10代のネット利用を追う

中高生の9%が病的との説も!? “ネット依存”とは何か、治療が必要なのか

成城墨岡クリニック院長の墨岡孝氏に聞く

 昨年8月、“ネット依存”の中高生が全国に推計51万8000人いるとする「厚生労働省研究班」の調査結果が報道されて話題となった。また、総務省情報通信政策研究所が昨年6月に発表した「青少年のインターネット利用と依存傾向に関する調査」の報告書によると、高校生のうちネット依存傾向が高い生徒の割合が9.2%、ネット依存傾向が中程度の割合が50.8%だったという。

 青少年におけるネット依存の現状はどうなっているのだろうか? そもそも、どういう状態を“ネット依存”と呼んでいるのだろうか? 日本で2カ所しかない「ネット依存外来」を行っている成城墨岡クリニックの院長・墨岡孝氏に話をうかがった。

ITにかかわる心身の問題、かつてはキーパンチャー病やVDT症候群、今はネット依存

成城墨岡クリニック院長の墨岡孝氏

 墨岡氏は、二十数年前から社会精神学やコンピューターの問題などを専門としてきた精神科医だ。当時はコンピューターを扱う労働者のストレスを扱っていた。いわゆるキーパンチャー病(頸肩腕症候群:首筋から肩・腕などに異常を感じる職業病の一種)や、VDT症候群(ディスプレイを長時間見過ぎたことによる目・体・心に支障をきたす病気のこと)などが話題になっていたころに、厚生労働省から委託を受けて研究をしたり、分析を担当したりもしている。

 その後、ネットにかかわる技術者、システムエンジニアやプログラマーにおける心と身体の問題を扱うようになったが、ネットが普及するに連れて違う問題が出てきた。10年ほど前から、一般の人達の間にネットの問題や治療の必要が出てきたのだ。ネット依存外来は、ネットを依存的に使う人が増えてきたのに連れて要望が寄せられるようになり、開始した。

 家族が訴える患者の症状はさまざまだ。「日常会話がネットのことばかりになり、ネット上の友達ばかりになって現実の人間関係が減った」「昨夜何時までネットをやっていたのか聞くと嘘をつくようになった。風呂場やトイレ、布団の中で隠れてネットをしている」。授業中に寝ていたり、成績が落ちたり、学校や職場に遅刻したり、欠席したり、退学あるいは解雇になった例もある。

ネット依存は4パターン、増えているのが“きずな依存”

 成城墨岡クリニックでは2007年以降、初診で訪れたネット依存患者の数をまとめている。それによると、2007年の81人から、2013年には285人と約3.5倍にまで増えている。1カ月に23人強が訪れている計算だ。最年少は10歳、最高齢は29歳、平均17.8歳で、10代が中心だ。

 2011年からはスマホやタブレットにかかわる問題が見られ始め、2012年には7割を占めるようになった。そして2013年はほとんどがスマホやソーシャルメディアに関する問題となっている。患者は、時間でいえば1日10〜11時間というように昼夜かまわずスマホをいじっている。「スマホは手軽でどこにでも持ち運びができる。家の中に閉じこもってオンラインゲームをする時代は終わった」(墨岡氏)。

 ネット依存には4パターンあると考えられているという。“オンラインゲーム依存”、動画やブログなどの“コンテンツ接触型依存”、オークションや一部のソーシャルゲームなどの“ギャンブル系参加型アプリ依存”、そしてもう1つが最近増えている“きずな依存(ソーシャルメディア依存)”だ。きずな依存は同調志向が強い日本人に多く、女性に多い傾向があるという。実際、オンラインゲーム依存は男性患者が多いが、ソーシャルメディア依存は女性患者が多い。

 スマホ依存の中にはゲーム依存もあるが、最近はLINEやFacebookなどのソーシャルメディア依存が圧倒的に多いという。中でも目立つのがLINEだ。友だちのトークに対する返事がやめられず、ずっと返事をし続けてしまう子供が増えているのだ。「人との付き合いが断ち切れずに嫌々やっている。返事しないと無視されたり仲間はずれにされると思い、使いすぎてしまう」(墨岡氏)。しかし、そうしなくても人間関係は築けると分かると、依存は解けるのだという。

「病的依存」は間違い? 厚労省研究班による“ネット依存”の定義

 ここで“ネット依存”の定義について見てみよう。まずは報道で話題になった厚生労働省研究班のものから。

 この調査結果は「未成年の喫煙・飲酒状況に関する実態調査研究」(2012年度厚生労働科学研究費補助金循環器疾患等生活習慣病対策総合研究事業)が元となっている。本来は中高生の喫煙・飲酒行動の実態と関連要因を明らかにすべく行われた調査だ。研究代表者である日本大学医学部教授の大井田隆氏もネットの専門家というわけではなく、公衆衛生学の専門家。研究分担者として、ネット依存外来を持つ久里浜医療センター(独立行政法人国立病院機構)院長の樋口進氏の名前が並ぶ。その資料の後半に出てくるのが「インターネット依存」についての調査結果で、そこに「病的使用51万8000人」という数字が登場する。

