第182回:ギガビットイーサ対応で高速化を実現
挑戦者ブランドの自作NASキット「GLAN Tank(SOTO-HDLGW)」



 アイ・オー・データ機器の上級者向け製品ブランドとして知られる「挑戦者」から、自作NASキットの新製品「GLAN Tank(SOTO-HDLGW)」が発売された。従来製品の「LAN Tank」に比べて大幅なパフォーマンスアップが図られているのが特徴だ。その実力を検証してみよう。





ギガビットイーサとXScale 400MHzで高速化

GLAN Tank(SOTO-HDLGW)

 アイ・オー・データ機器から発売された「GLAN Tank」は、HDDの装着や筐体の組み立て、OSのインストール、設定などをユーザー自らが行なうNASの自作キットだ。同社では、「LAN Tank(SOTO-HDLWU)」として100BASE-TX対応の製品を発売していたが、今回の「GLAN Tank」はその上位モデルとして位置づけられており、大幅なパフォーマンス向上が図られている。

 具体的には、ネットワークインターフェイスが100BASE-TXから1000BASE-T対応のギガビットイーサネット(Intel製)へ、CPUが従来のSH-4 266MHzからIntel XScale 400MHzへと変更。さらにメモリも128MB(従来は64MB)へと増設されている。従来モデルのLAN TankもSambaを利用したファイル転送などでは実用上問題ないパフォーマンスを実現できていたが、これらの高速化によって、さらに高いパフォーマンスが期待できるというわけだ。

 本製品は、WebDAVによるファイル共有に加え、iTunesサーバーとしての機能や同社製のネットワークメディアプレーヤー「AVeL link Player」向けのメディアサーバー機能も搭載しているが、OSにLinuxを採用していることから、ユーザーが自由にモジュールを組み込んでさまざまな用途のサーバーとして利用することが可能となっている。このような用途で利用することを考えても、今回のパフォーマンス向上は歓迎すべきだろう。





組み立てはある程度のPC知識があれば比較的容易

 前述したように、GLAN Tankはユーザーが組み立てを行なう自作キットだが、作業自体はある程度の知識があれば比較的簡単だ。全体的な流れとしては、「HDDとOSの準備」「組み立て」「設定」という3段階となる。

 まずはHDDの準備だが、IDE接続のHDDが必要だ。GLAN Tankには最大2台のHDDを搭載してスパンニングもしくはミラーリング構成で利用することが可能だが、もちろん1台で利用しても問題ない。試しに、手元に余っていたHGST製の250GBのHDD1台、HGST 250GHB+Maxtor 120GBという2台構成でも利用してみたが、いずれも問題なく動作できた。

 ただし、本体に搭載される電源容量の問題(2台合計の電流が2Aを越えないこと)から、Seagate製のHDDなど、一部のHDDは2台構成で利用することができない場合もある。このあたりはインターネット上のユーザーサイトなどに動作報告が掲載されているので、参考にしてからHDDを選ぶようにすると良いだろう。

 HDDを用意できたら、組み立て前にOSのインストールを行なう。一般的なデスクトップPCにHDDをマスターとして装着し、付属のCD-ROMからPCを起動。画面の指示に従ってOSをインストールすれば完了だ。なお、従来のLAN Tankでは、OSのインストール後、HDDを本体に装着してからディスクの構成(シングル、スパン、ミラー)を選択する方式だったが、GLAN Tankではインストール時に構成を指定する方法に変更されている。あらかじめどのような構成で利用するかを考えておくと良いだろう。

 ここまでの準備ができたら、HDDをPCから取り外し、GLAN Tankの本体に装着する。イメージとしてはPCにHDDを増設するような感じで、特に難しいことはないだろう。ケースにHDDをネジ止めし、IDEケーブルと電源を接続するだけだ。あとは前面カバーにLEDを装着し、サイドカバーなどをネジ止めすれば完成となる。


内部にHDDを固定し、サイドカバーなどをネジ止めすれば組み立ては完成。挑戦者ホームページのマニュアルを参照しながら作業すれば、さほど時間はかからない




利便性を考えるとSambaはインストールしておきたい

 組み立てが完了したら、LAN端子にネットワークケーブルを接続し、電源をオンにすればGLAN Tankが起動する。起動後、「ピ、ピ、ピ…」という音とともに初期設定(HDDのパーティション確保など)が自動的に行なわれ、数分ほどすると完全に起動し、PCからの利用が可能になる。


