イベントレポート

MIAU祭2014

面白がって使うことがオープンデータ・オープンガバメントの未来へつながる

MIAU設立6周年記念イベントでトークセッション

 一般社団法人インターネットユーザー協会(略称MIAU、代表理事:小寺信良、津田大介)が15日、国際大学GLOCOMホール(東京・六本木)にてMIAU設立6周年記念イベント「MIAU祭2014」を開催、計19名の識者が「インターネットと著作権」や「インターネットとプライバシー」などをテーマとした講演やトークセッションを繰り広げた。

 ここではそのうち、「オープンデータ・オープンガバメントとネットユーザー」をテーマとしたトークセッションをレポートする。登壇者は以下のとおり(敬称略)。

福井健策(弁護士、thinkC世話人)
楠正憲(国際大学GLOCOM客員研究員)
渡辺智暁(国際大学GLOCOM主幹研究員、コモンスフィア理事)
八田真行(MIAU幹事会員、駿河台大学経済経営学部講師)
庄司昌彦(MIAU理事、国際大学GLOCOM講師/主任研究員)※モデレーター

(右から)福井氏、楠氏、渡辺氏、八田氏

オープンデータ・オーブンガバメントの現状と課題

渡辺智暁氏(国際大学GLOCOM主幹研究員、コモンスフィア理事)

 トークセッションはまず渡辺氏から、ネットユーザーはオープンデータ・オーブンガバメントにどうかかわるべきかというプレゼンから始まった。渡辺氏は、政府にももちろん批判すべき点はあるが、まずは政府と組んで社会をよくすること、政府にネットのマインドを身に付けてもらうことが大切だと語った。というのは、オープンデータ・オーブンガバメントというのは、ただ単に行政が情報を出せば完結するわけではなく、そのデータを活用して経済が活性化したとか、社会が良くなったといった結果がともなって初めて意味があることだからだ。

 成功条件は鶏と卵の関係に似ており、ネットユーザーによるデータの利用例や成功事例が増え、政治家や民間からも注目されるようになれば、行政も今以上にデータを公開することに抵抗がなくなり、ますます公開データが増えていく。ところが、お互い譲りあって逆のスパイラルになってしまうと、「機が熟すまで待ちましょうか」ということになり萎んでしまう。

 行政がデータの公開をためらうのは、以下の様な理由からだ。

  • データを悪用されるかもしれない
  • データを悪用されたら、行政が批判される
  • データが間違っているかもしれない
  • 誤解が広まると困るので専門家だけに提供する
  • 改ざんされると困るので「改変禁止」にしたい

 データの活用によるメリットの方が大きいはずだし、批判をされたらむしろMIAUが擁護するくらいでいい、無保証・自己責任で構わないし、元データと比較できるように公開すれば改ざんされる危険性も低くなる、というのが「ネットのマインド」だ。しかし、行政には過剰なまでに強い責任感と、トラブル回避・コントロール志向があるのだ。

八田真行氏(MIAU幹事会員、駿河台大学経済経営学部講師)

 これに対し八田氏は、よく調べると日本の行政はかなりのデータを公開しているという。しかし、ファイル形式がほとんどPDFで再利用が困難だったり、ライセンスがクリアになっていないから「使えない」のだそうだ。「日本版オープンデータをやろう」という話はあるが、むしろ実態としては「改変禁止」ライセンスで公開されるケースが増えるなど、逆回転が起きてしまっているようにも感じるそうだ。

 渡辺氏は、オープンデータの政策で気になっていることとして、以下の点を挙げた。

  • そもそも政府の文書やデータは著作権保護対象から外すべきではないか
  • 「著作物」に該当しないような単純データにもクレジット表記するのはおかしい
  • 「公序良俗に反しない利用」という制限を付けるのはおかしい
  • 公開済みデータの利用許諾は進めているが、未公開データの公開が進んでいない

 要するに、「オープン」データなのに政府が「こういう使い方をして欲しくない」と注文を付けるのはおかしいということだ。公開した瞬間に誰もが自由に使えるのがオープンデータであり、使われたくないなら公開するなという話になってしまう。また、アメリカでは1クリックでダウンロードできるようなデータが、日本だと手書きの申請書を書いて郵送で送って……という、致命的な生産性の違いがあるという指摘もあった。

楠正憲氏(国際大学GLOCOM客員研究員)

 楠氏は、まだオープンになっていない情報は、商業化の見通しが立たないから放って置かれているのではないか?という視点を提示した。お金になりそうな情報、役に立ちそうな情報はすでに表に出ており、何のために、何の用途で使えるか分からなければ、出さないのも無理はないというわけだ。人の手間が増えてお金がかかる話なのだから、具体的にどんな効果がある(あった)を説明できなければならない。「いいからとにかく出しましょう!」と連呼するだけではダメだと。また、生活に密着した本当に役立つデータは、恐らく中央政府ではなく地方自治体が持っているという見解を示した。

 楠氏は、「オープン化が進んでいない」「データ活用できていない」というのは、外国コンプレックスではないかともいう。日本に伝わってくる外国の事例は、よくよく調べると小さなことを華々しくアピールしているに過ぎない場合も多いそうだ。東日本大震災の時に、車のナビに搭載されているGPSデータを元に通行履歴のある道のデータが公開された事例を紹介し、「日本はPRが下手なだけではないか?」と疑問を投げ掛けた。