 この数字は、米国の心理学者キンバリー・ヤング博士が作成した診断質問票「Young Diagnostic Questionnaire for Internet Addiction」の日本語訳で判定した結果から、その割合を全国の中学・高校の生徒数に当てはめて算出したものだ。

 診断質問票は下記のような8項目で、0〜2項目に該当した場合を「適応的使用」、3〜4項目を「不適応使用」、5項目以上を「病的使用」と分類している。

  1. インターネットに夢中になっていると感じているか?
  2. インターネットでより多くの時間を費やさねば満足できないか?
  3. ネット使用を制限したり、時間を減らしたり完全にやめようとして失敗したことがたびたびあったか?
  4. ネットの使用時間を短くしたりやめようとして、落ち着かなかったり不機嫌や落ち込み、イライラなどを感じるか?
  5. 使い始めに意図したよりも長い時間オンラインの状態でいるか?
  6. ネットのために大切な人間関係、学校のことや部活動のことを台無しにしたり、危うくするようなことがあったか?
  7. ネットへの熱中のしすぎを隠すために、家族、先生やそのほかの人たちに嘘をついたことがあるか?
  8. 問題から逃げるため、または絶望、不安、落ち込みといったいやな気持ちから逃げるために、ネットを使うか?

 なお、ヤング博士の診断票の概要については、「Center for Internet Addiction」というサイトを参照のこと。「病的使用」という言葉自体は医学雑誌「Addiction」から直訳したものだというが、上記サイトにある説明を見ると「Meeting five symptoms are necessary to be diagnosed」となっており、「8項目中5項目に該当した場合は診断を受ける必要があると考えられる」といった意味あいのようだ。少なくともヤング博士の尺度を見る限りでは、5項目以上に該当したら即“ネット依存”や、ましてや「病的」であるとはされていない。

Center for Internet Addiction

総務省の調査でも用いられるヤング博士の診断質問票

 総務省情報通信政策研究所の調査もヤング博士が作成した診断質問票に基づいているが、こちらは下記のような20項目のもの。各項目について「いつもある」「よくある」「ときどきある」「まれにある」「全くない」まで頻度に応じて5段階で選択してもらい、それぞれ5〜1点として計算。合計点をヤング博士の区分に即して、70〜100点で「ネット依存的傾向 高」、40〜69点で「ネット依存的傾向 中」、20〜39点で「ネット依存的傾向 低」と分類している。

  1. 気がつくと、思っていたより長い時間ネットをしていることがありますか
  2. ネットを長く利用していたために、家庭での役割や家事(炊事、掃除、洗濯など)をおろそかにすることがありますか
  3. 配偶者や友だちと過ごすよりも、ネットを利用したいと思うことがありますか
  4. ネットで新しく知り合いを作ることがありますか
  5. 周りの人から、ネットを利用する時間や頻度について文句を言われたことがありますか
  6. ネットをしている時間が長くて、学校の成績や学業に支障をきたすことがありますか
  7. ネットが原因で、仕事の能率や成果に悪影響が出ることがありますか
  8. 他にやらなければならないことがあっても、まず先に電子メールやSNSなどをチェックすることがありますか
  9. 人にネットで何をしているのか聞かれたとき、いいわけをしたり、隠そうとしたりすることがありますか
  10. 日々の生活の問題から気をそらすために、ネットで時間を過ごすことがありますか
  11. 気がつけば、また次のネット利用を楽しみにしていることがありますか
  12. ネットのない生活は、退屈で、むなしく、わびしいだろうと不安に思うことがありますか
  13. ネットをしている最中に誰かに邪魔をされると、いらいらしたり、怒ったり、言い返したりすることがありますか
  14. 夜遅くまでネットをすることが原因で、睡眠時間が短くなっていますか
  15. ネットをしていないときでも、ネットのことを考えてぼんやりしたり、ネットをしているところを空想したりすることがありますか
  16. ネットをしているとき「あと数分だけ」と自分で言い訳していることがありますか
  17. ネットをする時間や頻度を減らそうとしても、できないことがありますか
  18. ネットをしている時間や頻度を、人に隠そうとすることがありますか
  19. 誰かと外出するより、ネットを利用することを選ぶことがありますか
  20. ネットをしていないと憂うつになったり、いらいらしたりしても、再開すると嫌な気持ちが消えてしまうことがありますか

