難しいことは考えなくてもOK 5ベイ対応のシンプルなNAS「Drobo FS」


 Droboから発売されている「Drobo FS」は、5台のHDDを搭載可能なNASだ。発売は2010年と古いが、HDDを装着するだけで自動的に冗長化の構成ができる点など、今なお注目される製品だ。今、買うべきか、実力を検証しながら検討してみた。

人に勧める選択肢としてはあり

 「個人的に使うために、あらためて買うか?」と問われたら、おそらく買わないだろう。しかし、「はじめて使うんだけど、どのNAS買えばいい?」と問われたら、もちろん用途にもよるが、個人的には、おそらく、この「Drobo FS」を真っ先に候補に挙げるだろう。

 簡単に言うと、「Drobo FS」は、そんな製品だ。

 詳しくは後述するが、Drobo FSは、NASとしては驚異的に設置や設定が簡単で、容量不足やHDD故障時などのトラブルの際も、基本的にはHDDを追加・交換するだけと、とにかく何も考えなくても運用することができる。

国内では国際産業技術株式会社が取り扱うDrobo FS。デザインと手軽さが特徴の5ベイのNASだ

 しかしながら、このシンプルさ、メンテナンス製の良さが、デバイスとしての面白さを奪っているのだ。製品としてのワクワク感は、デザインやパッケージでうまく演出されているのだが、敷かれたレールの上を淡々と進む感覚で、一通りの風景に見慣れてしまうと、飽きてきてしまう。

 NASにワクワク感なんて馬鹿げているという指摘はもっともだが、このあたりは趣味の世界なので、ご容赦いただきたい。後回し、後回しになり、発売から相当期間が経過した今になって、ようやくレビューする理由も、そんなところにある。


その世界観はApple的

 ちょうどiPhone 5が発表された直後のタイミングということもあるが、今回のDrobo FSに限らず、Droboの世界観は、どことなくApple的だ。

 送られてくる箱に貼られている「国際産業株式会社」という国内代理店のロゴが入った梱包用テープとのギャップもあるが、梱包されている段ボール箱の内側はDroboのイメージカラーである黒で一面に塗装されており、開けた瞬間に「Welcome to the World of...」なんて文字が目に飛び込んでくる。

 好き嫌いは分かれるが、こういったある意味どうでも良い部分にまで凝っているあたりは、購入者の所有感を満たすという意味で、他のNASベンダーも参考にしてもよさそうだ。

梱包されている段ボールは内側が黒く塗装されている付属品のデザインも凝った印象。ステッカーなども同梱される

 肝心のハードウェアのデザインも秀逸だ。スタイリッシュなNASというと、LaCieの製品も挙げられるが、日本人の好みとしては、こちらのDroboの方が多くの支持を受けられそうな印象がある。

 マグネット式のフロントカバーは、四辺が軽い丸みを帯びており、シンプルだが高級感を感じさせるものとなっている。筐体そのものもスチール製の比較的しっかりとした作りになっており、背面も排気のためにハニカム状の網目が前面に施された形状になっている。電源スイッチですら、丸いユニークなデザインになっている。細部までこだわって作ったことがありありと感じられる出来で、質感はきわめて高い。

正面側面背面

 ただ、個人的に気になる点もいくつかある。まずは、HDDベイ。カートリッジレスで、剥き身のHDDをそのまま装着する方式を採用したことで、さほど大きくない筐体ながら5台のHDDを装着することに成功しているが、HDDはベイ脇の簡単なロックでしか固定されないため、ロックを軽く操作するだけで、簡単に装着したHDDが飛び出してくる。

 メンテナンス製を考慮してのことだと思われるが、マグネット式のカバーと言い、このロック機構と言い、あまりにも無防備すぎる。大切なデータを保存することを考えると、誤操作によるHDD脱着を避ける工夫をすべきだし、盗難対策もある程度は考慮すべきだ。

HDDベイはカートリッジレスで直接装着するタイプHDDは脇のロックで固定する。押すと簡単に飛び出てくるので運用に注意

 また、背面のハニカム構造のバックパネルの奥に装着されているファンだが、これが地味にうるさい。低い音なので、オフィスなどに設置すればほとんど気にならないのかもしれないが、今時のNASはほとんど無音と言って良いほど静かな製品がほとんどであることを考えると、見劣りする印象だ。

 世界観を大切していることはよくわかるが、もう少し、実用性という点を考えて、ハードウェアを設計しても良いのではないかという印象だ。

背面の網目の奥にファンがあるが、若干、音が気になる


何も考える必要がないセットアップと運用

 設定に関しては、まさにDroboの実力の見せ所といったところだろうか。実に手軽でスピーディなセットアップが可能となっている。

 あらかじめ付属のCDからPCに「Drobo Dashboard」と呼ばれるユーティリティをインストールしておき、Drobo FSにHDDを装着(冗長性確保のため最低2台が推奨される)して電源をオンにすると、ユーティリティからネットワーク上のDrobo FSが認識される。

Drobo Dashboardと呼ばれる設定画面。初期設定では、特になにも設定する必要がない

 一般的なNASの場合、ここからRAIDの構成やフォーマットなどの設定を開始するわけだが、Drobo FSの場合、このような操作は必要ない。HDDに関しては、Beyond RAIDと呼ばれる独自技術によって、台数や容量が自動的に判断され、冗長性を考慮した最適な構成が選択されるため、ユーザーの操作は一切必要ない。

