直結することもできるのだが、パフォーマンスを重視する場合は、ケーブルを利用してある程度、方向を調整できるようにしていおいた方が良いだろう。

背面のパネルをスライドさせると、コンセント直結用のアダプタ(同梱)を装着できるコンセントに直結。場所は取らないが、方向は固定されてしまう

中継器として利用する

 このように、本製品はどちらかというと純粋なパフォーマンスよりも、手軽さを追求した機器と言えるが、場合によっては家庭内の無線LAN環境を改善するための機器としても利用できる。

 本製品は、無線LAN中継器としても利用できるようになっており、アクセスポイントとクライアントの中間に設置することで、通信を中継し、電波の届きにくい場所でもクライアントを利用できるようにすることが可能となっている。

 中継器として利用する方法はいくつかある。1つは、今回のスターターパックをそのまま利用し、1台を親機、もう1台を中継器として利用する方法、もう1つは「エアステーション間通信」をサポートしているバッファロー製の無線LANルーターを併用し、無線LANルーターを親機、WLAE-AG300Nを中継器として利用する方法だ。

中継器として利用する場合のパターン。スターターパックをそのまま使うこともできるうえ、既存の無線LANルーター(要エアステーション間通信サポート)を利用する方法もある

 スターターパックの場合、特別な設定は不要だ。前述したように、標準でエアステーション間通信を利用してい2台の端末が接続設定されているため、1台目をルーターに接続後、2台目を中継地点に設置、PCなどのクライアントをAOSSで接続すればいい。

 エアステーション間通信が設定されている場合、どちらの端末も同じSSIDが設定されるため、これだけで近い方(中継)側にPCが接続され、電波状況が改善されることになる。

 一方、無線LANルーター(WZR-HP-G301など)を併用する場合は、AOSSを利用して、あらかじめWLAE-AG300Nを無線LANルーターに接続しておく。これで自動的にエアステーション間通信での接続設定がなされ、WLAE-AG300Nを中継器として利用可能となる。PCと親機の間にWLAE-AG300Nを設置すれば、通信が中継されるというわけだ。

 これにより、電波状況は確実に改善される。以下の画面は、中継器のあるなしによる電波状況とリンク速度の違いだ。筆者宅の1階に親機、3階にPCを設置し、中継器なしの場合(左)と中継器ありの場合(右)での違いを比較してみた。

中継器なしの場合(左)と中継器ありの場合(右)の電波状況とリンク速度の違い。ThinkPad X200内蔵無線LANで計測。なお、テストは標準設定で行ったが、2.4GHz、20MHz幅で自動的に接続された

 中継器がある場合、Windowsのユーティリティレベルでアンテナがフル表示になり、リンク速度も常に100Mbps以上が表示されるようになった。

 ただし、電波状況の改善とスループットの改善は別の話となる。WLAE-AG300Nの場合、中継機能は親機との通信にも同じ周波数の電波を使い、子機(PC)との通信にも同じ周波数の電波を使う。

 同じ周波数の電波が同一空間に存在すると、通常は混信するため、時間軸をずらして電波をやり取りする。つまり、上りならPC→中継器、中継器→親機、下りなら親機→中継器、中継器→PCというように通信が機器間で個別にバケツリレーされ、これがボトルネックとなってスループットが電波状況の改善ほど、スループットは向上しない場合もある。

 実際、前述した環境と同じ環境での速度計測結果が以下の画面となる。確かに速度は向上しているが若干物足りない印象だ。電波状況が150Mbps(20MHz幅のため)のフルパワーで接続されているので、前掲した1階並となる30Mbps以上の速度を期待したいところだが、実際には若干の速度向上にとどまっている。

中継器なしの場合(左)と中継器ありの場合(右)のスループットの違い

 もちろん、子機とは2.4GHz、親機とは5GHzのように中継器が電波を使い分ければ、干渉を回避できるためスループットのさらなる向上も期待できるが、本製品ではこのような周波数帯の使い分けはできない。

 このため、電波状況ほどにはスループットが改善されない場合も珍しくないと考えた方がいいだろう。環境によっては同等、もしくは従来以下のスループットしか出ない場合もある。筆者宅のケースでは、若干ながらスループットが改善したが、これは環境次第といったところだろう。

 中継器に関しては、ほとんど電波が届くか届かないような長距離の環境や遮蔽物を回避したい場合に利用するなら良いが、現状、それなりの通信速度で通信できている場合、効果があるかどうかは実際に使ってみないとわからない。中継器用途での導入を検討している場合は、慎重な検討が必要だろう。

ポイントは「手軽さ」

 以上、バッファローのWLAE-AG300N/V2を実際に利用してみたが、セットアップの容易さという点では、おそらく現状もっとも完成度の高い製品であることは間違いなさそうだ。マルチSSIDやクライアント間通信の遮断機能も搭載されているので、ゲーム機なども手軽に接続することができる。

 省電力機能も完成度が高く、LANポートに接続した機器の通信状況や電源オフに合わせて本体も省電力モードに移行するなど、よくできている。

 個人的には、通信ランプがムダに光らないのが非常に気に入った。一般的な通信機器は、通信するたびにビカビカとランプが点灯するが、家庭で使う場合はむしろ光らない方がありがたいところだ。

 よって、家電をつなぐなら、本製品はかなり有力な選択肢と言える。ただし、PCを接続することを考えると、100BASE-TXがボトルネックになるうえ、40MHz幅が有効にならない場合があるなど、あまりハイエンド志向の製品とは言えない。また、中継機能に関しては、効果がある場合が限られることもあるので、この機能を目的に購入するのは慎重な検討が必要だ。

 よって、あくまでも本製品のポイントは手軽さにある。とにかく手間なくPCや家電を無線LANでつなぎたいと考えている場合であれば購入する価値があるだろう。


関連情報


2010/8/17 06:00


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。