 なお、総務省情報通信政策研究所の調査では「本調査はオンラインアンケートであり、母数となる調査パネル自体が比較的ネットに馴染んでいる層であると想定されるため、すべての値が高めになっている可能性がある」とただし書きがされている。

※情報通信政策研究所では今年5月14日、より新しい「高校生のスマートフォン・アプリ利用とネット依存傾向に関する調査」の速報結果を公表している(本誌5月15日付関連記事『高校生の4.6%がネット依存傾向“高”、SNSだけの友人93.1人で悩み・負担も』参照)。

“ネット依存症”を見分ける4つのポイント

 今回話をうかがった墨岡氏も、「ヤング博士の診断項目は多少古いが、基本的なところでは同じ。当クリニックではこれを改定したものを使っている」と語る。5項目以上該当する場合に“ネット依存”としているが、それがすなわち治療が必要な状態であるというわけではなく、「制御不能」「社会生活(勉強・仕事)、人間関係への悪影響」「禁断症状」の側面が重要だと指摘。「日常生活にどれだけ支障が出ているかということで判断すべき」という。

 具体的には、下記のような4点が依存症の主な問題点であり、墨岡氏はこの4つがそろったら専門家による診断が必要になるとしている。

  • 自己コントロールができない
  • 社会生活、人間関係、家族関係への悪影響が出る
  • 禁断症状が出る(取り上げるとパニック状態になる、何をしていいか分からなくなる、どんなことをしてでも手に入れたいと感じる等)
  • 耐性ができて利用が長時間化する

 なお、墨岡氏は、自己申告のチェック表はあまり当てにならないとも言う。後述するように、患者は初期段階では自覚できていないからだ。「周囲の大人がチェックしたり、治療が進んだ状態でチェックしないと、正しい結果は現れない」。

 1998年に登場したヤング博士による診断質問票は、現在でもネット依存を把握するための基準となっており、厚生労働省研究班、総務省情報通信政策研究所、墨岡氏の3者とも、これをベースにしている点で共通している。ただし、ネット依存についての定まった基準があるわけではなく、ネット依存度が高いからと言って即治療が必要な状態であるとはしていない点に注意が必要だ。

認知行動療法による“ネット依存症”の治療

 成城墨岡クリニックは東京都内にあるが、全国からの問い合わせも非常に多い。実際に通院してくる人は都内や近辺からが多いものの、長野や四国から通ってくる患者もいるという。通院できない人には、民間のNPOのメディア関係のカウンセラー、アドバイザーなどを紹介している状況だ。

 アルコール依存症や薬物依存症でもそうだが、患者本人は当初、自覚がないことが多い。周囲の家族や同僚らがおかしいと気付いて相談に来るのが一般的なパターンだ。夜中もスマホをいじっていて朝起きられない、学校に行けなくなる、学校に行ったふりをして行っていない、学業成績が急降下する――などの問題をきっかけに家族が気付き、危機感を抱く。

 ネット依存症の治療の場合も最初は患者本人は来院せず、家族だけ(中でも母親)が相談に来るケースがほとんどだ。治療には数カ月間かかるが、初めのうちは家族に対するカウンセリングに費やす。そこで家族にネットの問題について考えたり、対応について勉強してもらうのだ。その後、本人を連れてきてもらい、治療に参加してもらうことになる。本人は嫌がっていることが多いが、問題点を突き詰めていくと、自分でも何とかしなければいけないと感じるようになり、治療に協力的になっていく。

 治療においては、どうやって利用時間を短くするのかということに重点を置く。認知行動療法に使う方法だが、ネットによって失われた時間を本人に自覚させることが大切だという。ネットのために失ったこと、本来やりたかったことを書き出し、それに対してどう思うかを患者に自覚させるのだ。さらにネットを利用するデメリットや、やめるメリットを患者本人に書き出させ、ネットをやる時に見てもらうようにしていく。

 ネット依存の子供は、薬物やアルコール、ギャンブルなどの依存に比べると治りは割合いい方だという。「素直でマニュアル的な子が多いので、約束を決めると守ることが多い。治療はやりやすいが、治療に持っていくまでが難しい」(墨岡氏)。

ソーシャルメディア依存は韓国でも悩みの種

 韓国では、青少年のオンラインゲーム中毒に関する取り組みが早かったことは有名だ。通称「シンデレラ法」と呼ばれる青少年保護法改正により、深夜0時になると16歳未満は強制的にオンラインゲームにアクセスできなくなるというものだ。ところが「オンラインゲームなら遮断することはできるが、SNSの利用は遮断する方法がなく、韓国でも困っている状態」と墨岡氏は説明する。韓国ではネット中毒患者のためにネットレスキューやアイウィルセンターを設置し、患者の相談に乗る体制を整えたり、研究が始まっているところだという。

