第60回:アクセスポイント間通信でネット家電の無線化に挑戦
HDD&DVDビデオレコーダーやネットワーク対応テレビなど家電にもネットワーク端子が装備されることが珍しくなくなってきた。これらを有線ではなく、無線で接続するためのひとつの選択肢となるのが無線LAN機器に備えられているアクセスポイント間通信機能だ。IEEE 802.11g対応機器を利用し、実際にアクセスポイント間通信をテストしてみた。
●意外に少ないEthernet
現状、筆者宅のリビングには、前回紹介した松下電器産業のネットワーク対応テレビに加え、同じく松下電器産業のHDD&DVDビデオレコーダー用ブロードバンドレシーバー、ソニーのルームリンクと、合計4台のネットワーク家電が設置されている。半分は仕事だとしても、よくもここまでネットワーク家電を買ったものだと、我ながらあきれてしまう。
今回、これらの機器が増えてきたこともあり、ネットワーク環境を見直してみることにした。これまで、これらの機器は、ソニーのルームリンクのみをIEEE 802.11aに準拠したEthernet接続のメディアコンバーターで接続し、その他の機器をIEEE 802.11bのメディアコンバーターで接続していたのだが、IEEE 802.11gが普及してきたこともあり、IEEE 802.11g環境に統一してみようと考えたわけだ。
しかし、実際にネットワークを構築しようとすると、意外に対応機器がないことに気がついた。IEEE 802.11aはそれほどでもないが、IEEE 802.11bであれば、ネットワーク端子に直接接続できるメディアコンバーターが各メーカーから多数発売されている。しかし、IEEE 802.11gに対応したメディアコンバーターは、ソニーから「CWA-DE30」が発売されているくらいで、他社はまだ未発売だ。しかも、ソニーの「CWA-DE30」は1台の機器にしか接続することができず、ハブを利用して複数の機器を接続することはできないため、この方法での接続はあきらめざるを得なかった。
そこで、今回はアクセスポイント間通信を利用することにした。アクセスポイント間通信とは、文字通り2台のアクセスポイント間での通信を可能にする機能のことで、離れた場所にあるLAN同士を無線で接続する場合などに利用される。この機能を利用することで、前述した複数のネットワーク家電を無線接続することが可能になる。
アクセスポイント間通信の利用イメージ。2台のアクセスポイントを利用することで、離れた場所にあるLAN同士を無線で接続することが可能となる |
しかしながら、アクセスポイント間通信もすべての無線LAN機器でサポートされているわけではない。特にIEEE 802.11gの場合であれば、現状はメルコのAirStationシリーズでしかサポートされていない。前述したメディアコンバーターも含め、IEEE 802.11bのときはあれほど多かったEthernet to Wirelessのソリューションが、IEEE 802.11gではほとんど存在しないのが現状だ。もちろん、IEEE 802.11gは6月12日に正式承認されたばかりの規格ではあるが、他のメーカーも、もう少しこのようなソリューションの提供に力を入れてほしいものだ。
●設定は簡単。手軽に利用できる
というわけで、今回のアクセスポイント間通信のテストには、IEEE 802.11g対応のメルコの高スループットルータ内蔵モデルとなる「WHR-G54」と、アクセスポイントである「WLA-G54」という2台の機器を利用した。
現時点では、WHR-G54のみがベータ版のファームウェアで正式にIEEE 802.11gに対応していることを考えると、これを2台利用する方がパフォーマンス的に有利だとも考えられるが、ルーター機能を搭載した機器を2台も購入する意味がないうえ、価格的にもWLA-G54が安いため(実売で13,000円前後。WHR-G54は19,000円前後)、今回はこの構成を取ることにした。
なお、IEEE 802.11bのメディアコンバーターの価格は、同じメルコの製品となる「WLI-T1-S11G」で11,000円前後の実売価格となっている。イーサネット接続機器の無線化ソリューションとして、IEEE 802.11g準拠のメディアコンバーターが登場するのを待つのもひとつの手だが、価格的にはアクセスポイント間通信が可能なアクセスポイントと比べてもさほど開きはない。現時点で、イーサネット接続のソリューションが必要なら、この構成を選ぶのもひとつの手だろう。
さて、実際の接続だが、これは非常に簡単だ。両方でアクセスポイント間通信(WDS)の機能をオンに設定し、それぞれの機器に接続相手の機器のMACアドレスを登録する。あとはチャネルやESS-ID、WEPの設定などを両方でそろえておけば、実際にアクセスポイント間通信が可能になる。無線LANの設定をしたことがあるユーザーであれば、迷うことなく設定できることだろう。
