第132回:迷惑メール対策にオススメ
RSSにも対応した次世代メールクライアント「Thunderbird 1.0」



 昨年末、Mozilla Foundationから日本語版の「Thunderbird 1.0」がリリースされた。どちらかというとブラウザの「Firefox」に注目が集まっているが、Thunderbirdもかなり完成度の高いメールクライアントで、特にその迷惑メールフィルタ機能は強力だ。Thunderbirdの概要と迷惑メールフィルタの実力に迫ってみよう。





メールクライアントを移行

 今年の初め、数年ぶりにメインで利用するメールクライアントを乗り換えた。これまでは、ジャストシステムのShurikenを利用していたのだが、これをThunderbirdへと完全移行したのだ。

 もちろん、Shurikenもメールクライアントとしてはかなり完成度の高い製品だったのだが、唯一、迷惑メール対策機能があまり高くない点に不満があった。セキュリティ対策ソフトと組み合わせれば、迷惑メール対策も可能ではあるのだが、個人的に利用しているウイルスバスター2005は設定を「高」にしても取りこぼしが目立ち、Norton Internet Securityに至ってはスパムフィルタを有効にしたとたんにメールの送受信に時間がかかるようになるなど、いまひとつ効率的な対策ができないのが悩みであった。

 そこで、試してみたのが前述したThunderbirdだ。「迷惑メールにお別れを」というキャッチコピーに惹かれて使ってみたのだが、確かにこの言葉に偽りはなかったと実感できた。





Outlook Expressなどからの移行も手軽

 Thunderbirdの導入は極めて簡単だ。Mozilla FoundationのサイトからThunderbirdをダウンロードし、インストールを実行する。はじめて起動すると、メールアドレスなどの設定画面が表示されるので、ここに必要な情報を登録しておけばいい。このあたりは、通常のメールクライアントとほぼ同じ使い方だ。

 もちろん、Outlook Expressなど既存のメールクライアントを利用していた場合は、その設定を移行することも可能だ。初回起動時に移行を選択すれば、アカウントや受信したメールなどをそのままThunderbirdでも利用できる。残念ながら筆者はOutlook Expressユーザーではないため、完全にデータを移行できるかをテストできなかったが、試してみた限りではフォルダに分類されたメールやアドレス帳など、ほとんどのデータをきちんと移行できた。

 唯一、移行がうまくできなかったのは、アドレス帳のグループだ。グループ自体はThunderbirdの「リスト」として登録されるが、グループに登録されているメールドレスは未登録となってしまった。

 なお、Thunderbirdでは、複数のメールアカウントが設定されている場合に、すべてのアカウントで共通の受信トレイ(ローカルフォルダ)を利用する方法と、各アカウントに個別に受信トレイを用意する方法の2通りを選択できる。Outlook Expressから設定を移行すると、標準では共通のローカルフォルダを使う設定になるが、設定を変更すれば個別の利用も可能だ。


Outlook Expressから移行した場合、標準では複数アカウントで共通のローカルフォルダを使う設定アカウントの登録時に「ローカルフォルダ」を使わない設定に変更すれば、アカウントごとに個別のフォルダを用意することも可能

 個人的には、どうもOutlook系の共通フォルダという使い方になじめないのだが、この設定ができるおかげで複数アカウントも従来のShurikenのように使うことができている。これもメールクライアントをThunderbirdに完全移行できた理由の1つだ。設定次第で、既存のメールクライアントとほとんど変わらぬ操作感が得られるのも、Thunderbirdの特徴と言えるだろう。

※編集部注:現在、Norton AntiVirusとThunderbirdを併用した場合に、ウイルス検出後にメールボックスが削除されるという事象が確認されております。詳細と回避方法は下記をご参照下さい。

□Norton AntiVirus 200x でウイルスの検出後メールボックスが削除される(シマンテック)
http://service1.symantec.com/SUPPORT/INTER/navjapanesekb.nsf/jp_docid/20040601192002958





迷惑メールを的確に排除

迷惑メールフィルタの設定画面。迷惑メールと判断したメールを迷惑メールフォルダやごみ箱に自動的に移動させることも可能。ホワイトリストの設定も変更できる

 さて、肝心の迷惑メールフィルタだが、これは「ツール」メニューの「迷惑メールフィルタ」で設定できる。標準では、迷惑メールはアイコンが付けられるだけだが、「ごみ箱」に直行させることや「迷惑メール」フォルダに移動させることもできるので、好みに応じて設定しておくといいだろう。

