清水理史の「イニシャルB」
11ac技術搭載無線LANルーターは買いか? ロジテック「LAN-WH600ACGR」
(2013/1/29 06:00)
昨年末にロジテックから発売された「LAN-WH600ACGR」は、最大600Mbpsの通信に対応した「11ac技術」対応無線LANルーターだ。IEEE802.11acの登場が見えてきた今、この技術に投資する価値があるかどうかを検証してみた。
11ac登場まで待つか? 今決断するか?
80MHz幅を使った1.3Gbps通信対応無線LANルーターは、はたしていつ登場するのだろうか?
無線LANルーターの購入を検討している人にとって、次世代無線LAN規格であるIEEE802.11acがいつ製品として登場するかは、非常に気になるところだろう。
昨年11月末に、総務省が次世代無線LAN規格「IEEE802.11ac」の導入に向けて情報通信審議会から技術的条件について一部答申を受けてから約2カ月が経過した今、そろそろ認可が下りるのではないか、という予想もある一方で、もう少し延びるのではないか、という慎重な意見もあり、ギガ越えの無線LANが手に入る可能性はまだ見えてこない。
もちろん、総務省の認可が下りたとしても、そこから製品が登場するまでには数カ月がかかることが予想されるうえ、IEEE 802.11ac対応無線LANルーターが登場しても、PCやスマートフォン、タブレット、家電製品など、クライアントの対応を考えると、そのメリットを実際に享受できるのは、さらにその先になる可能性がある。
では、IEEE 802.11acを待たずに、現在の最新機種、つまり「11ac技術」を採用した600MHzの製品を購入してもかまわないのだろうか?
今回は、ロジテックの「11ac技術」搭載無線LANルーター「LAN-WH600ACGR」を実際にテストしながら、この点に考えていく。互換性はある程度確保されるとは言え、将来的に倍以上の速度向上が見えている今、11ac技術搭載製品を購入する価値はあるのだろうか?
巨大な本体と突き出た3本のアンテナ
巨大なアンテナは、もはやロジテックの無線LANルーターの代名詞と言ってもいいだろう。可動式の3本のアンテナを備えたLAN-WH450Nシリーズも個人的には衝撃的な存在だったが、今回のLAN-WH600ACGRもなかなかインパクトのあるデザインとなっている。
幅190×奥行き210×高さ45mmというサイズは、手元にあるNECアクセステクニカのAtermWR9500Nの倍ほどはあろうかという巨大なものとなっており、1本あたり13~14cmはあろうかという3本のアンテナが上部に突き出している姿は、とても存在感があり、置き場所に迷ってしまうほどだ。
同じ11ac技術を採用したバッファローのWZR-D1100Hも、米国生まれらしく、サイズはかなり大きいが、アンテナが内蔵されているおかげで、まだスッキリとした印象があった。通信機器らしい無骨さがあるという見方もできるが、一般的な家庭の部屋に設置するとなると、ちょっと勇気のあるサイズとデザインだ。
機能的には、シンプルで、無線LAN部分は11ac技術を利用した最大600Mbpsに対応する5GHz帯(IEEE802.11n/aは最大450Mbps)と最大300Mbpsの通信に対応するIEEE802.11n/g/bの2.4GHzの同時通信に対応。有線LANはWAN×1、LAN×4すべて1000BASE-T対応のギガビットに対応している。最近の無線LANルーターは、USBポートを備え、ストレージの共有やデバイスサーバー的な付加機能を搭載しているケースがあるが、本製品は、このような付加機能には対応しない。純粋な無線LANルーターだ。
レビューをする立場から言えば機能は多いほど書くネタが多くて助かるが、一般的には、本製品のように無線LAN接続のみに特化した製品の方が、設定もシンプルで使いやすいだろう。
なお、600Mbpsを実現する11ac技術については、以前に本コラムでレポートしたバッファローのWZR-D1100Hの記事を参考にしてほしい。基本的には、40MHz幅、3ストリームMIMOのIEEE802.11nをベースに、変調方式として256QAMによる多値化を採用することで、データのbit数を6bitから8bitに増加させ、約1.3倍の600Mbpsを実現している。
ちなみに、本製品、バッファローのWZR-D1100Hともに、5GHz帯はW52(5.2GHz帯を利用する36/40/44/48ch)のみに対応している。日本では、W53、W56を利用する際は、気象観測レーダーなどとの干渉を避けるために、DFS規定によって、起動時などに1分間干渉を検出するしくみが必要になる。おそらく、日本独自のこのしくみを避けたのだろう。
現状、2.4GHzとは異なり、ほとんど近隣との干渉を気にする必要がない5GHz帯だが、今後、80MHz幅を利用するIEEE802.11acが本格化すれば、W52/W53で各1チャネルずつ、屋外利用可能なW56で2つしか重ならないチャネルを確保できないことになる(IEEE802.11acのオプションである160MHz幅ともなれば、W52+W53という組み合わせか、W56で1チャネルしか確保できない)。
今回のLAN-WH600ACGRにおいては、W52のみの対応であることは、あまり意識しなくていいが、今後、IEEE802.11ac対応製品が登場した際は、W52だけでは利用できるチャネルが限られるので、W53、W56の対応を確認する必要性も出てくるだろう。このあたりは、IEEE802.11acの認可にともなって、その詳細と機器側の対応状況が明らかになってくるはずだ。
実力を発揮できる環境がない
実際の使い勝手については、特に不可はない印象だ。設定画面がシンプルすぎて味気ないと感じてしまうのは、個人的な好みの影響もあるが、PCはWPSによってカンタンに接続できるうえ、iOSやAndroidなどのスマートフォン向けにQRコードを利用した設定アプリが提供されており、接続に苦労することはない。
