10代のネット利用を追う

ネットはかっこよく使おう――自分と友達の自由を奪う道具にしてしまわないで

ネット依存アドバイザーの遠藤美季氏に聞く

 前回、ネット依存外来を行っている成城墨岡クリニックの院長・墨岡孝氏にお話をうかがったが、その中で、クリニックに来られない患者にはカウンセラーを紹介しているという話があった。そこで今回は、ネット依存などに関する相談対応や講座などを行う任意団体「angels-eyes(エンジェルズアイズ)」の代表・遠藤美季氏に、どのような活動を行っているのか、また、ネット依存になる子供の傾向などについてうかがった。

ネット依存の問題に気付いて団体設立

 遠藤氏はかつてパソコンインストラクターだったころ、ネットをしている時に様子が変わる生徒や仲間がいることに気が付いた。

 例えば、Excelを習いに来た22歳の女性だ。「親に禁止されていてネットが使えない」と聞いていたので、ある日、「早く終わったらご褒美にネットを10分だけやってもいいことにしよう」と決めた。彼女がネットを始めたところ、普段はおとなしくてしゃべらない人なのに、パソコンに向かってずっとしゃべっている。遠藤氏が話しかけても何も耳に入っていない様子で、「終わりだよ」と言ったらやっと元に戻った。

 30代前半の男性インストラクターの話も興味深い。ひとり暮らしをしていたその男性は、「部屋でひとりでネットをしていると幻覚が見える」と言っていた。ひとりでホラーサイトを見ていたところ、人の気配を感じ、振り返ったら人がいるという体験をしたという。実際にはないものが見えるようになったことを恐れ、ネットの利用を制限するようになったそうだ。

 問題に思った遠藤氏が情報を探したところ、「Internet Addiction」という言葉を知った。当時、小学生がネットでのトラブルから同級生を殺害した佐世保の事件など、気になることが社会で起きていた。「ネットは便利で楽しいだけではないのでは?」と感じ、団体を作ることにしたという。

「angels-eyes」のウェブサイト

ネット依存には保護者の問題が大きい

 遠藤氏はこれまで、学校の授業を補佐する情報教育アドバイザーや、小学校の生活支援委員、保健室事務補佐などもしている。子供の環境やネットの利用に関心があり、仕事の依頼があれば引き受けるようにしている。そこで子供たちのネットの使い方を知り、まだまだ不十分なネット教育(学校・家庭)の現状を知った。

 ある学校には、母親がずっとチャットばかりして家事をしないため、毎日朝ごはんを食べずに来る生徒がいた。親がパソコンを子供に渡しっぱなしにしたため、ゲーム漬けになっていた生徒もいる。親の古いスマートフォンでWi-Fi経由でネットを使ったり、ゲーム機や音楽プレーヤーで利用したり、自分自身は端末を持っていなくても友達の家で利用している場合もある。「いろいろな事情を抱えた保護者もいるが、ネットの利用を子供任せにしているとトラブルに気付くのが遅く、対応が難しくなる。親への啓蒙が必要」。

 さらに「ネット依存は子供だけのものではない」とも指摘する。「実際、子供の方が親より(ネットの利用を)制限しようという意識が高いというデータもあります」。親は大人の責任でネットを使っているつもりだが、はまっている人もたくさんおり、親の間でもSNSのトラブルも起きている。子供もだちはそんな親の姿を見て育っていることを意識してほしい。

新しく購入する端末はスマホ

 遠藤氏は、小学生から高校生まで年齢や発達段階に合わせたリテラシー授業を行っている。例えば小学生の場合は、ゲームがやめられなくて困った男子、SNSがやめられなくて困った女子の例があり、「一緒に依存について考えよう」というスタンスで授業を行った。中高生に対しては、依存の危険性や情報発信トラブル、いじめについて授業で考えた。

 ある都立高校で自分はネットに依存しているかどうかアンケートを取ったところ、「依存している」「やや依存している」が合わせて60%に上った。また、1年生と2年生に聞いたところ、1年生の方がスマートフォン率が高かった。新しく端末を買う子供ほどスマートフォンを選ぶ傾向がうかがえる。

自己肯定感が低い子供は依存する

「angels-eyes」代表の遠藤美季氏

 子供からネット依存についての相談も受け付けている。依存傾向にある子供は、ずっとネットを使っている自分を自己嫌悪していたり、他人と比べて劣等感を感じていたり、自己肯定感がもともと低い傾向があるという。一方、将来に目的があったり、自分に自信を持っていたり、親とのコミュニケーションが普段からとれている子供は、スマートフォンを所持していても依存しすぎることはないのだそうだ。

 「目標もなく、自己肯定感が低い子供は依存する。スマートフォンで承認欲求が満たされるからだろう。ツイキャスをしている女子中高生を見ていると、知らない人に認められたい欲求が強い。女子高生はネットを利用してから気分が落ち込むと答える子も少なくないが、ネットで承認されても気持ちが満たされないと感じている子もいるのではないでしょうか。」

