イベントレポート
Google Cloud Next ’17 in Tokyo
業務時間における生産的な業務の割合は5%――「働き方改革」のツール「G Suite」で“生産的ではない95%”を減らす
2017年6月15日 17:05
Googleの年次イベント「Google Cloud Next '17 in Tokyo」が6月14日・15日に開催された。Google Cloud Nextは、同社のGCP(Google Cloud Platform)や「G Suite」などのクラウドサービスをテーマとして今年から再編されたイベントだ。世界各地で、「Google Cloud Next」が日本を含め3カ所で、「Google Cloud Summit」が19カ所で開催される。
初日の14日に行われた基調講演では、ここ数カ月に発表されたG Suiteの最新機能や、「働き方改革」への取り組みなどが語られた。
開会のあいさつをしたGoogle Cloud日本代表の阿部伸一氏によると、今年は1万3000人を超える参加登録があり、その職種も開発者から、情報システム、経営層など多岐にわたったという。
阿部氏は日本での最近の動向として、顧客やパートナーが増えていることを紹介。さらにパートナーでG Suiteから始まってGCPも扱うようになった企業が増えていることなどを語った。
世界最大級のメガバンクもGCPに
Google Cloudのシニアバイスプレジデントのダイアン・グリーン氏は、Googleのクラウドサービス全般の概略を解説した。
グリーン氏は改めてクラウドの利点として、どこからでもアクセスできることや、システムやアプリケーションを常に改善できることなどを挙げた。
その中でGoogleのクラウドの特徴として、まず世界規模の光ファイバー網を持っている点が語られた。「無限と思えるぐらいストリーミングコンテンツが送られている。10億本に及ぶYouTubeビデオが365日流れている」(グリーン氏)。
グリーン氏はまた、「Pokémon GO」のトラフィックに耐えたGCPのメリットを語った。Pokémon GOではリリース当日から急激にユーザーが増加し、想定の50倍のトラフィックが発生したが、GCPのスケーラビリティによって耐えたという。「このようなすばらしい成功に対応できる」とグリーン氏。さらに、Pokémon GOはコンテナとGKE(Google Container Engine)のよい例でもあったと語った。
次の特徴は、信頼性だ。Google検索をはじめとする各種サービスは24時間365日提供しており、セキュリティも保っている。
グリーン氏は、VMwareの共同創業者であり元CEOである。「我々が仮想化を作ったが、オンプレミスの仮想化はいまではそれほどよくない。クラウドに管理や保守を任せたほうがいい」と主張した。
「いまは、アプリケーションのコードだけ書いてコンテナを走らせればいい。自分で管理する必要はない。Snapchatはそれで成功した」(グリーン氏)。
Google自身の運用から生まれたデータ分析ツールもある。グリーン氏は、地球規模の分散データベースのCloud Spanner、分析データウェアハウスのBigQuery、さまざまなクラウドAPIを紹介した。
セキュリティについては、Google自身を守るセキュリティが使われていると説明。750人ものセキュリティエンジニアが防御を強化しているという。それは外部との境界に壁を立てるものではなく、エンドツーエンドで総合的に保護しているという。その一要素として、グリーン氏はセキュリティチップ「Titan」を紹介。その小ささを見せるために、着けていたイヤリングを外し、そこに付いたTitanを見せた。
こうした取り組みにより、基幹システムがクラウドに乗るようになってきた。その例としてグリーン氏は世界最大級のメガバンクHSBCの事例を紹介した。Googleと組んでクラウドファーストに舵を切り、大量のデータ資産の山からさまざまな分析もしているという。
また、住宅リフォーム・建設資材・サービスの小売チェーンのThe Home Depotは、ブラックフライデーに向けてGoogle Cloudに移行し、6カ月で移行を完了した。コンテナによりアクセスがスパイクしても対応できるようになったほか、2000店のデータをBigQueryで分析しているという。
続いてG Suiteと働き方について。プライスウォーターハウスクーパース(PwC)はGoogle Docsによるコラボレーションによって、1人あたり1週間で9時間を削減したという。「世界中どこにいてもコラボレーションをできるのがクラウドのメリットだ」とグリーン氏。同氏は日本の「働き方改革」について言及し、「すばらしいことだ」とコメントした。
そのほか、自然環境保護への取り組みや、教育分野でのChromebookやG Suiteの普及についてもグリーン氏は説明した。
グリーン氏は最後に、これからの時代について語った。「アイデアさえあればいいという世界を現実にできる」として、APIによる企業同士・企業と顧客との通信や、AIの洞察によって解決できなかったことを解決することなどビジョンを語った。そして、「Googleの規模や、人材、企業文化から、顧客の利益を生み出し、よりよい文化を作る」とまとめた。
「働き方改革」を進めるための「How」
続いて、日本企業の働き方改革への取り組みについて、Google Japan専務執行役員CMO・アジア太平洋地域マネージングディレクターの岩村水樹氏が語った。
岩村氏は、いま働き方改革の気運が盛り上がっているが、実際の推進には「HOWがないことが障壁になっている」と問題を提起した。
その上で、Googleでビジネスリーダーが取り組むべきとしている「文化」「ツール」「プロセス」の3つを挙げ、「ここでは文化について話したい」と岩村氏は言った。「なぜ文化が重要か。それは、我々の『イノベーションは1人の天才ではなくチームの力を最大化してこそ生まれる』という考えによるものだ」(岩村氏)。
