第78回:アンテナを囲むだけでOK
プラネックスのワイヤレスブースターでお手軽電波対策
プラネックスコミュニケーションズから、無線LANのパフォーマンスを向上させる「ワイヤレスブースター GW-BST01」が発表された。ついたてのような形をしたブースターをアンテナを囲むように設置。たったこれだけで、無線LANのパフォーマンスが向上するという面白い製品だ。早速、その効果を検証してみた。
●電波環境を改善するには
無線LANのパフォーマンスを向上させるのに最も効果的な対策といえば、電波状況を改善することが挙げられるだろう。アクセスポイントとクライアント間の電波状況を改善し、電波を送受信しやすくすれば、それだけフォールバックが発生する頻度が下がり、より高い速度での通信が可能になる。
しかし、実際に電波状況を良くするにはどうすればいいのか? と問われると、これはなかなか難しい。無線LANの電波状況は、住環境に大きく左右されるため、口で言うほど簡単には電波環境を改善しづらい。壁やドアなどの遮蔽物がある環境では、どうしても電波の強度は下がってしまう。まさか、電波が届きやすくなるように、壁を壊したり、ドアや窓を開けっ放しにして使うというわけにもいかないだろう。
もちろん、アクセスポイント(またはアンテナ)の位置や向きを工夫すれば、多少なりとも、電波環境を改善することができる。しかし、これだけでは絶大な効果を期待するのも難しい。
また、外付けのアンテナを設置するという手もある。ただし、この外付けアンテナというのは、効果は期待できるものの、意外に値段が高い。例えば、店頭でもよく見かけるバッファローの外付けアンテナは、指向性、無指向性とも定価が5,980円で、実売価格でも5,800円前後だ。アクセスポイントや無線LANカードが低価格化していることを考えると、割高感は否めないだろう
そんな状況の中、プラネックスコミュニケーションズが発売するのが、今回、取り上げた「ワイヤレスブースター GW-BST01」(980円)だ。メーカーの発表によると、これをアクセスポイントのアンテナに設置するだけで、電波の受信感度が20~30%程度向上するという。
プラネックスの「ワイヤレスブースター GW-BST01」。設置するだけという手軽さ、980円という低価格から、注目を集める製品と思われる |
●電波に指向性を
この製品に対する一般的な印象は、正直なところ「本当か?」というところかもしれない。筆者も本サイトのニュース記事でこの製品をはじめて見たとき、同じような印象を持ってしまった。失礼な話だが、子供の頃に話題になったピラミッドパワーのようなものを思い出してしまった。
しかし、ワイヤレスブースターの仕組みを見てみると、決して摩訶不思議な製品ではないことがよくわかる。要するに、この製品は電波に指向性を持たせる製品なのだ。アンテナを囲むようにワイヤレスブースターを設置すると、ワイヤレスブースターの表面で電波が反射する。これによって、特定の方向に対して電波を強く発信させようというのがその狙いだ。電波は壁などに当たって反射することがあるが、その状況を意図的に作り出して電波状況を改善するのが、このワイヤレスブースターということになる。
利用イメージ |
なお、このワイヤレスブースターには、電波に指向性を持たせるほかに、干渉を防ぐという効果もある。これは、電波に指向性を持たせる仕組みの逆と考えればいいだろう。アンテナを囲むようにワイヤレスブースターを設置することで、外部からの電波やノイズを同じように反射、アンテナへの干渉を防いでくれる。一般的には、電波強度を高めるという使い方になると思われるが、この特性を活かせば、干渉を防いだり、オフィスの電波空間を分割するなどの使い方もできる。家の外に電波が漏れないように対策したい場合などにも効果的だろう。
●見た目と違って実力派
とは言え、理論通りの効果が期待できるのかに疑問を持つ読者も少なくないことだろう。そこで、実際にどれくらい速度が向上するのかを筆者宅でテストしてみた。その結果が以下の表だ。
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1Fにアクセスポイントを設置し、2F、3Fで速度を計測。ワイヤレスブースターを設置した方が確かに高速な結果となった |
ワイヤレスブースターを使わない場合、そしてアクセスポイントとクライアントの双方に設置した場合のそれぞれで速度を計測してみたが、確かにワイヤレスブースターを設置したほうが速度は高速だ。特に3Fのテスト結果は圧巻で、ワイヤレスブースターを使わない場合に比べて4Mbpsもの速度向上が見られた。正直、PCの画面に18Mbpsを超える速度が表示されたときは、何かの間違いかと思って何度もテストをやり直してしまった。