 さらに、「ストレス発散や現実逃避に使う子は多い」とも言う。「本当は悩みに向かい合って真剣に悩むべきだが、つらいのでネットに逃げてしまう。ネットに逃げるとさらに問題が山積みになり、ますますはまってしまって抜けられなくなる」。

 「ネットを長時間利用する理由は、楽しい、連絡、情報を得たいなどさまざまだが、友達とつながっていないと不安という気持ちもある。そこにLINEやスマホがぴったりとはまってしまった」と遠藤氏は考える。子供たちは年々、傷付くことを避ける傾向にあり、コミュニケーションの形が変わってきている。「社会に出たら傷付くシーンが多く、コミュニケーションの練習ができる大事な時期に自分と対峙しない子は成長できるのか心配」。

優先することがぶれなければいい

 「優先することがぶれなければネットを利用してもいい」と遠藤氏は語る。例えば、ピアノを練習していた子供がピアノのそばにスマートフォンを置くようになると、通知が来る度に手を止めてスマートフォンを見ることになり、練習に集中できなくなる。自分にとって本当に大事なのはピアノなのに、情報(話題)が気になる気持ちが働くせいだ。しかし、それでは優先することがぶれている。

 それに対して遠藤氏は、「ネットはかっこよく使おうよ」と言う。「情報を見る時は見る、オフにする時はオフにしよう」というわけだ。「『ネットばかりじゃなくて他のこともやろう。ネットを自分や友達の自由を失う道具にしないでほしい。自分の時間を失うだけでなく相手の時間も奪ってるんだから』と言うと子供たちははっとする」。

 しかし、以前はアメーバピグ、今はLINEに入らないと仲間はずれになり、「Facebookをやらないといけないからスマホを買った」という子供がいるのが現状だ。LINEで待ち合わせ時間の変更を連絡したが、LINEをしていない子供だけがそれを知らずに最初に決めた時間に向かってしまったという例もある。相手がいるため1人だけがやめてもうまくいかず、保護者にとっても悩みの種というわけだ。

 「共通のルールがある方が快適に使えるだろう。マイルール、家庭ルール、友達ルールのどれかを作るといい。ただし学校は同調圧力の世界なので、家庭だけでは問題の解決は難しい」。

子供のネット利用は「管理」ではなく「関心」で対応

 遠藤氏には2人の子供がいるという。自分の子供にはどのような対処をしてきたのだろうか。

 2人ともケータイを持ち始めたのは高校からだ。購入時に遠藤氏自ら、架空請求やネット依存などのケータイで起きる具体的なトラブルについてアドバイスをした。その後も、トラブル事例については逐一伝えるようにしている。

 「子供たちは、サークルや授業でのケータイの使い方を話してくれる。そう話せる関係が重要。あとは信じてあげること。それが一番難しい」。また、紛失した場合に備えてケータイにロックはかけるが、「見るかもしれないから」と暗証番号を聞いている。「実際に見たことはないが、見られてもいいような使い方をしてほしいと考えた」。

 「何かあった時は私に分からないことでも相談して」「重要なことはメールなどではなく電話で連絡する」という決め事もある。大学生になって帰りが遅くなる時には、本人かどうか分かるように電話で連絡させた。飲みに行く時にも、一緒にいる人と場所、友達の連絡先についても聞いたという。子供のネット利用は「管理」ではなく「関心」で対応してきた。

 「自分にとって何が大事なのかを自ら考え、目標を達成するまでは自制する気持ちがあれば依存しない。親は端末を与える前にその準備を一緒にして欲しい」。

他のことに関心を持つことでネット依存は治せる

 「ネットの問題は突き詰めていくと家庭環境の影響も大きい」と遠藤氏。「ネット依存は病気じゃないと言われるが、そういって放っておいてしまうと深刻なケースになり、家族の力では回復させることは難しくなる。反抗期思春期前に親子でネット依存について考える時間を持ってほしい」。

 ネット依存者に対しては、このようにアドバイスする。「高校生くらいでやや依存傾向にあるくらいの子は他のことに関心を持つといい。リアルを充実させて他のことにも関心を持つことで改善される」。ネットをやめると何をしたらいいか分からない子供は多い。保護者は幼いころから子供の選択肢をたくさん用意するようにすべきだろう。「スマホなどを無理に取り上げる必要はないが、ご飯だから、あるいはお風呂だから、人に会っているから、1時間やったからやめようと親子で一緒に習慣付けていくと次第にやめられる」。

 ネット依存は逃避行動の1つでもある。「自分が本当にやりたいことが自覚できれば、ネット依存状態から離れることができる」という遠藤氏の意見には説得力があった。保護者は子供のネット利用状況を把握し、自分を客観視できない子供の代わりに見守る必要がある。

高橋 暁子

小学校教員、ウェブ編集者を経てITジャーナリストに。Facebook、Twitter、mixi などのSNSに詳しく、「Facebook×Twitterで儲かる会社に変わる本」(日本実業出版社)、「Facebook+Twitter販促の教科書」(翔泳社)など著作多数。PCとケータイを含めたウェブサービス、ネットコミュニケーション、ネットと教育、ネットと経営・ビジネスなどの、“人”が関わるネット全般に興味を持ってる。http://akiakatsuki.com/