NAS向けHDD「Western Digital WD Red」登場! QNAPのNASでその実力を試す


 ウェスタンデジタルからNAS・RAID環境での利用に最適化された3.5インチHDD「WD Red」シリーズが発売された。低発熱、低消費電力でありながら、高いパフォーマンスと信頼性を実現したというその実力を検証してみた。

NAS運用で重要なHDD選び

 コンシューマー向け、エンタープライズ向け、という区別はこれまでにも存在したが、まさか「NAS向け」とまで細かくターゲットを絞り込んだ製品が登場するとは思いもよらなかった。

 ウェスタンデジタルから発売された「WD Red」シリーズは、NAS・RAID環境向けを正式に打ち出した初の3.5インチHDDだ。

ウェスタンデジタルのNAS・RAID向けHDD「WD Red」。写真は2TBモデルの「WD20EFRX」

 エンタープライズ向けで良いのでは? と思う人もいるかもしれないが、今回登場したWD Redシリーズは、データセンターや大規模な環境などのストレージ向けではなく、デスクトップタイプのNASや家庭向けのNASなど、中小、SOHO環境向けNASに最適化されたHDD。

 24時間稼働を想定した高い信頼性と耐久性、複数PCからのアクセス集中をさばくための高パフォーマンスを実現しながら、大幅な消費電力の削減と発熱の低下を実現している。

 NASを運用する際、HDD選びというのは非常に重要で、失敗すると、思ったようにパフォーマンスが出なかったり、騒音や発熱に悩まされたり、想定外の故障率に頭を抱えることになりかねないが、そんな心配をなくすことができるのが、今回のこの「WD Red」シリーズというわけだ。

 今回は、そんなWD Redシリーズの2TBモデル(WD20EFRX)をQNAPのNAS「TS-469 Pro」に装着して、速度や温度、消費電力などを調べてみた。比較対象として、同じくウェスタンデジタル製の3.5インチHDD「WD Green」シリーズ(WD20EARX)を利用し、実際の発熱や消費電力をチェックしていこう。

WD Redのテストに使ったQNAP 「TS-469 Pro」。CPUにAtom D2700を搭載し、従来製品よりも高速なアクセスを実現。Windows ADとの連携機能も強化されたうえ、ネットワークカメラを利用したソリューションにも手軽に活用できる


MTBF100万時間、3年保証

 まずは、HDD単体のスペックを確認しておこう。以下の表は、WD RedとWD Greenの2TBモデルの仕様を表にまとめたものだ。

【仕様比較】
WD Red
WD20EFRX
WD Green
WD20EARX
実売価格9,980円7,477円
インターフェイスSATA 6Gb/sSATA 6Gb/s
回転速度IntelliPowerIntelliPower
キャッシュ64MB64MB
MTBF(時間)1,000,000
保証期間3年2年
使用環境0~70度0~60度
消費電力(W)読み書き4.45.3
アイドル4.13.3
スタンバイ0.60.7
動作音(dBA)シーク2425
(※1)
アイドル2324
※1:パフォーマンスシークモード時 29dBA

 価格はWD Greenの7000円台には及ばないものの、最新モデルながらWD Redも1万円以下というリーズナブルな価格設定がなされている。NAS向けのHDDということで、従来のエンタープライズ向けHDDのように高価な価格を予想していた人も少なくないかもしれないが、実質的な価格は一般的なHDDプラスアルファと手頃だ。

上面側面底面

 注目は、やはり信頼性の高さだろう。WD Redでは、エンタープライズ向けのHDDと同様にMTBFの値が公表されている。MBTFは、Mean Time Between Failureの略で、平均故障間隔を表すものだ。一定時間あたりの故障率を表す値として古くから利用されているもので、考え方としては少々複雑なのだが、傾向として高い信頼性が求められる製品の方が値が大きくなると考えておくといいだろう。

 WD Redの100万時間というのは、同社が販売しているエンタープライズ向けHDD「WD RE4(Raid Edition 4)」シリーズの120万時間には及ばないものの、個人が手に入れられるHDDとしては、かなり高い値となる。もちろん、だからと言って故障する可能性がないわけではないが、家庭やSOHOなどの環境で、エンタープライズ向け製品並の信頼性のHDDが使えるというのがWD Redの魅力となる。