また、無線LANルーターの設定画面のうち、最初に必要な回線接続に関してはスマートフォンのブラウザに合わせたデザインも用意されており、初期設定がPCレスで可能となっている。はじめて無線LANを使う場合でも、設定につまづくことはないだろう。
気になるパフォーマンスだが、今回のテストでは、残念ながら、十分な実力を発揮させることができなかった。
まず、600Mbpsで通信できるクライアントがない。現状、同社から販売されている無線子機は、最大450Mbpsの通信に対応するLAN-W450AN/U2がもっとも高速な製品となっており、600Mbpsに対応した子機はラインナップしない。
同社のWebサイトに掲載されているLAN-WH600ACGRの速度測定結果を見ると、600Mbps対応のイーサネットコンバーターを使用したことが記載されているが、市販の製品で入手可能なものとなると、現在の選択肢はバッファローのWLI-H4-D600が一般的となる。これを使うのであれば、同じバッファローのWZR-D1100Hとの組み合わせで購入した方が効率的だ。
このため、今回は、クライアントとして通常の300Mbps対応IEEE802.11n搭載PCを利用した。バッファローの11ac技術搭載400Mbps対応USB無線LANアダプタ「WI-U2-400D」の結果も掲載するが、いずれも600Mbpsの通信は実現できていないので、参考値と考えて欲しい。
また、今回のテストでは2.4GHzの結果が芳しくなかった。標準設定だけでなく、接続モードを変更したりしてテストしてみたのだが、どうしても2.4GHz帯では54Mbpsでしかリンクしなかったことが原因だ。筆者宅のテスト環境が要因である可能性が高いが、同一クライアントから他の無線LANルーターに接続すると300Mbpsでリンクするので、原因ははっきりとわからなかった。こちらの値も掲載するが、あくまでも参考値であることに注意してほしい。
結果を見ると、同一フロアで130Mbps前後を記録できているうえ、1Fと3Fでの通信でも50~80Mbpsを実現できているので、実用性は十分と言える。ただし、クライアント側の制限がある以上、最大450MbpsのAtermWR9500Nなどと比べても、明確なアドバンテージが見られない結果となった。やはり600Mbpsで通信できる組み合わせを自社で提供できていないのは大きな痛手と言えそうだ。
クライアント | 帯域 (最大転送速度) | 階 | GET | PUT | LINK | |
LAN-WH600ACGR | WI-U2-D400 | 5GHz (400Mbps) | 1F | 125.34 | 138.22 | 200 |
2F | 104.16 | 99.04 | 162 | |||
3F | 87.17 | 58.95 | 81 | |||
Intel Advanced-N 6250AGN | 5GHz (300Mbps) | 1F | 138.38 | 96.6 | 300 | |
2F | 90.12 | 99.04 | 162 | |||
3F | 64.15 | 72.22 | 135 | |||
2.4GHz (300Mbps) | 1F | 20.56 | 16.74 | 54 | ||
2F | 18.87 | 13.8 | 54 | |||
3F | 16.74 | 8.23 | 54 | |||
AtermWR9500N | Intel Advanced-N 6250AGN | 5GHz (300Mbps) | 1F | 131.4 | 178.19 | 300 |
2F | 91.11 | 140.65 | 240 | |||
3F | 57.28 | 111.39 | 180 | |||
2.4GHz (300Mbps) | 1F | 72.22 | 97.73 | 144 | ||
2F | 62.14 | 54.55 | 144 | |||
3F | 50.75 | 33.41 | 130 |
- クライアント:VAIO Z VPCZ21(Intel Core i5-2410M 2.3GHz、メモリ4GB、128GB SSD、Windows 7 Professional 64bit)
- FTPサーバー:Synology DS1512+(3TB HDD×5 RAID6、メモリ4GB)
- 100MBのZIPファイルを転送
- LAN-WH600ACGRの2.4GHz帯は54Mbpsでしかリンクできなかったため参考値
やはり「待ち」が正解か
以上、ロジテックの「LAN-WH600ACGR」を実際に試してみたが、600Mbps対応製品でありながら、その魅力がしっかりと引き出せていないのが残念だ。サイズも大きく、実売価格も16,000円前後と決して安くはない。
しかも、何より決定的なのは、IEEE802.11acの登場がそう遠くないということだ。今、この600Mbps対応機に急いで手を出す必要はないだろう。
それにしても、本製品は11月に発売されたが、同社ダイレクトショップで在庫切れとなっているうえ、インターネット上のオンラインショップでも在庫がある店舗はあまり多くない状況となっている。生産が間に合っていないのか、IEEE802.11acに向けての調整なのかはわからないが、そもそも入手しにくいという状況を考えても、購入の決断がしにくい製品だ。
11ac技術という挑戦的な技術の製品を市場に投入したことは評価したいが、いかんせん発売したタイミングが悪かったうえ、対応クライアントがないことが逆風となった印象だ。バッファローのWZR-D1100Hのように、せめて夏に発売され、しかもコンバーターなどのセットで発売されていれば、また異なる評価ができただろう。