清水理史の「イニシャルB」
2万円以下でも使える機能は上位モデルと同等 手元のHDDで手軽にNASが組めるQNAP「TS-212P」
(2015/5/18 06:00)
QNAPから、エントリークラスのNAS「TS-212P」が発売された。2ベイモデルで2万円を切る低価格な製品となっており、USB接続の外付けハードディスクからの乗り換えなどに適している。低価格モデルと言っても、搭載されるOSは上位モデルと共通で、QNAPならではの豊富な機能を活用できるのが特徴だ。その実力を検証してみた。
エントリーとは言え「ガマン」はほとんどない
USBメモリを使ってPCからPCへとデータを転送したり、バックアップやデータの保管用にUSB接続のハードディスクを使ったりすることは、これで、もう、卒業してもよさそうだ。
QNAPから、2万円を切るNAS「TS-212P」が登場したことで、これまで、あまり費用をかけることができなかった、こんなシーンでNASを使うことも、どうやら「贅沢」ではなくなりそうだ。
TS-212Pは、2台のハードディスクを内蔵可能なエントリーモデルとして位置付けられた製品。QNAPのNASというと、黒い筐体を思い浮かべる人が多いが、本製品は家庭のリビングなどに設置しても違和感のない白い筐体が採用されており、本体の構造をシンプルにしたり、家庭での利用に十分な性能に抑えることで、店頭予想価格1万9800円という低価格を実現している。
とは言え、そこは製品の品質に定評があるQNAPだけあって、エントリーモデルとは感じさせない実力をきっちりと備えているのが特徴。
搭載されるOSは、上位モデルと共通のQTS 4.1となっており、ファイル共有やリモートアクセス、クラウド連携、アプリによる機能強化など、使える機能は上位モデルとほぼ共通となる。搭載されるCPUもMarvell製ARMコア(1.6GHz)でメモリも512MBとなるものの、チューニングによって、実用上まったく問題ないレベルのパフォーマンスも引き出している。
もちろん、価格のメリットを受ける分、ガマンしなければならないポイントはあるが、基本的には導入時やメンテナンス時にハードディスクや本体をネジ止めしなければならないこと、USBやLANポートなどインターフェイスが最低限に限られること、何台ものPCから同時アクセスしたときの性能に限界があることなどと、実質的にはさほど気にならないことばかりとなる。
できれば大容量の新品ハードディスクを搭載して使いたいが、手元に余っているハードディスクを活用するといった使い道もあり、とにかく低コストで、高性能なNASを導入できるのが魅力の製品だ。
初めて使うNASとしてもオススメしたいところだが、2台目のNASとしての導入も面白そうだ。
すでに他社製のNASを導入済みの環境に、サブNASとしてTS-212Pを導入することで、2台のNASでデータを持ち合ったり、既存のNASはデータ保管用、TS-212Pはリモートアクセスやスマートフォン用などといったように、使い分けたりすることもできる。
手軽に導入できるだけに、いろいろな用途が考えられるなかなか興味深い製品と言えそうだ。
本体ケースを開けてハードディスクを装着
それでは、製品を見ていこう。前述したように、本体は白を基調としたシンプルなデザインとなっている。
ハードディスクは2台搭載可能だが、一般的なNASと異なり、ハードディスクを脱着するカートリッジは用意されず、本体を開けて内部に装着する仕様となっている。
内部に装着と言っても、1台目は内部のSATAポートに差し込むようにしてネジ止めするだけ、2台目も付属の電源ケーブルとSATAケーブルを使って接続するだけと簡単だ。ドライバー1本あれば、誰でも10分程度で作業できるだろう。
この手軽さはセットアップも同様だ。最近のNASは、インターネット上の設定用サイトからリモートで設定するのが主流だが、本製品も「http://start.qnap.com」にアクセスし、本体に貼付されたシールのコードを入力するだけで、簡単に初期設定が可能だ。
標準ではRAID1のミラーリングでボリュームが構成され、共有フォルダが自動作成されるほか、写真管理用のPhoto Stationなど、よく使われるアプリも自動的にインストールされる。
かつてはNASというと、難しいイメージがあったが、今ではセットアップのほとんどが自動化されており、単純なデータの保存先として使う分には、ほぼ標準設定のままで運用できる。