 実際に利用してみたところ、確かにThunderbirdの迷惑メールフィルタは強力だ。筆者の場合、外部に公開しているメールアドレス宛に、1日あたり数十件ほど、わけのわからない英語のメールや知り合いを装ったやけにフレンドリーなご招待のメールを頂くのだが、これが受信トレイからきれいになくなった。


筆者宅の環境で、迷惑メールとして判断されたメールの例。英語の迷惑メールはかなり高い確率で判断できる(左画面)。日本語の迷惑メールに関しては、取りこぼしも多少あるため、学習が必要(右画面)

 まだ迷惑メールフィルタの学習効果が十分ではないため、まれに「ミカさん」や「マキさん」という見知らぬ女性からのメールが受信トレイに残ったり、海外からのニュースリリースなどが間違って迷惑メールと判断されてしまうことなどもあるのだが、以前の環境に比べれば、はるかに受信トレイがクリーンになった。Thunderbirdを使い始めた当初は、念のためウイルスバスターの迷惑メール監視機能も有効にしていたのだが、今では停止し、Thunderbirdだけで対処しているほどだ。

 もちろん、HTML形式のメールでリモート接続が必要な画像の表示をブロックしたり、実行可能形式の添付ファイルを実行できないようにする(保存は可能)といったWindows XP SP2のOutlook Express相当の機能も搭載されており、セキュリティへの配慮も十分だ。メールクライアントとして必要な機能はほぼ搭載されていると言っていいだろう。





RSSリーダーとしても利用可能

 このほか、Thunderbirdで特徴的なのは、RSSリーダーとしても利用できる点だ。アカウントの追加で「RSSニュースとブログ」を選択すると、フォルダの一覧に「ニュースとブログ」が追加される。ここに購読したいサイトのRSSフィードのURLを設定しておけば、好みのニューサイトやブログの記事を表示できるようになる。記事の更新もメールと同様に「受信」ボタンで手軽にできるため、最新記事のチェックには非常に便利だ。


RSSリーダーとしても利用可能。好みのサイトを登録しておけば、最新の記事を手軽にチェックできる

 このほかThunderbirdには、拡張機能としてさまざまなモジュールも提供されている。現状、提供されている拡張モジュールは英語版のみだが、日本語版のThunderbirdでも利用可能だ。Outlook Expressの連絡先のように画面上にアドレス帳を表示したり、ツールバーのボタンを追加する拡張機能などが用意されているので、これらを利用すればさらに便利になる。拡張機能が増えてくれば、今後、さらに快適に使えるようになるだろう。


「Contacts Sidebar」という拡張機能によって、画面左下にアドレス帳を表示した例。このように拡張機能によって、好みの機能を追加することもできる




好みに合えば乗り換えも検討の候補に

 このように、Thunderbirdは強力な迷惑メールフィルタを筆頭に、メールクライアントとしてかなり高度で、しかも柔軟な機能を備えている。メールクライアントの場合、好みもあるので、誰にでもおすすめできるものではないが、少なくとも何の疑いもなくOutlook Expressを利用している人は、一度、試してみる価値のあるソフトウェアと言えるだろう。

 ただし、個人的には、複数アカウントを利用している場合の操作がもう少しカンタンになると便利だと感じるところだ。たとえば、複数アカウントを個別のフォルダで利用している場合、受信ボタンを押しても選択されたアカウントしか受信操作が行なわれない(ローカルフォルダを利用時は一括受信可能)。メニューから操作すれば一括受信可能できるのだが、同様の操作を一発でできるボタンが欲しいところだ。些細なことではあるのだが、今後、拡張機能などが提供されることを望みたいところだ。

【お詫びと訂正】
 初出時、「複数アカウントを利用している場合でもSMTPサーバーを1つしか設定することができない」と記載しておりましたが、「アカウント設定」「送信(SMTPサーバの設定)」から複数SMTPサーバーの設定も可能です。お詫びして訂正いたします。


関連情報

2005/1/25 11:03


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。