日本におけるナショナル・デジタルアーカイブの現状と課題

福井健策氏(弁護士、thinkC世話人)

 続いて福井氏から、日本におけるナショナル・デジタルアーカイブの現状と課題についてのプレゼンが行われた。日本でもここ数年、デジタルアーカイブ化が急速に進んでいるが、これはEUの電子図書館「Europeana」の動きに刺激を受けてのことだ。Europeanaは昨年末に3000万点ものデジタルアーカイブを公開しており、一気に進んだのはEU各国共通のゲートウェイを作ったことに依るという。

 EUが強力にデジタルアーカイブ化を推進しているのは、書籍の全検索サービスである「Google Books」に脅威を感じているからだ。検索結果一覧の2ページ以降は、ほとんど見られないという現状がある。そして、検索結果の順位はアメリカの一企業であるGoogleが決めている。非英語圏の文化、特に言語の壁が低いフランスやドイツにとって、それは耐え難いことなのだ。

 なお、日本では「国会図書館デジタルコレクション」で約48万点のデジタル化資料がインターネット公開されている。国立国会図書館内限定提供は約181万点で、1月21日からは「図書館向けデジタル化資料送信サービス(図書館送信)」が始まり、国会図書館の承認を受けた全国各地の図書館内でも見られる仕組みが整えられつつある。

 日本のデジタルアーカイブの課題は「ヒト、カネ、著作権」だ。国会図書館が2009年に行った「文化・学術機関におけるデジタルアーカイブ等の運営に関する調査研究」では、「予算不足」が79.1%、「人員不足」が79.0%、「データの保守・メンテナンス」が49.6%、「著作権」が48.9%だったという。国家予算に占める文化予算の割合は、フランスと日本で10倍くらい違うそうだ。

 福井氏は、日本も自前のプラットフォーム整備を考えた方がいいのではという。国家覇権をかけた、国家間競争として、情報流通のハブを持っていかれてしまうという視点を持つべきだというのだ。そのための具体策として特に、公的助成を受けた文化・学術事業では、成果のデジタル公開を原則とし、パブリックライセンスの有無を明示化すべし(ただし、権利問題などがない場合に限る)という点を強調した。

 楠氏は、昨年に宮内庁がデジタル資料6万点をネット公開した事例を紹介した。宮内庁は資料を学術機関へ貸し出す際に、高解像度でスキャンしてデータとともに返却することを条件にしており、デジタル化に関して宮内庁の予算は使っていないそうだ。

 楠氏自身は、国会図書館デジタル資料をよく利用するそうだ。例えば、戦後民主主義教育では「会議」のやり方を教えなくなっているが、戦前には「会議」に関する資料が結構あるという。ところが、館内限定公開が多いことが不満だという。「考えること」の深さが変わってくるから、情報はなるべく公開した方がいいし、アクセスできた方がいい。ところが、昨今は書籍がすぐ絶版になってしまい、市場から姿を消してしまう。公開してアクセスできる状態になっていた方が、著者の多くは喜ぶのではないかという。

 絶版書籍のデジタル化について福井氏は、フランスが制定した「20世紀絶版書籍デジタル化法」という法律を紹介した。これは、2000年までに出版され現在市場へ流通していない作品は、電子化権を政府認定団体が強制取得しオープンライセンス化するというものだ。もちろん著者はこれを拒絶し自分で電子出版(販売)することも可能だが、3年以内に電子出版しなければならないという。フランスはこのくらい強引にデジタルアーカイブ化を進めないと、Google Booksの脅威に対抗できないと考えているのだ。

インターネットユーザーはどうすべきか?

庄司昌彦氏(MIAU理事、国際大学GLOCOM講師/主任研究員)

 モデレーターの庄司氏は登壇者に、インターネットユーザーには何ができるか、何がメリットになりそうかを尋ねた。

 楠氏は「とにかく面白がることが一番大切」だと答えた。例えば、福島第一原発事故後に公開された東京電力の電力需給データがCSVで提供されるようになってから、電気使用状況をエヴァンゲリオン風に表現したサイトが登場するなど、面白い活用法がたくさん生まれた。こういう事例を見て初めて、紙をスキャンした画像をPDF化したようなデータではなく、CSVでそのまま提供した方がいいと気付いた人もいるだろう。同じように、良いデータが提供されたら、楽しんで「やっちゃう」ことだと提案した。

 渡辺氏は、やりたがっている行政の人はたくさんいるのだから、組んで面白い事例を作っていくことだと答えた。また、政策課題には、大きいビジョンや戦略、国際的な覇権もかかっているのだから、MIAUにはそこまで頑張って欲しいと発破をかけた。「MIAUにまかせておけば、日本は超大国になれる!」くらいになって欲しいと。

 八田氏は「データに関心を持ちましょう」と呼び掛けた。算数が好きじゃなくて「平均」とか「分散」とか分からない人も多いけど、データで誤魔化されている部分はたくさんある。おかしなことを言っている人はたくさんいるが、ちゃんとデータを見るとそれが白日の元に晒されるというのだ。

 福井氏は、自分たちの払っている税金の使い道について、無関心でいてはダメだと語った。国会図書館がデジタルアーカイブ化に使える予算は、たったの年間2000万円。これは外環道整備予算と比較すると、25cm程度にしかならないという。新しく道路を作れば、メンテナンスも必要になる。その費用だけで、年間4兆円かかっているという事実を、まずは認識しましょうと呼び掛けた。

(鷹野 凌)