イベントレポート

第22回東京国際ブックフェア

メディアドゥと楽天が展開する「OverDrive Japan」の電子図書館事業

 「第19回[国際]電子出版EXPO」で7月3日に行われた、メディアドゥによる「“取次”メディアドゥが見てきた電子書籍のさらなる多様性と今後の戦略」、メディアドゥ×OverDrive×楽天3社による「これからの電子図書館展開」、OverDriveによる「デジタルで図書館はどうなる?〜世界の動向から見える日本の近未来〜」の3つのセミナーをレポートする。

ひとつでも多くのコンテンツを、ひとりでも多くの人に届けること。

 まずメディアドゥ取締役事業統括本部長の溝口敦氏が登壇した無料公開セミナーでは、多様化する電子書籍市場の現況と、メディアドゥの取り組み、事業戦略などが説明された。6月末にインプレス総合研究所が発表した「電子書籍ビジネス調査報告書2015」のハイライトによると、2019年度の電子書籍市場は3400億円と予測されている。メディアドゥもインプレスからヒアリングを受けているが、この額は「絶対届く」と答えているそうだ。

メディアドゥ取締役事業統括本部長の溝口敦氏

 ただし、現時点のサービス別利用頻度(マイボイスコム2014年調べ)では、電子書籍を使ったことがない人が8割。潜在顧客をユーザーにしたり、利用頻度を高めたり、有料比率を高めたりする必要があるという。音楽、映像、ネット、SNS、メッセージアプリ、ニュースアプリなどとの「ディスプレイの奪い合い」はますます激化しており、ディスプレイにどうやって「本」を溶け込ませるか? が重要だ、と。

 この1年間で新たに取り組んだこととして、「LINEマンガ連載」を挙げた。すべて無料の連載サービスで、従来の雑誌のように多くの新ユーザーを獲得できているそうだ。アプリで無料連載を読んだことをきっかけとして、紙の単行本を買ったという声も多いとのこと。また、紙版を買うとデジタルでも読める講談社のサービス「コデジ(codigi)」も、メディアドゥがバックエンドを提供している。その他、フリーミアム、読み放題、プリントオンデマンドなどなど、時代に求められるサービス提供が必要と溝口氏。

多様化を支えるコンテンツ、配信エンジン、ストアシステム、ビューアーの4要素

 多様化するサービスを支える4つの要素として、コンテンツ、配信エンジン、ストアシステム、ビューアーを挙げた。コンテンツは、取引出版社が現在600以上。整理されたファイルデータと、特にメタ情報を重要視しているそうだ。また、急増するコンテンツ配信数に対応すべく配信エンジン「md-dc」を最新データベースに入れ替え、仮に2019年3400億円すべてをメディアドゥが背負うことになっても耐えうる体制を整えているという。

 メディアドゥの事業理念は「ひとつでも多くのコンテンツを、ひとりでも多くの人に届けること」だ。そのためにIT技術を用い、より早く、より安定的に、よりローコストに、の3点を追求し続けている姿勢は、他の電子取次と一線を画している印象がある。

OverDrive JAPAN事業の展開を3社体制で促進

 続いてメディアドゥのブースで行われたトークセッション「これからの電子図書館展開」では、メディアドゥ代表取締役社長の藤田恭嗣氏、楽天常務執行役員の相木孝仁氏、米OverDriveプレジデント兼CEOのSteve Potash氏からのプレゼンが行われた。

メディアドゥ代表取締役社長の藤田恭嗣氏

 まず藤田氏から、メディアドゥの事業戦略は「国内流通」「電子図書館」「海外流通」の3つが柱になっていること、OverDriveとは3年間交渉してようやく2014年5月13日に事業提携できたこと、2015年4月28日に楽天がOverDriveを買収し完全子会社化したことで認知度と安心感が増し展開が早くなった旨が説明された。

 OverDrive JAPAN事業としては、龍ケ崎市立中央図書館が国内公共図書館第1号として7月14日にサービス開始、第2号として潮来市立図書館が7月末にサービス開始予定であることを報告。公共図書館3200館、大学図書館1400館、小中高の学校図書館3万5000カ所と、「それ以外」もターゲットにしていく予定であることが語られた。

楽天常務執行役員の相木孝仁氏

 楽天の相木氏は、カナダKoboのCEOに就任して以来、パートナーになり得る北米の企業100社以上と話をしてようやく出会ったのがOverDriveだと紹介。これで「買う」のKoboと「借りる」のOverDriveで、両方が実現できる! と感じたそうだ。