GLAN Tankの設定画面。ブラウザを利用してアクセスすることで手軽に設定可能。標準でWebDAVサーバー、iTunesサーバー、Wizdサーバーとして利用可能。LAN Tankで搭載されていたFTPサーバーはGLAN Tankではなくなっている

 この状態で、前述したようにWebDAVサーバー(Apache2/mod_davを新たに採用し、Mac OSで読み書きにも対応)などとして利用できるようになるが、利便性を考えるとSambaをインストールしておいた方がやはり便利だろう。Sambaのインストールに関しては細かな手順は割愛するが、インストールの流れとしては以下のようになる。

    1)設定画面でTelnetを有効にする
    2)Telnetでアクセス後、「apt-get update」でアップデート
    3)「apt-get install samba swat」でSambaとSwatをインストール
    4)inetd.confを編集してSwatを起動
    5)「adduser」でユーザーを追加
    6)PCのブラウザから「http://xxx.xxx.xxx.xxx:901」でSwatにアクセス
    7)Sambaへのユーザーの追加
    8)共有フォルダの作成


telnetでアクセス後、apt-getコマンドでSambaも手軽にインストール可能。Swatもインストールしておけば、ブラウザからSambaの設定も簡単にできる

 従来モデルのLAN Tankでは、DNSサーバーの手動設定(ファームアップデートで改善)やaptのソースリストの変更などが必要であったが、GLAN Tankではこれらの設定は不要で、Telnetでアクセス後、apt-getコマンドで単純にインストールするだけで良い。これで、ネットワーク上のWindowsクライアントから、GLAN Tankの共有フォルダを利用することが可能になる(ファイルの書き込みにはディレクトリのパーミッション変更も必要)。


Sambaの利用で、Windowsから手軽に共有フォルダにアクセス可能となる。NASとして利用する場合は、インストールしておいた方が便利だ




約2倍のパフォーマンス

 実際に利用してみた印象としては確かに速い。共有フォルダのブラウジングももたつく感じがなく、ファイルのコピーなどもLAN Tankに比べて素早く行なえる印象だ。試しに、1.5GBのMPEG2ファイルを読み書きするというテストをしてみたところ、以下のような結果になった。


※クライアントからCOPYコマンドを利用してファイルをコピー。Timeコマンドで時間を計測
※クライアントにはAthlon 64 X2 3800+、RAM1GB、HDD 250GB×2(RAID0)、Windows XP Professional搭載機を使用
※GLANTANK、Linkstation、クライアントともにJumbo Frameを有効に設定して計測(7K)
※LANTANK,GLANTANKにはHGST製250GB HDDを使用
1.5GBファイルの転送時間
製品名Read(秒)Write(秒)
LAN Tank259.9243.1
GLAN Tank128.3111.8
LinkStation
(HD-HG300LAN)
294132.4

 LAN Tankとの比較では、ファイルの読み込み、書き込みともに約半分ほどの時間で完了しているうえ、比較対象としてバッファロー製のNAS(HD-HG300LAN)でも同様のテストを実施してみたが、これも上回る結果となった(HD-HG300LANは書き込みが遅い傾向にある)。ファイルサイズから転送速度を概算すると、約105Mbpsと実効で100Mbps以上の速度をきちんと実現できている。

 もちろん、搭載するHDDのパフォーマンスにも左右されるので、この値は参考程度に考えて欲しいが、従来モデルのLAN Tankより高速であることは確かだ。さまざまなモジュールを組み込んで、ファイル共有以外の用途に利用する場合にも、このパフォーマンスの高さによる大きな恩恵を受けることができそうだ。





従来モデルよりも性能が向上。ハイエンドユーザーでも楽しめる製品に

 このように、GLAN Tankは、従来モデルからかなり性能が向上し、非常に快適に使えるようになったのが印象的だ。価格も同社のダイレクトショップで24,800円とリーズナブルなので、手元に余っているHDDを活用すれば、出費を抑えながらNASを手に入れることができる。もちろん、OSがLinux(Debian GNU/Linux カーネル2.6.10)となっているため、カスタマイズも自由に行なえるのも大きな魅力だ。

 基本的にノンサポートの製品となる点には注意が必要で、装着するHDDによっては動作音などもそれなりに気になるが(決してうるさいわけではない)、インターネット上の情報をうまく活用すれば、ハイエンドユーザーでなくても十分に楽しむことが可能だ。Linuxを体験してみたいというユーザーから、バリバリにカスタマイズして遊びたいというハイエンドユーザーまで幅広くおすすめできる製品で、買っておいて損のない製品だと言える。


関連情報

2006/1/31 10:56


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。