 このほか、使用環境もWD Greenより10度ほど高い70度までとなっており、過酷な環境での利用にも、ある程度耐えうる設計がなされていることもわかる。

 また、製品の保証が3年間となっている点も大きな特長だ。長期間データを保管するNASで、保証が長いというのはありがたい。専用の電話サポートも9:00―18:00(月―金)は日本語での対応、それ以外の時間帯は英語で24時間受け付けとなっており、安心して利用できるだろう。

 なお、WD Redの正規代理店であるテックウインドでは、NAS「QNAP TS-469 Pro」とのセットモデルを販売予定で、WD Redの3年/5年オンサイト保守サービスも提供する。長期間の運用ということを考えると、セットで購入するメリットがありそうだ。興味がある方は、テックウインドに問い合わせてみると良いだろう。


消費電力も発熱も低い

 信頼性については、実環境で長期間運用してみないことには、その実力はわかりにくい面があるうえ、環境や使い方によっても結果が変わる可能性がある。そこで、短期的なメリットとして期待したいのが、消費電力と発熱の低さだ。

 消費電力については、前掲の表を見る限り、稼働(読み書き)時の消費電力が0.9Wほど低くなっている一方で、アイドル時は逆に0.8Wほど増えているが、実際にNASに組み込んでみても、この傾向がしっかりと現れた。

 以下の表は、QNAP TS-469 Proに、WD Red、WD Greenのそれぞれを装着し、アイドル時と稼働時(RAID6構成時)の消費電力をワットチェッカーによって計測したものだ。

【消費電力比較】
WD Red
WD20EFRX
WD Green
WD20EARX
アイドル時39W36W
稼働時45W50W
※QNAP TS-469 Pro装着時、ワットチェッカーにて計測
※稼働時はRAID6構成時の値(CPU負荷20%前後)

 値を見ると、稼働時の消費電力はWD Redの方が5Wほど低いものの、アイドル時は逆に3Wほど高くなっている。企業など、複数のユーザーが利用する環境では、誰かしらがNASにアクセスすることで、稼働している時間が長くなる傾向にある。また、夜間などはスケジュール機能によって停止することができるため、稼働時の消費電力が抑えられているのは大きなメリットだ。

 なお、WD Redシリーズには、消費電力のコントロールやインテリジェントなエラー回復、予期せぬ電源断のデータ喪失を防ぐことができるNASwareと呼ばれるテクノロジーが搭載されている。アイドル時の消費電力が若干高くなっているのは、これらの機能による何らかの対策ではないかとも考えられる。

 一方、発熱についてだが、これもなかなか優秀だ。以下の表とグラフは、TS-469 ProにそれぞれのHDDを装着し、起動直後から10分おきにHDDの温度をSmart情報から記録した結果だ。一定の負荷を与えた際のHDD温度を計測するため、RAID6の同期を実行させ、その間のHDDの温度を調査した。なお、グラフについては、温度変化をわかりやすくするためにHDD2の値だけをピックアップしてある。

【HDD温度比較】
起動後直後10分20分30分40分50分60分70分
WD RedCPU3942434443444444
SYS3739404040404040
HDD 13132343535363637
HDD 23233343535353636
HDD 33133343535363636
HDD 43132333535353536
WD GreenCPU3942444545444545
SYS3739404140403940
HDD13235373839393939
HDD23135363839393939
HDD33134363738393940
HDD43134363739393940
※RAID6の同期を実行し、HDDへのアクセスとCPUに20~30%の負荷をかけた状態で計測
※HDDの温度はSmart情報から記録
※室温28.5度


 結果を見ると、やはりWD Redの温度の上がり方が低いことがよくわかる。両HDDとも、起動直後は31~32度ほどの温度であったが、10分後には早くもWD Greenが35度、WD Redが33度と2度の差が現れ、その後、急激に39度前後まで上昇するWD Greenに対して、WD Redは35~36度を上限に、非常にゆるやかに温度が上昇していく傾向が見られた。