ワイヤレスブースター設置時の電波状況を表示。速度的には向上しているが、電波強度のグラフとしてはあまり変化は見られなかった |
なお、ワイヤレスブースターは、本来、同社製の製品のように外部アンテナが装着されているアクセスポイントに用いる製品だが、今回は手元に外部アンテナを備えたアクセスポイントがなかったため、他社製のアクセスポイントでテストしたことを付け加えておく。
これでも電波に指向性を持たせることは可能だが、他社製のアクセスポイントの場合、ワイヤレスブースター自体の設置がかなりしづらいうえ、多少、性能に違いが出る可能性も否定できない。特にアンテナ内蔵で、しかも高さのある縦型のアクセスポイントの場合(ワイヤレスブースターの高さは14cm強)、ワイヤレスブースターと相性があまり良くないと言えるだろう。
●上下方向は苦手
このように、ワイヤレスブースターは確かに効果がある製品と言ってもいいだろう。しかし、ここでひとつ注意したいのが設置方向だ。上記のテスト結果を見て気づいた読者もいるかもしれないが、今回のテスト結果では3Fに比べて、2Fの結果があまり良くない。
これは、ワイヤレスブースターの特性が良く表われた結果だろう。前述したように、ワイヤレスブースターは電波に指向性を持たせる製品だ。このため、アクセスポイントとクライアントの位置関係が、ワイヤレスブースターで矯正された電波の方向と一致しなければ、それほど効果が出ない。
筆者宅の場合、1Fと2F、3Fといったように無線LANの通信方向は主に垂直方向(上下)だ。このため、今回のテストでは、多少、イレギュラーな方法でワイヤレスブースターを設置している。具体的には、以下の写真のように、アクセスポイントの下にワイヤレスブースターを設置するという使い方だ。つまり、斜め上方向に指向性を持たせたため、3Fではちょうど良い方向に電波が矯正されたのに対し、2Fでは多少、その範囲からクライアントが外れてしまったようだ。
上方向に指向性を持たせるため、アクセスポイントの下にワイヤレスブースターを設置。写真中の矢印方向にクライアントが存在する |
もちろん、アクセスポイントとクライアントの位置が、電波の方向と一致するように、ワイヤレスブースターを調整すれば良いのだが、この製品の場合水平方向で使うことを前提として設計されているため、上方向に電波が指向性を持つように設置するのは、ほぼ不可能になっている。たとえば、真上に電波を向けたい場合、開いたワイヤレスブースターの角を下にして立てなければならない。補助の足などを付けない限り、これは難しい。
試しにクライアント側にも設置してみた。実際には斜め下方向にアクセスポイントが存在するのだが、設置場所が限られるため真下に電波が向くようにしか設置できない |
●クライアント向けの製品が欲しい
つまり、最終的にワイヤレスブースターを購入すべきかどうかの判断は、アクセスポイントとクライアントの位置関係に左右されることになる。水平方向での通信に用いるのであれば問題ないが、筆者宅のように垂直方向での利用にはあまり向いていないと言えるだろう。
また、いわゆる家庭内モバイルでの利用にも注意が必要だ。ワイヤレスブースターをアクセスポイントに設置するのであれば、クライアントの方向に電波が向くように、きちんと調整しなければならない。しかし、家庭内モバイルのように、家庭内のさまざまな場所でクライアントを利用する場合は、クライアントの位置を固定しにくい。そうなると、ある程度は電波状況にムラが出てしまう可能性がある。利用場所によっては、以前よりも電波状況が悪くなってしまうケースが出てくることも考えられるだろう。
試しに、わざとクライアントの無線LANカードを囲み、電波を遮るようにワイヤレスブースターを設置したところ、やはり速度の低下が見られた(3Fで12Mbps前後)。設置の仕方次第では、パフォーマンスを十分に発揮できない可能性もあるという良い例だ。
無線LANカードを囲むようにワイヤレスブースターを設置。この場合、やはり速度の低下が顕著に見られた |
アクセスポイントの位置が動くことがないことを考えると、個人的にはクライアント側に設置できるようなワイヤレスブースターが欲しいと感じた。無線LANを内蔵したPCの場合は難しいかもしれないが、その方が場所に応じて電波の方向を調整できるため、より高い効果が期待できる。せっかく、低価格で、しかも手軽に無線LAN環境を改善できる製品なのだから、もう少しバリエーションが増えてくるとうれしいところだ。
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2003/11/11 10:49
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