ニュース

高校生の4.6%がネット依存傾向“高”、SNSだけの友人93.1人で悩み・負担も

総務省、都立高の生徒1万5000人を調査

 総務省情報通信政策研究所は14日、「高校生のスマートフォン・アプリ利用とネット依存傾向に関する調査」の速報結果を公表した。東京の高校生約1万5000人を対象に行った調査の結果からネット依存傾向を3段階で判定したところ、4.6%の生徒がネット依存傾向が高いと判定されたという。

 調査は、情報通信政策研究所が東京大学情報学環の橋元良明教授らと共同研究で取り組んでいるもの。日本の高校生の中で最もネット利用が進んでいると考えられる都内の高校生を対象に、今年1月に実施した。都立高校154校の各学年から1クラスずつ抽出して調査票を配布し、1万5191人から回答を得た。

 ネット依存傾向の判定結果は、“高”が4.6%、“中”が55.2%、“低”が40.2%。このうち“高”とされた割合を男女別で見ると、男子が3.9%、女子が5.2%で、女子の方が高い。学年別では、1年生が5.2%、2年生が4.8%、3年生が3.7%となり、低学年の方が高い結果となった。

 ネット依存傾向“高”の生徒におけるスマートフォン/フィーチャーフォンの利用時間は1日262.8分で、このうち「ソーシャルメディアを見る」は113.5分、「ソーシャルメディアに書き込む」が78.8分。ソーシャルメディアの利用時間は依存傾向の高低を問わず長かったが、“高”の生徒では全体平均の2倍の時間をソーシャルメディアに費やしていたという。

 ソーシャルメディアでよくやり取りする人の数は、全体平均で「家族」が1.6人、「今通っている学校の友だち」が15.0人、「以前通っていた学校の友だち」が10.2人、「ソーシャルメディア上だけの友だち」が19.4人など。「ソーシャルメディア上だけの友だち」は、ネット依存傾向“高”の生徒に限ると93.1人に上ったほか、「ソーシャルメディア上で初めて知り合い、実際に会ったこともある友だち」も5.3人と多かった(全体平均では1.8人)。一方で、「家族」「今通っている学校の友だち」「以前通っていた学校の友だち」などは、ネット依存傾向の高低による顕著な差は見られない。

 なお、依存傾向が“高”の生徒ほど、ソーシャルメディアの利用に際して悩んだり、負担に感じていることが多いという。

“ネット依存”の中高生、全国に51万8000人?

 青少年の“ネット依存”に関する数字としては、昨年8月に新聞各紙で報道された「厚生労働省研究班」の調査結果が思い浮かぶ。それらの報道によると、2012年度に全国の中学・高校計179校の生徒約10万人からの回答をもとに推計したところ、“ネット依存”の中高生が全国に51万8000人いることが分かったのだという。

 この調査結果については、青少年の“ネット依存”について審議した昨年度の「第29期東京都青少年問題協議会」でも取り上げられ、同協議会の会合の資料にも引用されている。それによると、判定方法としては、「インターネットに夢中になっていると感じているか?」「問題から逃げるため、または絶望、不安、落ち込みといったいやな気持ちから逃げるために、ネットを使うか?」など計8項目の診断質問票(DQ=Diagnostic Questionnaire)のうち、5項目以上に該当した状態を「病的使用=ネット依存状態」、3~4項目で「不適応使用」、0~2項目で「適応的使用」と分類するものだ。

  1. インターネットに夢中になっていると感じているか?
  2. 満足感を得るためにネットを使う時間を長くしていかねばならないと感じているか?
  3. ネット使用を制限したり、時間を減らしたり完全にやめようとして失敗したことがたびたびあったか?
  4. ネットの使用時間を短くしたりやめようとして、落ち着かなかったり不機嫌や落ち込み、イライラなどを感じるか?
  5. 使い始めに意図したよりも長い時間オンラインの状態でいるか?
  6. ネットために大切な人間関係、学校のことや部活動のことを台無しにしたり、危うくするようなことがあったか?
  7. ネットへの熱中のしすぎを隠すために、家族、先生やそのほかの人たちに嘘をついたことがあるか?
  8. 問題から逃げるため、または絶望、不安、落ち込みといったいやな気持ちから逃げるために、ネットを使うか?