 楽天の会員数は9977万人、4万1568店舗と提携しており、40事業を展開している。全国に支社が19カ所あり、その地域密着ネットワークを活かしてOverDrive JAPAN事業の展開を加速させると意気込みを語る。なお、藤田氏が「それ以外」と言ったのは企業向け電子図書館であり、国内第1号として社員1万人に対し「楽天図書館(仮称)」を開始することが相木氏から明かされた。

 国内の企業向け電子図書館サービスは、京セラ丸善システムインテグレーションの「BookLooper」が三菱東京UFJ銀行へ提供されている事例などがあるが、まだ数は少ない。今後は、従業員教育や福利厚生を目的として、導入する企業も増えていくのではないだろうか。

握手をする相木氏、Potash氏、藤田氏

 メディアドゥのブースで行われたOverDriveのトークセッションは、その後行われたeBooks専門セミナーと若干内容が重複するので、以下にまとめさせていただく。

世界では日本語のコンテンツが求められている

 東京ビッグサイトの会議棟で行われた有料セミナー「デジタルで図書館はどうなる?〜世界の動向から見える日本の近未来〜」では、OverDriveの電子図書館サービスについて、Potash氏から、実際の画面を用いたデモが行われた。

米OverDriveプレジデント兼CEOのSteve Potash氏

 北米では、100%に近い公共図書館がOverDriveの電子図書館システムを導入しており、ベストセラーに限らず、参考書や専門書、辞書、マンガなど、あらゆるカテゴリーの本を、図書館の利用カードさえ持っていればそのIDで電子書籍を楽しむことができる。

サンフランシスコ図書館ウェブサイトの中国語、ロシア語、スペイン語専用コーナー入り口

 Potash氏は、北米での成功を全世界に展開したいと意気込みを語り、繰り返し出版社に対し「世界では日本語のコンテンツが求められているので、ぜひ配信の許諾をいただきたい」と提案した。例えばサンフランシスコ図書館には、中国語、ロシア語、スペイン語の専用コーナーがあるくらい、それぞれの言語のコンテンツが充実しているのに、日本語の本はほとんどないそうだ。日本語のコンテンツは、日本語のままで構わないという点も、繰り返し強調していた。

 図書館が販売の侵害要素になるのでは? という懸念に対しては、図書館のウェブサイトやアプリの中で書誌情報が見られたり試し読みできたりすることが、むしろ本のプロモーションになることが北米では常識化していることが紹介された。新刊発行の半年前に、先行して図書館に書誌情報を提供し、テストマーケティングするようなことも一般的になっているという。北米と日本のマーケットが違うのは十分理解しているが、必ず出版社の皆さんに収益性をもたらすことができるとPotash氏。

OverDriveのメディアステーション

 なお、サン・アントニオ公共図書館がOverDriveのメディアステーションを導入し、サン・アントニオ国際空港に設置しているという話は興味深い。このメディアステーションは、携帯電話の急速充電ができるのと、サン・アントニオ公共図書館の電子書籍を24時間いつでも借りて読めるのが特徴。つまり、リアルで電子書籍との接点を生み出す端末だ。

 これは奇しくも、大日本印刷とミライトがリリースしたばかりの、公衆Wi-Fi機能付きデジタル情報スタンド「PONTANA(ぽん棚)」と似たようなコンセプト。OverDriveのメディアステーションは図書館と連携していて、無料で借りられる点が大きな違い。この違いがどういう差を生むか、注視しておきたい。

出版社が電子図書館にコンテンツを預けると「紙が売れる」

 筆者は質疑応答で、イギリスの公共図書館で行われた電子図書館サービス実証実験で「本の購入に繋がっていない」「“Buy it Now”ボタンがほとんどクリックされない」という結果が公表された点を質問してみた。実はこのレポートに協力したのは、OverDriveだったそうだ。Potash氏は、4つの小さな図書館でのテストに過ぎないこと、イギリスにおいて電子図書館+クレジットカードで「買う」というユーザーの認識が低いことを理由として挙げた。

 もっとも、出版社が電子図書館にコンテンツを預けると「紙が売れる」というのが北米での成功事例であり、イギリスでの実験ではそれをトレースしていない点も指摘。つまり、“Buy it Now”ボタンから直接購入するというより、ディスカバリーが最大の武器だというのだ。実際日本でも、マンガボックスやcomicoなどの無料マンガアプリ読者が、紙の単行本を購入するという話を何度も耳にする。まずは少しでも接点を増やすこと、認知してもらうことが大切ということなのだろう。

(鷹野 凌)