もちろん、Googleの働き方がどの会社に当てはまるわけではないだろうと言う。岩村氏は、さまざまな企業を分析して共通して言えるよい文化として「サイコロジカル・セーフティ」を挙げた。要件は「自分らしく発言し、それを受け入れてもらえること」「失敗するリスクがとれること。学びを賞賛してもらえること」だという。
実際の取り組みとして、サポーター企業とともに行った女性の活躍推進と働き方改革のプロジェクト「Womenwill」を岩村氏は紹介した。目標は「ワークハードからワークスマートヘ」だ。
ここでは3つのテーマがチャレンジされた。「Work Shorter(退社時間の計画)」「Work Simply(会議など業務の効率化)」「Work Anywhere(在宅勤務)」だ。
このうち「Work Shorter」は、一律ではなく、各自が自分の退社時間を決めるというものだ。そのために、Googleカレンダーなどのスケジューラーで自分の仕事の見える化をして、自分の効率化の意識を上げるとともに、チームを効率化した。これによって平均勤務時間が、8~9時間から7~8時間に減ったという。
岩村氏は最後に、働き方改革についてまとめた「働き方改革推進ガイド」「働き方改革実践トレーニング」の2つのコンテンツを紹介し、働き方改革の推進を呼び掛けた。
「G Suite」で“生産的ではない95%”を減らす
次は、働き方変革の「ツール」であるG Suiteについて、Google CloudのG Suite部門バイスプレジデントのプラバッカー・ラガバン氏が解説した。
「衝撃のデータだ」としてラガバン氏は、業務時間において生産的な業務の割合が5%しかないという数字を示した。そして、「G Suiteによって、この5%を伸ばせる」と述べ、「資料作成」「人工知能」「コラボレーション」の3つを説明した。
まず、資料作成だ。いままでチームで資料を作成するには、1人が作って、それをメールで送って、次の人が編集して、というフローだった。しかしこれでは、待ちができたり、その間に別バージョンができて管理できなくなったりする問題がある。
それに対してGoogle Docsでは、直接コラボレーションできる。グリーン氏のところでも紹介されたように、PwCは1人あたり1週間で9時間を削減したという。さらに、Sheets APIやSlides APIなどを使うことで、より効率よくスライドを作れるとラガバン氏は説明した。
ラガバン氏はそのほか、作業の中断を防ぐGmailのアドオンや、エンドユーザーが簡単なアプリを作れるAppMakerなどを紹介した。
続いて、G Suiteへの人工知能の応用だ。Gmailには、迷惑メールや重要メールを判別する機能が備わっている。さらに、返信の文面を人工知能が作成する「スマートリプライ」の機能も登場した。
こうした人工知能について、ラガバン氏は「人間の創造性を置き換えるわけではなく、人間が生産的な作業に集中できるようにする」と説明した。「人工知能にベートーベンの第9交響曲を作ることはできないが、ベートーベンが第10交響曲を完成させる時間を作ることはできただろう」(ラガバン氏)。
そのほか、G Suiteで生産的ではない作業時間を短縮する機能として、Googleドライブで次にアクセスするファイルの候補を提案してくれる「クイックアクセス」や、打ち合わせの時間をGoogleカレンダーが関係者の空き時間を見て決めてくれる機能が紹介された。
コラボレーションの効率化のツールとしては、Googleドライブがある。ラガバン氏は、3月に開かれた「Google Cloud Next '17 San Francisco」での発表から、チーム共有のドライブ「チームドライブ」、アーカイブや検索のための「Google Vault」、バックグラウンドで同期する「Drive File Stream」、G Suiteへのデータ移行ツール「AppBridge」を紹介した。
不要な機密情報を自動消去するDLP
Google Cloudのセキュリティについては、Google Cloudのエンジニアリング部門バイスプレジデントのブラッド・カルダー氏が解説した。
カルダー氏は「GCPといえばまずセキュリティ。金融機関までサポートしている」と述べた。なお、セキュリティのほかに「カスタマーフレンドリー」「インテリジェント」「オープン」というキーワードも出されたが、「今日はセキュリティについて話し、明日の基調講演では残りの3つを話す」とのことだった。
カルダー氏は「昔はクラウドはセキュリティが心配と言われていたが、いまはセキュリティのためにGCPを選ぶ。多層防御が行われていて、最高レベルで守っている」と主張した。
GCPがセキュアだという理由について、Googleがグローバルなネットワークを持っており、直接ISPに接続していることをカルダー氏は説明した。さらに、グリーン氏の話でも触れられたセキュリティチップTitanもあり、ハードウェアのパーツ1つにも認証を用いて不正な機器をBIOSレベルで識別していると説明した。
さらに、すべてのデータが暗号化されることや、フィッシングを防ぐ二要素認証やセキュリティチップなどについても紹介した。
そのほか、AndroidやChromebookも守ることによるエンドツーエンドのセキュリティや、G Suiteでのデータの保護などについても紹介。「セキュリティと信頼性はGoogle Cloudの中心にある」と語った。
ここで、最近追加されたセキュリティ機能「DLP(Data Loss Prevention)」を、Google Cloudの水江伸久氏と金子亨氏がデモした。
説明によると、DLPは企業が余分な機密情報を持たないよう「不必要な機密情報を識別して除去する」機能だという。それによって、企業が持つ機密情報の量を最小限にできる。
例えば、サポートのチャットで、マイナンバーの下4桁を尋ねたら、フルのマイナンバーとマイナンバーカードのスキャン画像が送られてきた場合、マイナンバーの取り扱い上問題となる。そこで、チャットが終わったらDLPが機密情報を識別して除去してくれるとことを見せた。
また、クレジットカードをウェブカメラでリアルタイムに写し、カード番号の場所だけを消してくれるところもデモした。