データの保存先にUSBハードディスクのような手軽さを求める人は少なくないが、本製品も取りあえずデータを保存するだけなら、さほど苦労することはない。むしろ、初めてのNASに身構えていると、その手軽さに、拍子抜けするほどだ。
ユーザーの要望に応える懐の深さ
もちろん、使いこなそうという気になれば、いくらでも応えてくれるのがQNAPのNASの面白さでもある。
例えば、外出先からNASのデータにアクセスしたいという要望は多くの人が持つ望みだが、これも非常に簡単にできる。TS-212Pには、「myQNAPcloud」という機能が搭載されており、ユーザーアカウントを登録して、簡単な設定をするだけで、すぐに外出先からのリモートアクセス環境を整えることができる。
ブラウザを使ってPCからNASのファイルを参照することはもちろんのこと、スマートフォン用のアプリ「Qfile」を利用して、スマートフォンからNASのデータにアクセスすることも可能だ。スマートフォン用のアプリには、「Qvideo」や「Qphoto」など動画や写真を再生するためのものもあり、クラウドサービスのように自宅のNASを扱うことができる。
Qfileでは、スマートフォンの写真データを自動的にTS-212Pにアップロードすることも可能になっており、大切な写真データのバックアップにTS-212Pを活用することも可能だ。
また、Qsyncと呼ばれる同期機能も提供されており、PCに専用のユーティリティをインストールすることで、PC上のフォルダを自動的にTS-212Pと同期させることもできる。
最近ではOne DriveやGoogle Driveなどのクラウドストレージサービスを使うユーザーが増えてきているが、感覚としては、これとほぼ同じものを自前で実現できることになる。容量の制限なく、しかもLAN上では超高速で利用できるのは、なかなか快適だ。
DLNAサーバー機能を利用して保存した写真や動画をネットワーク上のテレビで再生できるようになるのもNASならではのメリットだ。
USBハードディスクのようなローカルなストレージの場合、写真やビデオなどのコンテンツが接続先のPCでしか参照されないことが多いが、TS-212Pを利用すれば、いろいろなデバイスから写真や動画を集め、それをいろいろなデバイスで再生することができる。TS-212Pの導入によって、眠っている写真や動画が掘り起こされる楽しさをぜひ体験してほしいところだ。
このほか、AppCenterと呼ばれるアプリの配信サービスを利用すると、100以上のアプリを追加することができる。データベースやグループウェアなどのビジネス用のアプリはもちろんのこと、Evernoteのような使い方ができる「Notes Station」など、クラウド系の機能を強化するアプリなどもあるので、探して使ってみるだけでも、当分の間は楽しめるだろう。
パフォーマンスも十分でお買い得
以上、QNAPのTS-212Pを実際に試してみたが、低価格だからと言っても侮れない実力を持ったNASと言える。QNAPならではの機能が、この価格でほぼすべて使えるのだから、コストパフォーマンスが非常に高い製品と言えそうだ。
気になるパフォーマンスだが、2万円以下のエントリーモデルとしては十分な性能が確保されている。以下は、ネットワーク上のPCからCrystalDiskMark4.0.3を実行した際の結果だ。
CrystalDiskMarkのメジャーバージョンアップによって、以前のバージョンと計測方法が変更され、従来の結果と比較できなくなったため、比較対象として2.13GHzのデュアルコアAtomを搭載したSynologyのDS1512+の結果も参考として掲載する。
さすがに全体的なスコアはDS1512+に比べると低いが、シーケンシャルのリード(32queues 1thread)の値は、100MbpsとDS1512+を若干ながら上回る結果を出しており、優秀な結果となっている。さすがに書き込みやランダムの値は、高性能なモデルにはかなわないが、実際に使っていてもストレスを一切感じることがないため、日常的な利用にはまったく困らない印象だ。
機能的にも、性能的にも、エントリーモデルだからといって妥協しなくて済む点は、さすがQNAPの製品と言える。また姉妹モデルとして、1ベイモデルの「TS-112P」も1万5000円前後で提供されており、これからNASの導入を検討している場合、これらの製品は有力な選択肢の1つとなるだろう。