 今回は室温28.5度の環境で、CPU負荷20%前後の稼働で調査したが、さらに室温が高い場合や負荷がかかる場合でも、WD Redであれば、さほど温度を気にする必要はなさそうだ。

 ちなみに、上記のグラフは設定画面から確認できる値となるため、実際の温度と異なる可能性もある。このため、放射温度計を利用し、NAS本体の温度、HDD本体の温度を計測したのが以下の表となる。

放射温度計を利用してHDDの表面温度を計測
【放射温度計による計測結果】
NASHDD
WD Red計測箇所前面側面背面天板表面
稼働直後27.229.333.829.728.9
稼働30分後28.230.534.330.835.1

 稼働30分後の値を比べてみると、Smartの値が35度で、放射温度計による温度が35.1度であった。測定する場所によって値が変わる場合もあるが、ほぼSmartと同じ温度と考えて良さそうだ。

 温度については、WD Redの正規代理店となるテックウィンドのWebページでも、詳細な情報が公表されている。温度をイメージ化した写真も参照できるので、参考にするといいだろう。


パフォーマンスも優秀

 このように、WD Redは、NAS用と呼ぶにふさわしい低い消費電力と発熱を誇るが、肝心のパフォーマンスについても心配は無用だ。

 以下の画面は、各HDDをRAID6構成でTS-469 Proに装着後、LAN2ポートにPC(Core i7 860/RAM 12GB/Intel Desktop CT/Windows 7 64bit)を直結し、CrystalDiskMark 3.0.1cを実行したときの値だ。

WD Red(左)とWD Green(右)、それぞれのCrystalDiskMark3.0.1cの結果

 わずかな差ではあるが、WD Redの方がシーケンシャルリード/ライト、ランダムリート/ライト、ほとんどの項目で高い結果を出している。当初は、低消費電力、低発熱ということで、パフォーマンスが押さえられているのではないかと思っていたが、そんな心配は無用であったわけだ。

 このほか、動作音についてだが、こちらもWD Green(シーク時25dBA)に比べて、WD Red(シーク時24dBA)の方が静かな設計となっているが、この違いについてはほとんど感じられなかった。WD Greenは高負荷時に若干アクセス音が聞こえてくる場合もあったが、それでも十分に静かで、ほとんど動作音は気にならなかった。このあたりは、WD Greenでも十分といった印象だ。


NAS用HDDのスタンダード的存在

 以上、ウェスタンデジタルのNAS向けHDD「WD Red」シリーズを実際に検証してみたが、低消費電力で低発熱でありながら、十分なパフォーマンスを体感できる非常にコストパフォーマンスの高いHDDと言える。

 このような基本性能の高さを考えると、一般的なPC用として使うのも十分に「アリ」と言えそうだが、高い信頼性と充実したサポートを考えると、やはり大切なデータを長期間保存するNAS向けにオススメしたいところだ。省電力が叫ばれるこれからの時代を考えても、NAS向けHDDの新しいスタンダードと言っても過言ではないだろう。

 なお、冒頭でも触れたが、本製品は、基本的には中小規模環境向けのNAS用のHDDとなる点には注意したい。今回、テストに利用したQNAPのTS-469Proでは推奨HDDとされているうえ、テックウインドによるセットモデルも販売されるが、同じQNAPのNASでもTS-669ProやTS-869Proなど、大規模な環境向けのNASでは、より高い信頼性を備えた企業向けのWD RE4シリーズなどが推奨ドライブとなる。この選択は間違えないように注意したいところだ。

 個人的には、小型のNAS、それも静音性を重視して、ファンレス、もしくはあまり大きなファンが搭載されていないNASのHDDとして利用するのが適してるのではないかと思える。コンシューマー向けのNASの中には、正直、廃熱などがあまり考慮されていない低価格なベアボーンも存在するが、そういった製品の欠点を、このWD Redで補う手もありそうだ。ぜひ、いろいろなシーンで活用したいHDDだ。



関連情報

2012/8/21 06:00


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。