 厚生労働省研究班の調査では、5項目以上に該当する「病的使用」は男子で6.4%、女子で9.9%だった。この割合を全国の中高生の総数から推計した結果、“ネット依存”の中高生が全国に51万8000人というわけだ。

 なお、この8項目のDQのベースになっているのは、米国の心理学者キンバリー・ヤング博士が作成した「Internet Addiction Diagnostic Questionnaire(IADQ)」だ。

ネット依存傾向“高”=治療が必要な“ネット依存”とは限らない

 今回、総務省情報通信政策研究所と橋元教授らが行った調査では、同じくヤング博士が提唱した20項目のDQを参考に独自に調整したものを試行的に用いた。具体的には、ソーシャルメディアとその利用に即した文言を追加し、高校生向けに記述なども調整。各項目について「いつもある」「ときどきある」などを選択してもらい、その結果を点数化して依存傾向を3段階に分類している。

  1. 気がつくと、思っていたより長い時間ネットをしていることがある
  2. ネットを長く利用していたために、家庭での役割や家事(炊事、掃除、洗濯など)をおろそかにすることがある
  3. 家族や友だちと過ごすよりも、ネットを利用したいと思うことがある
  4. ネットで新しく知り合いを作ることがある
  5. 周りの人から、ネットを利用する時間や回数について文句を言われたことがある
  6. ネットをしている時間が長くて、学校の成績が下がっている
  7. ネットが原因で、勉強の能率に悪影響が出る
  8. 他にやらなければならないことがあっても、まず先にソーシャルメディア(LINE、Facebookなど)やメールをチェックすることがある
  9. 人にネットで何をしているのか聞かれたとき、いいわけをしたり、隠そうとしたりすることがある
  10. 日々の生活の問題から気をそらすために、ネットで時間を過ごすことがある
  11. 気がつけば、また次のネット利用を楽しみにしていることがある
  12. ネットのない生活は、退屈で、むなしく、わびしいだろうと不安に思うことがある
  13. ネットをしている最中に誰かに邪魔をされると、いらいらしたり、怒ったり、言い返したりすることがある
  14. 夜遅くまでネットをすることが原因で、睡眠時間が短くなっている
  15. ネットをしていないときでも、ネットのことを考えてぼんやりしたり、ネットをしているところを空想したりすることがある
  16. ネットをしているとき「あと数分だけ」と自分で言い訳していることがある
  17. ネットをする時間や頻度を減らそうとしても、できないことがある
  18. ネットをしている時間や回数を、人に隠そうとすることがある
  19. 誰かと外出するより、ネットを利用することを選ぶことがある
  20. ネットをしている時は何ともないが、ネットをしていない時はイライラしたり、憂鬱な気持ちになったりする

 なお、ネット依存傾向が高いことのみで、治療が必要となる“ネット依存”であるわけではないことに留意が必要だとしている。

 また、ヤング博士による尺度は世界的に最も広く用いられているもので先行研究も多いというが、1998年に作成されたものであり、「スマートフォン等によるネットへの常時接続、ソーシャルメディアによるコミュニケーションの一般化等の昨今の環境変化を必ずしも踏まえていない」として、この手法の課題も指摘。「現在の基準で依存傾向『高』に分類された者は、ネットの活用度が高いとは言えるものの、必ずしもいわゆる『ネット依存』として医学的な治療が必要な者とは限らないと考えられる」「例えば、『気がつくと思っていたより長い時間ネットをしていることがある』『他にやらなければならないことがあっても、まず先にソーシャルメディアやメールをチェックすることがある』等、半数以上が『いつもある』『ときどきある』と回答した項目は単なる一般的な利用形態を示すものであり、『依存傾向』の尺度としては疑問があると考えられる」としている。

 なお、橋元教授は、前述の東京都青少年問題協議会の専門部会でも昨年10月、参考人として専門家の意見を述べている。専門部会の中間報告によると、橋元教授は現行の診断基準がいずれも自己報告の形式であることから、「本当にリスキーな人は『自分は依存状態にはない』として、該当項目にもチェックしない可能性がある」と説明している。また、スマートフォンの普及でネット利用時間が長期化していること、スマートフォン利用者の方が依存傾向が高いことなどを挙げながらも、「やがて、ほとんどすべての人間が情報収集や連絡、仕事、娯楽などで起床時間中ずっとネットにアクセスしているような時代が必ず訪れるため、ネットにアクセスし続けること自体は問題ではない」と指摘。その上で「ネット依存の問題は、人に迷惑をかけるか否か、その人の生活・人生にとって不利益を与えるか否かという点について、自己判定ではなく、周辺の観察者の冷静な判断が必要」と述べている。

(永沢 茂)