 同様の機能は、NETGEAR ReadyNASのX-RAID2、SynologyのSHRなど、さまざまなメーカーによって実現されているうえ、もう一歩先のストレージ仮想化機能などもサードパーティ製のツールやWindows 8/Windows Server 2012で一般化しつつあるため、珍しくはないのだが、Drobo FSは、その存在すら、ユーザーに意識させないという点が特徴だ。

 もちろん、意識しないことが正しいのかという議論はあるが、HDD容量などを考慮することなく、とにかく手元にあるHDDを突っ込めば、自動的に容量を拡張し、冗長性を確保してくれるという手軽さはありがたい。

 こういったあたりは、まさにロボ的であり、NASをはじめて使う他人に勧めたいという最大の理由もここにある。

 設定画面もグラフィカルで非常にわかりやすい。NASのUIは、他社も含め、最近になってグラフィカルなものが主流になりつつあるが、わかりやすさという点では、Drobo FSが一枚上手だ。

 まず、設定画面に、実物と同じデザインの前面パネルのグラフィックが表示され、LEDの状態が画面上と実物とでリンクするようになっている。HDDが故障すると、通常は本体のLEDが赤く点滅するが、これと同じ状況を設定画面からも眺められる。アラートやログではなく、実物と同じLEDを確認できるので、とてもわかりやすい。

 HDD容量の表示も明確だ。棒グラフ形式で表示すると、総容量のうち、どれくらいをデータ領域、冗長化用として確保されているのかなどがひと目でわかる。もちろん、HDDを追加すれば(当然ホットスワップ対応)、自動的に容量が拡張され、この表示も更新される。常にHDDの増設を考慮して既存の領域に拡張用領域を確保しながら容量を増やしていくため、実際にHDDを装着したときでも瞬時に容量が追加される。

画面上の本体のグラフィックと実物のLEDが連動して表示され、必要なアクションも明確に表示されるHDD容量などもわかりやすく表示可能

 なお、Drobo FSでは、HDDが2台の際はRAID1相当、3台以上の際はRAID5相当の冗長化が設定されるが、設定画面から「デュアルディスク冗長化」を有効にすることで、RAID6相当の冗長化を利用可能となる。せっかくHDDを5台搭載できるのだから、この機能を有効化して、RAID6相当で利用すべきだろう。実際に3TB×3の段階で変更してみたが、15分ほどで移行することができた。

 また、追加するHDDに関しては、容量が混在してもかまわない。たとえば、以下のように追加していくと、それぞれ利用可能な容量が自動的に計算されて増加していく。詳細は、ウェブサイトに掲載されているシミュレーター(http://www.drobo-jp.com/)で見ることができるので、一度試してみるといいだろう。

HDD構成利用可能な容量
500GB+500GB→容量500GB
500GB+500GB+1TB→容量1TB
500GB+500GB+1TB+2TB→容量2TB
500GB+500GB+1TB+2TB+3TB→容量3.5TB


欠点はパフォーマンスと拡張性

 このように、デザインと手軽さに優れたDrobo FSだが、欠点もある。まずは、パフォーマンスだ。

 3TB×5(Seagate製HDD)の構成で、PC(Core i5 2400S/RAM4GB/Windows 8 Pro 64bit/Realtec 1000BASE-T)からCrystalDiskMark3.0.1cを実行した値が以下の通りだ。

CrystalDiskMark3.0.1cの結果

 シーケンシャルのリードで40MB/s、ライトで30MB/s、ランダムリードで20MB/sというのは、2ベイの低価格NASクラスにも劣る速度となる。個人で使うのであれば、ほぼ問題ないが、小規模なオフィスなどで複数ユーザーで共有する場合は、事前のパフォーマンス検証をした方がいいだろう。

 続いての欠点は拡張性だ。前述した通り、HDDの拡張性に関しては優れているので、ここで問題にしたいのはソフトウェア面だ。Drobo FSにも、Drobo Appsと呼ばれる拡張モジュールが用意されており、ApacheやFireFly(iTunesサーバー)、Rsyncなどの各機能を追加することができるのだが、数が限られているうえ、家庭やオフィスなどで実際に使うときに役立ちそうなモジュールもあまりない。公式なアプリではないため、管理も既存のUIとは別になるため、難易度もグッと上がる。

DroboAppsを追加することで機能を強化できるが、モジュールも少なく、管理も個別に必要となる

 他社製のNASは、今やアドオンなどの追加モジュールによって、オンラインのサービスなどと連携させることが当たり前になってきているうえ、スマートフォンなどへの対応も積極的に進められている。そういった流れとは、かけ離れている印象だ。

 もちろん、LAN上のストレージとしての使いやすさのみを徹底的に追求しているとも言えるが、このあたりも退屈さにつながってしまうポイントだ。製品の世界観はおもしろいうえ、とにかく手軽に使えるので、ハードウェアの実用性、ソフトウェアの拡張性などに、納得できれば、購入するのも悪くないだろう。



関連情報

2012/9/18 06:00


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。