10代のネット利用を追う

高校生の放課後、ケータイと勉強時間との間に“逆相関”関係くっきり

Benesse教育研究開発センターに聞く


 株式会社ベネッセコーポレーションのシンクタンクであるBenesse教育研究開発センターが2009年10月、「放課後の生活時間調査報告書―小・中・高校生を対象に―」という報告書を発表した。この調査から分かる子どもと携帯電話との関わりについて、同センター主任研究員の木村治生氏に聞いた。

 一般的に子どもの携帯電話利用をめぐっては有害情報やいじめなどの問題がクローズアップされているが、木村氏は、携帯電話じたいの問題だけでなく、勉強時間など他の活動時間へ与える影響も考えるべきと指摘する――。

「放課後の生活時間調査報告書」の全文がWebサイトで公開されているBenesse教育研究開発センター主任研究員の木村治生氏

放課後の時間の大半が、勉強とメディア

 調査は2008年11月、全国の小学5年生から高校2年生までを対象に郵送で実施。8017人から回答を得た。ある1日(平日)の午前4時から翌午前4時までに行ったことを、あらかじめ設定した分類から選んで、15分単位で記入するものだ。2つ以上の行動を同時に行っていた場合は、メインの行動を1つ選んでもらった。

 この「24時間調査」によると、睡眠・食事などの生活の時間や学校に行っている時間を除くと、子どもの放課後の時間、すなわち1日の可処分時間は、小学生で平均290.9分、中学生で307.8分、高校生で264.6分だった。

 そのうち、勉強の時間(学校の宿題、宿題以外の勉強、学習塾の合計)は小学生が平均80.7分、中学生が125.7分、高校生が72.7分、メディアの時間は小学生が平均82.4分、中学生が95.3分、高校生が105.9分となっており、勉強とメディアの時間の合計で放課後の時間の半分以上を占めていることが分かる。

 メディアの時間の内訳について詳しく見てみると、一般的にはテレビ視聴時間の減少が指摘されているが、小学生で平均64.2分、中学生で59.4分、高校生で56.8分あり、相変わらずメインのメディアとなっている。

 一方、携帯電話は小学生が平均0.6分なのに対して、中学生で7.9分、高校生では19.8分(男子11.6分、女子27.4分)となり、学年が上がるに従って携帯電話の占めるポジションも大きくなる傾向にある。

 このほかのメディアとしては本・新聞、マンガ・雑誌、音楽、パソコンがあるが、それぞれ数分から十数分程度と短く、また、学年による増減傾向もない。

部活や塾などの“2.5次行動”が、放課後の時間に大きな影響

 生活の中の行動を、1)睡眠や食事など生理的に必要な「1次行動」、2)学校など社会的義務である「2次行動」、3)各個人が自由裁量時間に行う「3次行動」――の3つに分類する方法があるが、この報告書の中で木村氏は、子ども独自の行動分類として“2.5次行動”に着目した分析を行っている。


  • 1次行動……睡眠、食事、身のまわりのこと

  • 2次行動……通学、学校、放課後に学校ですごす(部活動以外)

  • 2.5次行動……部活動、学習塾、習い事・スポーツクラブ、アルバイト

  • 3次行動……移動、屋外での遊び・スポーツ、室内での遊び、テレビゲーム、家での勉強(学校の宿題、学校の宿題以外)、習い事の練習、テレビ・DVD、本・新聞、マンガ・雑誌、音楽、携帯電話、パソコン、家族と話す・すごす、友だちと話す・すごす、家の手伝い、買い物、体を休める、ペットとすごす、その他

 一般的には3次行動に含まれる選択可能な行動だが、子どもに特徴的な拘束性の強い行動を、木村氏は2.5次行動と定義しているわけだ。

 そして調査の結果からは、2.5次行動は、必要度の高い1次行動や2次行動よりも、3次行動を減少させていることがわかった。つまり、部活動や塾、アルバイトといった行動は、睡眠時間や学校にいる時間などにも一定の影響を与えるが、それ以上に家での勉強やテレビ視聴などの3次行動を減少させるのだ。

 2.5次行動として分類した行動はいずれも“場”に所属しており、場の拘束性が強い。一方、学校の宿題のように子どもには必須と思われる行動であっても、場の拘束性が弱いものは3次行動に分類している。携帯電話も3次行動に含まれるが、友達空間というバーチャルな場に拘束されているという意味で2.5次行動に近く、“2.7次行動”と言えるかもしれない。

 では、携帯電話は、他の行動の時間にどのような影響を与えているのだろうか。

携帯電話の時間が長い高校生ほど、勉強時間は短い傾向

 「放課後の生活時間調査」では、「24時間調査」と同時に、設問形式の「アンケート調査」も実施している。ふだん(学校がある日)、各行動を1日にどれぐらいの時間やっているか、あてはまるものを「しない」~「4時間より多い」の中から選ぶものだ。

 その結果をもとに、携帯電話使用時間の長さ別に、高校生における家での勉強時間(宿題と宿題以外の合計)を算出したところ、逆相関の関係にあることが分かった。携帯電話を「しない」とした層の勉強時間は平均100.6分だったのに対し、携帯電話を1日「1時間」使うとした層では勉強時間は平均69.2分、携帯電話が「4時間より多い」とした層では勉強時間は平均43.0分だった。

携帯電話の使用時間家での勉強時間
しない100.6分
5分95.5分
10分88.2分
15分95.0分
30分85.9分
1時間69.2分
2時間59.7分
3時間57.7分
4時間53.5分
4時間より多い43.0分
無回答・不明119.2分
全体平均76.8分