WHR-G54のアクセスポイント間通信設定画面。アクセスポイント間通信を有効に設定し、接続相手となるアクセスポイントのMACアドレスを登録する。相手側のアクセスポイントでもほぼ同じ設定を行なえば、アクセスポイント同士での通信が可能となる |
●単体利用時のパフォーマンスは良好
気になるパフォーマンスだが、実際にテストしてみたところ、アクセスポイント間通信でも十分な速度が確保できることが確認できた。
まずは、基準となる速度を計測する意味で、ノートPCにPCカードタイプの無線LANアダプタ(同じくメルコ製のWLI-CB-G54)を装着し、WHR-G54に接続したときの速度をFTPにて計測。その後、アクセスポイント間通信で接続したWLA-G54にEthernetでノートPCを接続し、まったく同じテストを実施してみた。
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結果は、上記の通りだ。アクセスポイント間通信時の方が若干、速度が遅いが、それでも20Mbpsを少し欠ける程度と通常接続時と遜色ない速度を実現できている。距離が離れた場合(2F)の速度の落ち込み方もほぼ同等となった。
ただし、アクセスポイント間通信の場合、十分なパフォーマンスが得られるのは、それぞれのアクセスポイントに機器を1台しか接続しなかった場合のみのようだ。試しに、WLA-G54内蔵のハブに、ノートPCに加え、他のネットワーク家電を接続してみたところ速度は半分近くまで低下してしまった。
細かなパケットの流れまで検証していないので、これはあくまでも予想にすぎないが、おそらく接続した他の機器からの通信によって、無線の帯域が狭められてしまっているのだろう。実際、今回接続したネットワーク家電の中には、定期的に通信を行なうものが含まれている。これによって、FTPの速度が低下したと考えられる。アクセスポイント間通信の場合、複数台の機器を無線で接続できるのが最大のメリットだが、接続した他の機器からの通信によって速度が低下する可能性があることも十分に考慮しなければならないと言えそうだ。
なお、今回のテストでは、WHR-G54のみIEEE 802.11g正式規格に準拠したベータ版のファームウェアを利用し、WLA-G54に関してはIEEE 802.11gのドラフト版のファームウェアを利用している。よって、今回のアクセスポイント間通信では、メルコのIEEE 802.11gの正式規格対応ファームウェアに搭載されているフレームバースト機能などが使えない状態でのテストとなっていることをお断りしていおく。WLA-G54側のファームウェアが更新されれば、もう少しパフォーマンスの向上が見られる可能性もあるだろう。
●ビデオ伝送などでは工夫が必要
このように、今回、IEEE 802.11gのアクセスポイント間通信について検証してみたわけだが、単体利用時のパフォーマンスには問題ないものの、利用形態によっては速度が変動することが確認できた。通常の接続であっても、1台のアクセスポイントに対して、複数台のクライアントから同時に通信すれば速度は低下するので、仕方がないと言えばそれまでだ。
よって、今回は、リビングにあるネットワーク家電をすべてIEEE 802.11gで接続するという筆者の個人的な目的はあきらめることにした。リビングに存在するほとんどの機器は、それほど高い速度を実現できなくても問題ないのだが、ルームリンクだけはそうはいかない。ルームリンクを問題なく利用するためには、最大8Mbpsのビットレートの映像を伝送するだけの速度が要求される。テスト結果の数値だけを見ると、複数の機器を接続しても10Mbps程度の速度を実現できているので、十分に映像伝送に耐えうる速度を実現できていそうに思えるかもしれないが、実際にビデオ映像を伝送してみると、再生の数分後あたりから映像と音声にズレが生じ始めるという現象が確認できた。ブロックノイズなどはほとんど発生しないのだが、腹話術のように映像と音声にタイムラグがある映像を観る気にはなれない。
やはり、現時点では、ビデオ伝送(ルームリンク)には今まで通りIEEE 802.11aを使い、その他の機器の接続にだけ、IEEE 802.11gのアクセスポイント間通信を利用するというのが現実的な環境のようだ。IEEE 802.11gのアクセスポイント間通信自体は、手軽に利用できるEthernet to Wirelessのソリューションだと言えるが、このようなビデオ映像の伝送に利用する際には、その利用形態に十分注意する必要がありそうだ。
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2003/6/24 11:18
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