 また、韓国では青少年用のインターネット依存自己評価「Kスケール」によって判別し、治療法を提示している。ただし、これではソーシャルメディア依存は測れないため、新たにソーシャルメディア依存を測る「Sスケール」の作成が始まっている。

“LINE依存”から抜け出すには「自我の確立」

 「ソーシャルメディア依存はネット依存と大きく違うことを親も自覚すべき」と墨岡氏は警告する。ソーシャルメディア依存の場合は、「こうすると嫌われるかもしれない」「仲間はずれにされるかもしれない」といった人間関係に関する恐怖とつながっている。

 また、ソーシャルメディアはさまざまなサービスが併存しており、携帯電話におけるキャリアのような共通するプラットフォームがないため、フィルタリングやゾーニングで制限しづらい点も問題だ。

 「LINEをやめるには、断ち切る勇気を持つしかない」と墨岡氏は説明する。「中高生という自我を確立しなければならない時期に、確立前に同調型サービスのLINEが入ってくるからこそ問題が大きくなる」。中高生の時期は本来、自分が何者で、これから何をしたいのか、これからどういう大人になりたいのかを認識していくべき時だ。友達と同調するだけでなく、大人になってから何をしたいのかを考えることが重要だ。

 また、家族が機能していなければ、ネットの問題に対処できないという。「父親や母親の存在を子供にきちんと認識させ、親の後ろ姿を見せ、社会でどういう役割を持っているのかを小学校の時代からはっきりと本人に分からせていくことが大切。子供は大人の姿を見ながら成長していくものであり、父母を乗り越えていくが、日本ではそれができていない。将来を考えた時にロールモデルになるのは父母の姿だが、家庭の中で模範となる姿を確立できていないし、家庭そのものの機能がはっきりしていない」と墨岡氏は指摘する。「早い段階でスマホやネットを与えるのではなく、まず自我が確立できるように育てるべき」。

 「携帯電話やスマホを持たせるのは、少なくとも中学生になってから。さらに『1日○時間』『夜中はやらない』『LINEも時間を区切って嫌なものは嫌と言う』などの一定のルールを決めてやるべき。ルールを決めても破ることは多いが、『こういうルールを決めただろう』と言えるという意味で意味がある」と墨岡氏はアドバイスする。

青少年のネット依存は、数よりも周囲の子供の状態を見てほしい

 51万8000人の中高生がネット依存と言われると多く感じるが、これは中高生の9%程度であり、残りの約90%は普通に自我を形成させて思春期を超えて大人になっていく。「単にネット利用に問題のある子供が全国にいるということであり、数はあまり意味がない。それよりも、自分の周囲の子供がそれに含まれていないのかを考えるべき」(墨岡氏)。

 医療の世界でもネット依存の窓口が増えつつある。「子供の異常を感じたら専門家の治療を受けるべき。まずは近くのネットアドバイザーや学校の先生、カウンセラーなどに相談を」。

 墨岡氏も参加する「東京都青少年問題協議会」では2013年度の結論として、「東京都青少年問題協議会からの緊急メッセージ」(2014年2月)を提出している(本誌2月25日付関連記事『「お風呂中は使いません」宣言用紙をスマホ契約時に配布、都がネット依存対策』参照)。これを受けて2014年度はいよいよ条例化に向けた話し合いをしていく。今後、「夜○時以降は利用しない」などの、インターネットやソーシャルメディアに関する青少年健全育成条例の改正案が作成される予定だ。

 ネット依存は病気なのか、どこから“依存症”と判定するのかという問題は議論が分かれるところだ。依存者の推計数を示すとインパクトは強いが、ミスリードにつながりかねないとも感じる。しかし、ネット依存やソーシャルメディア依存は登場したばかりの新しい概念であり、今後、徐々に基準が定まっていくことだろう。数云々よりも、目の前にいる子供たちがネット依存によって日常生活に支障が出ていないかどうかを見ることこそが大切なのではないだろうか。

高橋 暁子

小学校教員、ウェブ編集者を経てITジャーナリストに。Facebook、Twitter、mixi などのSNSに詳しく、「Facebook×Twitterで儲かる会社に変わる本」(日本実業出版社)、「Facebook+Twitter販促の教科書」(翔泳社)など著作多数。PCとケータイを含めたウェブサービス、ネットコミュニケーション、ネットと教育、ネットと経営・ビジネスなどの、“人”が関わるネット全般に興味を持ってる。http://akiakatsuki.com/