 携帯電話の時間が増えると勉強時間が減るのではないかと考えがちだが、逆に、勉強時間の方が携帯電話の時間を抑制しているという見方もあるだろう。逆相関の関係にある傾向ははっきりと出ているが、今回の調査からは因果関係までは分からない。

テレビや携帯電話に費やす時間、高校の偏差値によって差

 報告書では、受験が子どもの生活に与える影響について、Benesse教育研究開発センター研究員の邵勤風氏が「24時間調査」をもとに分析。高校生の調査結果からは、大学進学予定の有無および通学する高校の偏差値により、放課後の時間の使い方が異なっていることがわかった。

 1)大学受験予定なし、2)大学受験予定あり/偏差値50未満、3)大学受験予定あり/偏差値50台、4)大学受験予定あり/偏差値60以上――の4群に分類し、まずは勉強時間について見てみると、順に平均29.5分、74.8分、118.9分、152.5分となった。大学進学を希望し、偏差値が高いほど長くなる傾向がはっきりと表れており、1)群と4)群では約2時間の差がある。

 逆に睡眠時間は、平均413.0分、403.2分、384.4分、374.4分と短くなり、1)群と4)群では約40分の差。

 メディアの時間も同様に、平均135.7分、98.4分、76.9分、70.1分と短くなり、1)群と4)群では1時間以上の差があった。

 さらにメディアの時間について詳しく見ると、テレビ・DVDは順に平均78.8分、54.3分、42.2分、38.0分、携帯電話も平均27.5分、17.1分、13.1分、7.0分と、大学進学を希望し、偏差値が高いほどそれぞれ短くなる。

 一方、同じメディアでも、本・新聞、マンガ・雑誌、音楽、パソコンには有意な違いは見られない。また、4群ともこれらの時間は短いため、メディアの利用時間全体の長さを決めるのは、テレビ・DVDと携帯電話であると考えられる。

 ちなみに、学校の成績で見ても同様の傾向が見られ、成績上位者に比べて下位者は、家での勉強の時間よりメディアの時間が長い傾向にあることが分かっている。

携帯電話よりも大きな影響を子どもへ与えている行動は……

 報告書の中で、Benesse教育研究開発センター研究員の橋本尚美氏は、メディアの時間が長い子どもは睡眠時間が短い傾向にあると指摘している。「24時間調査」によると、メディアの時間が短い(15~90分)層の小学生の睡眠時間が522.1分なのに対し、長い(105分以上)の層は507.1分だった。同様に、メディアの時間が短い中学生は睡眠時間が450.2分なのに対し、長い中学生は441.7分、短い高校生が405.0分なのに対し、長い高校生は401.9分だった。橋本氏は「メディアの時間が長い子どもの場合は、睡眠の時間を削ってメディアの時間を確保している面があると考えられる」と分析している。

 携帯電話については残念ながら、報告書の中では言及されていないが、メディアの一種であるとするなら、同様のことが考えられそうだ。睡眠時間についても、勉強時間ほどではないが、携帯電話の時間とは弱い逆相関の関係にあると木村氏は説明する。

 もちろん、睡眠時間を削るのは、テレビや携帯電話を含むメディアだけではないという点には留意しなければならない。先に、通学する高校の偏差値が高くなるほど睡眠時間が短い傾向にあるというデータを紹介したが、むしろ、勉強時間の方が睡眠時間へ与える影響が大きいだろう。やはり子どもにとって勉強は重要な位置を占めていることは確かで、報告書でも、受験が子どもの行動に与える影響の大きさを指摘する分析もいくつか行われている。

 しかしながら、先に表現したように携帯電話を“2.7次行動”と位置付けるなら、3次行動である家での勉強よりも優先される可能性はある。携帯電話の持つ場の拘束性が過度に強ければ、勉強時間を削って携帯電話をするようになることは想像に難くない。

 「携帯電話にはメリットもあるが、他の行動に与える時間的な影響も考えるとデメリットもある。子どもにとっては楽しいので無制限に没頭してしまいがちだが、保護者はそのことを子どもに意識させるべき。」(木村氏)

子どもの携帯利用状況を「気にかけている」姿勢、保護者が示すことが重要

 Benesse教育研究開発センターが2008年秋に小学4年生から高校2年生を対象に実施した「子どものICT利用実態調査」では、「あなたの親は、あなたがどのように携帯電話を使っているかを知っていると思いますか」という設問に対して、「知っていると思う」と答えた子どもは、携帯電話のマナーや使い方などについて気にする割合が高くなるという傾向が出た。

 「知っていると思う」とした層では、「携帯電話を使いすぎない」ことを気にしているとした子どもが78.2%いたが、「知らないと思う」とした層では59.8%だった。また、「勉強中は使わない」ことを気にしているとした子どもは、「知っていると思う」層では65.3%だったのに対して、「知らないと思う」層では50.7%だった。

 「保護者は、子どもにどれくらい携帯電話を使っているのかを日ごろから聞くべき。利用状況を把握するという意味だけでなく、『気にかけている』というメッセージを子どもに伝えることが重要。」(木村氏)

 保護者は、携帯電話を使いすぎると勉強時間や睡眠時間を圧迫する可能性もあることを認識し、子どもを見守っていく必要がある。

※役職はインタビュー時のものです。


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2010/6/11 06:00


高橋 暁子
小学校教員、Web編集者を経てフリーライターに。Mixi、SNSに詳しく、「660万人のためのミクシィ活用本」(三 笠書房)などの著作が多数ある。PCとケータイを含めたWebサービス、ネットコミュニケーション、ネットと教育、ネットと経営・ビジネスなどの、“人” が関わるネット全般に興味を持っている。